超かぐや姫!Encore -超かぐや姫!短編集-   作:YURitoIKA

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名前呼んで、ワタシはだれ?

「ここでライブ?」

「彩葉の希望でねー♪」

 

 かぐやの卒業ライブ。舞台は『KASSEN』のフィールドのど真ん中。ライブのリハーサルを終え、ライブの開始時刻まで十数分の猶予。かぐやは彩葉と共に控え室で待機するのではなく、ステージの上でぼんやりと電子の夜空を見上げている。

 

 物語のクライマックス。

 エンドロールまで残り数刻。

 そう──ワタシ、月見ヤチヨはこの物語の結末を既に知っている。

 

 彩葉たちは月人に負ける。月からの使者に、なすすべもなく敗北する。絶対的な運命。逃れることのできない、これから先の、真実だ。

 ワタシは干渉できない。目の前で、大切な人が絶望する様を、ただ見ていることしかできない。

 

 なんて──地獄。

 謝ることすらできないなんて──残酷だ。

 

 いや。もし謝ることができたとしても、状況が好転するわけではない。余計に彩葉を苦しめるだけだ。彩葉はワタシがどんな言葉をかけようとも、自分で抱え込む。彼女は、その先で自分が潰れてしまうかもしれない、という勘定が入っていない。

 

 あまりに強く──とても、脆い人間。

 

 酒寄彩葉とは、やはりそういう人間なのだ。

 

 かぐやの背中には覚悟がつまっている。彼女は彼女で、この先に待つ未来を見据えた上で、それまでの瞬間瞬間を全力で楽しむつもりだ。

 

 綺麗な横顔だ。自分で自分を褒めるのもどうかとは思いますが、やっぱり可愛い! 最強! 八千年経っても可愛いんだから、そりゃそうだ!

 

 ……なんて心の中で一人芝居をしながら犬DOGEと戯れていると、その様子を見ていたかぐやが、ぽつりと呟いた。

 

「ワタシがヤチヨだったら、もっと虜にできたのかな」

 

 唖然とする。八千年以上も前の記憶だったけれど、この時、これほどまでに、かぐやという少女は酒寄彩葉という人間に恋焦がれていたのか。

 

 一つ──言えるのは、

 

「ノンノン。かぐやじゃなきゃ、できなかったっ」

 

 そう。夢に見た蒼い星の自由な世界で、月から飛び込んできて、見知らぬ世界を彩葉の隣で全力で駆け抜けた、かぐやというお姫様じゃなきゃできなかった。

 

 ワタシだったら──?

 

 なんて。きっと無理だ。八千年も生きてしまったおばあちゃんに、彩葉の隣は、務まらない。

 

 あなただから──できるんだよ。

 

 

 

「もしワタシがヤチヨだったら、かぐやは帰りたくないって言ってくれたのかな」

 

 ついさっき似たような台詞を聞いたのに、さっきよりも目を見開いて、口をあんぐりと開けてしまう。

 ライブの控え室。彩葉にかぐやの様子を伝えたところで、彼女が突然とそんなことを言い出すのだ。

 

 なんだ。

 ──そっか。

 

 両想いだったんだ。

 ふたり。

 

 あーあ。

 そっか。そっかぁ。

 

 やっぱり、みんな自由だ。

 

 だってこんな奇跡が、起こり得てしまうのだから。

 運命は残酷でむごいものだと思うけれど、この二人を引き合わせたのも、また運命なのだから────。

 

 

 

 やがて月人に敗北し、かぐや姫は月に帰る。現実に打ちひしがれた彩葉は、何もいわずにログアウトし、まるで彼女の心を表しているかのように、アバターが散り散りになっていく。

 

 ワタシは電子の歌姫だから。この頬を伝う涙も偽物だ。もしかしたら、この心だって偽物なのかもしれない──。いや、違うか。偽物にしてはよく出来すぎている。痛くて、痛くて、痛くて、たまらない。

 

 これから彩葉は一人になる。

 かぐやはもういない。

 

 ワタシは誰?

 

 ──かぐやじゃない。

 

 ワタシは誰?

 

 ──電子の歌姫。

 

 ワタシは誰?

 

 ──月見ヤチヨ。

 

 もっともっと楽しい配信をして、彼女の人生を盛り上げてみせる。非力なワタシだけれど、ちょっとだけでもいいから、彩葉を支えてあげたい。

 

「FUSHI。ワタシの名前、呼んで」

「え……? ヤチヨは、ヤチヨだろ……?」

「うん。ありがとう。よし、ヤッチョのやる気、出ちゃいました──!」

 

 そう。ワタシこそが、押しも押されぬお姫様。あなたがどんなに絶望しようとも、きっとあなたを、あなたの人生を──ときめかしてみせるから────ッ!

 

 

 

               /おしまい

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