超かぐや姫!Encore -超かぐや姫!短編集-   作:YURitoIKA

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キョーダイ会議

 自分の選択に一切の迷いは無かった。

 ……といえば嘘になる。

 

 気掛かりはあった。彩葉のことだ。

 

『母さん、俺来週から東京行く』

『唐突やね』

『もう──決めたから』

『そう。ええよ』

 

 母さんからはあっさりと許可を貰えた。俺は父さん譲りの、適度な適当さと反抗心、のらりくらりとした性格で、母さんに甘えるのは得意だった。

 

 自分の才能に自信はあった。オンラインの大会で何度も優勝していたし、有名なプロゲーミングチームから何度も誘いが来ていた。東京には雷や乃依という同じチームのメンバーもいて、一人で暮らしていくことの不安も無い。

 

『朝日はゲームがえらい上手やな。サッカー選手とプロゲーマーの二刀流なんかもできるかもしれへんね』

 

 流石に二刀流は無理だったけど……父さんに話した夢を、現実にしてみせる。父さんに胸を張れるような人間でありたかった。

 

 彩葉を一人にしてしまうとしても、俺は俺の道を進む。それに、俺に守られてばかりじゃ、彩葉はきっと、前に進めない──。

 

「にしても広い家やな〜。俺の家より広いんとちがうか」

 

「掃除するのが大変。家政婦はん雇いたいくらい。まぁ、そないなお金の無駄、絶対にしいひんけど」

 

 初めて、彩葉が一人暮らしをしている家に招待された。彩葉が一人暮らしを始めたばかりの頃の、IRのアパートにも顔を出しに行こうとしたが、本人直々に断られ、せめてお金を出すから防犯のしっかりした家に住むべきでは、と提案しても断られてしまった。

 

 念願……というと気色悪く聞こえるが、ようやく我が妹の家を見ることができた。ちょっと感慨深い。

 

「かぐやちゃんがいーひんようになっても、引っ越さへんのか」

「……あいつが帰ってきた時に、家がちゃうと拗ねてまいそうやさかいね。しゃあのうて、な」

「そっか」

 

 まったく。あれほど異性というものに興味が無く、色恋沙汰の一つも聞いたことがなく、ましてやこの超イケメンなお兄ちゃんにすら欲情しなかった妹が、こうもゾッコンとは……。人生というものは果てしなく面白いものだ。

 

 季節はもう真冬になる。年を越して、年末のドタバタも過ぎた一月半ば。彩葉があっついお茶を入れてくれたので、リビングのソファに並んで座り、二人で「あぢっ」と舌を火傷しながらそれを飲み干した。

 

 こうして兄弟でくつろぐのは何年ぶりだろう。

 

「にしても、彩葉お前、大人になったな」

「なによ急に」

 

 この家の保証人として印鑑を用意した際に再会しているものの、改めて成長した妹を見てみると、本当に成長したなぁ、とお兄ちゃん涙が出てくるものだ。とても綺麗になった。あとは目の下のクマと、少々げっそりしている部分がどうにかなれば、そこらへんの有名女優には負けない美顔だ。兄譲りのな。

 

「どないな風の吹き回しで、家に呼んでくれたんや?」

「別に。自慢したろう思て」

「このっ」

 

 俺がムスッとした顔をすると、彩葉がくすりと笑った。笑い方は昔と変わっていない。あと、母さんとよく似ている。

 

「じょーだん。久々に、キョーダイ会議がしたくてさ」

 

 キョーダイ会議。彩葉が母さんにしこたま怒られた際に、俺が彩葉を呼んで、ゲームをすること。そこで色々と彩葉の愚痴を聞いてやり、兄からの有難いアドバイスをしてやるのが、キョーダイ会議だ。まぁ、母さんの叱咤以上に、俺のほうがボコボコに(ゲームの中で)してしまうので、彩葉が拗ねて会議が中断されてしまうことがほとんどだったのだが。

 

「あ、でも俺ツクヨミログインできんで。チートツール使ったから、今アカウントが凍結されてるんや」

 

 かぐやちゃんのラストライブで使用したチートツール。ツクヨミの規約違反による期限付きのアカウント停止。永久BANにならなかったのは、我らが歌姫ヤチヨの采配だ。

 

「ちゃう。こっち。スラブラやろ」

 

 ──と。彩葉がソファーの下の引き出しから取り出したのは、懐かしのテレビゲームのリモコンだった。

 スラッシュ・ブラザーズ。略してスラブラ。それこそ昔、キョーダイ会議でしょっちゅうやってた格闘ゲームだ。

 

「実家から持ってきたのか?」

「かぐやが配信用に買ってたやつ。ほら、ケリつけようよ。昔の」

「お前、プロに向かって……。ええで。分からしたるわ」

 

 そうして、近況を報告しあいながら、延々と一対一のタイマンモードでスラブラを楽しんだ。

 中でも一番傑作だったのは、俺と乃依の関係を話した時だ。まるでフリーズしたかのように彩葉はコントローラーを落としてしまったので、すかさずコンボを叩き込んでやった。兄妹に情けなんてものは存在しないのだ。

 

「はぁー、疲れた……。あとで模試対策しいひんとなのに、指ヘトヘトやわぁ」

「次のリベンジのために練習するんちゃうんか?」

「馬鹿。今日の時間作るために、昨日も徹夜してるんやさかい」

「東大目指すのんはええけど、無理はしなや」

「分かってんで。ヤチヨの配信と歌があったら、なんべんでも復活するさかい」

「ブラックオニキスは?」

「まー流し見で、時々ね」

「生意気度もパワーアップしてるな……」

「ふふ。それにしてもさ、お母さんには悪いね。兄妹いるってのに、孫の顔が見れへんなんて」

「……? 俺はそうだとしても、彩葉は別に決まったわけじゃ…………あ」

 

 

 

 

 

「うん。私には、決めた人がいるから」

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

『じゃ、これから沢山迷惑かけるから、よろしく!』

 

 玄関でそんな言葉を掛けられて、彩葉の住むタワーマンションを出た。あれほど一人で抱え込みがちだった彩葉が、他人を、友達を、俺を、母さんを巻き込んで、前に進んでいる。誰かを頼って生きている。なにより、父さんが死んでから、今の彩葉が一番笑顔が多い気がする。

 

 果たしてウチの可愛い妹をこんなにも、魔法でもかけたかのように変えてしまったのは、どこのお姫様なのだろうか。

 

 父さん、見てるか? 彩葉は立派に成長してんで。

 

 小さい頃、俺は人様に迷惑をかけっぱなしで、それを愛嬌で許してもらってきた悪ガキだった。彩葉に窘められることもしょっちゅうだった。兄としての威厳なんて無かった。父さんが死ぬまでは。

 

 父さんが死んでから、俺は父さんの真似をするようになった。一家に残された男手一人、引っ張っていくのは自分だと決意した。ま、やっぱり酒寄家最強の人間は母さんなので、大黒柱になってくれたのは母さんだったけれど、それでも俺は、彩葉を引っ張っていき、支えていく存在でなければならないと、父さんに誓ったんだ。これも結果的には、散々大人ぶったあげく、〝彩葉のお兄ちゃん〟であることがやっとだったわけだが。

 

『うん。私には、決めた人がいるから』

 

 母さんに叱られてばかりいて、周りから無理難題を引き受けてばかりいて、取り繕ってばっかりの酒寄彩葉はもういない。

 

 未来を見据えて、然と今を真っ直ぐ生きている。

 

「俺も、見習わないとな」

 

 帰り道。駅まで数分の道のり。俺はポケットからスマホを取り出して、電話帳のアプリを起動して、『母さん』の電話番号を選択する。

 

 ふぅ。

 大きく息を吸って、吐く。

 

 彩葉に偉そうなこと言えたもんじゃないな。

 

 タップして、数コール後、母さんの声が聞こえる。

 

「もしもし、母さん──」

 

 母さんに乃依のことを伝える。きっと長い話になるだろうけど、これっぽっちも恐くはない。自分の気持ちに偽りは無いからだ。好きな人のことを好きということ、そこに負い目なんてあるわけない。

 

 誰に何と言われようと、好きは、〝好き〟だ。

 

「今度紹介したい人がおってさ」

 

 まぁ、誰よりも乃依が面倒くさがるだろうけどな。

 

 

 

               /おしまい

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