第7話。手がけている最中なので予測できませんが、最終回になるか、次で最終回です。
そして、時は流れた。
賑やかだった蝉の声はいつの間にか遠のき、朝晩の空気に秋の気配が混じり始めた頃。長かった夏休みが終わり、学校には再び子供たちの元気な声が戻ってきた。こんがりと日焼けした肌、少しだけ伸びた背、それぞれがひと夏の思い出を抱えて、教室の席に着く。
休み明けの最初の週、夏休みの学習内容の定着度を測るための「確認テスト」が行われた。それは、夏休みの宿題をどれだけ真面目に取り組んだかが、如実に結果として表れるテストだった。
「はーい、じゃあテストを返すぞー」
担任の教師が、採点済みの答案用紙の束を手に、教壇に立つ。教室内に、期待と不安が入り混じった緊張感が走った。まりなは気だるげに頬杖をつき、しずかはいつも通り無表情で前を向いている。鷹禾は「どうだったかなぁ」とそわそわしていた。
そして、東直樹。彼は、固く唇を結び、自分の名前が呼ばれるのをじっと待っていた。夏休み、鷹禾たちと一緒に勉強したあの日々。一人では決して味わえなかった、あの充実感。自分なりに、やれるだけのことはやったという自負はある。それでも、心のどこかで、母親の落胆した顔がちらついていた。
「──東」
名前を呼ばれ、東は弾かれたように顔を上げた。教師は、彼の答案用紙を手に取ると、少し驚いたような、そして感心したような表情で言った。
「東、すごいじゃないか。満点だ」
その言葉に、教室中が一瞬、ざわめいた。東自身、自分の耳を疑った。「満点」という言葉が、まるで遠い国の言葉のように聞こえる。彼は恐る恐る席を立ち、教壇へと向かった。
手渡された答案用紙。その一番上の、赤ペンで書かれた大きな「100」という数字と、花丸。それを見た瞬間、東の全身から、ふっと力が抜けていくような感覚があった。
95点や98点を取ることは、今までにもあった。だが、最後の最後で、ケアレスミスをしてしまうのが常だった。「完璧」を求める母の期待に応えられない、詰めの甘い自分。兄の潤也なら、きっとこんな間違いはしない。その劣等感が、いつも彼の心に重くのしかかっていた。
しかし、目の前にあるのは、紛れもない「100点」。間違いなど一つもない、完璧な答案。
彼は、自分の席に戻り、改めて答案用紙を机の上に広げた。その紙面から、あの夏の日の光景が蘇ってくる。分からない問題に頭を悩ませるまりなに、ヒントを出す自分。鷹禾の突拍子もない質問に、思わず笑ってしまったこと。しずかが「わかった」と小さく頷いた時の、穏やかな表情。そして、兄の潤也が差し出してくれた、冷たい麦茶の味。
一人で、ただひたすらに満点を目指していた時とは、全く違う。みんなで笑い合いながら、教え合いながら、辿り着いた「100点」。それは、彼にとって数字以上の、温かい価値を持っていた。
「……やった」
誰にも聞こえないくらい小さな声で、彼は呟いた。じわり、と目の奥が熱くなる。嬉しい。素直に、心の底からそう思えた。これを母に見せたら、なんて言うだろう。少しだけ、胸が躍った。
その時、隣の席の鷹禾が、身を乗り出して東の答案を覗き込んできた。
「わーっ! 東さん、満点ですか! すごいです! やっぱり東さんは天才ですね!」
太陽のような笑顔で、手放しで褒め称える鷹禾。その純粋な称賛に、東は少し照れくさくなり、「そ、そんなことないよ。鷹禾くんだって…」と言いかけた。
「僕ですか? 僕は……じゃーん!」
鷹禾は、自分の答案用紙を誇らしげに東に見せた。そこにもまた、大きな「100」という数字が輝いている。
「僕も満点でした! しずかさんも、まりなさんも、すっごく良い点だったんですよ! みんなで一緒に頑張ったからですね!」
鷹禾は、自分のことのように嬉しそうに笑った。その言葉に、東ははっとする。そうだ、これは自分一人の力じゃない。あの夏の日、一緒に過ごした仲間たちのおかげなのだ。鷹禾の屈託のない笑顔と、「みんなで一緒に頑張ったから」という言葉が、東の心にじんわりと染み渡っていく。今までずっと、たった一人で背負い込んできた「満点を取らなければならない」という重圧。それが、仲間と分かち合うことで、こんなにも軽やかで喜ばしいものに変わるなんて、思ってもみなかった。
「……うん。そうだね」
東は、照れ臭さを隠すように小さく頷いた。その口元には、自分でも気づかないうちに、柔らかな笑みが浮かんでいた。その瞬間、彼の背後から「ちょっと、あんたたち! テスト中に話してんじゃないわよ!」という鋭い声が飛んできた。振り返ると、カチューシャを付けた華やかな少女――雲母坂まりなが、少し呆れたような顔で二人を睨んでいる。
「あ、すみません、まりなさん!」
「ご、ごめん……」
鷹禾と東が慌てて前を向くと、まりなは「ふんっ」と鼻を鳴らした。しかし、その視線はすぐに東の机の上の答案用紙に注がれ、その表情が僅かに和らぐ。
「……ま、満点なんて、委員長なんだから当たり前でしょ。調子に乗らないでよね」
口ではそう言いながらも、その声色にはいつものような棘がなく、どこか認めているような響きがあった。そして、彼女は自分の答案用紙をちらりと二人に見せる。そこに書かれていたのは「92点」という、彼女にしては上出来な点数だった。
「わたしだって、結構すごいでしょ?」
得意げに胸を張るまりなに、鷹禾は「はい! とってもすごいです!」と満面の笑みで拍手を送る。その隣では、久世しずかが静かに自分の答案を眺めていた。彼女の点数は「88点」。以前の彼女では考えられないような高得点だった。
「しずかさんも、すごいです!」
「……うん。鷹禾くんと、東くんが教えてくれたから」
しずかは、鷹禾と東に交互に視線を送り、こくりと頷いた。その無表情の中に、確かな感謝と達成感の色が灯っている。四人分の、努力の成果がそこにはあった。あの夏の日が、決して無駄ではなかったことの証明。教室はまだテスト返却の喧騒に包まれていたが、四人の周りだけは、穏やかで誇らしい空気が流れていた。
***
そんな次の日の放課後。駄菓子屋の店先には、いつものように子供たちの賑やかな声が響いていた。店番のおばあさんの隣で、小さなエプロンをつけた鷹禾が、かいがいしく働いている。
「はい、10円ガム、おひとつですね! ありがとうございます!」
「うまい棒はこっちですよー!」
小さな体でちょこまかと動き回りながら、的確にお菓子を袋に詰め、お釣りを渡していく。その手際の良さは、もはやベテラン店員の域に達していた。そんな彼の元へ、学校の鞄を肩にかけた三人の客がやってきた。
「鷹禾ー、まだ終わんないのー?」
「お疲れ様、鷹禾くん」
「……お疲れ様」
まりな、東、そしてしずかだった。どうやら、三人で示し合わせて鷹禾を迎えに来たらしい。夏休み前では考えられなかった光景に、駄菓子屋のおばあさんは目を細めて微笑んでいる。
「みなさん! もう少しで終わりますから、ちょっと待っててくださいね!」
鷹禾はそう言うと、最後の客の対応を済ませ、おばあさんに「おばあちゃん! 僕、今日はこれで上がります!」と元気よく挨拶をした。
「はいはい、ご苦労さま。みんなと仲良く帰るんだよ」
「はい!」
エプロンを畳んで返し、自分の小さなランドセルを背負う。そして、待っていてくれた三人の元へ駆け寄った。
「お待たせしました! さあ、帰りましょう!」
「あんた、本当にマメよねぇ……」
「すごいよ、鷹禾くんは」
「……うん」
四人は並んで、夕日に染まる道を歩き始めた。他愛もない話をしながら、時々笑い声が上がる。今日のテストの話、テレビで見たアニメの話、給食の献立の話。そのどれもが、きらきらと輝く宝物のような時間だった。
「そういえば、委員長。あんた、あのテストお母さんに見せたの?」
ふと、まりなが思い出したように東に尋ねた。その質問に、東の肩がぴくりと揺れる。
「あ……うん。見せた、けど……」
「けど?」
東は少し俯き、気まずそうに言葉を続けた。
「『満点なんて当たり前でしょう。潤也はいつもそうだったわ』って……。い、一応…褒めてくれてはいたし、前まで貰えなかったご褒美も貰えたから良いんだけど…」
その言葉に、まりなとしずかの足が止まる。
すると、まりなは眉をひそめ。その重苦しい空気を、まるで吹き飛ばすかのように、まりなは「ふんっ」と鼻で笑って見せた。その表情は、軽蔑でも嘲笑でもない。むしろ、どこか呆れたような、そして共感するような複雑な色合いを帯びていた。
「なーに落ち込んでんのよ、委員長。あんたんちの親がそういうヤツだってこと、今に始まったことじゃないでしょ」
その言葉は一見すると突き放しているようで、しかしその実、東を庇う響きがあった。彼女自身、親との関係に苦しんだ過去がある。だからこそ、東の母親の言葉の理不尽さが、痛いほどわかるのだ。
「そんなことより、見てみなさいよ、これ!」
まりなはそう言うと、ばん!と効果音が付きそうな勢いで、自分の答案用紙を東の目の前に突き付けた。「92」という数字が、夕日に照らされて誇らしげに輝いている。
「あんたが教えてくれたおかげで、わたし、こんな点数取れたのよ! いつもだったら、せいぜい70点がいいとこだったんだから! これ、結構すごいことなのよ!?」
彼女は、まるで自分の手柄のように胸を張る。その剣幕に、ぽかんとしていた東だったが、やがてその言葉の意味を理解し、はっとした。そうだ。母親の評価だけが全てじゃない。自分の努力が、確かに目の前の友達の力になっている。その事実が、じわりと胸に温かいものを広げた。
「それに、これ見てください、東さん!」
今度は鷹禾が、しずかの答案用紙を借りて、ひょいと東の前に差し出した。そこには「88点」と書かれている。
「しずかさんも、こんなにすごい点数なんです! しずかさんが『わかった!』って顔した時、僕、すっごく嬉しかったんですよ!」
鷹禾は、自分のことのように目を輝かせている。しずかは、少し恥ずかしそうに俯きながらも、その言葉を否定はしない。彼女もまた、自分の力で掴み取った成果を、静かに噛みしめていた。
「あんたの『満点』は、あんた一人の満点じゃないのよ。わたしたちのこの点数も、全部あんたの満点の一部なの。わかる?」
まりなは、少し乱暴な口調で、でも真剣な眼差しで東を見つめた。親に認められることだけが価値じゃない。自分の頑張りが、誰かを笑顔にしている。その喜びを、もっとちゃんと噛み締めなさいよ。彼女の言葉は、そう言っているようだった。
「……うん」
東は、三人の顔を順番に見渡した。まりなのぶっきらぼうな優しさ。鷹禾の太陽のような笑顔。しずかの静かな肯定。母親の言葉で冷え切っていた心が、仲間たちの言葉でゆっくりと溶かされていくのを感じた。
「……ありがとう、みんな」
やっとのことで絞り出した感謝の言葉は、少しだけ震えていた。しかし、それは紛れもなく、彼の本心だった。その素直な言葉に、まりなは少し照れたように「べ、別に……当然のこと言っただけだし」と顔を逸らし、鷹禾は「どういたしましてです!」と嬉しそうに笑った。
四人の間に流れる、少し気恥ずかしくて、でも最高に温かい空気。その時、鷹禾のお腹から、きゅるるる〜〜っ、と盛大な音が鳴り響いた。
「「「……」」」
一瞬の沈黙。
「あうっ……!」
鷹禾は、真っ赤になって自分のお腹をぎゅっと押さえた。そのあまりにも可愛らしい反応に、最初に吹き出したのはまりなだった。
「ぶふっ! あっはははは! なによあんた! 今の音! すごいじゃない!」
「わ、笑わないでくださいよぅ……! お手伝い頑張ったから、お腹が空いちゃったんです……!」
「あっはは! 鷹禾くん、面白い音!」
しずかまでもが、くすくすと肩を揺らして笑っている。東も、堪えきれずにつられて笑い出した。さっきまでのしんみりした雰囲気はどこへやら、夕暮れの道には四人の明るい笑い声が響き渡る。
「もう! しょうがないわね! こうなったら、わたしの家に来なさい!」
まりなは、涙を拭いながらビシッと鷹禾を指差した。
「え? まりなさんのお家にですか?」
「そうよ! 昨日テストの事話したから、丁度今日、ママが張り切ってカレーたくさん作ってるはずだから! わたしの92点と、委員長の100点のお祝いよ! もちろん、鷹禾としずかの分もね!」
「え、でも……」と戸惑う東に、まりなは「いいから!」と有無を言わさぬ迫力で返す。その表情はいつもの意地悪な女王様のものではなく、どこか得意げで、そして少しだけ照れくさそうな、パーティの主催者の顔をしていた。
「いいじゃないですか、東さん! みんなでお祝い、しましょう!」
鷹禾が、きらきらした瞳で東の袖をくいくいと引く。その隣で、しずかもこくりと静かに頷き、期待のこもった眼差しを東に向けていた。三方向からの、断ることなど到底できそうにない無言の圧力。そして何より、仲間たちと過ごす時間の誘惑に、東が抗えるはずもなかった。
「……わかった。じゃあ、お邪魔します」
彼が小さな声でそう答えると、まりなは「よし来た!」と満足げに笑い、鷹禾は「わーい! カレー! カレー!」とぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現した。その無邪気な姿に、道行く人が微笑ましそうに目を細める。
「ちょっと鷹禾、はしゃぎすぎ! 子供じゃないんだから!」
「だって、みんなで食べるカレーですよ!? 美味しいに決まってます!」
「ま、まあ、ママのカレーは絶品だけどね……」
まりなは、まんざらでもない様子で口の端を緩ませた。四人は、先頭を行くまりなを追いかけるように、彼女の家へと向かう。以前、鷹禾が嵐のように乗り込んでいった、あの少し大きくて立派な家だ。
「ただいまー!」
まりなが玄関のドアを開けると、中からスパイシーで食欲をそそる、極上の香りがふわりと漂ってきた。その香りを吸い込んだ鷹禾は、「はふぅ〜〜ん……」と陶然とした表情で天を仰ぐ。
「いい匂い……! しあわせの匂いです……!」
「大げさねぇ。さ、上がって上がって」
まりなに促され、三人は「お邪魔します」と声を揃えて靴を脱ぐ。リビングへと続くドアの向こうから、優しそうな女性の声がした。
「おかえりなさい、まりな。あら、お友達?」
ひょっこりと顔を出したのは、まりなの母親だった。以前のヒステリックな面影はすっかり消え、穏やかで健康的な血色の良い顔色をしている。彼女は、まりなの後ろにいる三人の顔ぶれを見て、少し驚いたように目を丸くしたが、すぐにふわりと微笑んだ。特に、鷹禾の姿を認めると、その表情はより一層柔らかくなった。
「いらっしゃい、鷹禾くん。それに、しずかちゃんに……東くん、だったかしら。よく来てくれたわね」
「こんにちは! お邪魔します!」
「……こんにちは」
「こ、こんにちは。お邪魔します」
緊張気味の東としずかとは対照的に、鷹禾は満面の笑みでぺこりとお辞儀をする。
まりながテストのお祝いに皆も呼んだ。と、事情を話すと、まりなの母親は「ささ、リビングへどうぞ。ちょうどカレーができたところなのよ」と三人を招き入れた。
広々としたリビングは、以前鷹禾が訪れた時よりもずっと明るく、温かい空気に満ちているように感じられた。テーブルの上には、大皿に盛られたサラダや、フルーツポンチまで用意されている。どうやら本当に、まりなの言う通り、母親はかなり張り切って準備をしていたらしい。
「それにね、委員長は満点だったのよ!」
「まあ、東くんはすごいのねぇ」
テストの点数の話を続けてまりなが言うと、まりなの母親は、感心したように東に微笑みかけた。
その純粋な称賛の言葉に、東は思わず頬を赤らめ、もじもじと俯いてしまう。自分の母親からは決して貰えなかった、温かい労いの言葉。それが、友人の母親から、こんなにもあっさりと、そして心からのものとして与えられたことに、彼は戸惑いと嬉しさが入り混じった、くすぐったいような気持ちになっていた。
「さあさあ、みんな座って! カレーが冷めちゃうわよ!」
母親が明るい声で促し、四人はダイニングテーブルに着席した。目の前には、湯気の立つ大きな鍋いっぱいのカレーライスが鎮座している。よく煮込まれた野菜と肉がゴロゴロと入っており、複雑で豊かなスパイスの香りが部屋中に満ちていた。
「わーっ! 美味しそうです!」
鷹禾は、目を爛々と輝かせ、今にもテーブルに乗り出してしまいそうな勢いだ。その様子に、まりなの母親はくすくすと笑いながら、一人一人のお皿にカレーをよそっていく。
「鷹禾くんはたくさん食べるかしら? 大盛りにしておくわね」
「はい! お願いします! 僕、お腹ぺっこぺこなんです!」
「ふふ、元気でいいわねぇ」
鷹禾の皿には、ご飯の山にカレーのルーがたっぷりと注がれた、まさに「大盛り」が盛り付けられた。続いて、しずか、東、そしてまりなの順に、それぞれの適量が配られていく。
「「「「いただきます!」」」」
四人の元気な声が綺麗に揃った。その瞬間、一番にスプーンを口に運んだのは、もちろん鷹禾だった。大きな口でカレーを頬張ると、彼の顔はみるみるうちに幸福感で満たされていく。
「んん〜〜っ! おいひいれふ!」
もぐもぐと頬をいっぱいに膨らませながら、彼は満面の笑みで絶賛した。その姿は、まるで冬眠前の準備をする小動物のようで、あまりにも愛らしい。その光景につられて、他の三人もスプーンを手に取った。
「……うん、おいしい」
「本当だ。すごくコクがあって……美味しいです」
「でしょ? ママのカレーは世界一なんだから!」
しずかと東が素直な感想を漏らし、まりなは得意げに胸を張る。家族の自慢を、友達の前で気兼ねなくできる。そんな当たり前のことが、今の彼女にとっては誇らしくて仕方ないのだ。
鷹禾は、その後も「このお肉、とろっとろですね!」「にんじんが甘いです!」「おかわりください!」と、実況中継のように感想を述べながら、驚異的なスピードでカレーを食べ進めていく。その幸せそうな食べっぷりを見ているだけで、周りまでお腹が空いてくるようだった。まりなの母親も、嬉しそうに「はいはい、たくさんあるからね」と、鷹禾の皿に二杯目、三杯目とカレーを注いでいく。
「あんた、本当に見てて飽きないわね……」
「鷹禾くん、そんなに急いで食べたら喉に詰まらせるよ」
「……見てるだけでお腹いっぱいになりそう」
まりなは呆れ、東は心配し、しずかは感心したように、三者三様の反応で鷹禾の食事風景を眺めていた。やがて、あれだけあった鍋のカレーは、鷹禾の健啖ぶりもあって、すっかり底が見えてきた。四人のお腹もはちきれんばかりに膨らんでいる。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
満足感に満ちた声が、再びリビングに響いた。鷹禾は、ぽっこりと膨らんだ自分のお腹をさすりながら、「はふぅ……幸せです……もう一歩も動けません……」とソファに沈み込んでいる。その姿に、またしても皆から笑いが起きた。
食後のデザートにフルーツポンチまでしっかりといただき、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。外がすっかり暗くなり、家の窓から温かい光が漏れる頃、ようやくお開きの時間となった。
「それじゃあ、そろそろ僕たちも……」
東が名残惜しそうに切り出すと、鷹禾も「うぅ……帰りたくないですけど……」と重い腰を上げる。帰り支度を済ませ、三人はまりなと彼女の母親に見送られて玄関へと向かった。
「今日は、本当にごちそうさまでした。とても美味しかったです」
しずかが、深々と頭を下げた。彼女がこれほどストレートに感謝を伝えるのは、まだ珍しいことだ。それだけ、今日という一日が彼女にとって心温まるものだったのだろう。
そして、東が意を決したように一歩前に出た。
「あの……今日は、本当に突然押しかけてしまって、すみませんでした」
東が、申し訳なさそうに深く頭を下げた。律儀で真面目な彼らしい、丁寧な謝罪だった。しかし、まりなの母親は、そんな彼に慌てたように手を横に振った。
「まあ、そんな! 全然よ! むしろ、まりながいつもお世話になってるんだもの。それに、こんなに賑やかな食卓、久しぶりでとっても楽しかったわ。いつでも遊びに来てちょうだいね」
その言葉は、社交辞令などではなく、心からの歓迎の響きを持っていた。隣で、まりなも少し照れくさそうに、しかしハッキリとした口調で付け加える。
「そうよ、委員長。あんたたちが来たから、ママも張り切っちゃったんだから。気にすることないわよ。またいつでも来なさい。……今度はこっちで算数、教えてもらうんだから」
後半は少し小さな声になったが、それも彼女なりの「また来てほしい」というメッセージなのだろう。その不器用な優しさに、東は「……うん。ありがとう」と、はにかむように微笑んだ。
「まりなさん、まりなさんのお母さん、今日は本当にごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」
「……ありがとうございました」
鷹禾としずかも、改めて深々とお辞儀をする。
「じゃあね、また明日!」
「さようなら!」
「……また、明日」
玄関先で手を振り合い、三人は夜道をそれぞれの家へと帰っていく。まりなと彼女の母親は、三人の姿が見えなくなるまで、温かい玄関の灯りの下で、静かにその背中を見送っていた。
***
三人の姿が夜の闇に消えると、まりなはパタンと玄関のドアを閉めた。家の中には、楽しかった宴の後の、心地よい静けさと、まだ微かに残るカレーの匂いが満ちている。母親は、リビングで食器の片付けを始めていた。まりなは、その後ろ姿をしばらく黙って見つめていたが、やがて、意を決したように口を開いた。
「……ママ」
その声は、昼間の快活さとは違う、少しだけ緊張をはらんだ響きだった。
「ん? どうしたの、まりな」
母親は、手を止めずに優しく振り返る。まりなは、言葉を選びながら、ずっと心に引っかかっていたことを尋ねた。
「……大丈夫だった? その……しずかのこと」
そうだ、大丈夫なはずがないのだ。鷹禾という太陽のような存在のおかげで、この家の歪みは修正の兆しを見せ始めた。父は心を入れ替え、母も笑顔を取り戻した。しかし、根本的な原因が消えたわけではない。しずかの母親は、自分の夫を惑わせ、この家庭を崩壊寸前まで追い込んだ女なのだ。その娘であるしずかに対して、憎悪や嫌悪を抱かないはずがない。まりな自身、ほんの数ヶ月前まで、その憎しみをしずかにぶつけていたのだから。
今日のパーティは楽しかった。しずかも、ごく自然にそこにいた。まりな自身も、浮かれていて、そのことを途中まですっかり忘れていた。だが、ふとした瞬間に、母の心中を慮ってしまい、不安が胸をよぎったのだ。無理をさせてしまったのではないか、と。
しかし、まりなの心配とは裏腹に、母親はきょとんとした顔で娘を見つめ、やがて、くすり、と小さく微笑んだ。その笑みには、何の含みも、無理している様子もなかった。
「もう、いいのよ」
母親は、洗い物を終えた濡れた手をエプロンで拭きながら、穏やかに言った。
「え……?」
「だって、あの娘……しずかちゃん、良い子そうじゃない。それにね」
母親は、まりなの隣にそっと腰を下ろし、その肩を優しく抱き寄せた。そして、遠い日を思い出すような、それでいてつい昨日のことのように鮮やかな眼差しで、言葉を続けた。
「……娘と同じ歳の子に、言われちゃったからねぇ」
『じゃあ、貴方たちはまりなさんの何が分かるんですか?』
あの嵐のような少年が、小さな体で自分たち夫婦の前に立ちはだかり、真っ直ぐな瞳で放った言葉。それは、大人である自分たちの欺瞞と怠慢を、何よりも痛烈に突き刺す刃だった。自分たちは、夫は、妻を。妻は、夫を。そして二人は、娘であるまりなを。一番近くにいるはずの家族のことを、何も見ようとしていなかった。分かろうともしていなかった。その事実を、たった一人の小学生に教えられたのだ。
母親は、鷹禾の言葉を思い出しながら、ゆっくりと続けた。
「『たくさんお話しをして、相手を理解しようとすることが、幸せに繋がるんです』って。……あの子が、そう教えてくれたのよ」
憎しみや怒りに心を支配されて、周りが見えなくなっていた自分。夫の裏切りに傷つき、その怒りの矛先を、何の罪もない少女に向けていた。
そして、一番大切にしなければならない娘にまで、その歪んだ感情をぶつけていた。あの少年の言葉がなければ、自分は今も、暗く冷たい部屋で、一人きりで膝を抱えていたかもしれない。
「夫のことも、あの人のことも、まだ完全に許せたわけじゃないわ。……でもね、憎しみ続けるのって、すごく疲れるのよ。あの子が教えてくれたみたいに、ちゃんと話をして、まりなや、あなたのお父さんと向き合って……そうしたら、なんだか、どうでもよくなっちゃった。憎しみで自分の心をいっぱいにするより、まりなや、こうして遊びに来てくれるみんなとの楽しい時間で、心をいっぱいにしたいって、そう思えるようになったの」
母親は、慈しむようにまりなの髪をそっと撫でた。その手つきは、もう「味方でいてくれるよね?」という強迫観念に満ちたものではなく、ただ純粋な、娘への愛情に溢れていた。
「しずかちゃんだって、何も悪くないもの。あの子も、きっとたくさん傷ついてきたんだわ。……だから、ママはもう大丈夫。あの子がまりなの大切なお友達なら、ママにとっても、大切なお客様よ」
その言葉は、母親が過去の呪縛から解き放たれ、前を向いて歩き始めたことの、何よりもの証明だった。まりなは、母親のその言葉を聞いて、ずっと胸につかえていた最後の棘が、すうっと抜け落ちていくのを感じた。心配も、不安も、もう何もない。ただ、温かいものが胸いっぱいに広がっていく。
「……そっか」
まりなは、母親の肩にこてん、と頭を預けた。そして、子供のように無邪気な、心からの満面の笑みを浮かべた。
「……うん!」
その笑顔は、かつて彼女が失いかけていた、家族との温かい繋がりを取り戻した喜びと、明日への希望に、きらきらと輝いていた。
***
そして、そして、そして。
いくつもの季節が巡った。
とある春の日。桜の花びらが風に舞い、新たな始まりの匂いを運んでくる。駅前のロータリーは、様々な制服に身を包んだ学生たちで賑わっていた。その中心にそびえ立つ、街のシンボルである時計塔。その大きな文字盤の下で、一人の少女がぷりぷりと頬を膨らませ、仁王立ちで腕を組んでいた。
「もうっ! 約束の時間から3分も過ぎてるし! 遅すぎるんだけど!?」
陽の光を浴びて蜂蜜色に輝く髪を揺らしながら、彼女は苛立ちを隠そうともせずに声を上げる。その隣で、同じ清楚なセーラー服に身を包んだ、もう一人の少女が、その様子を見てくすりと小さく微笑んだ。長く艶やかな黒髪が、春風にさらりと揺れる。
「……ふふ。多分、どこかでまた困ってる人でも助けてるんじゃない?」
その言葉は、まるで未来予知のように的確で、そしてどこまでも穏やかだった。あまりにも想像がつきすぎるその光景に、蜂蜜色の髪の少女は「くっ……」と顔をしかめ、がっくりと肩を落とす。
「あんの……お人好し馬鹿……! 眼鏡じゃ、あれを止めるのは無理かぁ……」
彼女が天を仰いでうなだれていた、その時だった。
「お待たせしましたーっ!」
人混みをかき分けるようにして、小さな影が二つ、こちらへ向かって駆けてくる。一つは、少し大きめの男子高校生の制服を、まるで借り物のように着こなしている小柄な青年。もう一つは、進学校のものだと一目でわかる知的なデザインの制服に身を包み、丸い縁取りの眼鏡をかけた息切れ寸前の青年だ。
「はぁ……っ、ご、ごめん……おまたせ……!」
「すみません! ちょっと道端で困っているお爺さんがいらっしゃって!」
ぜえぜえと肩で息をする眼鏡の青年の隣で、小さな青年は悪びれる様子もなく、むしろ良いことをしたとでも言うように、にぱっと太陽のような笑顔を浮かべた。その屈託のなさに、蜂蜜色の髪の少女は盛大なため息をつく。
「……はいはい。どーせ、『重い荷物を持って階段を上れずに困ってたお爺さんを、見かねてお家まで送ってましたー』……とか、そういうことでしょ?」
呆れ顔で、しかし全てお見通しだと言わんばかりに彼女が言うと、小さな青年は「ええっ!?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「なんでわかったんですか!? エスパーなんですか!? すごいですね!」
手放しで尊敬の眼差しを向けてくる純粋な反応に、蜂蜜色の髪の少女はもう反論する気力も失せたらしい。
「はぁ……」ともう一度深く息を吐くと、面倒くさそうにパンパンと手を叩いて会話を打ち切った。
「もういいわよ! それで? 今日はどこ行くのよ? あんたが行きたい店があるって言うから、わざわざみんなで集まってあげたんだからね?」
その問いに、小さな青年は「はい!」と待ってましたとばかりに目を輝かせた。そして、ポケットから大事そうに取り出した、少し皺の寄った雑誌の切り抜きを広げて見せる。
「駅の向こう側に、新しくクレープ屋さんができたみたいなんです! 季節のフルーツがたっぷり乗ってて、生地ももちもちで、クリームも自家製で……すっごく美味しそうなんです!」
彼は、まるで世界で最も重要な発見を報告するかのように、熱っぽくクレープの魅力を語った。その瞳は、小学生の頃と少しも変わらず、食べ物への尽きることのない探究心と愛情できらきらと輝いている。その様子に、蜂蜜色の髪の少女は、やれやれと首を振りながら、わざとらしく鼻で笑った。
「ほんっと、あんたの頭ン中は、食べ物のことでしか詰まってないわけ?」
それは、長年の付き合いから来る、親しみを込めた軽口。いつものように、彼が「そんなことないですよぅ!」と少しむくれて反論してくるのを期待しての言葉だった。しかし、返ってきたのは、彼女の予想を遥かに超える、純度100%の答えだった。
「……? そんなことありませんよ! 皆さんのことが、一番たくさん入ってます!」
彼は、きょとん、と小首を傾げた後、一点の曇りもない満面の笑みで、そう言い切った。
その言葉は、春の陽光よりも眩しく、何の前触れもなく、蜂蜜色の髪の少女の心のど真ん中を撃ち抜いた。
「ぐっ……!」
予期せぬカウンターダメージ。彼女は、胸を押さえて「うっ……」と呻き、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。その致命的な一撃を放った張本人は、何が起こったのか全く理解できず、「……? どうかしましたか?」と不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいる。
その光景を見ていた黒髪の少女と眼鏡の青年は、顔を見合わせ、静かに、しかし堪えきれないといった様子で笑みをこぼしていた。それは、彼らの間で幾度となく繰り返されてきた、もはや定番ともいえる微笑ましいやり取りだったからだ。
「なっ……なによ! あんたたちまで笑って! 全然面白くないんだけど!」
二人の笑みに気づいた蜂蜜色の髪の少女は、真っ赤になった顔をさらに赤くして、今度は矛先をそちらへ向けた。むきーっと音がしそうなほどに頬を膨らませ、くってかかるように突っかかる。まるで、威嚇する小動物のようだ。
「だって、雲母坂さん。いつも通りじゃないか」
「……ふふ。本当のこと、言われてただけだよ」
眼鏡の青年が困ったように笑い、黒髪の少女が追い打ちをかけるように小さく呟く。その言葉に、彼女は「うぐっ……」とさらに言葉を詰まらせた。そして、その中心で「???」という顔を浮かべながら、三人の顔をきょろきょろと見回している小さな青年。そのちぐはぐで、けれど不思議なほど調和のとれた四人の姿は、雑踏の中でもひときわ温かい空気を放っていた。
そんな彼女たちの賑やかなやり取りを、小さな青年は相変わらずきょとんとした顔で眺めていたが、やがて何かを思い出したように、ぱん、と手を叩いた。
「あ! そうだ! クレープ屋さん、すごい行列ができるって書いてありました! 早く行かないと、僕が食べたかったイチゴとピスタチオとマスカルポーネのスペシャルクレープが売り切れちゃうかもしれません!」
「名前長すぎよ!」と蜂蜜色の髪の少女がすかさずツッコミを入れるが、彼の頭の中はすでに甘くて美味しいクレープのことでいっぱいのようだ。その瞳は期待に満ち溢れ、きらきらと輝いている。その純粋な輝きを前にしては、どんな苛立ちも、どんな照れ隠しも、まるで春の雪のように溶けていってしまう
「ほら、さっさと 行くわよ!クレープ!あんたが食べたいって言うんだから、とびっきり美味しいやつじゃなきゃ許さないんだからね!」
蜂蜜色の髪の少女は、最後の抵抗とばかりに大きく息を吐くと、呆れたようにそう言った。彼女は、くるりと背を向けると、新しい店の方向へとさっさと歩き始めた。その足取りは、先程までの苛立ちが嘘のように軽やかだ。
「はい! きっと世界で一番美味しいですよ!」
小さな青年が、ぱあっと顔を輝かせてその後を追いかける。
「もう、二人とも、待ってよ」
「……本当に、変わらないね」
やれやれと肩をすくめる眼鏡の青年と、慈しむような眼差しでその背中を見つめる黒髪の少女も、少し遅れて歩き出した。
春の柔らかな日差しが、四人の背中を優しく照らす。
先頭を行く少女の蜂蜜色の髪が、風にキラキラと揺れている。その後ろから聞こえてくる、クレープのトッピングについて熱弁する無邪気な声に、彼女は気づかれないように小さく口元を綻ばせた。
かつて、彼らの世界は歪み、傷つき、暗い色に閉ざされていた。
信じるものを失い、憎しみに心を支配され、孤独に震えていた日々。
神様も、魔法も、きっとこの世界には存在しない。
けれど。
手を差し伸べてくれる人は、いる。
隣で笑いかけてくれる人は、いる。
不器用な言葉で、それでも必死に想いを伝えてくれる人は、いる。
自分のことよりも、誰かの幸せを願う、太陽のような人が、いる。
四人は、賑やかな駅前の通りを歩いていく。
他愛のない話で笑い合い、時々、少しだけ昔のことを思い出して、それでも、また前を向く。
これから先、彼らの人生には、また別の困難が待ち受けているかもしれない。すれ違うこともあるだろう。涙を流す夜も、きっとある。
それでも、この四人なら、きっと大丈夫。
何度間違えても、遠回りしても、彼らはそのたびに手を取り合い、互いを理解しようと努めるだろう。
そうして、彼らの日常は、これからもこうして続いていくのだ。
小さなことで笑い合い、時には些細なことで言い争い、そして、誰かが困っていれば、当たり前のように手を差し伸べる。かつて、それぞれの心に深く突き刺さっていた棘は、長い時間をかけて少しずつ溶け、今はもう、お互いを思いやる優しい温もりへと変わっていた。
蜂蜜色の髪の少女は、時々ツンと澄ましながらも、誰よりも仲間たちのことを気にかけている。
黒髪の少女は、静かな微笑みの裏に、確かな強さと優しさを湛えている。
眼鏡の青年は、かつての劣等感を乗り越え、自分の足で真っ直ぐに立つ自信を身につけた。
そうして、太陽のように明るい小さな青年は、いつまでも変わらず、その無邪気な笑顔で皆の中心を照らし続けている。
彼らがこれからどんな大人になり、どんな道を歩んでいくのか。それは、まだ誰にも分からない。楽しいことばかりではないだろう。悲しいことや、辛いこともあるかもしれない。時には、道に迷い、立ち止まってしまう日も来るだろう。
けれど、きっと大丈夫だ。
彼らは知っている。一人では乗り越えられない壁も、隣を歩く者たちとなら乗り越えられることを。暗い夜道を歩く時も、隣に誰かがいてくれるだけで、心強い光になることを。
お互いを理解しようと、たくさん話をしたから。
手を取り合って、同じ時間を過ごしてきたから。
その心の中には、いつだって、大切な仲間たちのことが一番たくさん入っているのだから
彼らの物語は、まだ始まったばかり。
この先も、ずっと、ずっと続いていく。
柔らかい光の中、
四つの影が、
未来へと続く道を、
どこまでもどこまでも仲良く並んで歩いていった。
また、続きが出るかもしれませんが、ここでお話は一旦終わります。
何個も彼らの物語に対する説明の足りぬ場所や違和感のある場所があったと思います。
それでも、ここまでこの物語を観て、楽しんでくれたのなら。
とても、とても。私はうれしいです。