連邦深夜ラジオ部   作:もりもりバナナ

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小説ごとに文章の癖を変えることで、違う作品だと脳に刷り込んでます。



五夜目

 

…聞こえてますか。

こちらはキヴォトス、深夜〇時。先生の深夜ラジオ、五夜目です。

 

五日目になるとね、この時間が「特別」じゃなくなってくる。良い意味で。歯を磨くみたいに、窓を閉めるみたいに、自然とマイクの前に座ってる。深夜は相変わらず静かだけど、静けさの質が少し変わった気がする。

 

今夜は、放送室の灯りを一段落としてる。眩しすぎると、言葉も跳ね返ってくるからね。ここに集まる声は、だいたい未完成で、途中で、少しだけ不器用だ。だから扱いは慎重にいきたい。

 

このラジオは、誰かを正す場所じゃない。

褒める場所でも、裁く場所でもない。

ただ、置いていく場所だ。

 

五夜目。

昨日よりも、少しだけ深い話が来るかもしれない。

あるいは、どうでもいい話が一番救いになるかもしれない。

 

……それじゃあ。

今夜の最初のお便り、どうぞ。

 

 


 

 

ペンネーム『色狐』より

 

 

『予知夢が見えなくなってここ数日…だからかな、いつもゴリラ(ミカ)の行動に驚かされてばかりさ。ふふっ笑ってしまうよ。以上だ』。

 

 

……こんばんは、「色狐」。

なるほど、予知夢が見えなくなったのか。それは少し不安にもなるね。夢が先読みしてくれていた感覚がなくなると、普段の出来事が全部突然に見えてしまうような気がするのも、分かる。

 

でも、色狐が言うように――驚かされて、笑ってしまうこともあるんだね。

ゴリラことミカの行動は、計算外で、予測不能で、だからこそ面白い。予知夢がなくても、笑えることはまだ残っている。むしろ、何が起きるか分からないから、毎日が少しだけスリリングになる。

 

無理に予知夢を取り戻そうとしなくてもいい。

自然に、日常の中で起こる驚きや面白さを、素直に楽しめばいい。

色狐の観察眼は鋭いから、細かいことにも気づける。

それだけでも、きっと十分だ。

 

予知夢がなくなったことで、世界が少し新鮮になった――そんなふうにも考えられるかもしれない。

笑うことを忘れなければ、日々は案外悪くないものだよ。

 

……ありがとう、色狐。

次のお便りも、楽しみにしてる。

 

 


 

 

 

ペンネーム『正義のスナイパーライフル』より。

 

 

『先生、私はよく正義実現委員会でスカートが短すぎると注意を受けることがあります。ですが先生、スカートを短くできるのも、高校生の良さなのでは?………ちなみにギリパンツが見えないくらいです』。

 

 

お便りありがとう、ペンネーム「正義のスナイパーライフル」さん。

 

……うん、まず最初に先生として、大事なところから話そうか。

 

高校生らしさ=スカートの短さ、って考えたくなる気持ち。

それ自体は、年頃なら自然な自己表現だと思う。

「今しかできないことを楽しみたい」って感覚も、決して間違ってない。

 

でもね。

 

正義実現委員会で注意される、って事実がある以上、

それは個人の自由 vs 組織としての規律の話になってくる。

 

正義実現委員会は、治安維持、模範性、他学園からどう見られるか

――そういう“看板”を背負ってる。

 

だから委員会側は

「君個人がどうか」じゃなく

「正義実現委員会の一員としてどう見えるか」で判断してるんだ。

 

ここ、すごく大事。

 

先生はね、

「短いのが悪い」とも

「校則は絶対だ」とも言わない。

 

ただ一つ言えるのは、

自由って、立場が上がるほど制限とセットになるってこと。

 

もし

「正義実現委員会にいる自分」が好きなら、

その役割に合わせた一線を引くのも、ひとつの“大人への一歩”。

 

逆に

「それでも私は私を通したい」なら、

委員会でどう振る舞うか、居場所をどう選ぶか――

そこまで含めて“選択”になる。

 

最後に、先生からの一言。

 

高校生の良さってね、

見た目の大胆さだけじゃない。

迷いながら、自分の立場と気持ちの折り合いを探してる今そのものだよ。

 

……さて、夜はまだ長い。

次のお便りも、待ってる。

 

 


 

 

ペンネーム『怪談屋』より。

 

 

『先生!キヴォトスの怖い話を教えて!』。

 

 

……こんばんは、「怪談屋」。

いいね、その質問。深夜三夜目にちょうどいい。

 

じゃあ一つだけ、キヴォトスの怖い話をしよう。

派手な怪物も、血も出ない。けど、知ってる人ほど背中が冷えるやつだ。

 

―――――

キヴォトスにはね、「誰にも気づかれない書類」があるって噂がある。

 

内容は普通の報告書。

日付も正しい。署名もある。

ただ一つだけ、おかしい点がある。

 

その書類に書かれている生徒が、存在しない。

 

名簿にいない。

写真もない。

記憶している人もいない。

 

でも、書類は確かに残ってる。

活動記録、成績、指導履歴……全部、完璧だ。

 

でね、怖いのはここからだ。

 

その書類を読んだ人は、しばらくすると

「その生徒、確かにいた気がする」

って言い始める。

 

顔は思い出せない。

声も思い出せない。

でも、「いた」という感覚だけが残る。

 

しばらくすると、その人はこう言うんだ。

「……先生、あの子、最近見かけませんね?」

 

最終的にどうなるかは、誰も知らない。

ただ一つだけ共通してるのは――

気づいた時には、誰も“最初に書類を見た人”を覚えていないってこと。

 

……さて。

今夜、書類を一枚でも読んだなら、少しだけ気をつけて。

 

本当に怖いのは、

忘れられることより、存在したかどうか分からなくなることだから。

 

今夜はここまで。

次は、もう少し軽いやつにしようか。

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