真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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 はじめましての方は、はじめまして。
 「また君か...。」となった方は、また暇潰しとして読んでいただけますと幸いです。


序章
第一話:幕間


 西暦183年、今日における中華人民共和国は『漢』_高祖劉邦が『秦』に代わって樹立した『前漢』と区別し、『後漢』が王朝を築いている時代であった。

 西暦25年、光武帝劉秀から始まった後漢王朝の歴史はこの時点で実に一世紀半以上に渡っていたのだが、その栄華と権威は衰退の一途を辿っていたのである。

 当代の皇帝である霊帝、先代皇帝である桓帝の代においては、皇后の出身一族である外戚と皇帝や後宮に仕える宦官との権力闘争、それに伴う政治腐敗と貧富の差の拡大により社会不安が強まっており、数多く発生していた貧農の民は糊口を凌ぐ日々を送っていた。

 物語はそんな混迷極まる世での、ある男達の出会いから始まる。

 

 

 

「おい、大丈夫か。

 さあ、これを...。」

 

 肩迄伸ばした長髪を靡かせながら、自宅なのだろう家の壁にもたれ掛かっている男性へと男が駆け寄る。

 彼自身も痩身な方であったが、声を掛けられた者はそれ以上に手足が細く顔色が悪い。

 様々な場所を巡りながら目の前の者に対してのと同じ様に自らが調合した薬を与えたり等、困窮する民に手を貸して回っている男だが、目の前にいる薬を飲ませた者の姿は残念ながら彼にとって、そして多くの人々にとって見慣れたものであった。

 

(政の乱れに加え、相次ぐ天災...、この者の姿もまた天の答えだと言うのか...。)

 

 前年から続く旱魃(かんばつ)や異常気象による農作物の不作、にも関わらず為政者は寧ろ重税を課し民を救うどころか苦しめる始末。

 自然現象による飢饉は人智の及ばぬ領域としてまだ諦めがつくものの、人が人に与える苦しみというのは何ともやるせない。

 或いは、人もまた自然の中から生まれた存在ならば、国の中枢の過ちが下々の国民に跳ね返ってくるのもまた自然の摂理だと言うのだろうか。

 

「...ねぇ、先生...、あれって...?」

 

「うん...? ああ、あれは恐らく武芸...‼︎⁉︎」

 

 男性の息子なのだろう少年の不思議そうな声色に従い、男性へと薬を飲ませつつ彼もまた視線を送ると、そこには笠を被った二人組が歩いていたのだ。

 父親の現状も重なり、見知らぬ者の存在を不安に感じたのだろう。

 見慣れぬ黒い装束を身に纏った恐らく男性なのだろう人物の右手には、人一人簡単に殺せてしまいそうな剣が握られており、物騒に感じるのも理解出来る。

 少年を落ち着かせる為に努めて穏やかな口調で男性の素性を説明しようとした男の言葉はしかし、男性の横にいる存在によって中断させられてしまった。

 

(な...何だあれは...⁉︎

人...とは到底思えないがしかし、複数人に見えているという事は幻覚の類でもない...。)

 

 その存在の見た目を表現するなら、水と氷の中間の様な状態で人間の様な形に固められた存在と言えば正しいのだろうか。

 水色の様に映る体色も重なり、何となくではあるが自分達人間よりも遥かに柔らかそうな印象を受けた故の発想だったのだが、ではそれが一体何なのかと問われれば寧ろ自分が聞きたい位だと男は思う。

 幻覚_自らも修得した技術と似たものかとの考えが頭を過ぎるものの、少年は勿論自分や恐らく他の者達にも『あれ』が見えているのだろう事からその可能性は否定したいところだ。

 男も用いる手段として、巨大な香によって一定の範囲に幻覚を見せる手段は考えられるものの、あの謎の武芸者がそんな事をこんな寂れた村で行う意義も、そして肝心のその手段も見出せないのが実情である。

 そうなると、あの謎の存在は確かにこの場に現存しているという事だろう。

 そんな彼の思考を中断させたのは、数人の兵士が護衛する牛車の登場であった。

 荷台を見てみれば、遠目にも様々な農作物や薬か酒類と思しき甕が見て取れる。

 

(まずいな...、あれは『猛毒』だ...。)

 

 数々の荷物を何故男が『猛毒』と評したのか、その答えはすぐに明らかとなった。

 

「わしらにも分けてくれ...!」

 

「どうかご慈悲を...。」

 

「せめて子供の分だけでも...!」

 

 『貴重な栄養源』という毒が回った人々が口々に隊長なのだろう先頭を歩く兵士に近付き懇願していく。

 この状況を見れば、それが自分達に必要なのは分かるだろう_と。

 せめて、未来を担う子供の分だけでも工面して貰えないか_と。

 そんな人々の毒に当てられたのだろう。

 隊長はその表情を不快感で歪めていく。

 

「忌々しいものよ。

 斬り捨ててくれようか。」

 

 最初に声を掛けた老人を突き倒すと、見せしめの様に老人の首元へ剣が突き出される。

 隊長の感染した毒は部下の兵士達にも広がっている様で、彼らが槍を持つ手は先程とは比べ物にならない程力がこもっていた。

 

(鎮めるか...、いやしかし...。)

 

 自らの力でこの兵士達を鎮圧する_その選択肢を取るには男に迷いが生じた。

 まず、鎮圧自体は不可能ではないだろう。

 兵士達は完全に油断しており、練度もそう高くない様に見える。

 だが、この場にいる村人全員を無傷の状態で、となると自分一人で解決出来ると自惚れる事は出来ない。

 よしんばここを乗り切れたとして、当然この兵士達の主に情報が届く筈であり、そうなるとこの村全体が目を付けられ、大軍が押し寄せてくる可能性も否定出来ないのだ。

 

「待たれよ。」

 

 逡巡する男の思考を現実に引き戻したのは、その場の全員に聞こえるよく通る凛とした声であった。

 

(大きい...何たる偉丈夫か...!)

 

 牛車の前に仁王立ちし立ち塞がった声の主の外見に男が驚愕するのも当然だろう。

 右手に持つ偃月刀、あろう事かそれと大差ない体格を誇っているのだ。

 見事に蓄えられた長い髯も合わさり、正に威風堂々と言う他ない立ち姿である。

 

「その荷、帝が飢える民に賜った施しとお見受けする。

 かように苦しむ者達を捨て置いて、何処(いずこ)へ行かれるおつもりか。」

 

「無礼者め! 下らん言いがかりを申すな!」

 

 不正に関与している自覚がある故だろうか。

 声を荒げる隊長に、偉丈夫は自身の隣に立っていた者を自身と兵士達との間に小突く様な軽さで放り投げた。

 当然、何の証拠も無しに問い詰めている訳ではないのだ_と。

 

「この商人が全て証言いたした。

 士大夫殿が横領した施しを買い取り、都で売り捌くのだと。

 代わりに賄賂を納め、商売の便宜を得る事を約すのだと。」

 

 彼の言葉に男も事のあらましを理解する。

 士大夫_この村を含めた地区を統治する在地官僚が、この目の前の荷を横領。

 それを安く売る事で商人側に儲けを出させる代わりに、その売上金の一部を賄賂として受け取ろうと言うのだろう。

 帝から賜った品である以上、本来なら無償で民に振る舞われる筈のものを己の利益の種とするだけでなく、実物を消費した事を正しく公務を執行した証拠とする事で公人としての加点も狙える。

 一方の商人側もただ危ない橋を渡るだけでは終わらず、件の士大夫と懇意にする他、他の取引相手を紹介して貰える算段が付いている故に話に乗っかったという事だ。

 その『紹介相手』が都の宦官勢力に対抗する為の他の士大夫なのか、はたまた自らの勢力圏で商人を囲い込み私腹を肥やす腹積りなのかは定かではないが、何れにせよそんな話を聞いて人々が黙っていられる筈はなかった。

 

「なんて奴らだ...。」

 

「俺達は腹空かせてるってのに。」

 

「黙れ、近寄るな!」

 

 偉丈夫の言葉によって一気に旗色が悪くなった為か、兵士達の言葉に先程迄の勢いは無い。

 槍を突き出し牛車に近付けさせまいとはしているものの、先程よりも明らかに動揺しているのが見て取れた。

 それこそ、子供にも察知されてしまう程に。

 

「...。」

 

「ごほっ...、心配するな。」

 

 息子が徐に立ち上がったのを、彼が周囲の剣呑な空気を察した故と考えたのだろう。

 薬を飲まされていた男性が咳込みながら声を掛けるが、少年は父の様子を一瞥すると再び荷車へと視線を戻してしまった。

 男性の経過を見なければならなかった事、例え子供でも武装している相手の危険性は本能的に理解出来るだろうと鷹を括っていた事が重なり、男もまた次の少年の動きに反応が遅れてしまった。

 

「あっ、坊、待て‼︎」

 

(なっ⁉︎ くっ、ここからでは間に合わん‼︎)

 

 少年が一目散に駆ける先、そこには牛車の中の大きな甕が在ったのだ。

 その中身が薬品の類であるという保証はない。

 水や酒類かもしれない故に、それによって直接父の病状に対処出来ない可能性とて有るだろう。

 しかし、そんな事は少年にはどうでもいい事だった。

 平時の食べ物とすら言えない代物より飲食の質が少しでも改善すれば、或いは今父を診ている先生に甕の中身を渡せば、父の体調は兎も角他の村の人々の助けとしてくれるかもしれない。

 どれだけ天に願ったところで救い等来ないのなら、いっそ自らの手で_そんな衝動的な少年の動きはしかし、曲がりなりにも訓練を受けた官軍の兵士から見れば酷く緩慢に映るものだった。

 偉丈夫の言葉や村人達の態度に苛立っていた事も重なったのだろう。

 兵士はその手にした槍を容赦無く少年へと振り下ろした。

 

 

 

 思わず誰しもが目を背けたくなる様な光景の代わりに、その場の全員に届けられたのは、甲高い音だった。

 さながら金属同士が強く打ち合った時の様な音に困惑しながら少年が、男性が、そして男がゆっくりと目を開くと、確かに兵士の槍は剣によって受け止められていたのだ。

 

(先の武芸者...。)

 

「あーあぁ、また考え無しに飛び出しちまって...。

 よう坊ちゃん、怪我はないかい?」

 

「...考え無しではない。」

 

「あん?」

 

 槍を受け止めていた剣の持ち主は、先程珍妙な存在と同行していた武芸者らしき者であった。

 そんな彼の背中を守る様に、そして少年を庇う様に二人の間に滑り込んだ例の『あれ』が、武装した兵士を目の前にしているとは思えない態度で軽口を叩きつつ少年の安否を問う。

 『また』との言い草からして二人が昨日今日会ったばかりの間柄ではない事、そしてあの武芸者が今回の様に幾度か人々をその手で救ってきたのだろう事が窺えた。

 とは言え、彼の同行者の言い分も完全に否定出来るものではないだろう。

 ここで官軍に目を付けられれば、たった二人で大挙した官軍の増援に追いかけ回されるだろう事は容易に想像出来る。

 少なくとも少年の様子からして、彼と二人が知己の間柄というのも考え難い。

 つまり見ず知らずの相手の為に平気で命懸けの選択をしたと言う事だ。

 尤も、武芸者の方にも何やら言い分がある様だが。

 

「『その子が死ぬのは見たくない』、そう考えた。」

 

 きっと彼の同行者はそういう意味で言ったのではない_そう全員が呆気に取られたのも束の間、彼は槍を受け止めていた剣をそのまま打ち上げると、完全に無防備となった兵士の腹部に衝撃を与え鎮圧、その様に慌てて別の兵が槍を突き出すものの、何とこちらは自らの足でもって槍の穂先を踏み付け無効化、そのまま身動きの取れない相手を見事な蹴りの一撃によって沈黙させてしまったのだ。

 

(赤い帯...。)

 

 武芸者の動きに合わせ、彼が腰に巻いている赤い帯が揺らめく。

 その帯に男は何か思う所がある様だが。

 

「貴様ぁ!」

 

「ほれ見ろ、こりゃ絶対目付けられたぜ。

 お前さんといるといつもこうだ...。」

 

「そうだな...、そして...。」

 

 偉丈夫の言葉、村人の態度、そして謎の武芸者によって部下が立て続けに二人も沈められた事実に隊長は最早我慢の限界だったのだろう。

 殺気を込めた視線と共に駆け寄る彼に対し、二人は相変わらずの余裕を感じさせる。

 軽口と共に何故か武芸者は同行者の頭部だろう部分を掴むと、あろう事か隊長に向かってまるで目眩しとでも言う様に放り投げてしまったのだ。

 

「これもいつも通りだ。」

 

「何してんだテメーー‼︎⁉︎」

 

「邪魔だ‼︎」

 

「はい、一話目からこんな扱いです。」

 

 武装した相手の前に無防備に放り投げられればどうなるか。

 自身の視界を遮る存在に隊長は動揺する事なく、見事な袈裟斬りからの横薙ぎによって同行者諸共武芸者を切り伏せんとしたが、その剣は武芸者の体に届く事は無かった。

 彼は牛車に手を掛けたかと思えば、地面を蹴った勢いのまま荷車の反対側へと移動してしまったのだ。

 完全に意識の外から敵が現れてしまった兵士は、哀れな事に彼が着地と同時に足を払った事によってそのまま意識を手放す事となってしまった。

 すると、彼とは別の所からも兵士の悲鳴が響く。

 

「どなたかは存ぜぬが、かたじけない。」

 

「おのれぇ...、応援を呼べ!」

 

 偉丈夫によって更に部下を失った隊長が、流石に不利を認めたのだろう。

 牛車すら捨て置き、増援の指示を出すと共に撤退を選んだのだが、村人も彼の捨て台詞にこの後の未来を理解したのか慌てふためく。

 

「ふむ...、この場に留まっては村が危険となるか...。

 いやそれよりも...、おぬしの連れの御仁は...!」

 

「...奴なら心配はいらない。」

 

 余りにそっけない武芸者の言葉を訝しみつつ、偉丈夫は彼の同行者が斬られてしまったであろう牛車の反対側へと移動し様子を伺う。

 遠目に見ても、とても『心配いらない』とは口が裂けても言えない状況だった様に思えたのだが。

 

「ったくよ、こうも毎回テープでくっ付けてたらすぐに無くなっちまうよ...。

 ところてん使いの荒い野郎だよ全く...。」

 

「‼︎⁉︎

 まだ生きて...、何と面妖な...。

 おぬしは一体...。」

 

「三人共、こちらだ!」

 

 偉丈夫が目を見開くのも無理からぬ光景だった。

 肩口から無惨に斬られてしまった同行者は、何とまだ生きているばかりか愚痴をこぼしながら『テープ』なる謎の紙を自らの体に巻き付け、傷付いた体を補強しているのだ。

 20年程の時を生きてきた偉丈夫が同行者の異様さに唖然とする中、その場に残された三人に男から声が掛かった。

 この場に留まっては官軍の大群が押し寄せてくるのは自明の理である故に三人は視線を合わせ頷き合うと、男の後を追う。

 戦いは、すぐそば迄迫っていた。




 筆者の作品を初めて手に取って下さった皆様、筆者の他作品からこちらにも来て下さった皆様、改めてありがとうございます。
 また変な電波を受信した筆者が性懲りも無く始めたアホな作品ですが、お付き合いいただけますと幸いです。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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