真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十三話:宛城の戦い

「城壁が見えてきたな...。

 拍子抜けする位簡単に来れちまったが...。」

 

 手筈通り_本来なら喜ぶべき状況なのだが、自分達が目指す宛城の西側城壁を視界に捉えながらも、劉備達義勇軍の表情は晴れないままだ。

 事前の孫堅からの指示通り、遊撃隊として西側を進軍していた彼らは、張飛が『拍子抜け』と評するのも致し方ない程に抵抗らしい抵抗を受けず、目的地に辿り着いたのだ。

 現実として黄巾側に余裕がないというのもあるのだろう。

 この戦の前段階で既に彼らは宛城に追い詰められ、籠城を強いられている。

 逆転の一手として官軍の総指揮を執る朱儁の首を狙い打って出ようにも、正面から孫堅軍が苛烈な攻めを見せている現状では身動きが取れず、防戦で手一杯の筈だ。

 件の西側城壁にしても、城壁前に気持ちばかりと評するしかない守備隊を置いているのみであり、その状態で西側の進軍路の守備を増強するのは非常に困難だと言わざるを得ない。

 正しく順調と言える状態であるにも関わらず、彼らがそれを素直に喜べないでいるのは、出陣前に生じた懸念が故であった。

 彼らが頴川の地で身を持って体験した黄巾の妖術の脅威は記憶に新しい。

 何処からともなく現れる幻影の兵士と、その裏に潜む敵兵の存在が待ち構えている可能性が高いと彼らは考えているのだ。

 黄巾党から見れば絶対的に不利と言える現状において尚、敵が士気を保ち続けている理由を考えると、それは城門を破られても逆転を狙える策を用意している故だと考えるのが妥当だろう。

 そしてあの妖術は、『無い筈のものを有る様に見せる』_数的不利が否めない黄巾党にとって願ってもない策だ。

 

「よし、これで城壁前は確保出来たな。

 あっちの城内に逃げようとしてる奴らも_」

 

「...待て、翼徳!」

 

「あん? 何でだよ、兄者!

 これじゃ、敵に知られちまうぜ...。」

 

 城壁前の敵軍を瞬く間に蹴散らし、城内へと逃げ込む残党を逃がすまいとする張飛だったが、そこで劉備から待ったが掛かった。

 案の定、敵兵は城内へと逃れてしまい、城内の敵に自分達の襲来を知られてしまう事を指摘されるが。

 

「いや、寧ろ好都合だ。

 仮に紫鸞の予測通りだとしたら、奴らは急いで準備を進めているだろうからな。」

 

「成程...、香を焚かせる為に敵を泳がせたと。」

 

「ああ。

 さあ、この隙に城内に乗り込むぞ!」

 

 劉備の返答により、他の面々も彼の狙いを察した。

 妖術を使われる事を前提に考えた場合、最も危惧すべきは正門を破った朱儁、孫堅らの主軍が城内へと進入した所で動きを封じられ、一網打尽にされてしまう展開だ。

 ならば彼らが門を破る前に、黄巾党の策の有無を確認してしまおうという訳である。

 その為には、妖術に使用する香を焚かせ、発生源を明らかにしなければならないのだ。

 これによって自分達の前に幻影兵が出現する危険性は孕んでいるが、未だ実体験の無い孫堅達を危険に晒すよりは上策と考えたのだろう。

 また、自分達の懸念が杞憂に終わったとしても、孫堅達と対している正門の守備隊の意識を多少なりとも逸らす効果は期待出来る。

 

「...一つ見つけた。」

 

「早速かよ!

 やるじゃねえか、紫鸞!」

 

「いや...、この位置から既に視えているのは異常だ。

 恐らく、正門の戦況を見て元々準備を進めていたんだろう...。

 下に降りた時点で、『あの兵士』が出てくるだろうな。」

 

 城壁へと至り城内を観察した紫鸞が、すぐさま異変を_あの紫色の妖しい空気の流れを感知する。

 それ自体は張飛の言う通り喜ばしい事なのだが、一方で紫鸞は自身の霊鳥の眼が捉えた光景に警鐘を鳴らした。

 頴川の時の様に極近距離の範囲内にて紫の空気を捉えたのと違い、今は城壁から俯瞰、つまりは香炉から相応の距離が離れている状態だ。

 にも関わらず、眼に紫の空気が映っているという事は、既に香が城内に充満しているという事になる。

 恐らく、自分達も城壁から降り、香の範囲内へと入ればあの幻影兵に歓迎される事だろう。

 つい先程劉備が泳がせた敵兵が準備をしたにしては、余りに香が広がり過ぎている事から、この広がる香は西側からの侵攻とは関係なく黄巾党が準備を進めていたと言える。

 あくまで官軍側の主軍は正門を攻略しようとしている孫堅達という認識は敵味方共に共通している筈であり、黄巾党にとっての目下の最大の脅威に対して裏をかく事を狙ったと考えれば頷ける事態だ。

 

「おいおい...、そうなると下手げに正門破ったら不味いんじゃねえか?

 そこで一回止まれなんて無理だろ...。」

 

「さもありなん...。

 兄者、我らも他の香炉を探しつつ正門を目指すべきでしょうが、何とか孫堅殿達にこの事を伝えねばなりますまい。」

 

「確かにな...。

 天の助、すまんが頼まれてくれるか?」

 

「合図がある迄入るな、だろ?

 任せといてくれ。」

 

(ふむ、天の助の顔を見るに、或いは兄者と予め策を練っていたか。)

 

 紫鸞による説明を受けた事で、自然と孫堅達に危険が及ぶ可能性に思い至ったのだろう。

 張飛の発言に同意した関羽の言う通り、彼らに対して安全が確保される迄は城外での待機を進言しなければならない。

 それに対して考えがあるのか、何故か天の助へと声を掛けた劉備とそれに力強く返答した彼に、現状の物理的障壁をどう解決するのかと張飛と紫鸞が胡乱げな視線を送った。

 無駄に彼らに対する信頼が厚い関羽は、これらの自分達の指摘も彼らにとっては想定内であった事を察するが。

 

「いくぜ!!

 借りパク奥義『週刊少年ジャーンプ』!!」

 

「飛んでったーー!!!?」

 

 技名を叫ぶやいなや、どことなく海賊の様な風貌へと変わり、何かしらの書物を手にした天の助は、何とも独特の構えで城外へと文字通り飛んでいってしまった。

 

「な?」

 

「いや何が『な?』なの!?」

 

 

 

「負けて...たまるか...。

 家族の為に...こいつらを...。」

 

(...それが起つ理由か...。)

 

 自身と対峙する黄巾党の兵士の鬼気迫る表情、そして決して浅くはない筈の手傷を負って尚、未だ戦おうとする姿に、孫堅は彼らがこの様な蛮行に至った理由を肌で感じ取る。

 彼と対峙している件の兵士は、右の二の腕_恐らく利き手であり剣を握っていた腕のそこから血を流し、だらりと右腕を重力に逆らわずに垂れさせていた。

 彼の鋭い斬撃によって利き手を使えなくされ、実質的な戦闘不能の状態へとされたかと思いきや、なんと剣を左手だけで持ちつつ先の言葉を零したのである。

 未だ右腕が繋がった状態で『いさせて貰えている』事からして、彼我の実力差は圧倒的であり、本来なら彼の意図を汲んで逃げ延びるべき状況であるにも関わらずだ。

 

「うう...、うわあぁぁぁぁ!!」

 

「くっ、無駄に殺させおってからに...!!」

 

 狂気とも慟哭とも取れる叫び声と共に向かってくる敵兵に対し、彼をこの場で斬らねばならない状況に、孫堅が思わず悪態をつくが。

 

「応募者全員サービスのところてんギフトのお届けでーす。」

 

「ぶほぁ!!」

 

「!!!?」

 

 なんと、黄巾党の兵士は本来こんな所にいる筈ではない存在_ところ天の助と衝突した勢いでそのまま気絶してしまったのだ。

 死なずに済んだ分幸運であるとも言えるが、予想が出来る筈もない方向から衝突された彼に、孫堅も思わず同情してしまった。

 

「お前は確か...ところ天の助...、一体どうやって...。

 いや、それよりも何故義勇軍のお前が?

 まさか...、義勇軍に何かあったのか...!?」

 

 天の助の登場に呆気にとられていたのも束の間、ここで逸早く我に返る事が出来るのは、孫堅の将器の大きさと言うべきか。

 彼がどうやってこの場に飛び込んできたのか疑問は尽きないが、即座に優先すべき質問事項を見定めたのだ。

 まず、事実として彼は劉備達義勇軍と別行動を取っており、その理由を推察した事でこうして捲し立てる様な話し方になってしまった。

 基本的に軍の一部、それも主要人物の一人と目される存在が作戦行動中に部隊を離れるという事は無い筈であり、仮に自分達の様な別働隊への連絡事項があったとしても、態々そういった立場の者が動く必要性は薄い。

 つまり、逆説的に彼がこの場にやってきたという事は、それだけ緊急性の高い内容であると考えられる。

 彼の常識から外れた移動能力も、正に『自分で行った方が早い』を体現しておりその予測を助長する材料となっている。

 緊急性の高い連絡事項として、やはりと言うべきか真っ先に思い浮かんだのが、義勇軍が緊急事態に陥った可能性であるが故の先の問いだったのだが。

 

「お父さん...、私...、出来ちゃったみたい...。」

 

「誰がお父...、いや待て出来ちゃったというのは『そういう事』なのか!?

 というか、お前出来るのか!?

 一体何が生み出されると言うんだ!?」

 

「殿、落ち着かれよ。

 それにところ天の助...、おぬしも戦場である事を弁えるべきであろう。」

 

 天の助のアホな発言に振り回されている主を見兼ねた孫堅軍の宿将の一人_程普が、彼の態度を窘めつつ会話の軌道修正を図る。

 その後ろには、同じく宿将であり劉備達との軍議の場にも出席していた黄蓋と韓当も近付いてきていた。

 

「っとと、これはいつものノリでやっちまって申し訳ねえ。

 単刀直入に言うが、ウチの紫鸞の言ってた懸念が当たっちまった。」

 

「確か黄巾が妖術を使うという話だったが...、まさか今城内でそれが起こっていると言うのか...。」

 

「そうなると、この勢いのまま城内に攻め込むのは危険だなあ...。」

 

「そっちの...確か、韓義公殿の言う通りだ。

 城内からの合図が上がる迄、ここで待ってて欲しいんだ。」

 

「義勇軍だけに対処を任せるのは悪いが...、流石に妖術への対処は彼らに一日の長があるか...。

 よし、分かった!

 天の助、お前もそれまでの間、戦線を共に支えてくれ!」

 

(ふざけているかと思いきや、端的に情報を伝えたか...。

ならば先の虚言も、自分へと意識を向けさせる為...。)

 

(城壁を飛び越え、大根で戦う...、こいつは一体何者なのだ...?)

 

(俺の事をちゃんと覚えてくれているなんて...、良い奴だなあ。)

 

 先程の調子から一変、このまま突入するには城内が危険な状態である事を伝えた天の助の進言を、孫堅も素直に受け入れる。

 先の軍議にて聞かされた妖術の内容を考えれば、未だ直接それを目にしていない自分達では、却って義勇軍の足手まといとなってしまう事が容易に想像出来る故に。

 彼らのやり取りの最中、程普達も三者三様に天の助への評価を思い浮かべるが、果たしてその内のどれが最も適切なものなのだろうか。

 

 

 

 城門正面を固める黄巾党と、物々しい衝車を囲む様に整列する官軍。

 天の助の助言に従った孫堅の指示により、両者は現在睨み合いの状態を続けていた。

 黄巾党の面々が、官軍の攻勢が緩んだ事を不審に思えば或いはこの先の未来はもう少し違ったものになったかもしれないが、この時の彼らは寧ろ、『虎の子と言える妖術を準備する時間を稼げている』と考えてしまったのだ。

 元々宛城へと追い詰められ、兵の数も不利である事は分かりきっていた故に、その妖術を拠り所とする他無かったのだろう。

 果たして、この状況を変える一報が城内より空へと舞い上がった。

 

(合図! 義勇軍がやってくれたか、ならば!!)

「聞け!! 黄巾の兵達よ!!

 お前達が頼みとする妖術は、我らの友軍が打ち破った!!

 お前達では、俺達は止められん。 ここは退け!!」

 

「殿...。」

 

「な、何を根拠に...!

 そんな戯言で耳を貸す訳が_」

 

 孫堅からの突然の降伏勧告に、黄巾兵達は動揺しつつもそれを拒否する。

 自分達がこの場を退けば、当然城門が破られるのは必定だ。

 一見すれば膠着状態に見える現状において、あの将は自軍の損害を少なくしたいが為に揺さぶりを掛けているのだ_そう味方を鼓舞しようとした黄巾の部隊長の言葉は彼らの背後に風が吹き抜けた事で中断させられてしまう。

 

「あ、ああ、門が...。

 これ以上は守り切れねえぞ。」

 

「く、くそぉっ! こうなったら...!

 諦めてはならぬ! 戦い抜け!

 ここに命果てようと、新たな世の礎と_」

 

 義勇軍によって内部より開け放たれた門、その意味を理解し黄巾兵達の士気は目に見えて低下する。

 先の孫堅の言葉と、城内から敵が現れた事実。

 自分達が頼みの綱としていた策さえ打ち破られてしまったのだ_と。

 最早勝機はないと悟った部隊長が、せめて一人でも多く怨敵を道連れにせんと仲間を鼓舞しようとするが。

 

「己が胸に問え、新しき世とは何か。

 それは命を賭す価値のあるものか。

 不確かな理想を仰ぐより、家族を想え。

 その命、無駄にするな。」

 

「くっ...うぅ...。」

 

 己の言葉を遮った孫堅からの再度の降伏勧告に、他ならぬ部隊長自身の心が折れてしまった。

 彼が手にしていた剣を地面に落とした事を契機に、同じく金属音がその場に響き始める。

 

「流石ですな、殿。」

 

「俺は、彼らが求めるものを質したに過ぎない。

 それは気高い志ではなく明日の糧...、切実な願いだ。」

 

「切実な願い...。」

 

 見事に黄巾党を降伏させてみせた主の手腕を黄蓋が称賛するが、孫堅からすれば特別な事ではなかった。

 ただ、相対した敵兵が漏らした言葉、そこに込められた根源的な望みを肌で感じただけなのだ。

 生きたい_そんな悲痛な叫びを受け、彼は混迷の蒼天を見上げつつ呟く。

 

「起つ者には、起つだけの理由がある。

 憎むべきは世の乱れ、か...。」




 韓当さんの口調難しい...。
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