真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十五話:西涼の獣

「皆、聞いてくれ。

 俺達はこれから、冀州に行く事になった。」

 

 劉備のその言葉に、義勇軍の面々は思わず息を呑んだ。

 いよいよ、黄巾党との決戦が始まるのか_と。

 

「冀州と言えば、黄巾の本拠。

 兄者、それにしては陣内が静か過ぎではござらぬか?」

 

 その中で、関羽が義兄から伝えられた指示に対し、周囲の官軍に自分達と同じ様な動揺が感じられない理由を問う。

 彼が語った通り、冀州は黄巾党の首領・張角が構える彼らの本拠地と言える場所であり、乱発生後の官軍との戦いで彼らも消耗しているとは言えど、その陣容は相応の規模を誇っている筈だ。

 恐らく劉備は、現在彼らが駐留している荊州方面の官軍総大将・朱儁から指示を受けたのだろうが、となればその指示は必然、同じく駐留している官軍にも伝わる筈である。

 敵の首領がいる場所に向かうとなれば、多少なりとも動揺とざわめきを感じるなり、出立の準備に向けた慌ただしさを感じるなりするであろう。

 そういったものが感じ取れない現状が示す可能性として、冀州へと向かうのが自分達だけという、余りに無謀な指示を下された事が考えられるが。

 

「そうだな、順を追って説明しよう。」

 

 関羽の疑問も当然の事と感じたのだろう。

 劉備もまた、朱儁から聞かされた内容の仔細を語り始める。

 まず、関羽の感じた疑問の答えだが、朱儁率いる官軍は先の宛城の戦いからの勢いそのままに、張梁の追撃を行う。

 陣内に動きが見られないのはこれが理由だった。

 張梁を追う朱儁、そして頴川での戦いから引き続き曹操を伴い張宝を追撃する皇甫嵩。

 それぞれが彼ら張角の弟達を討ち取るのが理想的であるが、少なくともこれによって、冀州に布陣する黄巾党本軍への合流を妨げる事は出来るだろう。

 

「そして、冀州で張角と相対しているのは盧植殿だ。

 俺達はその援軍として向かう事になる。」

 

「盧植殿って、確か大将が師事してた人だよな?」

 

「ああ。

 学問に不真面目だった俺を、目覚めさせ、導いて下さった恩人だ...。」

 

「うむ、盧植殿にとっても、兄者が参れば心強い事でしょうな。」

 

「それに、黄巾の本軍の相手を任されるという事は、その盧植殿も相当の手腕を持つ将なのだろう。」

 

「へへっ、兄者と兄者の先生が、張角をぶちのめすって訳か。

 気合いが入るってもんだぜ!」

 

 話を理解すれば、各々の動きは早かった。

 義勇軍はその胸に闘志を滾らせ、大賢良師・張角が待つ冀州へと向かう。

 遥か西方より吹き抜ける風が、彼らの旗をはためかせていた。

 

 

 

 冀州・広宗県の官軍陣地に辿り着いた義勇軍を待っていたのは、盧植ではなく、そして彼らの誰にとっても見覚えのない男性だった。

 

「盧植は、おらぬ。」

 

 そんな面々が幕舎へと入ってきたのを認めた男性も、彼らが官軍の援軍として派遣されてきた義勇軍である事を把握していたのだろう。

 本来彼らを迎える筈だった人物がいない事を端的に伝えるが、当然それだけでは事情を理解出来ない故に、劉備が男性へと己が師の姿が見えない理由を問う。

 すると男性は、劉備にとっては受け入れ難い情報を口にした。

 

「チョナチョナされおった。

 宦官に金を渡さなかった故にな。」

 

「何て? あ、いえ、今何と?」

 

「チョナチョナだ。

 元は『車に載せて運ばれる』...、まあつまり、捕まったって事だよ...。」

 

 男性の『チョナチョナ』という単語に聞き覚えがなく、意味の推察も困難であった故だろうか。

 仮にも官軍の将を相手に砕けた口調で話してしまった事に気付いて慌てる劉備に、天の助がさり気なく『チョナチョナ』の意味を解説する。

 

「己が信念の為、謂れなき罪で裁かれるとは...、実に、愚かよ。」

 

「...責められるべきは悪吏です。

 我が師が謗りを受ける理由はございません。」

 

「力ある者は生き、力無き者は死する。

 その道理さえ弁えぬ者を、愚者と呼ばずに何と呼ぶ?

 狡知もまた、力の一つ。

 それを侮ったからこそ、盧植は虜囚となった。」

 

「盧植殿がどれだけ高潔な人で、そして例の宦官がどれだけ悪辣だったとしてもだ。

 大手を振って力を使う為には、相応の立場が必要なのは変わらねえ...。

 要所要所でチョナチョナして敵を減らしてきたその方法は確かに鼻につくだろうが、現実としてその宦官は今も立派な役人、片や盧植殿は罪人となれば、どちらが公的に支持されるかは分かるだろ?」

 

「どれだけ誠実であろうと、『罪人』となっては民を救えないという事か...。」

 

「くっ...。」

 

 無実の罪によって捕らえられた師を謗る男性の言葉に、劉備は立場を忘れ発言の撤回を求めるが、男性からすれば何故そんな事を宣うのか理解出来ないとでも言わんばかりだ。

 成程、件の宦官からの賄賂の要求を退ける等、盧植は確かに誠実であり、同時に張角率いる黄巾党本軍とここまで互角に渡り合っている事実から、将としても優れた人物なのだろう。

 しかしながら、彼が将として兵を率い、軍という暴力装置の一員となれているのは、朝廷より官軍としての立場を認められたからに他ならない。

 公的に武器を手に取る権利を認められているからこそ、官軍は『平和を守る』という大義の下に殺戮行為を許可されているのだ。

 翻って先の盧植の行動を振り返るとどうか。

 彼は汚職を嫌い、己の信念を全うし『他者に誇れる盧植』であり続けたかもしれない。

 

 だが一方で、『この賄賂を拒否した結果どうなるか』という点を考慮し切れていなかったとも言えよう。

 事実として黄巾党の首魁と相対している状況から、仮に不都合があったとしてもまさかいきなり前線の将を罪人にする事までは予想出来なかったのはあるかもしれない。

 しかし今更彼がそれを嘆いた所で、彼の立場は罪人となり、そして罪人に官軍として戦う権利は無いのだ。

 男性からすれば盧植の行動は、『己の信念』という目先の利を守る為に、『官軍の将』という漢王朝として彼に絶対に守って貰わねばならない大局の利を手放す愚行となる故の発言であった。

 物言いこそ少々極端ではあるものの、劉備も男性の言やそれに反応した天の助と紫鸞の言葉に理を感じた故か、何も言い返せなくなってしまった。

 

「さて、貴様は力ある者か否か...、わしは官位で測りはせぬ。

 この戦で力を示せ。 さすれば名誉を得られる事もあろう。」

 

「...示せなければ?」

 

 言うべき事は無いとばかりに劉備達と入れ替わる様に幕舎を後にしようとする男性。

 男性が、『力』という単純明快な判断基準を尊ぶのだろうと、この短い間に感じ取ったのだろう。

 劉備は彼に、そこから漏れてしまった者はどうなるのかを問う。

 

「その時はただ、戦場に骸を晒すのみよ。

 貴様らも、この董仲穎もな。」

 

 

 

「皆、集まってくれたようだな。 では、軍議を始めようか。

 ここ冀州は黄巾党の本拠地...。

 今度は、彼らの主力との戦いとなる筈だ。」

 

 官軍の将_董卓と別れた後、義勇軍の面々は独自に軍議を開始していた。

 事前情報の通り、黄巾党の主力と対する事となるが、劉備の表情が強張った様に見えるのはそれだけが要因ではないだろう。

 

「なあ大将、さっきの御仁を庇う様な事言っといてなんだが、さっきの事はあまり気にし過ぎない方がいいぜ...。」

 

「うむ、盧植殿の件に思う所があるのは当然でござろうが、まずは目の前の戦を乗り切る事を考えるべきかと。」

 

「ああ、天の助も雲長もありがとう。

 ...董卓殿の言い分に何も思わないではないが、かと言って完全に否定も出来んというのが正直な所だ...。

 さて、その董卓殿だが...、俺達に対して、特に指示は無かったな...。

 こちらはこちらで勝手にやれ、という事なのだろう。」

 

「手を貸すつもりも借りるつもりもないという事か...。」

 

「ちっ、いけ好かねえ。」

 

 先の董卓との一幕を劉備が気に病んでいると考えた天の助と関羽が、彼の心情を慮りつつまずは迫る戦へと集中すべきと語る。

 対する劉備も、先の場でこそ感情的になってしまったものの、冷静さを取り戻した現在では、董卓の考えに対する答えこそ見出だせていないものの、『そういった考えもある』として一旦は受け止めておく事が出来たようだ。

 そんな彼が二人に礼を述べつつ、軍議が再開されたのだが、彼の心情とはまた別に一同を悩ませる存在があった。

 盧植に代わり官軍の指揮を執る董卓、彼から義勇軍の行動指針に対して明確な指示が与えられていないのである。

 指示がない以上、委任されていると解釈した訳だが、これでは張飛でなくとも悪態をつきたくなるだろう。

 何しろ彼らにとって、今回の様な状況は経験した事のないものだからだ。

 今迄出会った官軍の将達も、義勇軍を軽んじる者もいれば、貴重な戦力として評価する者もいたりと印象の良し悪しこそあったものの、具体的な指示を出し作戦に組み込む姿勢は見られた。

 ところが、今回の董卓の様に放り出されてしまうと、味方がどう動くかさえ把握出来ない状態となってしまう。

 

「だが、我らのみで黄巾党の主力に敵う筈もない。

 官軍と協力しつつ、張角の打倒を目指さねばなるまい。」

 

「ああ...。 俺が見る限り、双方の戦力はほぼ互角...。

 大軍同士が、正面からぶつかっての決着になりそうだ。

 俺達は、無理な突出を避けた方がいい。

 官軍の背後を守りながら、臨機応変に動いていこう。」

 

 だがどれだけ董卓に不満を募らせたとしても、そして自分達が各地で戦功を重ねているとしても、義勇軍はあくまでも寡兵であり、大軍の前にはひとたまりもない存在である事を忘れてはならないだろう。

 下手に前に出れば、官軍と黄巾党の正面衝突の巻き添えとなりかねない。

 尤も、『臨機応変』と語った劉備も、後手に回らざるを得ない状況に眉根を寄せているが。

 

「だが兄者、一つ気掛かりがある。

 董卓殿が率いる兵は、どうにも素行が良くない。

 決めつけは出来ぬが...噂に聞く、非道を働く官軍とは彼らの事ではあるまいか?」

 

「ふむ...、勇敢と粗暴は表裏一体とも言えるだろうが、俺も嫌な予感はしている。

 天の助、お前は先程、董卓殿の言っていた『チョナチョナ』...だったかの意味を分かっていたな。

 お前から何か感じるものはあるか?」

 

 一応の方針が定まった所で関羽が挙げた懸念は、劉備にも感じる部分があったのだろう。

 一言で言えば柄の悪い兵士が散見される董卓陣営への無用な先入観を排除すべく、彼の語っていた言葉の一部を理解していた天の助へと意見を求めた。

 

「『チョナチョナ』ってのは、西涼よりも西から来た言葉が由来だって聞いた事があるんだ。

 元々の発音も意味も分からんがな...。

 んで、そうなると董卓殿も恐らく向こうの出って事になるだろう。

 向こうはこっちよりも遥かに厳しい風土で、あの御仁の言う通り、弱肉強食を地で行く世界らしい...。」

 

「気性の荒い者が育つ土壌が出来ている...、或いはそうでなければ生き残れないという事か...。」

 

「そういった者達が、張角の大軍勢を前に気が立っているというのもあるだろう...。

 無用な被害が出ないよう、警戒しなければ。」

 

 紫鸞の言葉に全員が頷き、各々が準備に取り掛かり始める。

 西涼の獣と黄巾の獣、二つの衝突はすぐ近く迄迫っていた。




 originsをやるまで、正直董卓を格好良いと思う日が来るとは思いませんでした。
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