真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十六話:広宗の戦い

「報告!

 敵軍の進軍開始を確認、その指揮を執っているのはやはり董卓です!」

 

 黄巾党本陣、天公将軍・張角へと齎されたその報告に、彼の周囲がざわめく。

 遂に戦が始まったのだ_と。

 

(盧植が更迭され、代替の将が派遣されているという話...、人の口に戸は立てられぬものよ...。)

 

 敵将・盧植が何らかの理由で虜囚となった_そんな話を耳にした時は、張角でさえ目を丸くしたものだった。

 戦中にも関わらず、総大将がその立場を追われるというのは尋常な事ではない。

 戦果が芳しくないという説は、悔しい事だが自分達が彼の指揮する官軍との戦闘によって出した被害が否定しており、少なくとも軍人としては優秀な将であると認めざるを得ない相手だった。

 そうなると盧植の人格面、例えば部下の扱いの悪さや、素行の悪さが目立ったという説が考えられるが、盧植という人物に対してその様な悪評は聞こえず、寧ろ清廉潔白を地で行く様な好漢だという評価が目立った。

 ここまで来ると、こちらを撹乱させる敵の策という可能性が思い浮かび、部下を近隣の民衆に紛れさせて彼の動向を探ってみれば、確かに官軍から罪人が運ばれていったという話や、中にはそれを残念がる話も得る事が出来、ここで漸く黄巾党側も盧植が虜囚となった事が真実であると判断出来たのだ。

 

「董卓め...、正面から進んでくるとは、正に血に飢えた獣よ...。」

 

 徐に部下が零した言葉から見え隠れする侮蔑と畏怖の感情は、決して彼が董卓に対して個人的に抱くものが由来ではない。

 盧植の件の捜査を進める過程で、代替として派遣される将についても調査を進めたのだが、この代替の将_即ち、董卓についての情報が驚く程簡単に入手出来たのだ。

 勇猛さを感じると共に些か気性の荒い兵達が、広宗方面へと向かっている_これだけなら、その精強さを窺わせる情報だっただろう。

 だが、あろうことかその一団は、広宗へと向かう中で立ち寄った村で略奪を働いたと言うのだ。

 恐らくその一団の言い分とは、『黄巾党首魁・張角率いる敵本軍との決戦に際した徴発』という事なのだろうが、本来民を守る為に戦う官軍がみだりに民を虐げ、苦しめるというのは、張角としても空いた口が塞がらなかった。

 故に、彼は声を張り上げる。

 同志を鼓舞し、暴虐の徒から民を救うのは自分達なのだと信じさせる為に。

 

「聞け、黄巾の義士達よ!

 敵将・董卓の所業は、既に皆も知っている事だろう!

 正に獣と言う他ないあの軍は、しかし確かに手強い敵だ...。

 だが、恐れる事はない!

 彼奴の悪行を、天は見逃さぬからだ!

 諸君らの手で天罰を下し、太平を導くのだ!」

 

「うおおぉぉぉぉ!!!!」

 

(後は、『彼ら』が起ってくれれば...。)

 

 自らの言葉に昂る兵達を見遣りつつ、張角は遠く、敵陣の更に奥へと思いを馳せる。

 好評であろうと悪評であろうと、人の口に戸は立てられない。

 ならば、弱者を虐げる獣の評に呼応してくれる者達がいる筈だ_と。

 

 

 

「んで、もうすぐ前線に着くがどうするよ?

 大将の言う通り、取り敢えず暴れとくか?」

 

 義勇軍のところ天の助の声が、空に響いた。

 それは、彼が広がる空を見上げながら先の言葉を発したという比喩表現ではなく、実際に空中に浮かんでいる故である。

 現代の気球へと変形した彼は、現在義勇軍の仲間である関羽、紫鸞を乗せ、董卓軍と黄巾党がぶつかっている前線へと空路を進んでいるのだ。

 戦前の打ち合わせの通り、董卓軍の動きに合わせて行動する義勇軍は、正面からの進軍を避け、丁度前線の地点から見た南東の拠点を制圧、劉備と張飛が拠点へと残り、この三人が前線へと向かう様に劉備から指示を受けていた。

 董卓軍から感じる荒々しさと、ともすれば黄巾党以上の悪行を働く官軍の噂、確証こそ無いもののそこに嫌な予感を覚えた劉備が、前線へ向かう部隊と異変に対応出来る部隊とを分けた形となる。

 先の天の助の問いは、彼自身、そして彼に乗る二人の視界にも目的地が近付いてきた故に、この後の行動指針をどうするかというものなのだ。

 

「ふむ、董卓殿らから感じる懸念については、拙者も兄者に同意する所ではある...が。」

 

「かと言って、戦わずにいるのも良くない、か...。」

 

「こっからでも見える位のあの大軍に突っ込む訳にもいかねえしなぁ...。」

 

 そんな彼の問いに対する二人の反応、そしてそれを受けた天の助のつぶやきは、正に義勇軍の心情を示すものだった。

 一旦董卓軍への懸念を忘れたとしても、彼らがほぼ全軍でもって進軍している現状、黄巾党の伏兵によって後背を突かれた場合を想定しておく必要はあるだろう。

 だが、董卓の戦前の『力を示せ』という言葉や、言葉の端々から感じられる彼の考えを踏まえると、『力を示さない』_つまり戦わずに待機しておくというのもよろしくない。

 三人が遠目に捉える黄巾党本陣の陣容を、義勇軍だけで粉砕出来ようものなら楽なのだが、それは自殺行為にしかならない事はその陣容を見れば十分に理解出来る。

 董卓の不興を買い、その大軍に義勇軍だけで威力偵察を命じられる等、ぞっとしない事態だ。

 

「ふむ、さらばおぬし達は、あの南西の拠点を目指すといい。

 前線で戦う役目は、拙者に任せよ。」

 

「確かに捨て置くには嫌な場所に位置する拠点だが...、いいのか?」

 

 関羽の提案にすぐさま彼の意図を察した紫鸞。

 成程、彼の指差す南西の敵拠点は未だ手付かずの状態だ。

 董卓軍が正面から、自分達義勇軍は南東へと進軍したのだから当然だろう。

 黄巾党の伏兵を警戒する意味でも、南東西の拠点を制圧し進軍路を限定しておく意義は大きい。

 董卓も当然、件の拠点の存在は把握している筈であり、自分達の後背に位置する拠点を攻める事は、彼にとっても不満のない選択となるだろう。

 しかし、それは同時に劉備に無断で行動指針を変更する事、そして何よりただでさえ少ない義勇軍の一部を更に割き、前線に関羽のみを残す事を意味する。

 その二重の懸念を込めた紫鸞の問いに、関羽は力強く笑みを返した。

 

「拙者の事は案ずる事はない。

 本陣の黄巾党ならまだしも、あの程度の敵に遅れを取りはせぬ。

 それに、兄者がこの役目を拙者達に任せたのも、正に兄者の言う『臨機応変』に対応出来る故であろう。」

 

「おいおい、雲長殿。

 そりゃ、遠回しに翼徳殿は...って聞こえるぜ。」

 

「はて、拙者は翼徳の事は何も言っておらなんだが、戦の後に詳しく聞かせて貰おうか?」

 

「ちょっ、ズルいってそれ!?

 紫鸞ちゃん、あなたは母の味方でしょう!?」

 

「生憎と、家族についても記憶が無いからな。」

 

 その紫鸞の言葉を契機に、とても戦場にいるとは思えない笑い声が響く。

 それぞれがやるべき事は決めた。

 後は行動に移すのみ。

 笑みを交わし合った後、関羽は再び広宗の大地へと舞い戻った。

 

 

 

「獣の如き者共と言えど、その力はやはり侮れぬか...。」

 

 董卓軍によって前線が突破された_そんな部下からの報告に、張角は歯噛みする。

 董卓を『獣』と評したのは、その粗暴さと悪評故に、人の皮を被った人外であるという侮蔑の意味ではあったが、一方でその容赦の無い純粋な力で持って推し進んでくる様は、脅威であると言わざるを得ない。

 敵の郭汜率いる先遣部隊を本陣で迎え撃ち、難なく退けたまでは良かったものの、流石に先の報告に董卓軍の脅威を感じ取ったのか、周囲の配下の表情も幾分強張ってきた様に見える。

 そんな重苦しい空気を変える情報が張角の、そして黄巾党の面々の視界に入った。

 

「あの煙は敵本陣から立ち昇っている...?

 一体何が...。」

 

「報告!

 反乱、反乱が起こった模様!

 近隣の民衆が敵本陣に急襲を仕掛けた様です!!」

 

 遠く敵本陣の方から見える煙の原因が思い至らなかった張角だが、まるで見計らったかの様に齎された情報に、彼は思わず拳を握りしめた。

 

「おお、起ってくれたか...!

 そうだ、これこそが天意!

 皆、勇往せよ!

 弱者を貪る獣共に、天罰を下すのだ!」

 

 自身の言葉に沸き立ち、再び士気を上げた配下達の姿に頷く。

 すると、そんな彼に董卓の首を取らんと名乗り出る者がいた。

 民衆が呼応したこの千載一遇の機会を逃すまい_と。

 

「張角様!!

 今こそ攻め時、この韋駄天・周倉が董卓の首を取って参りまさあ!!」

 

「おお、頼もしいな。

 敵が混乱しているだろう今、お前の俊足で太平への道を切り開いてくれ!!」

 

 この時、民衆の反乱を伝えた兵が、もし官軍本陣東西に位置する拠点の情報をも集め張角へと伝えていたなら、この周倉に対する指示はもう少し慎重なものに、本陣西側から迂回し反乱軍と合流後、董卓軍の横っ腹を突く様に指示していたかもしれない。

 そんな彼の目に映る周倉の姿は、韋駄天の自称を示す様に小さくなってしまっていた。

 

 

 

「俺らは悪者を退治しようってだけだ。

 道を空けてくれねえか。

 お前さんは悪人に見えねえ...、寧ろ立派な御人に見えるぜ。」

 

 本陣を駆け出た周倉は、自慢の俊足も重なりすぐに敵軍と接敵、敵将・董卓の姿を捉えた所で、自身の前に立ちはだかった将と相対していた。

 そんな状況下での彼の言葉には、相対している敵将や現在の戦況に対する様々な感情が混ざり合っている。

 まず、件の将が見るからに物騒な偃月刀を携えた偉丈夫である点。

 彼から見ても、その偉丈夫を突破するのは非常に骨の折れる作業である事が感じられ、自身の目的を果たす為には、その上で董卓まで辿り着かねばならない。

 そこで彼が考えたのが、共に戦っているが故に、その偉丈夫が董卓の悪評を噂程度でも耳にしており、『自分は民衆を苦しめる悪逆の徒を討ちたいだけだ』と説得する事だった。

 逸早く董卓を討ちたい実情に加え、その偉丈夫の立ち居振る舞いから感じられる人柄は、とても悪行に加担する人間とは思えない故だったのだが。

 

「戦場で意を通さんとするか。

 ならば、刃にて語れ。」

 

(そう簡単にいったら世話ねえよな...。

それに、董卓軍にも思ったより混乱が見られねえ...。)

 

 当然と言うべきか、偉丈夫からは偃月刀を構えられ、彼との戦闘を避ける事は不可能となった。

 加えて周倉を焦らせる要因となったのが、官軍に思った程動揺が見られない事実である。

 反乱が起きたというのは間違いないのだろうが、敵の様子はそれを然程気にしていない様に感じられるのだ。

 幾ら民の反乱と言えど、自分達の背後にいきなり敵が現れたにも関わらずである。

 

「...まっ、どっちにしろまずはお前さんを退かさねえと始まらねえよな。

 言っとくが、俺はちょっとばかり強いぜ?」

 

 そこで周倉は一つ息を吐き、思考を中断する。

 自分がどれだけ考えた所で、戦場を俯瞰出来る様になる訳でも、この状況が好転する訳でもない。

 目的はあくまで董卓を討つ事_それを最短最速で達成する為、彼は俊足を活かし偉丈夫へと向かっていく。

 

 

 

(ああそうか...、お前達義勇軍が...。)

 

 自軍本陣へと総攻撃を仕掛けてきている官軍、その中に見知った者の姿を認め、この戦における自身の策が、民衆の反乱が不発に終わった理由を察する張角。

 先刻周倉を送り出したものの、中々朗報が届かない事を不審に思った彼が反乱兵の状況を探らせてみれば、それが自身の想定よりも効果を出していない理由はすぐに分かった。

 敵本陣付近の東西に配置した拠点、そのどちらもが制圧されていたのである。

 これでは折角の反乱兵が足止めされ、敵のほぼ全軍を率いる董卓軍が待ち構える場所へと向かうしかなかったのも当然であった。

 彼の想定では、件の拠点、せめてどちらかを経由し本陣から出た部隊との三面同時攻撃によって董卓を討ち取る算段だったのだが、こんな状態では何の打ち合わせもしていない反乱兵の事も、自ら突撃役を買って出てくれた周倉の事も責める事は出来ない。

 

「ふっ、俺達は同志になると思っていた。

 だが、それも甘い夢だったという事か。」

 

 せめて彼らが味方であったなら_張角はそう思わずにはいられなかった。

 あの赤い帯を翻す戦士_紫鸞の様に、戦場を縦横無尽に駆け回る者がいてくれたら。

 あの軟体の士_ところ天の助の様に、周囲が沸き立つ中で冷静に状況を分析し、己を諌めてくれる者がいてくれたら。

 あの髯の偉丈夫の様に、知勇どちらにも明るい万夫不当の士がいてくれたら。

 そんな叶わぬ夢に、少しずつ迫っている敗北の音に、彼は天を見上げ叫ぶ。

 

「くっ、何故だ...、何故、俺達が負ける!

 天意は、何処にあると言うのだ!」

 

 終わってみれば、董卓率いる官軍の圧勝となったこの戦だが、ついぞ張角を討ち取ったという報告は聞こえてこなかった。




 再び敵軍視点で書いてみたのですが、楽しんでいただけたら幸いです。
 ゲーム中のこのステージでは、劉備達と董卓がそんなに絡まないので割とあっさりしちゃうなと思い、ステージ中の拠点配置や反乱兵等のギミックから逆算して構成してみた次第です。
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