真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十七話:天を食らう力

「此度の戦で、張角の主力を打ち破った。

 貴様らも生き残る程度には、力を示した様だな。」

 

「はっ...。」

 

「張宝も張梁も、各地で敗走を重ねているらしい。

 黄巾の命運も尽きつつある。」

 

 大勝に終わった広宗の戦い、その中での自分達義勇軍の戦い振りに不満が無い様子の董卓の声色に内心で安堵する劉備。

 彼らがこれまで経験してきた戦場と違い、ほぼ後方支援に徹していた事実と董卓の言葉の端々から感じられる彼の苛烈な思想から、ともすれば彼の不興を買う恐れもあったのだが、どうやらそれは杞憂に終わったのだろう。

 この広宗の地だけでなく、別方面で朱儁、皇甫嵩両将軍が率いる部隊も、連勝を重ねているというのも影響しているかもしれない。

 心なしか上機嫌に見える董卓はそのまま言葉を続ける。

 

「さて...戯れに、一つ問うてみよう。

 張角に足りなかったものは何だ。

 何故、奴は天に見放され、転げ落ちようとしている?」

 

「『道理』...でしょうか?

 張角の行動は、結果として確かに世を動かしはしました。

 ですが、彼個人の思惑は兎も角、『黄巾党』としては力に溺れ反発を招く存在と成り果てています。」

 

「或いは、そうした内外の障壁すらも飲み込み、天下を動かすだけの『力』が無かったのか...。」

 

 質問の意図が読めない故に、劉備は一先ず自身から見た黄巾党の現状に対する評価を語る。

 関羽らから聞いた話も重なり、張角個人の世を憂う気持ちに偽りは無いのだろう。

 彼が多くの人々を救い、そして支持されたからこそ黄巾党はあれだけの規模となり得た。

 しかし、彼らは自分達が救うと謳っていた筈の民衆にすら手を上げ始め、朝廷に反旗を翻す為の『道理』を自ら手放し、暴徒と成り果ててしまった。

 或いは紫鸞の言う通り、そうした『暴徒』が組織内に発生する前に漢王朝を転覆させてしまうだけの圧倒的な『力』を示してしまえば、歴史は全く違ったものとなったかもしれないが。

 

「『運』...。」

 

「えっ...?」

 

「生まれた場所、家柄、或いは他人との出会いでもいい...。

 例えば、俺達が奴と出会ったあの時、あのまま俺達が奴の仲間になっていたら?

 例えば、俺達の中の誰かと同郷で、子供の頃から知り合っていたら?」

 

「『あの日の張角』のままであれば、我らは共に戦う義士となっていたかもしれぬな...。」

 

 天の助が呟いた言葉に、他の面々は考えさせられる。

 張角個人の人格が固定のものであるとして、彼が体制側の人間だったらどうだろう。

 或いは彼個人の考え自体には同調する部分を持つ義勇軍の面々の何れかが、もっと早い段階で彼の同志となっていたらどうか。

 漢王朝を築いた高祖劉邦にせよ、歴史を動かした人物は結果的にだが多くの優秀な人物との出会いに恵まれている。

 そういった他人との巡り合せを過去の人物と比較すると、張角にはそれが足りなかったとの見方も出来るやもしれない。

 するとここで、それまで彼らの言葉を黙して聞いていた董卓の笑い声が響いた。

 

「ふ...がははは、面白い!

 『天意』を掲げるあやつに天運を引き寄せる力が無かった_そう考えれば、悪い答えではない。

 貴様らも今の己が言によって理解しただろう。

 どれだけ理想を並べ立てようとも、力を示し、勝利せねば、何も為す事は出来ぬ。

 政も戦も同じ、弱き者から落ちぶれる。

 落ちぶれた者の行く先は、破滅のみ。」

 

「...それは些か暴論では?

 なれば示す力無き者には、破滅しかないと?

 貴公が官軍となったのは、『力無き者』である天下万民の為ではござらぬのか?」

 

 関羽からの指摘に対し、董卓は鼻を鳴らした。

 自分達が、そして義勇軍が今迄戦ってきた相手もまた、その『天下万民』ではないか_と。

 

「ふん、先程平らげた黄巾は何だ?

 血生臭い天下万民があったものよ。」

 

「それは...。」

 

「貴様らもわしも、そして黄巾の者共も邪魔者は殺すのだ。

 万民の為ではない、己の為よ。

 天下の為、漢室の為、主の為。

 力を欲する者は大義を並べ立てる悪癖がある。

 だが所詮、人は己の欲の為に動く。」

 

「...黄巾の奴らを見てたら、確かにそうなのかもしれねえ...。

 けどよ、黄巾もさっきの戦で反乱を起こした奴らも、あいつらがああなった原因は棚上げすんのかよ...!」

 

「それが、世の理というものだ。

 誰もが己の為に弱者を食らって生きておるのだ。」

 

「天下の...、『漢室』という強者の為なら、辺境の村が奪われるのは致し方ないと?」

 

「黄巾討伐...、それがわしらが朝廷より賜った命よ。

 そしてその行動が勝利に繋がった事は、他ならぬ貴様ら自身も証明しておる。

 貴様らに与えた兵糧も、朝廷の名の下に民から集めた故な。」

 

 張飛の、そして紫鸞からの言葉にも董卓が動じる事はない。

 反乱の起源を辿れば、確かに朝廷が正常に機能していない事は大きな要因の一つではある。

 だが、だからと言ってそれが秩序を破壊し反乱を起こす事を正当化する理由とはならない。

 そして反乱勢力が暴力という手段を選んだ以上、体制側が同じ方法でそれらを鎮圧させようとするのは自明の理であり、董卓は己にそれを命じた者達の指示を確実に遂行しようとしているに過ぎないのだ。

 事実、彼の軍によって略奪を受けた人間以外にとっては、今回の勝利は間違いなく乱が終結へと向かう大きな一勝と受け取られるだろう。

 己の身の安全を捨ててまで、件の略奪を糾弾出来る者がどれだけいるだろうか。

 

「貴様らは確かに稀有な力を持つ様だ。

 自分で生き方を決める事も出来よう。

 だが、上には上がいる事を忘れぬ事だ。

 精々餌にならぬよう気をつけるがいい。

 黄巾の叛徒共の様にな。」

 

 

 

「これは...。」

 

 董卓との会話を終え、一時の休息をとる義勇軍。

 その中にあって、紫鸞は自身の目に映るものに驚愕を禁じ得ない。

 黄巾党との戦いの中で見られたあの紫の煙が、あろうことか自分達の陣内に流れている故に。

 幻術を使った黄巾党による奇襲_そんな可能性が頭を過る中、彼の背中に声が掛けられた。

 

「それは、香ね。

 黄巾が幻覚を見せる為に使っていた...。

 でも、この様に連絡に用いられる事もある。」

 

「...つまり、敵意は無いと?」

 

 その声の主_朱和による説明に半信半疑な反応を示す紫鸞。

 成程、この特殊な香を出し手と受け手の双方が把握している前提なら、確かに特定の相手にのみ合図を送る手段となり得るだろう。

 これを自分が察知した事実と彼女の口振りから察するに、記憶を失う前の自分にとっては既知の技術であったと考えられるが、そもそもこの香が本当に『ただの連絡』だという保証はないのも事実だ。

 そんな彼の心情を察したのか、彼女は柔らかい笑みと共に言葉を続けた。

 

「さあ、香を辿ってみて。

 その先に、あなたを待つ人がいるから。

 この香を使える者は、限られている。

 それだけは覚えておいて。」

 

「...。」

 

 これが連絡であるにしろ幻術であるにしろ、兎に角出所を突き止めねばならない_そう判断した彼が香を辿っていくと、微かではあるが何かが焼ける臭いが彼の鼻腔へと届く。

 空に星が輝く時間帯である事を鑑みれば、朱和の言う『待ち人』が焚き火をしている可能性は考えられるか。

 臭いが強くなると共に、案の定火の光と人影が彼の視界へと映り込むが。

 

「早く秋刀魚焼けないかな〜。」

 

(...靴燃やして何やってんだ、このバカ...。)

 

 例によって例の如く、眼前で繰り広げられるバカの奇行に自分でも驚く程に冷静さを取り戻す紫鸞。

 なまじあの紫の煙から連想される現象が物騒なものである故に致し方ないが、落ち着いて考えれば黄巾党側にも自分_即ち、幻術を破る存在がこちらにいる事は把握されているだろう。

 目的が官軍内の誰かの暗殺、或いは逃走の為の時間稼ぎとしても、大敗を喫した直後に大掛かりな装置を運んでまで幻術を仕掛けるというのは、発見される危険性と見返りが釣り合っていない様に思える。

 例えばここで総大将たる董卓の暗殺に成功したとして、官軍と黄巾党の戦いの趨勢が変わる訳ではないのが実情だ。

 そう考えれば、朱和があれだけ自分の説に自信を感じさせていたのも頷ける。

 

「邪魔だ、ややこしい。」

 

「ああ!? 俺の秋刀魚ー!!」

 

 バカを七輪と共に蹴り飛ばすと、再び彼の視界に香が映る。

 紫の道に従い更に奥へと進めば、焚き火を静かに見つめる『待ち人』が彼へと振り向いた。

 

「そうか...、気が付いたのか。

 香の流れを辿って、ここまで来たのなら...、やはりお前が『太平の要』なのだな。」

 

「香の流れ...。」

 

 焚き火の横に腰掛けるその男性_張角の言葉を反芻する様に呟く紫鸞。

 幾度か耳にしている『太平の要』なる存在と、あの謎の少年、朱和、そして張角の中で一致する香という要素。

 そんな彼の表情を不思議に思いつつ、隣に腰掛ける事を促した張角が口を開いた。

 

「風の流れを読み、香を流して意を伝える。

 それはお前達『太平の要』の技である筈。

 ...覚えていないのか?」

 

「そう言えば、記憶の事は話していなかったか...。」

 

「記憶...、成程...そうか、ああ、成程。」

 

 紫鸞からの返答に彼の現状を、そして同時に何かを悟ったかの様な哀しげな笑みと共に空を見上げる張角。

 そんな彼の様子に目を丸くする紫鸞に気付き、苦笑と共に再び視線を彼へと戻すが。

 

「ああ、すまんな...。

 誰に命じられた訳でもなく、お前はお前の意志で、俺を討とうと言うんだな。

 己が使命を知らぬ『太平の要』が、俺を裁く。

 それを天意と言わずして、何と言う。」

 

「...止まる事は...、引き返す事は出来ないのか...?」

 

 自身の前にいるのは『黄巾党の首魁』ではなく、『ただの戦友』である_それ故に、再び轡を並べる道を模索出来ないかとの紫鸞の問いに、しかし張角は自嘲気味な笑みを返す。

 そんな段階はとっくに過ぎてしまった_と。

 

「同志達の暴走に見て見ぬふりをしてきておいて今更だろう。

 それに、以前街中で会った時にところ天の助に言われたよ。

 『お前は、大賢良師・張角としての責任を取らなければならない』とな...。

 例え天と地が俺を裁こうとも、人が俺を求める限り、己の正しさを信じる。

 この道は、理想は、決して過ち等ではないと。」

 

「だが、黄巾の敗北が覆せないのは分かり切っているだろう?

 それは...、本当に本心か?」

 

「ふっ...、皆が信じてくれる俺を...、俺自身が信じずにどうする。

 俺は正しい、故に負ける事はないと。

 ...負けてはならないのだと。

 それが、皆に夢を見させた俺の責任だ。」

 

 張角のその言葉に、紫鸞は目を閉じ、息を吐く。

 彼の戦友として、その覚悟に報いるべく、友として彼を討つ為に心を決める。

 関羽の言葉を借りるなら、彼を討つ事こそが、かつての戦いへの報恩になると信じて。

 

「その覚悟、受け取った。

 次に会った時、『天公将軍・張角』...討ち取らせて貰う。」

 

 これ以上の問答は無用_そう言わんばかりに背中を向けた紫鸞に、張角は微笑む。

 彼は自分を、黄巾党の将として呼んだ。

 個人としての情を焚き火にくべるが如く、その身に刻まれた『太平の要』としての本能に従い、世を乱す存在を討つ為に。

 

「そうだ、それでいい...。

 『太平の要』、我が運命よ。

 お前と戦場で見える時を、待っているぞ。」

 

 なればこそ、自分も応えねばなるまい。

 今この時を以って、自分の命は『責任を取る為』だけに存在するのだ_と。

 

「俺は...『我』は、天公将軍・張角。

 この両の手で、天をも覆してみせようぞ。」




 董卓との問答は、各選択肢にDLC董卓編での言及を参考にして劉備達それぞれに割り振ってみました。
 こういう時、もうちょっと張飛の台詞も増やせたらと思うのですが、筆者の力量では中々ままならないですね...。
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