真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十八話:集う群雄

「錚々たる顔触れが揃ったな。

 さて...各々、覚悟はよいか?」

 

 官軍の将_曹操の言葉通り、その幕舎には正しく錚々たる顔触れが揃っていた。

 この場において軍議の進行を任され、口火を切った彼と、その宿将たる夏侯惇・夏侯淵_

 今や『江東の虎』の勇名が広く轟きつつある孫堅、そして彼の宿将である程普・黄蓋・韓当_

 この場において唯一の無官でありながら、各地を転戦し、遂にはこの黄巾党との決戦に向けた軍議に参加するまでになった劉備率いる義勇軍の面々_

 そんな義勇軍と共に先の広宗の戦いにおいて、見事黄巾党首魁・張角が率いる敵軍に大勝を納めてみせた董卓と、彼の軍内随一の猛者である華雄_

 そして彼らを率いて黄巾党との決戦に臨む朱儁・皇甫嵩両中郎将_

 後の時代の人間がこの光景を見れば、感嘆してしまう顔触れだろう。

 曹操からの言葉にも、皆『改めて言われるまでもない』と言わんばかりの表情だ。

 

「うむ、では軍議を進める。

 我ら討伐軍は、遂に黄巾党の本拠地に攻め入った。

 この戦いが正真正銘、奴らとの決戦となる。

 討つべきは張角。 大賢良師とも天公将軍とも称する、黄巾党の首魁である。

 我ら討伐軍を率いるのは、朱儁殿と皇甫嵩殿。

 旗頭を失わぬよう、両名への攻撃は警戒せねばならん。」

 

 曹操は手始めにこの戦の最終目標と共に、黄巾党討伐戦略の総指揮を担っている朱儁・皇甫嵩の存在を念頭に置くよう、二人以外の面々へと語る。

 黄巾党相手への各地での連勝を経て、彼らを追い詰めているのは紛れもない事実。

 だが一方で、黄巾党側から見れば敵側の大将二人が揃っている状況は、千載一遇の好機とも言える。

 彼ら二人が討たれれば、官軍の指揮系統に大混乱が発生するだけでなく、ともすれば代替の将が同じ立場に置かれるまで、折角の攻勢に待ったを掛けられる可能性とて否定出来ない。

 

「ふん...、分かり切った事で、時を無駄にするな。

 各々の布陣と進軍目標を示せ。」

 

「なっ...!?」

 

(董卓殿...、噂とそう変わらぬ人物という事か。)

 

 そんな曹操の言葉を、鼻を鳴らして遮ったのが董卓だった。

 確かにこの場にいる者達は、朱儁・皇甫嵩のどちらかとは協働した経験を持つ人間ばかりであり、彼らと同等の立場にあった盧植の代替として派遣された董卓が一歩引いて彼らを立てる振る舞いをすれば、自ずと彼らへの認識は曹操の言う内容と一致する事だろう。

 間違いなく董卓の言う通り、『言わなくとも分かる事』ではあるのだが、ある種の様式美として目上の者を立てる発言を『時間の無駄』と切って捨てる様は、彼と初対面の孫堅も『良くも悪くも噂通りの人物』として目を丸くしている。

 尤も、軽んじられた二人としてはたまったものではないだろうが。

 

「承知した。

 主軍は私と董卓殿が率いる。

 大兵を持って、正面より黄巾軍の守りを突き崩す。

 当然ながら、地の利は敵にある。

 各所に罠が張り巡らされていよう。

 故に、孫堅殿と義勇軍には遊撃を担って貰いたい。

 精兵を率いて、主軍を援護してくれ。」

 

 朱儁・皇甫嵩の怒りが爆発せぬ内に、という意図だろうか。

 曹操がそれぞれの進軍路と役割を説明すべく地図を指し示せば、確かに大兵を擁する主軍の進軍路となるだろう道の周辺に、崖や橋等伏兵を配置出来そうな地点が複数箇所確認出来た。

 

「うむ、俺達は主軍が進まぬ道を行き、敵軍の側面を脅かすのがよさそうだな。」

 

「はい、上手くいけば、敵の不意を突く事も出来そうですね。」

 

「さて、指針の説明は以上だが...。」

 

 孫堅と劉備からの反応に頷くと、説明を締めくくった曹操は、この決戦においても勝敗の鍵を握るだろう人物_紫鸞へと視線を送る。

 彼の視線に倣う様に、全員が同じ方向へと視線を向ける中、曹操は問い掛けた。

 敵の妖術への対処は、未だその瞳に頼らざるを得ないのが現状故に。

 

「紫鸞。

 その暁天の瞳に、この黄巾の本拠地はどう映る?

 奴らがまだ見ぬ術を仕掛けてくる事は考えられるか?」

 

「それは俺達も聞いておきたいな。

 先の宛城での戦も、お前達の活躍のおかげで俺達は『それら』をこの目で見る事なく終わってしまったが、流石にこの広大な戦場全てを駆けずり回るのも限度があるだろう。」

 

 曹操に続いた孫堅、そして彼の麾下の者達は黄巾党の妖術に対しての警戒感が強い。

 なまじ人伝の情報を持つが故に、紫鸞や義勇軍の援護が期待出来ない状況に対する危機感が強く出ているのだ。

 先の宛城での黄巾党側の戦いぶりからは、自分達の妖術に対する確かな信が見て取れた。

 これは裏を返せば、彼らから見れば圧倒的劣勢に見えた戦況を引っ繰り返す、或いはそこまで行かずとも手痛い打撃を与えた上で撤退出来ると考えていたという事だろう。

 事実、先程は不遜な態度が見られた董卓も、口にこそ出さないものの、その脅威の噂は聞き及んでいるのか興味を示している。

 

「これまで見られたものと異なる幻影が出現したとして、正直その予想をしたとて切りがないが...。

 少なくとも術の仕組み、『香を蓄積させられる場所』と『ある程度大きな香炉』、そして『術の発動を指示する人間』が必要だという点は変わらないだろう。」

 

 そう語りつつ紫鸞が指し示したのが主軍の進軍路の先、洞窟を利用したと思われる黄巾党の祈祷場らしき地点だった。

 その祈祷場を抜けた先に張角が待ち構えていると考えれば、彼の二人の弟のどちらかが配置される可能性が高い事も、そこで異変が起きるだろうという考えを助長させる。

 

「仮にこの開けた場所へと作用させるつもりなら...。

 風の流れる方向を考えれば、この洞窟の奥_この場所が目に入る位置に術者か香炉のどちらかが配置されていると考えていい筈だ。」

 

「成程...、ならばその側面を突く役目は、俺達が受け持とう。」

 

「うむ。

 江東の虎と称される孫堅殿のお力、頼りにさせていただく。」

 

 黄巾党側が術の影響によって自滅を防ぐ事を考えれば、術の効果範囲はある程度限定されるだろう。

 ならば妖術が相手だからと捻った対策を考える必要はない。

 策を弄そうとする敵の意識の外から崩せばいいのだ。

 状況の整理が出来た故か、孫堅も自信に満ちた表情を取り戻した。

 

「問題は、張角本人の力が不明な事か...。」

 

「...董卓殿と義勇軍は、広宗で奴と対峙したとの事でしたが、そこでも力を隠していたと?」

 

「わしらが本陣に突撃した時には、既に退却しておったわ。

 少なくとも、戦況を読む目は持っているという事だろう。」

 

 敵の妖術に対する対応に一応の指針が決まった所で、ぽつりと劉備が零した呟きに一同は眉根を寄せる。

 黄巾党が妖術を駆使した戦場には常に、張角の弟達の影があった。

 彼らがあの術をどの様にして身に付けたのかは定かではないが、元々の太平道隆盛の流れも考えれば、彼らの兄も同様の、もしくはより強力な術を会得していると考えておくべきだろう。

 曹操が指摘した広宗の戦いにしても、なまじ官軍側が圧倒してしまった故に、彼の力の片鱗すら見る事なく戦いが終結してしまった。

 流石に『苦戦した方が良かった』とは言えない為、曹操も口を噤んで考え込む仕草を見せるが、そこで彼が水を向けたのは一部の者以外にとっては意外な人物だった。

 

「ふむ...心太(シンタイ)、お前は奴の力をどう見る?」

 

(えっ、何でここで天の助?)

 

(孟徳は何故こうもこいつを...。)

 

(ふむ...、こやつは『チョナチョナ』について把握しておった。

奴らの術も異国由来のものと考えたか...。)

 

(...確かに天の助も同じ常識外れの存在とは言えるが...。)

 

(天公将軍を称する張角と、同じく『天』を名に持つ天の助との符合に目を付けるとは...。

曹操殿...、やはり侮れぬ御仁よ。)

 

 一同の内心の様々な反応を知ってか知らずか、曹操からの問いに天の助もいつになく真剣な表情を見せているが。

 

「何をしてくるかまでは流石に読めないが...。

 奴の呼び名から連想出来る部分はあるかもな。」

 

「ふむ...、と言うと?」

 

「奴ら兄弟の天公、地公、人公将軍の呼称。

 それが単純に天地人にあやかってるだけじゃなく、三人の力の強みも表してるとしたらどうだ?」.

 

 そんな言葉に続いて語られた天の助の説に、一同も思わず聞き入ってしまった。

 これまでの黄巾党との戦いを振り返ってみると、同じ術を使用された中でも微妙に差異が存在しているのだ。

 頴川では幻影兵と共に竜巻の幻影が猛威を奮い、その戦場にいたのは『地』公将軍・張宝。

 一方の『人』公将軍・張梁が率いた宛城では、幻影兵の中に関羽や張飛すら凌ぐ程の巨躯を誇るものが見られていた。

 この二つの状況証拠のみを参考にするのなら、張宝と張梁には同じ妖術の中でも得意分野が存在している事になる。

 彼ら兄弟が自らの呼称を選定する際に、その点を参考にしたのではないかという可能性だ。

 肝心の張角の能力が推測の域を出ないのは変わらないが、二人の兄であり太平道を起こした人物という事も鑑みると、二人の能力の複合型、或いは全く別の『天』を連想させる術という線が考えられるか。

 

「俺の故郷に『卓を囲む人は店の味に如かず、店の味は空き腹に如かず』って言葉があってな。

 要は、人間腹が減ってりゃ多少味が悪かろうが、いけ好かない奴がいようが飯は美味いと感じるもんだって事だ。

 黄巾の奴らを皮肉ってる訳じゃないがね。」

 

(何か...、何だろう...。

何となく言いたい事は分かるんだが、何で毎回食べ物で例えるんだろうな...。)

 

「ふん、だが本質をよく捉えた言葉だ。

 どれだけ理想を掲げて取り繕おうが、奴らが飢えた獣となっているのは変わらん。」

 

「そして、飢えた獣は見境なく我らに牙を向く。

 だが我らも、紫鸞と心太の説によって、敵の行動に一定の予測を得るに至った。

 奴らの術を尽く打ち破り、『空き腹』になったその時、事を為すのみよ。」

 

(紫鸞のは兎も角、天の助のはそんなに役に立ったのか...?)

 

 天の助の妙な言葉にげんなりする劉備の心情を他所に、一同は互いに視線を交わし頷きあう。

 これ以上話し合う事は無い、後は、手負いの獣を狩るのみである_と。

 戦場に最後まで立っているのは黄色の旗か、それとも。

 天が答えを出す決戦の時は、間もないところ迄近付いていた。




 黄巾の妖術についての予測は完全に私の妄想で、実際にどの様な設定かは把握しておりません。
 もしかすると使わなかっただけで、張宝、張梁もそれぞれに使ってない術を使えるのかもしれませんが、拙作中では官軍側の面々がこの内容で推測したという体でお願いします。

 次回、遂に黄巾決戦ですが、台詞集めや構成を練る為少々更新までお時間をいただくかもしれません。
 気長にお待ちいただけますと幸いです。
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