真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第十九話:黄巾決戦・前編

「我らは、董卓軍と共に主軍を担う。

 正面から敵陣を貫き、道を開くぞ。」

 

 ある者は己が『秩序』という信念を貫くが如く、歩みを進める。

 

「ふん、中々の面構えの者達が集ったな。

 黄巾の滅びは必定だが、面白い見せ物になろう。」

 

 ある者は不遜な笑みと共に、狩りに興じるが如く、歩みを進める。

 

「敵の備えは、十全と見るべきだろう。

 俺達は敵の側面に回り、主軍の動きを助けるぞ。」

 

 ある者は自らの立場と役割を弁え、自らを切っ先とするが如く、歩みを進める。

 

「俺達は遊軍扱いだ。

 主軍とは別の道を進み、敵の備えを除いていこう。」

 

 ある者は自らを敵と最も近い『身軽な存在』であるとし、故に正道では見えない脅威を排除すべく、歩みを進める。

 

「立ち向かえ、黄巾の義士達よ!

 蒼天の獣共に、これ以上、何物も奪わせるな!」

 

 そしてある者は自らが信じる者の声に従い、『明日』を勝ち取るべく歩みを進める。

 官軍と黄巾党、長きに渡った黄巾の乱の最終決戦が幕を開けた。

 

 

 

「くっ、こちらから!?

 これでは、待ち伏せは_」

 

 黄巾党の将_孫仲の言葉が最後まで発せられる事は無かった。

 彼の首に蛇の如くうねった刃が突き刺さり、それと同時に彼の体は糸が切れた人形の様に力を失ってしまったからだ。

 

「へっ、やっぱり兄者の読み通り、この崖から狙おうとしてやがったな。」

 

 『孫仲だったもの』から自慢の得物_蛇矛を引き抜いた張飛の言葉を合図に、義勇軍が次々と黄巾党兵に襲い掛かる。

 彼らは軍議で下された指示通り、曹操・董卓が率いる主軍の進軍路から逸れた崖上の小道を進んでおり、その最中に発見したのが孫仲率いる黄巾の一軍であった。

 同じ遊軍として動く孫堅軍は、劉備と孫堅との協議により、義勇軍よりも兵数や装備の質で優る故に東側の敵拠点を攻略し迂回する道を進む事となったが、結果的に悪路を逸早く進み敵の奇襲を未然に防いでみせた事実に、張飛が義兄の適材適所を見極める目を称賛する。

 

「そんなに褒める事でもないさ。

 さあ、残りの部隊も片付けて、曹操殿達を援護するぞ!」

 

「くそっ、不意打ちとはいかなかったが...。

 まあいい、やっちまえ!」

 

 張飛に応えた劉備の号令と時を同じくして、曹操達主軍が友軍である裴元紹らが布陣する場所へと現れた事も重なった故だろうか。

 孫仲と共に奇襲の準備をしていた黄巾党の将_黄邵(こうしょう)が、完全に効果を発揮しないだろう事を悟りつつ、準備していた策を繰り出すべく声を上げた。

 彼我の物理的距離から策の阻止が間に合わない事に、そして崖上の黄邵とその配下の姿を騒音から事前に察知こそしたものの、敵の策の脅威に曝される事に、義勇軍と主軍それぞれの面々が警戒を強める。

 果たして、黄邵達が大量の木箱を崖下へと傾け、その中身が主軍の頭上へと降り注ぐが。

 

「鳥の羽根...か?」

 

「野郎...、一体何が狙いだってんだ...。」

 

(視界の阻害、或いは術の下準備か...?

だとしても矢でも射掛けた方が余程効果的に思えるが...。)

 

 自分達の頭上に降り注いだものの正体_大量の羽毛に更に困惑と警戒を強める一同。

 羽毛そのものに殺傷能力が皆無である事は、黄巾党側とて承知している筈だ。

 にも関わらず、黄邵が半ば無理矢理にでも決行を指示した事実から、彼に何らかの策が与えられた上での行動だと言うべきだろう。

 尤も、内心で羽毛の意味を考察した曹操でなくとも、この行為に回りくどさを感じてしまうのが実情だ。

 足止めの為に幻術を仕掛けるという可能性は考えられるものの、折角の高所の利を活かせているかと言われると疑問符が浮かんでしまう。

 果たして、黄邵が授けられた策の内容とは。

 

「ジャワ原人に引き渡す!!!!

 羽根まみれにして引き渡す!!!!

 くっくっくっ...、原人さんもさぞかし喜ぶだろうよ...。」

 

(意味と趣旨が分からん...。)

 

「...!

 曹操殿、油断は禁物です!!

 喉に羽根を詰まらせれば、命も危ぶまれましょう!!」

 

「大変だ!!

 夏侯惇の旦那が...。」

 

「くっ、次から次に...。

 惇兄がどうしたってんだ!?」

 

 黄邵の語った内容の意味不明さに思わず思考停止しそうになる一同だが、そこから逸早く立ち直った劉備からの注意喚起により、主軍の面々もハッとする。

 成程、一見理解不能な黄邵の行動だが、確かに劉備の語った危険は、現状を鑑みれば存外馬鹿に出来ないものだ。

 戦闘中、しかも主軍の一翼である董卓軍が後ろに控えている事から、前方に位置する曹操軍が羽根が落ちてくる範囲外に後退するというのは難しい。

 加えて、落ちてくるのがすぐに落下してしまう石や矢ではなく羽根というのもいやらしい点だ。

 なまじその羽根単体ではさしたる脅威とはなり得ない故に、必然注意は武器を手に持つ敵兵へと集中する訳だが、そんな状況で視界の邪魔となるもの、或いは劉備が言う様に命を脅かすものがふわふわと落下してくるのだから、体感している曹操軍の苛立ちたるや相応のものであろう。

 そんな中で、自身と同じく脅威を率先して打ち破る事を求められる夏侯惇に異変が生じたとの声まで掛かっては、平時は温厚な夏侯淵でさえ悪態をつきたくもなるだろう。

 夏侯惇の異変を指摘した天の助の声に従い、周囲の視線が彼へと集まる。

 

「ビジュアル系になっちゃった!!!!」

 

「いや知らんよ。

 ってか、何だそのなんたら系ってのは...?」

 

 

 

「急襲せよ!

 抗う間も与えず、敵を討て!」

 

 夏侯惇の顔面が妙に濃くなったのも束の間の出来事だった。

 『江東の虎』の雄叫びが木霊し、裴元紹らが率いる黄巾党の兵達は、その後背を突かれる。

 

「くっ、幾ら何でも早過ぎる!

 ええい、皆落ち着け!

 正面の敵は羽根で動きが鈍い、背後の敵に冷静に対_」

 

「悪いがそれはさせられんな。

 さあ皆、このまま一息に敵軍の横腹を食い破れ!!」

 

 この場の指揮を任されていた裴元紹が、孫堅軍の出現に狼狽するのも致し方ない事だろう。

 自分達が位置していた場所の背後の通路は当然黄巾党側も把握しており、故に東側に拠点を設け、進軍を阻害する狙いだったのだ。

 官軍側の主軍の進軍路が、その規模から彼らが待ち受けるこの場を通らざるを得ない事は容易に想像出来、故に挟撃を受けない為の部隊配置だったのである。

 拠点側が敵の攻撃を凌げそうもないと判断されれば、廖化率いる山道に潜む友軍がこれを援護、仮に撃破には至らずとも相応の損害を与えられるだろうという算段だった。

 それが現実には、こうして自分達が奇襲を受けており、それは逆算すれば廖化達が拠点の戦況を把握する間もなく、孫堅軍が拠点を攻略したという事である。

 敵の手腕に舌を巻きつつ、何とか部下を鼓舞しようとする彼の言葉はしかし、その喉元を孫堅によって斬り裂かれた事で永遠に途絶えてしまった。

 一連の流れを見ていた曹操も、瞬く間に主軍の危機を救ってみせた彼の手腕に感嘆する。

 

「ほう、見事な用兵よ。

 流石は江東の虎・孫堅...。」

 

「おお、曹操殿達も無...何この状況!?」

 

 状況が落ち着いた事もあり、曹操の声に応えつつ彼らの安否を確認した孫堅だったが、その目に映った光景には思わずツッコまざるを得なかった様だ。

 先程妙に顔が濃くなった夏侯惇が、天の助と共に妙な踊りを踊っているのだ。

 現代のランドセルを背負いつつ無駄に爽やかな笑顔と共に歌う夏侯惇の姿は、平時の彼の硬派な印象も相まって最早不気味な光景にすら映ってしまう。

 

「ラ、ラ、ラ、ランドセル〜は♪」

 

「て、て、て、天使の...はっ!!

 俺は一体何を...。」

 

「ふむ、どうやら黄巾の将を討った事で、術が解けた様だな。

 しかし、まだこの様な術まで隠していたとは...。」

 

(...これ術か...?

いや寧ろ術の方がいいか...。)

 

「味方に助けられたのか...。

 ならばこの借りは、武働きで返す。」

 

 孫堅達によって裴元紹らが討ち取られた事に加え、崖上の下手人たる黄邵やその援護にやってきた周倉を義勇軍が撃退した故だろうか。

 それまでの奇行が嘘の様に、夏侯惇は落ち着きを取り戻す。

 その口振りからして、羽根が降り注ぐ直前迄は意識を保っていた事が窺え、曹操の語った『黄巾の術に嵌ってしまった』との説に神妙な面持ちを見せている。

 正味、あれを『術』と言うべきかは議論が必要な様に思えるが、他の面々が黙しているのは夏侯惇の尊厳への配慮なのだろうか。

 

 

 

「報告!

 東側山道にて敵兵を発見、こちらに向かってくる千程度の軍勢に加え、その奥に更に一軍が控えております!」

 

「...我らの後背...、いや、朱儁殿らが本命と見るべきか...。」

 

 期せずして朱儁・皇甫嵩両将軍以外の全員が集まった所に齎された情報に、曹操は腕を組みつつ対応策を思案する。

 こちら側に進んでいるという軍勢とは別の一軍、これがどの程度の規模であるかが判明していない事が彼を悩ませていた。

 山道から繰り出してきている都合上、そこに潜んでいる敵の数も限度があると考えるのが普通だが、何しろこの地は散々自分達を惑乱してきた黄巾党の本拠地である。

 件の山道すら『細く険しい道に見せられていた』という可能性とて完全に否定は出来ない。

 自分達主軍を含めた官軍側の主戦力を一点に集め、その隙に朱儁達を討ち取るという算段も十分に考えられる。

 後顧の憂いを断つならば、やはり反転しその軍勢を叩くべきなのだが、それはここまでの進軍の勢いを殺してしまう事を意味する。

 孫堅軍と義勇軍の働きも主軍の進軍あってこそである故に、彼らだけに先に進んで貰う訳にもいくまい。

 

「ふん、ならばその山道の敵とやらはわしが相手をしよう。

 曹操、貴様らはこのまま予定通りに進むがいい。」

 

「董卓殿...、よろしいのですか?」

 

 反転し山道の敵に対応する_そう語った董卓に対する曹操の反応は、彼に対しての印象から、その提案を意外に感じた故だ。

 件の敵への対処は間違いなく必要な役割であるものの、それをこの場において最も地位の高い者が率先して引き受ける必要はない。

 彼の配下である華雄に一軍を預けるなり、曹操の方に指示を出すなり他に方法は存在している。

 加えて、戦闘狂とまでは言わずとも、敵を叩き潰す事をある種の趣向と感じている節のある彼が、張角達三兄弟を自らの手で仕留める機会を遠ざけようとしている事に違和感を感じてしまうのである。

 そんな曹操の言葉に彼は鼻を鳴らすと、配下に反転の指示を出しつつ応える。

 

「なに、わしの背を狙う不届き者に教え込んでやろうというだけよ。

 どちらが狩る側であるかをな。」

 

「... 西涼の董卓、正に野獣の如き戦振りよ。

 果たして、今の漢室に飼い慣らせるか...。

 いや、それよりも今は前に進むとしよう。」

 

「そうですね...。

 では曹操殿、孫堅殿、私からも一つよろしいでしょうか?」

 

 獰猛な笑みと共に山道へと向かった董卓を見遣った曹操に対し、続いて声を上げたのは劉備だった。

 曰く、ここから先、紫鸞と天の助を二人の軍に同行させるべきだと言うのだ。

 

「それは俺達としては願ってもない申し出だが...。

 義勇軍の方はいいのか?」

 

 劉備の提案に対する二人の反応はと言えば、孫堅の反応に集約されていると言っていい。

 単純に戦力が増えるのは正しく歓迎すべき事だが、ここから先に進んでいけば必然黄巾党の本陣へと近付いていく事となる。

 関羽・張飛という猛者を抱えているとはいえ、義勇軍の兵はその質と量、どちらもが心許ないのが実情だ。

 その上で尚、彼らの戦力を割く提案に素直に頷ける程、黄巾党の戦力を甘く見積もるべきではないだろう。

 曹操も口にこそ出さないものの、その表情は厳しいものとなっているが、そんな二人に劉備は更に言葉を続ける。

 これは決して根拠のない提案ではないのだ_と。

 

「先程こちら側で退けた敵の中に、広宗で雲長と対した猛者がいたのです。

 孫堅殿が攻略された東側の拠点の配置から見ても、黄巾にとってこの場所の防衛は肝要となっていたと言っていいでしょう。

 我々義勇軍の目的地は敵本陣の背後、手勢の少なさを補える役割です。

 そして、軍議でも上げられたこの先の祈祷場...。

 そこを攻略するのに、二人の力はきっと必要となる筈です。」

 

 その弁に、今度は曹操と孫堅も納得の表情を見せる。

 成程、先の羽根を使った妙な術然り、黄巾党がこの場所の防衛に力を割いていたのは事実だ。

 逸早く拠点を攻略した孫堅軍と、崖上の伏兵を素早く退け奇襲を防いでみせた義勇軍の働きにより、結果的には主軍にも夏侯惇の尊厳以外に目立った損害は無かったものの、これが無ければ敵本陣へと辿り着く前に手痛い打撃を被っていた事だろう。

 ここから逆算すると、本陣以外で明確な敵の拠点と言えるのが件の祈祷場らしき場所であるが、幻術に頼る前提で然程多くの兵が配置されていない可能性が考えられる。

 その場所を確実に攻略し、主軍が敵本陣へと乗り込む上で、確かに紫鸞と天の助の存在は大きな助けとなる筈だ。

 義勇軍の最終的な役割を考えても、『そもそも主軍が辿り着けなければ話にならない』と考えるのは自然な流れと言えよう。

 

「良かろう。

 来るがいい、心太(シンタイ)!

 このまま一息に、敵の本拠へ攻め上るぞ。」

 

「よし、こちらは主軍の援護を続けよう。

 お前の力、頼りにしているぞ、紫鸞!」

 

 

 

「おい、天の助。

 もうすぐ例の祈祷場だが、お前なりに何か対策は考えているのか?」

 

 幻術の使用が予想される地点_黄巾党の祈祷場らしき場所の入口が目に入った所で、夏侯惇は天の助にそう問い掛けた。

 幻術に負けず劣らずの奇妙な存在であるが、軍議で彼が語った考察には納得出来る部分もあり、義勇軍の一員として多くの幻術を目の当たりにしてきた経験も大きい。

 先の劉備の提案も、術の打破と勝利の為には悔しくも受け入れざるを得ないのが実情であった。

 そこで夏侯惇は、いざ自分達の前に再び幻影が現れた時、個人で出来る対策の有無を問うたのだ。

 相手が幻影とあっては斬り伏せる事もままならない。

 その様な状況下では、自分達は勿論だが主である曹操にも平時以上に自衛の意識を強く持って貰わねばならないだろう。

 そこで、幻術と対した経験から何かしらの傾向や予兆等を把握していないかと考えたのである。

 

「...一応、大将達も宛城で鼻をつまんでみたりしたらしい。」

 

「香を嗅がなくしちまうって事か!」

 

「その口振りでは、効果は出なかったのだな?」

 

 劉備達が実践したという対策に夏侯淵が膝を打つ様に反応するものの、続いた曹操の言葉に対する天の助の肩をすくめる仕草からして芳しくない結果となった事を察する。

 人体の構造上、鼻をつまむ程度で香の成分を弾く事は不可能であり、ガスマスク等の代物が存在しないこの時代においては致し方ない結果と言える。

 

「紫鸞達が先に敵を叩いてくれりゃいいんだが、現状は幻影が出てくる前提で考えるしかねえ...。

 そこで、皆にこいつを渡しとくぜ。」

 

「...何故、海苔?」

 

 幻術への対策と称して天の助が配り始めたもの_乾燥海苔に、夏侯淵が当然の如く疑問を口にするが。

 

「木を隠すなら森の中。

 敵が影みたいな幻影兵を使ってくるなら、こっちも海苔で見分けを付かなくさせようって寸法よ。

 

「何言ってんの?」

 

「ふむ、色彩を似せ隠遁するか。

 敵がどの様な術を駆使しようと、自然の摂理には勝てぬのが道理よ。」

 

「何で殿も納得してんですか?」

 

「言ってる側から、やっぱり出てきやがった!」

 

「よし、皆心太の指示に従い、海苔を着けるのだ!

 孫堅殿が敵を倒すまでは、ここは耐え忍ぶ時よ。」

 

「ええい、ままよ!」

 

「惇兄もやるの!?」

 

 天の助の語った意味不明な説に納得がいかない様子の夏侯淵だが、状況は彼を待つ事なく変化していく。

 曹操達もかつて目にした幻影兵、しかもその中には確かに巨人と言うしかないものも混ざっている。

 天の助の説を信じるなら、これを繰り出しているのは人公将軍・張梁という事になるのだろうが、今は身の安全を確保するのが先決とばかりに、曹操が素早く指示を出した。

 

「この黒い輝き...。

 何処からどう見ても、完璧な海苔よ。」

 

(...殺されても文句言えない...。)

 

「...?」

 

「ってあれ?

 この幻影共見失ってる!!

 これ通用してるの!?

 嘘だろ!?」

 

 

 

「やはりこちら側にいたな。

 覚悟して貰うぞ、張梁よ!」

 

 曹操達が幻影兵の脅威をやり過ごしている頃、張角の弟である人公将軍・張梁は、自らに剣を突き付ける怨敵の姿を認め、忌々しげに口を開いた。

 それは彼個人にとっても因縁の相手であった故に。

 

「またしても貴様か、孫堅...。

 それにその赤い帯...、くっ...。」

 

 丁度曹操達を見下ろす様な立ち位置で術を掛けていた彼だったが、南側から侵入し気持ちばかりの護衛を瞬く間に制圧した孫堅軍、そしてその中に兄達も目にした赤い帯の男性の姿に、進退窮まった事を察する。

 

「もう勝ち目がない事は分かるだろう?

 今からでも遅くはない、降伏しろ。

 実の兄弟であるお前の言葉なら、張角達もきっと...!」

 

「...我こそは人公将軍・張梁、張角が末弟なり!

 太平の世の為、我が命の限り戦い抜かん!

 うおおぉぉぉぉ!!!!」

 

「おぬしらに譲れぬものがある様に、我らもまた然りよ...。

 許しは請わぬぞ...!」

 

「がはぁっ...!

 我が身は太平の世の礎に...。

 兄上、どうか、どうか成し遂げて下され...。」

 

「最期まで己が信じるものに殉じたか...。

 張梁も、宛城で戦った者達も、根は同じという事なのでしょうな...。」

 

「悲しいなあ。

 こいつらだって、皆悲しくなくする為に戦ってたんだろうになあ...。」

 

「だが、それでも討たねばならなかった...。

 討たねば止められない所に、彼らは来てしまった...。」

 

 孫堅からの最後通告を跳ね除けたのは、兄達と共にこの道を進むと決めた張梁なりの矜持だったのか。

 程普の手によって悲しい程に鮮やかに屍となった彼の真意を知る術は既に無く、孫堅達にはかつて宛城で対峙した敵兵達に対してと同様に、彼の抱える背景を慮る事しか出来ない。

 ふと聞こえてくる歓声の方へと彼らが視線を送れば、曹操軍を取り囲んでいた幻影兵が消失していくのが見えた。

 まるで張梁の魂が砕け散っていくかの様に。

 

 

 

 黄巾党の本拠地へと乗り込み、後は張角と張宝を討つのみ_予想される黄巾党の残存兵力を考えても、圧倒的に優位に立っていた筈の官軍はしかし、混乱の只中にあった。

 

「さあ、惑うがよい!

 惑いの中で、滅ぶべし!」

 

 何処からともなく、姿が見えない張宝の声が響き渡る。

 張梁を打倒し、その勢いのまま官軍が突撃を仕掛けたのも束の間、そこに待ち構えていた筈の黄巾党の軍勢が文字通り消失してしまったのだ。

 

「また術か...、ええい往生際が悪い...!」

 

 悪態をついた夏侯惇を始め、各将が周囲を見渡すものの、黄巾兵の姿を見つける事が出来ない。

 これが時間稼ぎにしろ不意打ちを狙おうとしているにしろ、存在していた筈のものが消え去ってしまう筈がない故に、苛立ちが募るばかりだ。

 しかしその中にあって、冷静さを保つあの男が静かに呟く。

 

「張宝は地公将軍を名乗っていた。

 ならばそこに答えが隠されていよう。

 心太よ、奴らのいた場所に強い光を当てるのだ!」

 

「任せてくれ!

 プルプル真拳超奥義『ところてんソーラー・システム』!!!!」

 

 曹操に応える様に天高く舞い上がった天の助が太陽電池に変形すると、張宝達がいた場所へと太陽光が集中する。

 まるで不正を許さぬ絶対の秩序とでも言う様に、何もない筈のその場所に隠された秘密を光が照らし出した。

 

「し...しまった!?

 直射日光を浴びては、肌身離さず持ち歩いているアサガオの種が芽を出してしまう!!」

 

「敵だけど何やってんのお前!?」

 

 急激に成長したアサガオの存在によって張宝率いる軍勢が『そこにいる』事が判明した故か、天の助の放つ光をすら覆い尽くす矢の雨が彼らへと降り注いだ。

 

「そのアサガオは、どれだけ天を掲げようと、貴様が地上で生きる人間でしかない事の証明だ。

 そして、地上の人間の罪は地上の法で裁くのみよ。」

 

 天意を掲げた地公将軍の亡骸は、天から降り注いだ矢によって地上へと縫い付けられていた。

 その皮肉な最期を、曹操は当然の報いと断じる。

 花を愛でる気持ちは、或いは彼の最後の良心だったのかもしれない。

 しかし、彼は何処まで行っても地上の罪人でしかないのだ。

 

「皆、よくやってくれた!

 黄巾との戦いも遂に...待て、張角の姿が見えぬ。

 捜せ!ここで逃がしてはならん!」

 

 張梁、そして張宝の死を見届けた皇甫嵩が、漸く現実味を帯びてきた戦いの終結を感じた所で声を上げる。

 最も討つべき存在が残っている_と。

 その声に従い、各将が捜索へ向かう中、紫鸞の瞳は僅かに開かれた関の門へと向けられる。

 己の使命に従う様に。

 

『紫鸞...行け、あの者が呼んでいる。

 汝...太平の要を。』




 キリがいいので、張宝撃破までで一旦区切らせていただきます。
 次回、張角との直接対決と、入れば戦いの後の会話まで入れられればと思っています。
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