真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第二十話:黄巾決戦・後編

 僅かに開かれた関の門_張宝・張梁を撃破し、残る首魁である天公将軍・張角を捜索する官軍の面々だが、門へと視線を送る義勇軍の将_紫鸞は、他の面々が張角の逃亡先として、何故件の門に着目しないのかが理解出来ない。

 

『紫鸞...行け、あの者が呼んでいる。

 汝...太平の要を。』

 

 或いは、ここに来て響くあの少年の声の言う通り、『彼』が呼んでいる自身にしか認識出来ない様になっているのか。

 周囲の音が小さくなり、自分一人で決着をつけるしかないかと紫鸞が覚悟を決めた時であった。

 

「...そっちにいるのか?」

 

「そんな気がする...。

 逆に聞くが、あの門を不自然だと思わないのか?」

 

 声を掛けてきた義勇軍の仲間_ところ天の助に応えつつ、紫鸞は自らの疑問の答え合わせをするべく逆質問を行う。

 

「...俺にはただの『壁』にしか見えねえんだが...。

 お前さんがあんまりじっと見つめてるもんだからよ。」

 

「そう...か...。」

 

 天の助の返答に辛うじて反応する紫鸞だが、一方で周囲の現状を鑑みれば納得出来る内容でもあった。

 自身以外の者には彼が言う所の『壁』にしか見えていないのなら、方方へと捜索に向かう周囲の行動も頷ける。

 張角か、或いは兄を逃がそうとする張宝によるものかは定かではないが、相手の認識を阻害する術を使っているのだろう。

 なまじ直前に、張宝の力によって『軍勢が姿を消す』という印象に残らざるを得ない現象が起きた事もあり、注意を逸らす効果が高まっているのだと考えられる。

 その中でも自身が門を認識出来ているのは、『霊鳥の眼』等の術に対する耐性、そして広宗にて張角が使用した『香を連絡手段として使う術』が関係しているのだろう。

 

 

「...しゃあねえ、俺らだけで行くしかねえか。」

 

「...いいのか?

 皆を呼びに行っても...。」

 

 最後の戦いに同行するとの天の助の申し出に対して、紫鸞が他の面々を呼び寄せる役目を提案したのは、彼個人の感情と現実的な問題への対処との両方を考えてのものだ。

 張角が待ち構えている以上、相応の危険が伴う場所に他者を巻き込む事は避けたい。

 加えて、張角の身柄を確実に押さえる意味でも、門の存在を伝えた天の助が増援を呼び寄せる意義は大きい。

 尤も、対する天の助はと言えば、その提案に肩をすくめるのみだが。

 

「俺一人じゃ、その門ってのが何処にあるのか分かんねえよ。

 それに、『奴』の力がどれ程のもんか分からん以上、時間稼ぎの為にも一人でも多い方がいいだろ?

 ったく、やっぱりお前さんといるといつもこうだ。」

 

 かつて聞いたのと同じ台詞に、紫鸞の顔には場違いな程の笑みが浮かんだ。

 思い返せば一年前、天の助のこの台詞を聞いた『あの日』に自分達は張角と出会ったのだ。

 あの出会いからこの日を迎える迄が、定められた運命であったのかは人の身である彼には分からない。

 だが少なくとも、これだけははっきりと言えると彼は確信していた。

 

「そうだな...、そしてこれもいつも通りだ。」

 

 ここぞという時、自身の傍らに並び立ってくれる存在がいる事を。

 

 

 

「あ、ちょっと待って。

 目印に海苔貼っ付けておくから。」

 

 そして彼の行動の意味を理解出来る日は永遠に来ない事を。

 

 

 

「来たか...、それに天の助も...。

 ならば、弟達は敗れたのだな...。」

 

 関の中を通り抜けた先の開けた場所に、彼_張角は立っていた。

 

「逃げなかったんだな...。

 弟さん達はそういうつもりだったんだろ?」

 

 張宝達の行動の意味、それに対して自身がこの場にいる事実を指摘する容赦のない天の助の言葉に、思わず張角は笑ってしまう。

 彼の言う通り、自分は自らの感傷を優先して弟達の行動を無駄にしたのだ。

 

「『兄上は生き延びよ』と逃がされたが...。

 このまま、お前との対決を避けては行けぬ。

 太平の要よ...、我、大賢良師・張角は、汝を打ち倒す。」

 

「それが『責任の取り方』なんだな...。」

 

「この結果が『天意』ではないのか?

 これ以上の犠牲を生む事が、弟達に託された使命だと?」

 

 振り返った張角の悲壮な決意を感じさせる表情に、二人はここで自分達が戦う事の無意味さを訴える。

 二対一という状況に加え、本拠地でこれだけ散々に打ちのめされた現状、黄巾党の再建はほぼ不可能と言っていい故に、仮に二人を打ち倒したとて大勢には何ら影響しないのが実情だ。

 無論、黄巾党員の全てが駆逐された訳ではなく、残党は存在するだろうが、最早太平道自体の、大賢良師・張角の権威は失墜したと言っていい。

 ならば『張角』の名を捨て、生き続ける事が彼の弟達の最期の願いだったのではないか_と。

 

「ふっ、皆まで言ってくれるな...。

 我は最期迄、皆が信じる『大賢良師・張角』であらねばならん。

 故に、我を罰するが天意ならば、我は天をも覆す!

 阻ませはせぬ...我らは進む、太平の世へ!」

 

 しかし、張角は二人の言を退けた。

 天下を、数多の人々を巻き込み、混乱を齎した以上、自分はもう『ただの張角』に戻る事は許されないのだ_と。

 そんな力強い宣言と共に、彼は天に逆らう力を解放する。

 

「あれが...、奴の力...。」

 

「おいおい、覚悟でどうこうって範疇じゃねえぞ...。」

 

 その力に、自分達の目に映る光景に、二人が戦慄してしまうのも当然だろう。

 彼の体はまるで紐で吊られているかの様に浮かび上がり、その左右には四対ずつ地面を砲弾の如くくり抜いた凶器が浮遊しているのだから。

 これまでの黄巾党の術がままごとに見えてしまう様な力の矛先は、彼の視線の先にいる二人へと向かっていた。

 

「さあ、来るがいい。

 我は汝を凌ぎ、我が正しきを証してみせよう。」

 

「くっ!」

 

「うおおっ!?」

 

 飛来した四発ずつの岩の砲弾を間一髪避けた二人は反撃の為の隙を窺うがしかし、その口からは最早渇いた笑いしか出てこない。

 弾など幾らでもあると言わんばかりに、張角の周囲には既に数々の岩が浮かび上がっていたのだ。

 重力という『天』の定めにすら逆らってこそ_そんな鼻で笑われる様な暴論を可能にする力が、二人に襲い掛かる。

 

 

 

「太平の要とは、この程度の存在か。

 少々、買い被っていた様だな。」

 

「おい、言われてんぞ紫鸞!!

 何か手は無えのか!?」

 

「くっ、こうも手数が違っては...!」

 

 悠然と自分達を見つめる張角からの言葉を受け、彼に『太平の要』という特殊な呼称で呼ばれている事から、天の助がこの窮状を脱する手段の有無を紫鸞へと問うものの、その返答は芳しいものではなかった。

 張角によって放たれている岩による攻撃は、最初に放たれた八個の岩を放つものと、より巨大な_それこそ八個分の岩や土塊を一点に押し固めた状態で放たれるものとの二種類が確認されている。

 恐らく、これが彼の力によって操作出来る限界点なのだろうが、それが判明した所で何の慰めにもならないのが実情だ。

 八個の攻撃_便宜的に分散型と呼称する攻撃は、その一つ一つが当たれば致命傷となりかねない大きさの岩が二人それぞれに四発ずつ放たれ、単純に回避行動を強いられる時間が長い。

 何とかこの攻撃の所謂『弾切れ』の瞬間を狙い、自分達の間合いとなる距離まで近付こうにも、今度は文字通りの集中型が襲い掛かり、彼我の距離を離されてしまう。

 集中型の発射準備中に、相討ち覚悟で近付けば或いは_とも思えるが、接近中に発射準備中の砲弾を叩き落とされてしまえば、まず間違いなく肉塊と成り果てるだろう。

 

「くっ、このままじゃ埒が明かねえ!

 一か八か、思い切って二手に別れるぞ!」

 

「分かった...!」

 

 天の助からの提案にすぐさま紫鸞も同意すると、二人はここに来て初めて大きく左右に別れる。

 張角からの攻撃に対する明確な打開策が無い現状、どちらかに攻撃が集中する危険性を承知の上で、逆転の一手を打つしかないと判断したのだ。

 二人の距離が大きく離れれば、自ずと発射までの時間を要する集中型の使用を抑制出来る。

 分散型の弾数は変わらないものの、二人で纏まる事で実質八発の砲弾を受けるよりかは、幾分『面』の脅威が軽減する事だろう。

 この分散型の攻撃がどちらかに集中するという危険性はあるものの、それならば集中型と同様、がら空きとなったもう一人が張角を仕留めればいいのだ。

 

(ふ...数が半分になれば、俺のプルプル真拳で...。)

 

 加えて天の助には、仮に攻撃がどちらかに集中したとしても、その対象は紫鸞になるだろうという算段が付いていた。

 まず上記の想定通り攻撃が半々となれば、彼の操るプルプル真拳を駆使し、切り抜ける事は十分に可能である。

 そこからすぐに攻撃に転じられるかについては、彼我の距離を鑑みると可能と断言は出来ないものの、少なくとも体勢を立て直す時間は十分に得られるだろう。

 そして攻撃が集中した場合なのだが、ここで着目すべきが戦闘前からの張角の言動だ。

 天の助には聞き覚えのない『太平の要』なる呼称然り、彼には紫鸞との対決とその打倒に固執している節が見受けられた。

 この場に繋がる門の存在を紫鸞のみが看破していた事実からも、彼が何らかの方法によって紫鸞を呼び寄せたと考えられよう。

 

(紫鸞に攻撃が集中した隙に俺が張角を倒せば、朝廷の覚えも良くなる筈...。

その先に待つのは、洛陽をところてんで埋め尽くすところてんドリームよ...!!)

 

 この戦い、その更なる先を見据えた天の助の欲望に塗れた笑みに、大きな影が差し掛かった。

 

「攻撃の比率、太平の要に一、ところ天の助に七。」

 

「あれー、何でー!!!?

 ぎゃああぁぁぁぁ!!!!」

(ぐぐ...こうなったら、魂の叫び『ぬテレパシー』で助けを呼ぶ!!)

 

 

 

『紫鸞助け_』

『紫鸞...、汝が重ねし研鑽の記憶は、果てるを許さぬ。

 思い出せ...、一騎を当千と成し、無双へと至る技...。

 己が内に眠る武神を呼び醒ます、その術を。』

 

 自らに迫った岩を躱した刹那、紫鸞は『あの声』と共に、自身の奥底に眠っていた大いなる力の脈動を感じ取る。

 武神を呼び醒ます術_特段、目に見える形で何かが起きた訳ではないと言うのに、彼の纏う空気が直前とは打って変わったものとなった事は、張角の側にも感じられた。

 『声』の直前に妙なものも流れていた気がするが、気にしてはいけない。

 

「まさか、ここに来て記憶が...!?

 させぬ!!」

 

 太平の要_紫鸞の素性と隠された力について、ある程度把握している故だろう。

 張角はすぐさま分散型の砲弾を作り出し、八個の砲弾を全て彼へと放った。

 どれだけ強大な力を持っていようと、近付かれる前に倒してしまえば_そんな考えからだったのだろう。

 

「なっ!!!?」

 

 張角は驚きのあまり、それ以上の声を出せない。

 自身に迫る岩の隙間を、紫鸞はまるで実体の無い幽霊の様に通り抜けてしまったのだから。

 

 

 

(視える。)

 

 達人の感覚_今の自分の感覚はその様に表現すればいいのだろうか。

 

(分かる。)

 

 周囲の光景が極端に遅く見えるこの感覚を、自分がどうやって手に入れたのか、こんな力を持つ自分が何者なのかは未だに分からない。

 一つだけ明確に、頭の中で恐ろしい程に明瞭となった事を今は実行するのみだ。

 

(殺れる。)

 

 目の前の敵を、確実に葬り去る。

 

「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「この力は...! くっ、受け切れん!

 ぐおあぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「す...、凄え...。

 っておい、紫鸞お前大丈夫かよ!?」

 

「ぐっ...、すまん...。

 思いの外、反動が大きいらしい...。」

 

「はぁ、はぁ...、ぐっ...。

 俺では、及ばぬと言うのか...!

 やはり、天意は...!」

 

 体のあちらこちらを凹ませながら何とか岩の隙間から這い出た天の助が、紫鸞の見せた圧倒的な武技に感嘆するも、その技を放った者と受けた者、双方が共に膝を付いた。

 彼が紫鸞へと近付いて様子を見れば、その息は荒く、顔には玉の様な汗が幾つも浮かんでいた。

 ほんの僅かな時間とは言え、張角をすら圧倒してみせた圧倒的な力を行使した代償、しかも記憶を失っている都合上、その強大な力を肉体への負担を無視して使ってしまったのだろう。

 

 一方の張角も、彼の技量によるものか、紫鸞の覚醒が不完全であった故かは不明だが、致命傷を避ける事には成功した様だ。

 尤も、先程から力を行使し続けていた所にあの強烈な一撃を受けている事からも、満身創痍と言って差し支えないだろう。

 数の利から見ても、勝敗は決した_三人共にそんな言葉が頭に過った時であった。

 

「張角様! 我々も最後まで一緒に戦います!」

 

「お前達...、何故戻ってきた...。」

 

 張角の周囲を囲む様に集まった、黄巾党の兵達の出現。

 彼の口振りから、彼がこの場に残ったのは、紫鸞との決着だけでなく、残存兵を逃がす殿の意味もあったのだと二人も察する。

 それ故に、何故拾った命を再び危険に晒そうとするのかと、彼が兵達に問い掛けるが。

 

「俺達は救われたのですから。

 遥かに遠い天ではなく、あなたの温かい手に!」

 

 兵達はさも当然の事の様に返す。

 自分達がここにいるのは、自分達を明日をも知れぬ暗闇から救ってくれた存在に報いる為だ_と。

 自分達を救った存在とは、太平道の教えそのものではなく、暗闇にいた自分達に手を差し伸べてくれた張角なのだ_と。

 

「...そうか...、そうだな...。

 ああ、そうだ...心折れる訳にはいかぬ。

 信じてくれる者がいる限り...!!

 彼らの想いが間違っている等、あり得ぬ!!

 我らは正しい、絶対に!!

 蒼天已に死す!!!! 黄天当に立つべし!!!!」

 

 その声に、張角が応えない訳にはいかない。

 己を信じてくれる者達の為に、震える足腰を叱咤し、懸命に大地を踏み締め叫ぶ。

 今が大賢良師・張角の、黄巾党の最後の力を振り絞る時だ_と。

 

「...まだあれだけの数が...。」

 

「いや、心配無え。

 こっちにも援軍だ...!」

 

 張角の声に沸き立つ黄巾党の姿、消耗した状態での敵の増援に紫鸞も堪らず顔を歪めるが、そんな彼を励ます様に天の助が待ち望んだ援軍の到来を察知する。

 

「無事か、紫鸞、天の助!」

 

「少しばかり、出遅れた様だ。」

 

「ほう、決戦の舞台は既に整っているな。

 では、始めるとするか!」

 

 劉備の、曹操の、孫堅の、そしてこの場で張角を確実に討ち取らんとする官軍の兵達の声が二人の背後から響く。

 よく見れば曹操の右手には、天の助が目印として貼り付けていた海苔が握られていた。

 

(あの海苔、意味あったのか...。)

 

 

 

「張角様、お逃げ...ぐあぁぁ!!」

 

「皆!! くっ!!」

 

 互いに増援を交えた官軍と黄巾党との、正真正銘最後の戦い。

 死力を尽くし、信念をぶつけ合うかに思われたその戦いの趨勢は、驚く程呆気なく官軍側へと傾いた。

 張角の鼓舞によってどれだけ士気を高めたと言っても、敗残兵である黄巾党側の数的不利は張角の異能を持ってしても如何ともし難く、一人、また一人と地に伏せられ、残るは張角一人のみとなってしまったのだ。

 

「貴様らは、天の名の下に秩序を犯した。

 その罪は償わねばならん。

 大義ありと言うならば、今に代わる秩序を示せ。

 答え無き否定は、ただの暴力に過ぎん。」

 

 その張角へと剣を向けた曹操は、あくまで彼らを『罪人』と断じる。

 彼らにも彼らなりの決起に至った理由があるのだろう。

 彼らがこうなってしまった原因の一端は、自分達官吏にもある故にその行き場のない感情を理解もしよう。

 しかしそれでも、彼らが人として生きていく以上、越えてはならない一線というものは存在する。

 少なくとも黄巾党によって苦しめられた多くの人々にとって、彼らは『罪人』であり、罪を犯した者は罰を受けなければならないのだ。

 

(志高き故に、張角は道を誤った。

いや、道を見出だせなかった...か。

太平の世とは何処にある、如何にして成す。

絵空事の理想では、明日を生きる糧は得られん。)

 

 いっそ哀れみすら感じる張角の、黄巾党の最後の姿に、孫堅は瞼を閉じ、彼らにどれだけの選択肢があったのかと思案する。

 成程、曹操の言葉は間違いなく正しい。

 自分達が官軍として刃を振るう以上、どれだけ崇高な志を掲げようとも、罪を犯した彼らを否定せねばならない。

 だが一方で、今の漢王朝が彼らの理想とする『太平の世』を実現出来るのか、ただ人々が家族や隣人と笑い合い、明日への希望を持って生きられる世界を作れるのかと問われれば、疑問に感じてしまうのも事実だ。

 そちらの方が正しいからと、隣人が飢え朽ちていく姿に見て見ぬふりをするのが、果たして平和な世界だと言えるのだろうか。

 

「苦しむ人達を救おうとする志は立派だ。

 だが、何故更に悲しむ人が増えた?

 理想にひた走るばかりでは、きっと駄目だ。

 足を止めて、省みるべきだった...。」

 

 張角を見据える劉備の手には、本人も驚く程に力が籠もる。

 彼の想いも理想も、決して否定されるべきものではない筈だ。

 だが事実として、その想いは暴力を振るう口実と化し、人々を救う為にとの彼らの行動は、世に多くの悲しみを生んでいる。

 天高く掲げた理想にばかり向けられていた彼の視線を、地上の、目の前の救うべき人々へと向けさせてくれる存在が、彼の傍にはいなかったのかもしれない。

 仮に義弟達を喪ったとしたら_肩で息をする張角の姿が、どうしようもなくそんな仮の自分と重なってしまうのだ。

 

「とどめだ、張角!!!!

 プルプル真拳奥義『ところてんプレス』!!!!」

 

「これが...、答え...か。

 俺は何故...、何処で...。」

 

 そこで張角を断罪すべく、天高く舞い上がり奥義を発動させたのが天の助だった。

 彼の全体重を乗せた一撃が天より迫る光景に、張角も己の完全なる敗北を悟り、間もなく自身を襲うだろう衝撃に死を覚悟するが。

 

「...。」

 

「...。」

 

 ぷるんという擬音が聞こえてきそうな程に、天の助の体は張角を押し潰すどころか跳ね返ってしまった。

 必殺の一撃と思われた奥義のあんまりな結果に、先程とは別の意味でこの場に悲壮感が漂うが。

 

「...やっぱりぐあぁぁぁぁ!!!!」

 

「やっぱり!?」

 

 最初の反応から一転、技が効果的だった事にしたらしい張角の姿はなんと、最後の声と共に消え失せてしまった。

 当然彼をこのまま逃がすまいと、朱儁の号令の下、再び彼の捜索が行われたものの、一夜を明けて尚誰も彼を発見する事は叶わなかった。

 こうして、黄巾党との決戦は何とも不思議な形で幕を下ろしたのである。




 漸く第一章最終ステージまで書き終える事が出来ました。
 次話で戦後の会話シーンを書いて、第一章終了の予定です。
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