真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第二十三話:幽州鎮圧戦

(盧植先生がこの光景を見たら...いや、あの方は一々騒ぎ立てぬか...。)

 

 同じ師を仰いだ者_劉備と戦場で轡を並べる事実に、感慨深げにかつての師の顔を思い浮かべる官軍の将_公孫瓚。

 盧植の門下に入ったばかりの劉備を思い返すと、今の彼とは似ても似つかぬ男だったと公孫瓚は思う。

 人当たりは良く、明朗で一私人として見れば間違いなく好漢と言える人物であった。

 が、一方で知識や力を得て大事を為そうというより、その日その日をそれなりに楽しく過ごせればいいと考えている節も見受けられ、自らの境遇に対するある種の諦観を抱いていた様にも思えたのだ。

 

(とは言え、昨今の世情を考えれば、それは劉備に限った話ではないだろうがな...。)

 

 しかしながら、劉備の生まれを考えれば、かつての彼が、そして彼と同じ様な貧しい家庭に生まれた若者が将来への希望を見出だせないのも致し方ないとも公孫瓚は思う。

 相次ぐ天災と奸臣による重税_『何かしらの契機』が無い限り、持たざる者がその才を示すのは非常に困難な世であると言わざるを得ない。

 公孫瓚自身に目を向ければ、生母の出自の低さ故に家内での立場こそ低かったものの、それでも官軍の将として抜擢されたのは、その才と共に地方豪族に生を受けた事が大きいだろう。

 黄巾の乱という『契機』にて義勇軍を率い、数々の戦場を戦い抜いた劉備がやっと得られたのが田舎の県尉、かたや自分は彼に比べれば本格的な戦の経験すら無い状態から一軍を任される立場に抜擢されている。

 客観的に見て、不条理だと言わざるを得ないだろう。

 

 こうして振り返ってみると、やはり自分や劉備が盧植という剛毅かつ不正を嫌う博学多才の士に教えを受ける事が出来た影響は大きい。

 己が環境の優劣に依らず、日々を真面目に生き、人々を救う為に起ち上がらんとする志を持ち続けた故に、自分達は討伐軍として並び立ち、逆に節度を守り続ける事が出来なかった張純は逆賊へと堕ちてしまった。

 

「立身出世の想い自体は否定せぬ。

 だが、過ぎたる欲を抱けばどうなるか...。

 いざ、黄巾から何も学ばぬ愚かな賊徒を平らげん!」

 

 師を彷彿とさせるその号令により、彼の配下達が、そして彼の相棒たる白馬が前進を開始する。

 その瞳に宿るのは、愚直に師からの教えを全うせんとする強い想いだ。

 

 

 

「始まったか...。

 さて、我らには自由な行動が許されているが...。」

 

「無難にいくなら、主軍の公孫瓚殿の後詰を担うって所だろうが、どうするかね...。」

 

 先の公孫瓚の号令を契機に、彼の軍が官軍本陣正面の拠点へと、劉備と張飛率いる軍が東側の拠点へと侵攻を開始したのを見遣り、関羽は周囲の者達と共に、自分達遊軍の行動指針を決めるべく声を上げる。

 相変わらず烏丸の首領・丘力居(きゅうりききょ)の姿は見当たらず、敵が何らかの策を持っていると考えるべきだろう。

 伏兵の可能性を考えるなら、同じく遊軍となっているところ天の助の言う通り、敵が待ち構えている可能性がある山頂へと進むだろう公孫瓚の背後に控えておくのが堅実な一手だと思える。

 するとそこで、他の三人が目を丸くする様な声が上がった。

 

「いいだろうか。

 俺はここから西へと進む事が上策と考える。」

 

「... 我らのみで、西の山を突破する考えか?

 豪胆な作戦だが...。」

 

 西の山道を突破し、敵本陣の側面を突く_そんなぬー$の戦士の提案を吟味する関羽。

 成程、丘力居が山頂の何処かに潜んでいると仮定すると、敵の狙いは山頂へと誘引した公孫瓚を伏兵と本陣の張純軍によって仕留める事だと考えられる。

 ならば、自分達が奇襲を敢行し、敵本陣に控える張純の動きを抑える意義は大きいだろう。

 だが、それは即ち厳しい山道を踏破した上で、小勢で敵陣へと乗り込む事を意味するのだ。

 自分達四人に、劉備から預かった百人ばかりの手勢_身軽ではあるものの、これだけで敵本陣を攻略出来ると自惚れる事は難しい。

 

「...この数で事を為せる根拠があるんだな?」

 

「無論だ。

 敵の狙いを読む鍵は、こちらの本陣にあると考える。」

 

 彼の案に不安を感じたのは紫鸞や天の助も同じだったのだろう。

 その策が成功する根拠を問えば、ぬー$の戦士は滑らかに敵の考えを語ってみせた。

 曰く、敵の_より詳しく言うのなら張純の真の狙いとは、討伐軍本陣に構え、本軍の総大将を担っている幽州牧・劉虞を討つ事にこそあると言うのだ。

 この劉虞という人物は、州牧の役職名が刺史とされていた黄巾の乱以前にも幽州刺史に任じられており、その当時は烏丸等異民族との関係を良好に保つなど、国内外からその治世を高く評価される人物なのだ。

 となれば、烏丸の部族長である丘力居との関係も、然程悪いものだとは考え難い。

 

「丘力居が張純の誘いに乗ったのは、目下最大の脅威である公孫瓚を討つ為...。

 しかしそれでは、烏丸にとっての脅威は取り除けても、張純がこの戦の先で更なる力、領地を手にする事は叶わない。」

 

「だからここで、統治者である劉虞殿を討つ必要があるって訳か。

 流石に幽州の実権全て、とはいかねえだろうが、混乱に乗じて幾つかの郡を占領する位は出来ちまうかもな...。」

 

「ああ。

 そして、山頂での公孫瓚殿と丘力居との戦闘に全員の視線が向いている隙に、限られた手勢で素早く山道を進軍、手薄となっている本陣に奇襲を掛けるだろう、というのが俺の推察だ。」

 

「敵の本軍とぶつかる役目を丘力居に任せているとすれば、張純の手勢が少ないだろう事とも辻褄が合うか...。」

 

 一度はぬー$の戦士の策に二の足を踏んだ関羽の言葉に各々が頷くと、彼らの足は西へと進み始める。

 正道では捉えきれぬ脅威を討つ為に。

 

 

 

「う・す・くち、くち♪

 う・す・くち、くち♪」

 

(今度は何やってるんだコイツ...。

そして何故、敵は襲ってこない...?)

 

 ぬー$の戦士の提案に従い西の山道を進んできた遊軍部隊一行だが、彼の考えが正しいものである事を示す様に、驚く程簡単に敵本陣直前の中継拠点にまで進出していたのだ。

 山道という都合上、張純達もこの道に大規模な拠点の設営は不可能であったのだろう。

 その分、道の狭さを天然の障壁とする事で、大軍となるだろう公孫瓚を山頂側へと誘導したという事か。

 とは言え、敵本陣が目に入る所まで来ている故か、件の拠点にはざっと見渡しても二百人程度の兵が置かれており、武勇に優れる関羽や紫鸞を擁する一行であっても苦戦が予想された。

 その時唐突に始まったのが、例によって例の如くのバカによる奇行だったのだが、彼の妙な歌を聴いてなのか、敵兵が全く攻撃を仕掛けてこない事実に紫鸞は困惑を隠せない。

 すると、そんな彼の内心を知ってか知らずか、敵兵達は謎の歌に応える様に一斉に声を張り上げた。

 

「がーんーもーどーき♪」

 

「!?」

 

「うーすくーち、がーんもうーすくーち♪」

 

「うーすくーちがんーも♪」

 

「...これは一体...。」

 

「驚いたよ。

 まさかあんた達が、俺達烏丸に伝わる『友好の歌』を知ってるなんてな。

 ここは通っていいぜ。」

 

(今の変なのが!?)

 

「むう、烏丸の文化にまで通じているとは...。

 いや、おぬしの志に国や民族など関係ないという事なのだな、天の助よ。」

 

「ただ敵を斬るだけが戦ではない...。

 ふっ、変わらないな、お前は...。」

 

(...いや、上手くいってるんだ、何も言うまい...。)

 

 謎の異文化交流によって拠点を突破出来てしまうらしい事、バカの奇行に何故か感嘆する二人に対する紫鸞の疑問に答えてくれる者は残念ながらこの場には存在しない。

 戦闘を避けられたにも関わらず何故か疲れた様子の彼と共に、遊軍部隊は張純が待ち構える敵本陣へと乗り込んでいった。

 

 

 

 その後の戦況は、最早『一方的』という表現すら優しく感じるものになってしまった。

 当初、反乱軍側の拠点に構えていた烏延と蘇僕延、そして山頂に構えていた張挙は手筈通りに前線を下げ、討伐軍の誘引を敢行。

 相手を誘い出した事を確認した張挙が合図を送り、丘力居率いる騎兵部隊が奇襲、一気に敵を平らげようという算段だった。

 また、この時の動きで本陣付近へと後退、張純への連絡役を担っていた張挙だが、彼らには丘力居ら烏丸勢力とは別に思惑があり、それが見事にぬー$の戦士の予想と当たっていたのである。

 敵のほぼ全軍の誘引に成功したと見れば、張純は山道を走り抜け劉虞を奇襲、逆に誘引がそれ程の効果を齎さなければ、当初の予定通りに丘力居と共に敵の主力部隊を撃破、その勢いのまま敵本陣へと侵攻するという腹積もりだったのだ。

 しかしながら、彼ら二人にとっての幾つかの誤算が生じた事により、これらの策は悉く失敗に終わってしまう事となる。

 

 まず、烏延が誘引する筈だった相手が、黄巾の乱において数々の戦場を潜り抜けた劉備と張飛であった事。

 事前の『丘力居の姿が見当たらない』という情報も重なり、警戒していた彼らにとって反乱軍側の動きは余りにもあからさま過ぎるものだった。

 そしてもう一つ、彼らにとって致命的と言える状況は、何と張挙が本陣近くに到着しようという所で彼の目に入ってきたのだ。

 本陣から立ち上る黒い煙_どう考えても本陣が襲撃を受けている証であり、張純の身を案じた張挙は丘力居への合図も忘れてそのまま本陣へと向かってしまった。

 当然合図を失った丘力居は、奇襲の為の最適な機を逃し、烏延と蘇僕延が公孫瓚によって蹂躙される光景に居ても立ってもいられず、突撃を敢行。

 結果、公孫瓚軍に多少の混乱こそ見られたものの、それを見た劉備が逆に彼らの横腹を突く形で挟撃、敢え無く撃退されてしまった。

 所詮はその場凌ぎの同盟、張純達と烏丸側に本当の意味での仲間意識と言えるものが無く、互いの目的の為に利用し合う関係であったのが裏目に出てしまったと言えよう。

 

 

 

「ぐっ...、国を興すなど見果てぬ夢だったか...。」

 

 分不相応な『夢』と共に果てた張挙の姿に勝ち鬨を上げる兵達、彼らと勝利の喜びを分かち合う紫鸞と天の助を遠巻きに見つめる者に、声が掛かった。

 

「此度の戦、勝因はおぬしの献策故だろう。

 礼を言わせてくれ、ぬー$の戦士よ。」

 

「あなたやあの二人の活躍あってのものだ。

 それに、劉備殿や公孫瓚殿も無事であったようで良かった...。」

 

 彼からの返答に、関羽は謙遜以外の感情を感じ取る。

 成程、自分達が山道を進む選択を取るという事は、山頂へと進軍していた公孫瓚らが危機に陥ったとしてもすぐに救援に向かえなくなる事を意味する。

 新参者である自分の考えによって、全軍が危機に陥る可能性に恐れを抱いていたのだろう。

 

「ふむ、此度の策を思い付いた者と同じ人間の発言とは思えぬな。」

 

「俺は神でもなければ、天才軍師でもない。

 先の策は自分なりに正しいと考えて発言したが、それでも自分の言葉が仲間を死に追いやるかもしれないと考えれば、恐ろしくもなる。

 そういった感情を隠してくれるという意味では、この兜も重宝するがな。」

 

 些か礼を失している事を自覚した上で、関羽は弱気とも取れるぬー$の戦士の言葉を指摘するが、それに対する彼の返答に自然と笑みを浮かべた。

 頭に被るそれによって怪しさを感じさせるのは擁護のしようが無いが、その下に、そして彼の胸中に隠された感情は間違いなく隣人を慮る人間らしさを感じるものである故に。

 そこで関羽は、彼に対しもう一歩踏み込んだ言葉を続ける。

 彼を紫鸞や天の助と同じく、『友』として呼ぶ為に。

 

「時におぬしは、あの張純の最期をどう見る?

 彼奴の考えを読んだおぬしなら、先の最期の言葉の意味も分かるのではないか?」

 

「...俺は、少なくとも欲自体を否定する気にはなれない。」

 

 彼の返答は関羽の興味を強く引くものであった。

 少なくとも、この張純の最期迄の一連の流れを把握していれば、多くの者が『我欲を制御出来ずに身を滅ぼした愚か者』と断じるであろう故に。

 しかし彼は、欲を抱く事自体は悪ではないのだと、言葉を続ける。

 

「日々の生活を良くしたい、大切な者が楽に生きられる様にしたい、そういった人々の想いが、世を動かしていく事は否定出来ないだろう。

 だが、今回の張純然り、負の感情はその想いを覆い隠し、手段と目的を逆転させてしまうのではないかと思える。」

 

「ふむ、確かに兄者の話によれば、張純は張温殿との諍いが原因でこの様な凶行に走ってしまったとの事であったな...。」

 

「ああ...。

 無論、それ以外にも積もり積もった不満が奴の中にはあったのだろうが、あの『国を興す』という言葉から察するに、何時からか奴の中で立身出世の目的は『暮らしを良くする為』ではなく、『自分を認めない者を見返す為』になってしまったのではないだろうか...。」

 

「...山道を通る策然り、その推察もまた蛇の道は蛇という事かな?

 ぬー$の戦士...いや、張角よ...。」

 

 その関羽の言葉が放たれて尚、ぬー$の戦士_張角に動揺は感じられなかった。

 黄巾党が完全に敗れたあの戦いで、自分の姿を多くの者が目にしている以上、彼の様に兜の下に隠した正体を察する者が現れる事は覚悟していたのだろう。

 思い返せば、彼は最初から自分を注意深く見つめており、何となしに既視感を感じていたのかもしれない。

 

「何時からだ?」

 

「おぬしとは冀州でも共に戦った故な。

 一度きりではあるが、背格好や話し方はあの時のおぬしを感じさせるものであった。

 確信を持ったのは、先の返答を聞いてであるがな。」

 

「...劉備殿に報告し、俺を斬らせるか?」

 

 死んだ筈の大罪人を捕まえた_そんな事になれば、冀州での役職を失った劉備にまた官職が与えられるかもしれない。

 そんな自罰的な彼の言葉に、関羽は首を横に振った。

 答えは既に出ている_と。

 

「おぬし自身が申したであろう。

 『苦しむ人々を救う為に戦う事を、己の行動で示す』と。

 それに、拙者が斬らずともおぬしは張純の様にはなるまいて。

 あの二人が共におる故な。

 重ねるなら、これからも兄者にその力を貸してくれる事を願うばかりよ。

 さあ、皆が呼んでおる...行こうではないか、友よ。」

 

 張角は改めて兜を与えてくれた天の助に、心の中で感謝を述べた。

 許されないと分かっているのに綻んでしまう表情を、完全に覆い隠してくれる故に。




 思ったより早く書けたので投稿させていただきます。
 張純達の思惑についてですが、ゲーム本編中でプレイヤーが公孫瓚と一緒に山頂に行くと、丘力居の出現と共に本陣にいた張純が件の山道を通る形で味方本陣の劉虞を狙って移動を開始します。
 なので拙作では、上記の行動を『張純達の狙い』という形にし、その上でプレイヤーが山道を通るルートを選択した台詞をベースに話を作らせていただきました。
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