真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第二十五話:邂逅

 『太平の要』の里_人里離れたその場所を、紫鸞達三人は再び訪れていた。

 右北平郡での宴の後、劉備達と別れた彼らは一先ず薊の宿へと戻ったのだが、そこで宿屋の店主から人捜しを依頼されたのが発端である。

 店主が香を仕入れる為に懇意にしている薬草売りがいるらしいのだが、近頃その何某の姿が見られない故に、彼らに話が回ってきたのだ。

 店主曰く、『珍しい薬草を探してる』と語っていたとの事で、薬草が豊富であろう場所として彼らが思い至ったのが件の里であった。

 一見すると、この様な隠れ里た言える場所を余人が見つけるのは叶わないのではとも思えるが、他ならぬ三人の内の一人であるぬー$の戦士が、偶然にもこの場所を発見した過去を持つのだ。

 彼に言わせれば、『同じ様な効果を持つ代物を入手しようと思えば、同じ場所へと辿り着く筈』であり、かつての彼自身然り、件の薬草売り然り、高い効能を持つ薬草を求める者であれば、『太平の要』について知らずとも自然と噂や伝承を頼りにそれらが豊富であろう場所へと行き着くだろうとの考えである。

 

 

 

『紫鸞。』

 

(...彼も...共にいる...?)

 

 里へと到着し、件の薬草売りの痕跡を探る紫鸞に、再び先程までそこにいなかった筈の者の声が、姿が届く。

 幾度も彼へと接触し、助言を与えてきた女性_朱和と、同じく度々自分の前に現れる謎の少年が並び立っていた。

 これまで個別に現れていた彼女達が共にいる光景に彼が違和感を覚えたのも束の間、白髪の少年が声を掛けてきた事で、彼は更に困惑する事となる。

 

『紫鸞、何をしている?

 悠長にはしていられぬぞ。』

 

『そうよ、早く行きましょう。』

 

 これは本当に自分の記憶にある光景なのだろうか_紫鸞は、己の中に生まれた疑問を拭い切れない。

 実際、二人の服装は共に『太平の要』の一員となった者が着用するのだろう紫鸞自身のそれと同じものであり、本来なら同じ組織の人間だと考えるのが妥当なのだろう。

 しかしながら、白髪の少年が自分へと語り掛ける姿は、これまで接触してきた彼の超然とした雰囲気と比較すると違和感を感じてしまう。

 少年の服装の色が自分や朱和と異なっている事から、組織内でも特別な地位にあるとも考えられるが、それでも目の前にいるあの少年からは、それまでは希薄だった人間味を感じられるのだ。

 その違和感が記憶を失った事と関係しているのか、或いは『朱和と共にいる方』の少年が彼女と同様に自身にとっての重要な人物だったのか。

 真相を知り得ない紫鸞の目に映るその光景は、彼の脳内へと走った痛み、そして彼の耳へと届いた馬の足音と共に消え失せてしまった。

 

「おいおい、何だってんだありゃ!?」

 

「俺達以外にも、例の薬草売りを追っている者がいるのか...。」

 

(...或いは、この里を襲った者達か?)

 

 一頭や二頭どころではない馬達が生み出す音、そしてその馬に跨る者達の姿に、三人は自然と警戒感を強める。

 件の薬草売りと彼ら以外にこの里を知る者達が何者であるかを考えれば、当然の反応と言えよう。

 まず思い浮かぶのは、元々この場所で暮らしていた『太平の要』の生き残りだが、里の現状を鑑みると彼らに迫っている大量の馬が必要な程に生き残りがいるとは考え難い。

 そうなると、考えられる可能性が余り友好的とは言えないだろう存在となってしまう。

 件の薬草売りが想像以上に優秀な人物であるか、或いは薬草収集の為に罪を犯した等の理由による追手_

 もしくは、この里をこんな状態にした襲撃者_

 何れにせよ穏便にやり過ごせるとは言い難い相手だ。

 どういった事情なのか、その集団が誰かしらを磔にしている事も、三人の警戒感を更に助長させるが。

 

「全隊止まれ!!!!」

 

「!?」

 

(巨大な...野菜...?)

 

(関東野菜連合とは一体...。)

 

「次ピーマン残したらこの程度じゃすまねえぞ。

 分かったな。」

 

「...。」

 

 顔と手足が付いた巨大な野菜_そう表現するしかない謎の集団は、突如として停止し、その勢いのまま磔にされていた人物を地面へと投げ出したのだ。

 集団の戦闘にいる巨大な人参らしき者が謎の捨て台詞を吐くと、彼らは踵を返して何処かへと走り去ってしまった。

 三人の事は意に介していない様子であり、一先ずは安全と考え磔にされていた人物へと近寄っていくが。

 

「うう...、だって...しょっぱいじゃないですか...。

 あれ...、こんな所に...人?」

 

 

 

「成程、宿屋の主人が...。

 それはお手数をお掛けしました。」

 

 野菜達に痛めつけられたのだろうか、服のそこかしこが汚れ、幾らかの生傷も目立つ男性を件の薬草売りと当たりを付けた三人が、一先ず自分達がこの場所を訪れた理由を男性へと語ると、その予想が当たっていた事を示す言葉が返ってくる。

 

「色々と聞きたい事はあるが...。

 どうやってここを知った?」

 

「黄巾の首領・張角が使ったという薬草...、その噂を追って辿り着いたんです。」

 

(患者とした世間話程度の話からよく辿り着いたものだ...。)

 

 先の謎の野菜達について等、気になる点は多々あるものの、一先ずはこの秘境の情報をどうやって入手したのかを問う紫鸞。

 そんな彼の問いに、男性はあっけらかんとした様子で情報源をあっさりと明かした。

 成程、黄巾党の起源となった太平道、その始まりも当時の張角による病人の治療であり、日常的に薬草を扱う男性も、それに使われた薬草と効能に興味を抱いたのだろう。

 とは言え、情報源として考えられるのは、張角による治療を受けた者による証言やその周囲に残る言い伝えじみた話が精々というのが実情だろう。

 その中で、今や悪名としての印象が強い『大賢良師・張角』の名に惑わされず、事実と功績に着目し、秘境へと辿り着いてみせた執念と熱意には、その張角本人ことぬー$の戦士も内心で舌を巻いた。

 

「香として使えば、嗅いだ者に幻を齎し、薬とすれば疲労の回復、傷の治癒...。

 張角が齎した奇跡の多くは、その薬草の力だったと言っても過言ではありません。」

 

「因みに高祖劉邦の漢建国の裏にところてんがあったって噂については?」

 

「その噂は初めて聞きましたが、事実だとしても過言でしょう。」

 

「!?」

 

 張角が人々を救い、そして人心を集めた薬草の効能をすらすらと語る男性。

 彼の探究心と医学の知識を垣間見た事で、その知見の広さを感じたのか、天の助が存在しない歴史について問うも、こちらへの返答も別の意味であっさりとしたものだった。

 質問者は何故か大きな衝撃を受けた様だが、一体何が疑問なのだろうか。

 

「しかし、僕を探しに来たという事は、あなた方もこの地を知っていたんですよね?

 知らずに迷い込む様な土地でもありません。

 ...もしかして、元々ここに住んでいたとか?」

 

「よく覚えていない...。」

 

「曖昧ですね...。

 過去の出来事を忘れてしまうのは、ごく自然な事です。

 ただあなたの場合、まるで過去が不自然に抜け落ちてしまっているかの様に見受けられる。」

 

 顎に手を当てつつ、自身との短い問答から記憶喪失に陥っている事を悟った様子の男性に、紫鸞は自身の記憶を取り戻す手掛かりを求め、男性が自分と同様の症状を診てきた可能性を期待する。

 

「どうすれば思い出せる?」

 

「結論から言えば、分かりません。

 俺も、あなたの様な例は初めて見たので...。

 誤解を恐れずに言えば、今のあなたが患っているのは『形の無い病』の様なものです。」

 

「『形の無い病』...?」

 

 しかしながら、男性から返ってきたのは、紫鸞の考えた可能性を否定するものだった。

 それに続いて語られた独特の表現には、同じ薬草を求め、人々を救わんとした過去を持つぬー$の戦士も興味を惹かれた様だが。

 

「切り傷や打撲といった外傷や体内に何らかの腫瘍が発生したのとは違う...。

 この方にとって『無意識に忘れ去りたい、思い出したくない』出来事が発生し、自己防衛の為にそれを封じ込めていると見るべきではないかと。」

 

「紫鸞自身が忘れたがってるって事か...。」

 

「成程...、故に『形の無い病』か...。」

 

「はい。

 そして、それを治す方法を、今の俺は知り得ない...。

 うん...屈辱ですね。」

 

「えっ?」

 

 男性の語った推測_現代で言う所の強い精神的ショックが原因との説に、それを聞いた三人も納得の表情を見せる。

 少なくとも記憶を失ってからの紫鸞の自覚でも、肉体的に重大な問題があるとは考え難い。

 一同が今いる『太平の要』の里が壊滅状態となっている事実も、紫鸞にとっての『忘れたい出来事』が要因なのだろうという説を後押しした。

 可能性の域は出ないものの、説得力を感じる男性の説に三人が感心していたのも束の間、男性の次の言葉に天の助とぬー$の戦士が呆気にとられるが。

 

「そういう訳です。

 治療の術を探す為、暫く同行させては貰えませんか?

 これでも医術を修めた身です。

 傷の手当てから路銀稼ぎまで、役に立ちますよ。」

 

「構わな_」

 

「いや待て待て、紫鸞!

 幾ら何でも怪し過ぎるだろ!?」

 

「...そちらに医術の心得があるのは理解した。

 だが、俺達は今日出会ったばかりの人間だ。

 俺達の素性も聞かずに同行を申し出る、その訳を聞かせて欲しい。」

 

 男性の申し出を即決で承認しようとした紫鸞を慌てて天の助が制した通り、その言葉に何かしらの裏を感じてしまうのが実情だ。

 この短い会話の中でも、男性が悪意のある人物ではない事は感じ取れるものの、一方で言葉の端々に得体の知れない狂気が見られるのも事実である。

 また、仮に完全な善意からの申し出であったとしても、相手が何者かも知らないにも関わらずに同行を申し出るというのは、余りに不用心が過ぎるというものだろう。

 ぬー$の戦士からの問いに自身の発言の唐突さを自覚したのか、男性もまた自身の目的を包み隠さずに語り始めた。

 

「ははは、これは失礼。

 要は、近くで観察させて貰いたいんですよ。

 一緒にいないと、何も分からないでしょう?」

 

「それは確かにそうだが...。」

 

「先程も申し上げた通り、俺もこの方の様な症例は初めて診ます...。

 ですが、先程の仮説が正しいとすれば、我々医師は勿論、患者本人も自覚していない同じ症状の方がいらっしゃるとは考えられませんか?」

 

「...そうか。

 確かに、『忘れたい程の辛い経験をしてる人間』なんてのは、今時そこら中にいるだろうからな...。」

 

「はい。

 そして今の俺では、この方の、そして同じ症状の方の『記憶を戻せるのか否か』、更に言えば『戻す事が正しいのか否か』の判断も出来ないのです...。

 治療を施した結果、逆に患者を苦しめてしまっては元も子もないでしょう。」

 

 男性の考え、そして医療従事者としての矜持を聞けば、天の助とぬー$の戦士からも更なる反対の声は出てこない。

 成程、今回の自分達の偶然の出会いによって、男性は紫鸞の様な症状の人間と相対したが、これが彼の人生において唯一無二のものであるという保証は無い。

 先の張純の乱然り、黄巾の乱以降、人に記憶障害を齎す可能性のある悲劇は枚挙に暇がないのが実情である。

 症状に対する理解が浅い状態で患者に接するのと、記憶を取り戻す事の弊害をも提示出来るのとでは雲泥の差と言えよう。

 故に、紫鸞達が『傷の手当て』が必要になる可能性のある者達と察した上で、同行を願っているのだ。

 

「紫鸞の治療が、行く行くは天下万民を救う事に繋がるかもしれないという事か。

 それならば、俺達からは何も言う事は無い。」

 

「ありがとうございます。

 それじゃ、善は急げと言いますし...。

 宿に戻って、これまでのあなたの経験や出来事を整理する所から始めましょうか。

 あ、まだ名乗っていませんでしたね。

 俺の事は...そうだな...、『元化』とでも。

 あなたの身上も聞かせて貰えますか?旅の武芸者殿。」

 

 男性_元化との出会いは、紫鸞に何を齎すのか。

 果たして、失われた記憶を取り戻す事は、彼の幸福に繋がるのか。

 例え自分が『実験台』であったとしても、今の彼はその記憶の影へと手を伸びし続けるのみである。




 切りがいいので、元化合流までで区切らせていただきます。
 短くなりそうな分、元化の台詞に少し肉付けしてみました。
 次回、涼州鎮圧戦です。
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