真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第四話:報恩の形

「どうかな大将?

 あいつの腕も中々のもんでしょう。」

 

「ああ、翼徳も強いが、彼も良い動きだ。」

(顔面の事は...、触れない方がいいのだろうな...。)

 

 無名と義弟とが模擬戦を行う傍ら、天の助からの言葉に素直に無名への賞賛を返す劉備。

 成程、彼の身のこなしは実に軽やかであり、見事と言う他ない。

 張飛が彼の力を見定める為に敢えて打ち込ませているという側面はあるだろうが、だとしても十分義勇軍の主戦力の一つとして活躍出来るだろう。

 寧ろ劉備としては、顔面が文字通りくり抜かれた筈の天の助が何事も無かったかの様に平然と自分と話している事の方が気になるのだが、それには触れない事にしたらしい。

 こうした空気が読めるのも、彼が人から好かれる所以の一つなのだろう。

 

「まあ、二人の方は大丈夫だろう。

 それより天の助、俺はお前に聞きたい事があるんだが。」

 

「...何だい?

 あいつの過去の事なら、さっきも言ったが俺も全然知らないんだが。」

 

「ああ、彼の事じゃないんだ。

 さっきのお前の行動、義勇軍を率いているとは言っても、所詮は一平民でしかない俺に何故あんな事を?」

 

「兄者、それは...!」

 

 天の助の行動_『コビ売り』について関羽が擁護しようとするも、その言葉は劉備の出した手によって制されてしまった。

 彼自身の言葉で聞きたい_そんな意思表示に、天の助もまた考えを口にする。

 

「大将がただのお人好しじゃない、人の上に立つ素質があると思ったからさ。

 お近付きの印にってね。」

 

「ほう、何故そう思った...?」

 

「例えばさっきの桃の一件や、俺達を誘ってくれた時もそうだ。

 張翼徳殿、大将の義弟(おとうと)さんは良くも悪くも感情がはっきり出るだろう?

 だが、さっきの義勇軍の皆はおろか、大将ですらかなりの軽装だ。

 懐事情は中々寂しいんじゃないかと思ってね。」

 

「...。」

 

「おぬし...、先の一件からそこまでを...。」

 

 義勇軍の内情を考えれば、人手は一人でも多い方がいい。

 ましてやそれが即戦力となる人物であれば尚更だ。

 しかしそこで身内、それも集団の中の中心人物として振る舞う事を求められる張飛の人間性が問題となった。

 

「さっきの桃の件はまだ自分達の活動資金が掛かってるからまだしも、俺達に対してああも邪険にする理由...。

 しかも、あいつの武勇に関しては雲長殿のお墨付きにも関わらず、だ。

 あれだけの猛者にも関わらず、自分の立場に対して自信がないのか...。

 自分の立場が脅かされると思ったから、ギフトに対して『媚び』と言ってきたんだと判断した。

 そしてああいう御仁は一度懐に入れた、特に目上の相手にはまず従うだろう?」

 

(...そりゃあれだけはっきり『媚び売り』って言えば、そうなるだろう...。)

「...確かに翼徳の人柄は、まだ付き合いの短い俺でも良い部分と悪い部分がはっきりしていると感じる。

 桃の件の様に、俺に対して遠慮なく意見を言ってくれるのはとてもありがたいが、一方で下の者に対しての態度が些か厳しいと感じる時も多い。

 この辺りは、所詮義勇軍が正規兵ではないというのもあるだろうがな...。

 つまり、お前はあの動きによって翼徳を試そうとしたという事か?」

 

 張飛という人物の組織人としての難しさは、短い時間の中で劉備にもある程度感じ取れたのだろう。

 良くも悪くも喜怒哀楽が分かりやすく、思った事をすぐに口にしてしまう。

 劉備の様に人に好かれやすい性質の人物を長とする組織において、彼の様に遠慮なくその人物に意見具申が出来るのはとても貴重な事だろう。

 問題は彼の場合、立場が下の人間の声に耳を傾けるという行為が苦手、というより最早気質的に嫌っているとすら思えるのが言動の端々に表れている点だ。

 

「...正直に言うが、別にそう言った意図は無かったよ。

 さっきも言った通り、『お近付きの印』になると思っただけだ。

 義勇兵の皆の腹の足しにでもして貰えればってな。

 それがまさかあれを『劉玄徳殿個人に対して』と捉えるとは思わなかったんだ。

 まあ、結果的には二人のやり取りで大将の事を判断した訳だから、試したも同然かもしれんが。」

 

(...言ってる事に嘘はないと思うんだが、何故こうも裏を感じるんだろうな...。)

 

「むう...、天の助よ、おぬしはあの短い間に兄者と翼徳の『人』を見たと言うのだな...!

 さらば問わん。

 おぬしは何を持って、義兄劉玄徳を『人の上に立つ者』と称した?」

 

(そして何故雲長はこんなにも彼への評価が高いんだ...。)

 

 天の助の口振りや仕草からして、彼の言葉が虚偽のものだとは劉備も思っていない。

 現実として、自分達義勇軍の身なりや装備の貧弱さを見れば、その素性や懐事情には彼でなくとも察する者が多いだろう。

 一方の彼らはと言えば、中心人物の一人である関羽の言があるとは言え、無名と天の助、それぞれ別の意味で一般的とは言えない外見故に、張飛の様にその素性や能力を怪しむ者が出てきても仕方がない存在だった。

 そう考えれば、張飛の紹介がされた後、消去法的に『義勇軍総大将劉玄徳』だと考えられる自分に、知己の仲である関羽がいる前で物を献上してきたのも、『戦闘に参加するかは別として支援したい気持ちがある』事を示す為だったのだと思える。

 劉備が彼の言葉に含みを感じてしまったのも、彼らに活動資金を提供してきた資産家達と同じ様に決して慈善だけではないとの雰囲気を感じた故であり、人を見る目に長けた彼ならではの感覚と言えよう。

 尤も、まさかその目的が『義勇軍を通じて民草にところてんを啓蒙する』という理解に苦しむ内容なのだから、彼を持ってしてもその真意を測れないのも仕方ない事なのだが。

 或いは、一度天の助に対して期待の眼差しを向ける義弟に説明を求めるのも一つの手かもしれない。

 

「端的に言えば、『他人を納得させる事に長けてるから』だな。

 情に厚いのは気質として、組織人としてそれが利益になる行為なんだと思わせる事が出来る。

 客観視したら甘い綺麗事と言われる事でも、『この人なら本当にやってくれるかもしれない』と思うから、皆大将に付いて行きたくなるんじゃねえかな?

 本当に実現するなら、誰だってその『甘い綺麗事』の方がいいに決まってるんだからよ。」

 

「...ふふふ...、ははははは。

 成程、誰だって綺麗事の方がいい...、確かにそうだな。」

 

 自分の言動を客観的に分析され、言語化された事に劉備は肩を震わせて笑ってしまう。

 例えば先の桃の件、男性の事情を聞いて尚放置出来る性分ではない自分は当然の様に庇い立てをする。

 そして渡した金額が過剰である事が分かれば、義弟の性格からしてその場で指摘してくるのは分かりきった事だ。

 そこで自分が取った選択というのが、金を男性への前貸しとする事で彼が賊に身をやっする前に身柄を確保、戦力を増強した。

 その様子を見ていた民衆や他の義勇兵に対して度量を示すと同時に、いざ出陣となった際に兵糧確保に協力して貰えそうな桃屋の主人に恩を売る事にも成功している。

 関羽、張飛という屈強な男二人に挟まれた事で、『彼らをすら従えている』と強く印象付けられた事だろう。

 仮にこれを全て計算した上でやっているとしたら、中々に悪どい人物だと思える。

 

「...おい、兄者はどうしたってんだ?」

 

「ああ、すまんな翼徳。

 何、俺は聖人君子でも何でもないって事さ。

 それより、お前の方こそ納得は出来たのか?」

 

 少しばかり目を離していた間に、義兄が珍しい程の笑い声を上げていたのが気になったのだろう。

 無名との模擬戦に一区切りが付いたのか、張飛が義兄の様子を訝しみつつ声を掛けてきた。

 義兄の返答に対しては今一つ腑に落ちていない様子ではあるが、取り敢えず自身に投げ掛けられた問いに答える事を優先した様だ。

 

「まあ...なんだ。

 まるで駄目って訳じゃなさそうだ。

 天の助の方も、根性はあるみてえだしな。」

 

「はは...素直に認められんか?翼徳。

 二人共すまないな。

 こんな俺達と一緒に戦ってくれるなら、義勇軍の幕舎を訪ねてくれ。

 いつでも歓迎するぞ。」

 

「拙者からも頼む。

 おぬしらの力、是非とも貸して貰いたい。」

 

「...あの時の親子の様な者達と戦うのか...。」

 

「親子?」

 

「去年、俺達と雲長殿が出会った時の村人さ。

 その時、俺達に力を貸してくれた奴らも黄色い布を身に付けていたんだ...。」

 

「そ、そりゃつまり、兄者達は黄巾の奴らと一緒に戦ったってのか⁉︎」

 

 関羽が二人と出会った時の話、その中であの黄色い布を身に付けた者達については伏せていたのだろう。

 劉備と張飛からの視線に彼は首肯を返しつつ、当時自分達が出会ったのが今の黄巾党の者達、そして恐らくそれを率いる大賢良師張角その人だったのだろう事を語る。

 間違いなく当時の彼らに救われたであろう存在が脳裏に過ぎった故の無名の反応を、彼は責める事はしなかった。

 

「冀州での事を顧みれば複雑な思いもあろう。

 黄巾党の者らに、我らは命を救われたのだから。

 だが...今の黄巾党の狼藉は目に余る。

 役所のみならず、民をも襲い、略奪を重ねている。

 そこに、我らが知る義士の面影は無い...。

 故に拙者は、彼らを止めんと決意した。

 せめてもそれが、恩義への報いと信じる。

 おぬしらも、同じ思いを持ってくれていれば幸いだ。」

 

 

 

「それで、大将達の話、受けるのか?」

 

 劉備達と別れ宿へと戻った無名は、早々に準備に取り掛かる。

 武器の点検に非常用の薬剤の補充、体調を極力良い状態にしておく必要性も考えれば、準備は早めに終わらせておきたい所だ。

 同行者からの声が掛かっても、彼の手が止まる事はない。

 

「...お前はどうするんだ?」

 

 答え等分かりきっているだろう_言外の返答を込めた逆質問に、彼_天の助はどう返してくるのだろうか。

 無名個人としては、関羽が語った通り黄巾党の暴走を鎮圧させる事が、彼らへの報恩になると考えている。

 その為に義勇軍へと協力するべく参戦の準備をしているのだが、何もその手段は戦場に出る事だけではない。

 例えば彼が劉備へと渡した物然り、物資面で援助をする事もまた黄巾党と戦っていると言えるだろう。

 死の危険と隣り合わせの戦場に、義勇軍は無償で赴く事になるのだ。

 無責任に一緒に来いと言える場所ではないし、義勇軍への物品提供で義理は果たしたとも言えよう。

 無名から見た彼への印象と言えば、決して冷淡ではないが、一方で常に状況を一歩引いた視点から見る様な現実的な考え方の人物であった故に、特段自らの身に危険が迫っている訳でもない中でどの様な判断を下すのかが気になる所だが。

 

「黄河と長江を〜、ところてんで埋め尽くっせ〜♪」

 

「...何をしている?」

 

 妙な鼻歌混じりに彼が進める作業の内容を、無名は思わず検めざるを得なかった。

 宿屋に借りたのだろう四枚の大皿に、自らの体を小分けにする彼の行動は、滅多な事では感情を乱さない無名から見ても尚不気味なものであった故に。

 

「よし、これで全員分出来たな‼︎

 悪い無名。

 これ全部そこの木箱の中に入れて、幕舎に行く時に持ってってくれるか?」

 

 四等分された皿の上の物体から声が聞こえてくるという状況に、脳が理解を拒んだ故の反応だったのかもしれない。

 言われた通りに木箱へと皿を収納すると、無名は薬剤の補充と食事の為に部屋を後にした。

 共に戦う事になる義勇軍の面々_彼らを一人でも多く生き残らせる為、そして自らが生き残る為に、こんな変人の奇行に思考も時間も割く余裕はないのである。




 ORIGINSの劉備は一人称が『私』から『俺』に変わったりと、気のいい兄ちゃんって印象があります。
 こういう若い頃の一面を描かれると、旧作での関羽を失った時の取り乱し方に説得力が出て、上手い作り方だなと思いました。
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