真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第七話:華々しき門出

「改めて、皆よくやってくれた。

 初戦は大勝利、義勇軍としては華々しい門出になったな。

 戦いの疲れを取りたい所だが...、まずは、太守殿への報告が先か。」

 

 幽州を襲撃している黄巾党、その総大将たる程遠志らを見事討ち取ってみせた義勇軍。

 漸く人心地ついた所で出された義勇軍総大将_劉備からの労いの言葉に、一同は改めて自分達が勝利を掴んだのだと実感する。

 

「では、俺は城へ行ってくる。

 皆は先に戻って、通りで待っていてくれ。」

 

「今は、殊更すべき事もあるまい。

 各々、自由に過ごすとしよう。

 無名、天の助。 一度、宿に戻っても構わぬぞ。」

 

 劉備が太守劉焉へと戦果の報告を行っている間は、束の間の休息という事になる。

 今回の戦いを持って義勇軍が解散となるのか、はたまた別の場所へと向かう事となるのか、黄巾党の蜂起は幽州に限ったものではない故に、次の行動指針を定める為にも、各地の情勢を把握している官吏から指示を受ける必要があるだろう。

 その立場上正式な義勇軍の一員でない故か、関羽は無名と天の助に自分達に気を遣う事なく休むようにと語り、二人もその厚意を素直に享受しようとした時だった。

 

「あー...無名、天の助。

 特に用事が無えなら、ちょいとツラ貸せよ。」

 

 自分達を呼び止めた者_張飛の何とも気まずそうな雰囲気を不思議に思いつつ、二人は彼の後へと続いた。

 

 

 

「それで、どうしたよ翼徳殿?

 もしや義兄上殿達の事かい?」

 

「ち、違えよ!

 流石に俺だって、そういう話はもっと場所を選ぶさ...。

 まあその...、だからよ...。」

 

 張飛が足を止めたのは、何という事はない民家の間に位置する路地だった。

 周囲に人の気配が無い事、あの場において自分達二人のみに声が掛かった事から、話の内容が彼の義兄についてのものかと天の助が想像するものの、どうやらそういったものでもないらしい。

 他に話題の想像がつかない故に、二人も歯切れの悪い彼の言葉の先を待つが。

 

「悪かったよ。おめえらの事、最初っから疑ってかかってただろ俺。」

 

「...謝罪の為に?」

 

「寧ろあの時の翼徳殿の立場からしたら、割と妥当な反応だとは思うがなぁ...。」

 

 意を決した様に頭を下げた張飛だったが、それを受けた二人の反応はと言えば、態々ここまでする必要があるかというものだった。

 確かに先日の彼の態度には、二人とて何も感じなかった訳ではないが、彼の視点に立てば正体不明の者が総大将に近付こうとするのを看過出来なかった、というのも十分理解出来る動機である。

 加えて、ではその謝罪の為に人気のない場所を選ぶ程か、とも言えるだろう。

 彼の義兄には見聞きされたくないと捉えられそうなこの行動だが、関羽辺りからは『己に非があると分かっているなら、堂々と謝罪すべき』と不興を買うのが容易に想像出来る。

 

「それは勿論そうなんだが...。

 関羽の兄者が妙におめえらを買ってたからよ。

 まあ、実際に様子見てたらこの通りだったんだが。

 やっぱ関羽の兄者は只者じゃねえや。

 劉備の兄者に無い妙な威圧感もさることながら、見る目もある。」

 

「...こう言っては何だが、義兄弟だと言うのに今更か...?」

 

「いや、そうだろうとは思ってたぜ。

 けど、何でも鵜呑みにするのもまずいだろ。

 俺だって、色々考えてんだよ。」

 

 唐突に始まった彼の義兄評に、無名が彼らの関係から違和感を覚えるが、その理由が彼の口から語られた。

 曰く、彼ら三人が義兄弟となったのは実の所つい最近の事なのだと言う。

 現義勇軍を募集する立札の前で出会い、意気投合。

 丁度彼の自宅の裏庭に有る桃が見頃という事で、花見酒がてら互いの夢や志を語り合い、その勢いのまま義兄弟の契りを、という流れらしい。

 それ故、直感的な部分で惹かれ合ってこそいるものの、まだまだ互いの人柄を完全に理解し合っている状態ではないのだろう。

 特にこの人柄という面で三人を比較した時、他人を惹きつけてやまない不思議な魅力を感じさせる劉備、その体格も相まって威厳を感じさせる関羽に対し、彼自身特筆すべきものを持っていない事を自覚していたのかもしれない。

 天の助が彼に対し、『自信がないのか』と感じたのもこの辺りに起因しているのだろう。

 義兄達に認められる為に必死な所に、突然関羽からの評価が高い二人がやって来たという訳だ。

 

「にしても、流石に顔に出過ぎだとは思うがなぁ...。」

 

「そ、それは悪かったっての!」

 

「良く言えば裏表がないと言える、が...。」

 

「だろ...、『が』って何だよ...。」

 

「無駄に敵を作りやすい、とも言える。

 誰しも『自分を嫌っていそうな相手』に友好的に接するのは難しいだろう?」

 

「うぐっ...。」

 

 とは言え、彼の心情を聞いて尚、二人の表情には若干の呆れが見て取れる。

 同じ高圧的な印象を与えやすいだろう関羽と比較しても、その堂々とした立ち居振舞いから畏怖と威厳を感じさせる関羽に対し、張飛のそれは粗暴と捉えられかねないだろう。

 彼は先程『自分なりに色々と考えている』と語ったが、それを初対面の、しかも彼自身が厳しい表情を向ける相手に汲み取れと言うのは余りに傲慢な物言いである。

 先の謝罪も含め、彼自身その指摘には自覚がある為か、反論すら出来ない様だ。

 そんな彼の様子に二人の肩が揺れ始め、流石に我慢の限界が来てしまったのだろう。

 

「お、おめえら、そんなに笑う事はねえじゃねえか!

 ったく、これからも一緒に戦ってやってもいいって言おうとしたのによ!」

 

「はは、それじゃあまた大将に『素直じゃない』って言われちまうぜ。」

 

「ああ、確かに素直じゃない。」

 

「おめえら...、いい気になりやがって...。

 全く、どういう神経してんだ。

 この俺に軽口叩くなんてよ...。」

 

 二人を咎めるかの様な言い草に反し、張飛の顔には笑みが浮かぶ。

 彼が二人を認めている事、彼らが互いを仲間と認め合っている事がその気安い雰囲気に表れている故に。

 

「当分は俺らの所にいろよ、無名、天の助。

 いきなりいなくなったりしたら、承知しねえからな。」

 

「...ツンデレ、ご馳走様です。」

 

 

 

「兄者、漸く戻られたか。太守殿は何と?」

 

 劉焉への報告を終え、集合場所へと姿を現した義兄に関羽が声を掛ける。

 自分達の次の行動が決まった故に、当然劉備も説明を開始しようとするが。

 

「ああ、聞いて驚くな...なあ、何で天の助が吊るされてるのか先に聞いてもいいか?」

 

 彼が自らの話を中断してでも、目に映る光景の原因を問おうとするのも自然な事だろう。

 丁度、関羽と張飛の間に位置する木の枝に、何故か天の助が足を紐で結ばれ吊るされているのだ。

 よく見ればその顔面は凹んでおり、またしても張飛と衝突してしまったのかと考えるが。

 

「俺を『つんでれ』とか言いやがってよ...。

 意味は分かんねえが、何かぶん殴りたくなった。」

 

「ははは、少しの間に随分仲良くなったんだな。

 だがまあ、流石にその体勢じゃあ聞き辛いだろうから降ろしてやれよ。」

 

(それでいいんだろうか...。)

 

 張飛が言われたという言葉の意味は劉備にも分からないが、取り敢えずは先に話を進めようとしたらしい。

 正味、面倒な事から目を背けようとしている様に思えるが、渋々義兄の指示に従っている張飛を見つめつつ、無名が感じた疑問に答えてくれる者はいない。

 

「さて、話を戻すが俺達は潁川の官軍救援を命じられた。

 先の活躍が認められたという事だ。」

 

「そうかよ。...それで?」

 

「ん?それでも何も、それだけだが...。」

 

 劉備が命じられた新たな行き先の情報を確認した上で、張飛が続きを促す。

 それを、具体的な頴川での行動等の指示が出ているのかとの問いと捉えた彼は、現状自分達に出された指示は『頴川に赴き、苦戦する官軍を支援する事』のみだと繰り返した。

 現地に到着した時点での戦況に依らず、現場指揮官の指示に従えという事だ。

 幽州の危機を救ってくれた勇士達であるからこそ、その行動の責任は官吏が持つという劉焉の意思表示と言えよう。

 尤も、張飛の側は『そういう事じゃない』と言わんばかりの表情だが。

 

「ああ、もうじれってえな!

 褒美の話は、何も出なかったのかよ?」

 

「ああ、それか。

 それなりに...とは、仰っていた様な...。」

 

「ったく、こっちは命懸けて戦ってるってのに、兄者はそれで納得しちまったのかよ。」

 

 張飛が気にしていた部分_義勇軍の功績に対する対価が話題に出ると、彼自身が余り頓着していなかったのか、はたまた強く要求を突き付ける事は出来なかったのかは定かではないが、劉備は答えを露骨にはぐらかした。

 この辺りは先程張飛が『義兄弟になって日が浅い』と語っていた通り、互いの考え方の違いの擦り合わせが出来ていないのだろう。

 

「我らは褒美を求めて戦った訳ではなかろう。

 此度は、これで良いのだ。」

 

「けどよ...。」

 

「なあ翼徳、考えてもみろ。

 俺達は、大事を為す為の第一歩を踏み出したんだ。

 その辺で夢を語っていただけの俺達がだぞ。

 そう考えると、何だか胸が熱くなってこないか。」

 

 関羽に窘められて尚、納得出来ていない様子の張飛に、劉備は自分達の立場を語る。

 成程、そもそも義勇軍として自分達が起つ以前を思い返せば、褒美について悩める立場ですらなかったのは確かだ。

 そんな何者でもなかった自分達が、戦いにおける功績を認められ他の場所で苦戦する官軍を救って欲しいと言われた。

 幽州と同じ様に、天下の各地をお前達の手で救ってくれ_そう言われたと思えば昂ってくるものはないか_と。

 

「大将、少しいいか?

 俺は翼徳殿の言う事にも一理あると思うんだ。」

 

「む...、天の助、おぬしも兄者の志は聞いている筈...。

 然るに、ただ翼徳を庇おうというだけの言ではないのだな?」

 

 自身と同じ義を重んじる者と考える天の助が、義兄の『涙に暮れる者を救う』という志を知って尚、実利を重んじる発言をした事に、その真意を問う関羽。

 彼は確かに現実的な視点での発言が多いが、それは冷たさから来るものではなく良い意味で身の程を弁えていると信じている故に。

 

「そう恐い顔をしないでくれ、雲長殿。

 そう難しい話じゃない、誰も彼もが大将の志だけで動いてくれるとは限らないって事さ。

 今回、一緒に戦った義勇軍の皆が、頴川でも同じ様に戦えるとは限らない。

 何しろ、俺達全員正規の軍人って訳じゃないんだからな。」

 

「今回戦ったのは、あくまで自分達の住む場所を守る為...。

 他者を助ける為には戦えない、と?」

 

「そう不思議な事じゃないだろ?

 翼徳殿の言う通り、命懸けなんだ。

 会った事もない人間の為に命を懸けるには、相応の動機が必要だよ。

 まして、家族がいるとなったら尚更な...。」

 

 天の助の弁には、劉備も考え込まざるを得なかった。

 成程、頴川に赴き更なる勝利を収めれば、官軍から讃えられ、かの地の民衆から感謝されるかもしれない。

 だが、それと家族を置いて死ぬ事を天秤に掛けて尚、戦う事を選ぶには確かにその者にとっての強い動機が必要だろう。

 幽州の場合は、現実として自分達の身近に脅威が迫っていたのがその動機になった訳だが、では頴川に赴き、死者が出たとして、『何も残らない状態』で遺族に何と言えばいいのだろうか。

 

「そう...だな、確かにお前の言う通りだ...。

 皆にも一度、遠征参加の可否を確認しよう。

 それと太守殿にも、戦死者の遺族についての遇し方をもう少し無心してみようと思う。

 先の戦いと言い、お前達にも助けられたな。

 あの時、声を掛けて正解だったな。」

 

「役に立てた様で何よりだ。」

 

「うむ、先の天の助の弁も見事であった。

 我らも兄者を支える為に、より広くものを見なければならぬな。」

 

「大げさだって、雲長殿。

 翼徳殿はきっとこう言いたいんだってのを、代わりに言っただけさ。」

 

「お、おう、そうだぜ!

 へへ、おめえも分かってきたじゃねえか。」

 

「ははは、無名、天の助、俺はお前を気に入った。

 もしそちらもそうなら、これからも一緒に戦ってくれ。」

 

 劉備達の間には、嘘偽りない笑顔が見られた。

 彼らが天下へと雄飛する戦いの道程、そこに黒衣の戦士と謎の軟体が交わり続けるのか否か。

 その答えを知るのは、劉備の願いを聞き届けた天のみである。




 張飛のツンデレっぷりって、夏侯姫との掛け合いから逆算して考えてる感じなのかなとか思ってます。
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