真・三國無双ORIGINぬ   作:モドラナイッチ

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第九話:参陣

 豫州・頴川郡_現代の河南省に位置するこの地において、朱儁、皇甫嵩両将軍が指揮する官軍は、黄巾党に対して苦戦を強いられていた。

 この地に攻め寄せる黄巾党を指揮するのが、大賢良師・張角の弟_『地公将軍』を称する張宝であった事、真偽の程は定かではないがその張宝が妖術を使う事から、官軍、黄巾党両軍の士気の差が開いていく一方になってしまったのである。

 そんな官軍の援軍としてこの地にやって来た曹操は、幕舎にて朱儁、皇甫嵩と共に、自らと同じくこの地に援軍としてやって来た義勇軍の者達と面会していた。

 

「お前達か...?幽州の黄巾共を寡兵で鎮圧したと言うのは...。」

 

 朱儁からの問いを、義勇軍の大将なのだろう青年が肯定する。

 青年を含め、幕舎には義勇軍の中心人物なのだろう者が計五人いるが、曹操ですら初めて見る凡そ人間とは思えない謎の物体以外の四名は、皆彼とさほど年齢も変わらない様に見えた。

 彼自身、幽州における義勇軍の活躍の概要は確認したが、成程、確かに青年の後ろに控える二人の偉丈夫然り、皆精悍な顔付きだ。

 

「盧植殿の門下、涿県の劉玄徳と申します。」

 

「劉玄徳...、聞かぬな。官位は...?」

 

 今日迄前線で戦い続けてきた故に、援軍の一部が義勇軍であるという事を報されていなかったのだろう。

 同じ官軍の将である盧植の弟子であるらしい青年_劉玄徳の名に聞き覚えが無かった皇甫嵩が、彼に官位を訊ねるが。

 

「いえ、特には。

 皆様のお役に立ちたい一心で参じました。」

 

「無官か...。

 いや、こうして志ある者が集ったのは、喜ぶべき事なのであろうな。」

 

「けっ...。」

 

「翼徳殿、そういうの改めようって話したばっかだろ...。」

 

「わ、分かってるけどよ...。」

 

(己の現状を弁えず、あまつさえ有志の援軍の士気にすら配慮出来ぬか...。)

 

 劉玄徳の返答を受け、露骨に彼ら義勇軍を軽んじる態度を見せる朱儁に、曹操は彼への評価を下方修正する。

 黄巾党の勢いに押されているとは言え、この戦況を逆転し勝利を掴む意義を理解出来ているとは思えない発言故に。

 まず、この頴川の地で黄巾党の指揮を取っているのが、敵の首魁の一人、張角の弟_張宝であるという点。

 そして曹操自身も聞き及んでいる、『張宝が妖術を使用する』という情報。

 この二つが、黄巾党の兵達が士気を保ち、強く戦う事が出来る要因となっているのは間違いないだろう。

 では、そんな彼らが絶対の信を置く要素を自分達が打ち破ればどうなるか。

 この頴川にいる黄巾党は勿論、周辺に展開する彼らの仲間にも相応の衝撃が齎される筈だ。

 特に妖術に関しては、どの様な経緯で会得した技術かは定かではないものの、彼らの言う『天意』を補強し信仰を強固にする役目も担っている可能性が十分に考えられる。

 それを打ち砕き、各地の黄巾党の士気を大幅に下げられる好機と考えれば、この状況では猫の手も借りたい程なのだ。

 そんな状況下で、義勇軍という立場でありながら幽州にて敵本陣への急襲と敵将の討伐を成し遂げたという劉玄徳らに対し、期待を掛けるどころかその戦意を削ぐ様な発言をする等、とても『人の上に立つ者』としての素質がある様には思えないのである。

 事実、決して褒められた態度ではないが、劉玄徳の仲間である偉丈夫の一人は明らかに不満げであり、彼らを指揮する前から不信を買ってしまっていてもおかしくないと言えよう。

 

「そう言っていただけてありがたい。

 ですが、我らは所謂寄せ集め。

 朱儁殿らの如き大功も無く、兵の数もごく僅か。

 皆様のご懸念も、当然の事。

 なればこそ、我らに今一度、力を示す機をお与え下さいませんか?

 無官の寄せ集めでも、皆様と同じく、漢室のお役に立てると証明してみせましょう。」

 

 仲間の態度に対する指摘がされる前に、というのもあるだろうか。

 劉玄徳は何とも滑らかな口で朱儁達を煽てつつも言い放ってみせた。

 少なくとも自分達は、幽州でその勇を示している_と。

 そんな彼の言葉に、先程不満を顕にしていた彼の仲間も不敵な笑みを浮かべてみせている。

 戦場において官位などと言うものに拘る者の追求を上手く躱しつつ、仲間の戦意を取り戻し、かつそれを示す機会を自然に要求してみせた。

 お前達官軍の代わりに自分達が道を切り開いてやるとでも言わんばかりに。

 

「豪胆な。」

 

「威勢だけは良いものよ...。」

 

「だが、そこまで申すのならば拒む道理もない。

 今の我らにとっては、貴重な戦力である。

 お前達はこの曹操に従い、共に先鋒として道を開け。

 構わぬな?」

 

「無論です。」

 

 自身の言葉を、劉玄徳の大言壮語を戒めるものと受け取ったのだろうか。

 変わる様子のない二人を一瞥すると、曹操は席を立つ。

 文字通り、最早彼らと論ずる事は無いと言わんばかりに。

 

 

 

「殿、お帰りで...。

 軍議はもういいんですか?」

 

 軍議を終え、義勇軍の面々を伴って幕舎から出てきた主人を迎える夏侯淵の言葉に、曹操は首肯を返す。

 夏侯淵と共に彼を迎えた夏侯惇は、軍議の仔細よりも彼の後ろにいる見知らぬ者達に注意が向いている様だが。

 

「見掛けん連中だな。

 何処で拾ってきた、孟徳。」

 

「幽州で黄巾を蹴散らしていた義勇軍らしい。

 此度の戦、我が麾下に加わる。」

 

 有能さを認めるやすぐに囲い込みたがる主人の癖が出たかと考えた夏侯惇の問いに、曹操は義勇軍がこの場にいる理由を端的に語る。

 彼らは自分が見出したのではなく、自分達の功績によってこの場に派遣されてきたのだ_と。

 そんな自身の言葉に、義勇軍に対して目を見張る夏侯惇の隣に立ち、義勇軍の面々に向き直った曹操が自己紹介を始めた。

 

「改めて名乗るとしよう、曹孟徳だ。

 次の戦では、奮戦を期待する。」

 

「はっ。」

 

「へえ、官軍の奴らよりよっぽど腕が立ちそうだ。

 俺は夏侯妙才。

 殿の力になってくれるってんなら大歓迎だ、なあ惇兄。」

 

「夏侯元譲だ。

 孟徳の下で戦うなら覚えておけ。」

 

「ありがたいお言葉、感謝します。

 では、こちらも改めて。

 私が義勇軍を率いる劉玄徳、こちらの二人が義弟(おとうと)の関雲長と張翼徳です。」

 

 曹操達に倣い、劉備も義勇軍の面々の紹介を始める。

 自分達が義勇軍だと聞いて尚、侮る様子のない夏侯惇・夏侯淵に、彼の義弟達はどうしても先の朱儁らの態度を思い返してしまった様だ。

 

「ふん、さっきの連中よりは話が通じるみてえだな。」

 

「官軍と言えど、内実は様々という事だろう。

 黄巾と同等以上の非道を働く者もいると聞く。」

 

 朱儁達の態度だけでなく、関羽の場合はかつて実際に悪どい官吏と衝突した事による実感もこもっているのだろう。

 曹操達を批難する意図はないものの、官軍という存在そのものと黄巾党が跋扈する現状から、若干棘のある彼の言葉に劉備の話を遮り夏侯惇が反応する。

 

「寧ろ、そうした連中こそが孟徳の敵だ。

 進んで_」

 

「あー、えっと、惇兄...。」

 

「何だ淵!!

 話の途中だぞ!!」

 

「...すんません...。」

(いや、そっちの二人の紹介がまだなんだけどよ...。

他人の話遮るのは良いのかよ、惇兄...。)

 

「話が途中になったが、孟徳が黄巾鎮圧に身を投じたのも、官吏の腐敗が齎した災いを拭う為。

 そこの黒服のお前と、よく分からん見た目のお前も心しておけ。

 孟徳は我欲を満たす為の行動はせん。」

 

「あ、ハイ...。」

 

「この目で見てから判断しよう。」

 

「...そっちの奴は兎も角、妙に素直だな。

 まあ、孟徳の側にいればすぐに分かるだろうが。」

 

 平時と変わらぬ泰然自若な黒服の男_無名の豪胆さを感じる返答は兎も角、謎の物体_ところ天の助の余りに素直な返答に逆に面食らってしまった様子の夏侯惇。

 天の助からしてみれば、夏侯淵に対しての態度から怒らせると面倒そうだと感じただけなのだが、どうやら自分の言動が原因だとは露とも思っていないらしい。

 

「...では、水が向けられましたので、二人の事も。

 こちらが無名、こちらがところ天の助です。」

 

「無名...?

 まさかそれが本名だと言う気か?」

 

「いえ、彼は記憶を失っている故に、便宜的にこう名乗っているのです。」

 

「記憶を!?

 そりゃあ、難儀だな...。」

 

(ふむ...、隙の無い立ち姿に反し存在感が希薄なのはそれ故か...。)

 

 『無名』という常識から外れた呼ばれ方から、彼の素性を『名を明かせない危険人物』と予想した夏侯惇が訝しむが、すぐさま劉備がその理由を補足した事で彼の剣呑な雰囲気は霧散し、曹操と夏侯淵も無名が抱える事情にそれぞれ思う所がある様だ。

 

「だが、少なくとも義勇軍に参加し、黄巾討伐の意思を示しているのなら、私はお前を『人である』と判断する。

 己を律する法無くば獣と変わらぬ。

 そこに黄巾も官軍も、記憶の有無もない。

 獣に落ちた者は等しく罰する_それまでの事だ。」

 

「...ああ、確かにそうだな。

 決まり事ってのは、守らなきゃ色んなもんを駄目にしちまう...。」

 

 曹操の考えを肯定したのは、ここまで殆ど言葉を発していなかった天の助だった。

 必然、周囲の視線は彼に集まる事になり、特に曹操は品定めする様に彼を注視するが、それに対する返答は至極あっさりとしたものだった。

 

「何、俺も食品の端くれってだけさ。」

 

「...!」

 

「ほう...、確かにおぬしらしい着想であるな。」

 

「いや、殿もそっちのあんたも勝手に感銘受けてないでこっちにも...。」

 

「ふん...、小難しい事は戦の中で見極めれば良かろう。

 そいつの言う事も含めてな...。

 そろそろ戦の準備に掛かるぞ、孟徳。」

 

「うむ、いいだろう。

 お前達義勇軍も戦に備えておけ、委細は追って伝える。」 

 

「...。」

 

(夏侯淵殿...、こんなしょうもない事でそんな悲しそうな顔を...。)

 

 自らの考えが及ぼぬ範囲に対しては、主にその判断を一任するか、もしくは戦場という極限状態の中で見極める_自身の不得手とする物事を認め、弁える夏侯惇の振舞いは間違いなく彼の美点であり、現実として軍議が終了した以上、親交を深めている場合ではないのも事実だ。

 故に、彼の言を受け入れた曹操と劉備達が準備の為に逆方向へと歩き始めるのは自然な事なのだ。

 そして、哀愁漂う表情の夏侯淵が一人物理的にも精神的にも取り残されるのも自然な事なのである。

 

 

 

「なあ、さっきの食いもんがどうのって、結局何なんだ?」

 

「殿にはあの天の助って奴の言ってた意味が分かってるんでしょう?」

 

 互いに自軍の待機地点へと戻っている最中の劉備達と曹操達。

 奇しくもこの時、双方から同様の趣旨の疑問が投げ掛けられたのである。

 義兄関羽へと問い掛けた張飛と、己が主に問い掛けた夏侯淵の言葉だ。

 先の一幕における天の助の言葉に要領を得なかった二人が、彼の言わんとする事を理解していた様子の者へと説明を求めたのである。

 口にこそ出さないものの、それぞれの隣を歩く無名と夏侯惇も、彼の言葉の趣旨が気になる様子だ。

 

「ふむ...。

 では翼徳、先の曹孟徳殿が仰られていた事は理解しているか?」

 

「あー、法を守らなきゃ獣がどうたらってやつだろ...?」

 

「その『獣』が、今で言う黄巾党か...。」

 

「左様。

 人を人足らしめる理_それをお互いが守るという前提が成立するからこそ、我らは文化を形成し得た。」

 

 義弟の質問に答えるに当たり、関羽はまず曹操の考えを噛み砕く事から始めた。

 『獣』という表現を無法者と言い換えれば、その存在が人々が営む生活を破壊する害悪と化してしまうと理解出来る。

 

「それが何で飯に繋がるんです...?」

 

「調理の手順を間違えれば、自ずとその味は落ちる。

 不味くなるだけならまだしも、食材を無駄にするどころか、程度によっては毒にすら成りかねん。

 そして、今漢室という『肉体』を破壊しているのは、宦官共の出鱈目な『料理』だと言う事だ。

 成程、さぞ病の温床となるであろうな。」

 

 では、その『法を守るべき』との考えが何故『食品』発言へと飛躍するのか_それを曹操が間髪入れずに理解出来たのは、彼自身も先の『獣』との表現然り、詩的な言い回しを多用する傾向がある故なのだろう。

 自らの考えを『食事』という、より根源的な欲求によって解釈し、返答された事に、彼は薄く笑みを浮かべる。

 

(ところ天の助...、我が同志と成り得るか見せて貰うとしよう。)

 

 謎が深まるばかりの存在に俄然興味を示した曹操。

 そんな彼の背中にこんにゃくが貼り付いている事は、まだ誰にも気付かれていない。




 曹操が関羽に執着するのって、人材マニアとしてだけでなく、何となく気質や考え方が近いのもあるんじゃないかなと思っていて、今回関羽が曹操の考えを解説してるのも、その辺の妄想をベースにしてます。
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