猫はシブヤにいます   作:大森依織

12 / 22



消滅の危機はどうしたって?
すごく言い難いんですけど……いつの間にか、終わってました。






12匹目 セカイが回る

 

 

 

 

 

 

 

 セカイに来たら、僕の世界(視界)が回り始めた。

 

 

「うわぁ、猫だよ。猫がいるよ、絵名(えな)! まふゆのセカイに可愛い猫がいるなんてビックリだよ!」

 

「雪の時ならともかく、まふゆのアレを見た後だと瑞希(みずき)の言うこともわかるかも」

 

「だよね! まふゆもちゃんと可愛いのが好きみたいでボク、安心したなぁ。ほーれ、ぐるぐるー」

 

「眉毛みたいな変な模様があるし、まふゆが猫好きだったなんてちょっと意外だけどね」

 

 

 助けて、タスケテ……

 

 ミクに呼び出されたと思ったら、まふゆと比べたら明らかにテンションが高い薄ピンク髪の子に抱っこされて逃げられないし、短い茶髪の女の子からは『変』だとかサラッと酷いこと言われてるし。

 

 僕が何をしたというのだ。

 

 少なくとも、セカイという場所で見知らぬ人に捕まえられるようなことはしてないはずなんだけど、どういう状況なのか。

 誰か助けて、説明してほしい。誰でもいいからどうにかしてください。

 

 

「みゃぁ~」

 

「いやぁ。この子、すっごいおとなしいよね! 流石はまふゆのセカイの子だよ」

 

「……うーん。見間違いじゃなければ、ぐったりしてるように見えるんだけど」

 

 

 茶髪の子の言う通り、今の僕は予想外の人間の出現に元気がゴリゴリと削られている。

 

 冷水に前足を伸ばしたはずなのに、何故か温水だったかのような。

 まふゆやミクとは遠く感じてしまうタイプの子に、僕は風邪を引いてしまいそうだよ。

 

 

 

「瑞希」

 

「ま、まふゆ?」

 

 

 振り回される僕の視界に、待っていた紫色が入ってくる。

 ピンクの子が漸く動きを止めてくれたので、僕はやっと一息つくことができた。

 

 

「マロを下ろしてあげて」

 

「え? あ、うん」

 

 

 白髪でジャージ姿のお化けさんみたいな女の子とミクという白白コンビを隣に侍らせたまふゆの鶴の一声で、僕はやっと抱っこ状態から解放される。

 初対面の人が1人増えて、合計3人という落ち着かない状況だけど、今はどうでもいい。

 

 

「にゃーんっ」

 

 

 まふゆ! 僕はまふゆを信じてたよ!

 言葉が完全に伝わらなくても、僕らの絆の力は以心伝心を可能にするのだ。

 やっぱり後輩。僕の後輩しかいない──

 

 

「マロはこっち」

 

「にゃ?」

 

 

 う、裏切ったな、我が後輩よ!

 

 解放された喜びで駆け寄った先輩を、どうして後輩が裏切るのさ!?

 マロはこっちって言って、抱き締めるんじゃないよ。抱かれ疲れたって言ってるんだよ、まふゆの裏切り者ーっ。

 

 そう訴えているけれど、ミクが黙ってるので誰にも伝わらなかった。

 そうだね、ミクはまふゆの味方だったね。悲しいことに、今の僕には味方がいないんだ。

 

 

「えっと。その子もミクと同じ、まふゆのセカイの住人……住猫? って認識でいいのかな」

 

 

 まふゆの腕の中でいじけている間に、『ジャージ』と呼ばれている衣服を纏った白髪の少女が疑問を呈する。

 僕のことに対しては触れられなかったのに、少女の疑問については首を横に振るミクとまふゆが答えた。

 

 

「ううん。マロは外から招いた子だから、このセカイの子じゃない。どちらかというと(かなで)達と一緒だよ」

 

「マロはセカイやニーゴができる前から一緒だから。私の猫ではあっても、セカイから生まれた猫ではないよ」

 

「そうなんだ……あれ? でも、猫じゃスマホを操作できないよね。どうやって入ってるの?」

 

「さぁ、知らない」

 

「どうやってだろう?」

 

 

 まふゆが興味なさそうに投げ出し、その横でミクがこてんと首を傾げる。

 誰もわからない状況になったことにより、視線が勝手にこちらに集まってしまった。

 

 ついでにさっきまで賑やかだった2人の視線も加わって、僕の体は視線のハリネズミ状態になりそうだ。

 

 気になるのはわかるけど、何と言ったらいいのかね。

 彼女達が操作するスマホのように、わかりやすいアイテムを使ってるわけでもないし。

 

 

(うぅむ、伝えるのが難しいよね。縁があって、許可をもらったからとしか言えないや)

 

「伝えるのは難しいって」

 

 

 ミクがあからさまに僕の方を見てから、首を傾げる3人へと視線を向けたからだろう。

 ピンクの子が「えーと」と言い難そうに口を開く。

 

 

「ミクって、猫の言葉がわかるの?」

 

「猫かはわからないけど、マロの言葉ならわかるよ」

 

 

 ミクの反応が予想通りだったらしく、ピンクっ子は目をきらりと輝かせる。

 

 

「それってわかってるってことじゃん! すっごいなぁ、バーチャルシンガーってそんな不思議な力もあるんだね」

 

「意思疎通ができるのも凄いけど、マロもその辺の猫より賢そうだよね……ちょっと複雑かも」

 

「あー。猫とはライバル要素しかないもんねぇ、えななんと」

 

「ちょっと、猫とライバルって何よ!」

 

「おやおや? 怒るってことは自覚、あるんじゃないのー? 自撮りとか自撮りとか、後は自撮りとか〜」

 

「3択全部一緒じゃない! もう、バカにしてーっ」

 

「わー、絵名が怒ったぁ」

 

 

 急にピンクっ子と茶髪の女の子が掛け合いを始めた上に、戯れ合いまでし始めた。

 何なんだ、この2人。まふゆと白髪っ子と比べると賑やかさが違い過ぎるんだけど。

 

 

(まふゆが何も反応しないのが意外だなー……あっ)

 

 

 静かなのが気になって顔を上げると、闇を感じさせる微笑みを(たた)えたまふゆがいた。

 これはアウトではなかろうか。僕は心の中で両手を合わせる。

 

 合掌したのとほぼ同じタイミングで、まふゆは口を開いた。

 

 

「瑞希、絵名──そろそろ、落ち着いてくれる?」

 

「「ひぇっ……は、はい」」

 

 

 かわいそうに、引き際を見誤った2人は青ざめながら首を縦に何度も振った。

 全員が黙ったのを見計らって、まふゆは小さく頷く。

 

 

「今日、皆を呼んだのはこの猫──マロを紹介する為。ミクによるとちゃんと言葉も理解してるみたいだから、自己紹介してほしい」

 

「やっぱりちゃんと理解してるんだねー。じゃあ、トップバッターはこのボク、暁山(あきやま)瑞希でーす♪ まふゆとはサークル活動仲間で、ボクは動画担当してるよー。はい、次は絵名!」

 

「え、私? イラスト担当の東雲(しののめ)絵名です……って、猫相手に何やってんだか」

 

 

 薄ピンクの髪が特徴的な瑞希はノリノリで、短めの茶髪と三つ編みが特徴らしい絵名は文句を言いながらもあっさりと自己紹介をする。

 

 

「奏」

 

宵崎(よいさき)奏、作曲担当です……これでいいかな」

 

「名前さえ教えてたら大丈夫だと思う」

 

 

 まふゆに言われて最後に名乗ったのが、幽霊みたいな雰囲気と長い白髪の持ち主、奏だ。

 

 まふゆに負けず劣らず冷たいというか、興味なさそうに名前を告げる奏は少し上の空である。

 サークルとやらの作曲担当ということは、恐らく噂のKというのは奏のことなのだろう。

 

 セカイに来る前から薄らと聞いていた話的にも、作曲以外には興味なさそうな前知識があったので、そこまで悪印象はない。

 

 まふゆに言われたとはいえ、猫相手に自己紹介してくれるだけいい子だよね。

 普通、獣に自己紹介なんてしないもの。

 まふゆに頼まれたとはいえ、してくれるこの子達はかなりいい子である。

 

 

「……じゃあ、曲作りの途中だったから戻るね。またナイトコードで」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 紹介が終わった奏はセカイから消える。

 まふゆも目的を達成して満足したのだろう。

 抱き締めていた僕をあっさりと解放し、瑞希と絵名に向き合った。

 

 

「2人もありがとう。紹介し終わったし、マロに変なことさえしなかったら解散していいよ。それじゃあ、また」

 

「えっ、まふゆ?」

 

「あっ、ちょっと!」

 

 

 自由だなぁ。

 呼び出したらしいのに、まふゆは2人を残して消えてしまった。

 

 困惑した瑞希と、呼び止めようとした絵名は示し合わせたように顔を見合わせる。

 無言ではあるものの、どうしようと言ってるのが伝わってくる状況に、流石の僕も申し訳なくなった。

 

 

(うちの後輩がごめんよ)

 

「絵名、瑞希。マロが2人に『まふゆがごめんね』って言ってる」

 

「は? あんた達が謝ることじゃないでしょ。別にいいわよ、謝るならあの天才様だし」

 

「絵名、言い方ー。ま、でもボクもキミが悪くないって点では同じ意見だからねー」

 

 

 絵名は不機嫌そうだけど、猫から見てもわかりやすいから助かる。

 だけど、こっちをじっと観察してくる瑞希は笑みを浮かべてはいるものの、何かを企んでそうで落ち着かない。

 

 

「ふふふ、ちょっと試したいことができちゃった。ミクとマロはその場で動かないでねー」

 

 

 その予感は正しかったらしく、ニンマリと笑った瑞希は僕とミクの間に入り込み、こちらに背を向ける。

 徐に両手を後ろに回して、楽しげな声を響かせた。

 

 

「さて、問題でーす。ボクは今、何の手の形をしてるのでしょうか?」

 

(右手がグーで左手がチョキだね)

 

 

 ……これ、()に聞いてるのかな?

 

 

「右手がグーで、左手がチョキだって」

 

「おぉっ、正解! じゃあ、これは?」

 

 

 少し心配だったけど、どうやらこの対応で正解だったらしい。

 ミクの答えに嬉しそうにしているので、次の手の形も答えた。

 

 

(右手は親指を立てて、左手は……確か、狐の形だったかな?)

 

「右手は親指を立てていて、左手が狐の形?」

 

「おぉー、すっごいなぁ。正解だよ!」

 

 

 瑞希は大袈裟に拍手した後、両手を組んで大仰に頷いた。

 

 

「マロもミクもありがとう。知りたいことも知れたし、ボクは満足だよ!」

 

「そうなんだ、よかったね」

 

「本当にありがとね、ミク! ……さてと。ボクも満足したし、もう帰ろっかなーって思ってるんだけど、絵名はどうするの?」

 

「私も帰ろうかな。特に用事はないし、帰ってラフの続きをしたいし」

 

「じゃあ帰ろっか。2人共……というよりは、1人と1匹か。またね〜」

 

 

 嵐のような2人が立ち去った後、残ったのは僕とミクのみ。

 見下ろしてくるミクはこのままだと辛くなりそうだったので、ちょうど良さそうな造形物の上に乗り、体を丸めた。

 

 

(ちゃんとまふゆと結べたみたいだね。お疲れさま、ミク)

 

「うん。マロもいるし、これからのセカイもきっと賑やかになると思う」

 

(えっ。僕はまだ、ここに来てもいいの?)

 

「どうしてダメなの?」

 

 

 当然のように僕も頭数に入っていて、ビックリした。

 縁を結べばこのセカイともお別れだと勝手に思っていたのは、僕だけだったらしい。

 

 

(こんな怪しい猫を招いちゃ、まふゆもキミ達も危ないかもしれないよ?)

 

「マロはマロだから、大丈夫。マロがセカイに来ない方がまふゆも喜ばないし……わたしも、寂しい」

 

(もう……しょうがないにゃー)

 

 

 まだ居てもいいって言ってくれるのなら、そのお言葉に甘えさせてもらおう。

 ミクを放っておいたら、いい人そうだとかそんな理由で(セカイ)の鍵をすぐに開けちゃうそうだし。

 

 

 まぁ、でも。

 ……ありがとね、ミク。

 

 

 

 

 

 

 






☆マロ知識
現状(・・)だと、マロが遠慮さえしなければ『誰もいないセカイ』以外のどんなセカイにも勝手に入れるし、実はセカイに入る許可云々〜なんて必要ない。
あくまで入る入らないはマナーであって、守るつもりがなければ手当たり次第で侵入できてしまうのである。


……

まさかの本当にメインストーリーをすっ飛ばす暴挙。
原作のあの場面でにゃーにゃー鳴いていたらシリアスさんが旅立ってしまいそうだったので、断念しました。

プロセカさんは初期の頃は結構、辛辣な態度やセリフを言う子が目立つのですが、奏さんがちょっと素っ気なかったのは一応、理由があります。
その理由は次回のお楽しみにしておきましょうね……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。