猫はシブヤにいます   作:大森依織

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後悔はしてませんが、早めに動くとか……もう少しやりようはあったなと反省はしています。





16匹目 僕はねこです!!

 

 

 

 

 

 

 今日も元気に縄張りをパトロールをしていると、自慢のヒゲが疼いた。

 ミクが呼んでいる。この控えめな呼び方は緊急の案件ではなさそうだ。

 

 

(この時間って、ひとりぼっちなことが多いんだっけ)

 

 

 何もないセカイでほぼ1人の時間を過ごすのは退屈だろう。

 僕はパトロールを切り上げ、ミクの元へ向かうことにした。

 

 

(よーい、しょっ)

 

 

 ぴょんっと跳んで、誰もいないセカイへ。

 糸を辿ればあら不思議、すぐ近くにミクがいるところへ到着した。

 

 

(今日もお邪魔するよ、ミク)

 

「いらっしゃい、マロ。来てくれてありがとう」

 

(これぐらいならお安い御用さ)

 

 

 僅かに口角を上げて喜んでくれるミクにちょっとだけカッコつけてから、僕は本題に入った。

 

 

(それで、今日はこのまま会話を楽しんでも大丈夫なのかな?)

 

「その前に1つだけ。まふゆから伝言があるよ」

 

(おや。昨日会った時は何も言ってなかったけど)

 

 

 僕の頭は小さいけれど、昨日の話を忘れるほどじゃないはず……

 

 

「明日の話だから、伝え忘れてたって」

 

(おぉう、そっかぁ)

 

 

 僕らの距離感ってそんなものだし、小さいことは気にしたって仕方がない。

 

 僕が悪かったわけじゃないのでヨシ。

 仮に僕が悪かったとしても、猫だからヨシ! オールオッケーだ。

 

 

(明日といえば土曜日だけど、何かあるの?)

 

「予備校の後に皆で人形展に行くんだって」

 

(ふぅん)

 

 

 展っていうのはたぶん、展覧会と呼ばれるモノを指す言葉のはず。

 人形の展覧会。まふゆ1人なら行きそうにないスケジュールだけど、たぶん誰かが誘ったのだろう。

 

 

(いいことじゃん。僕が先約だったわけでもないし、伝言しなくても遊びに行ったらいいんだよ)

 

「もしかしたら、お昼過ぎからマロを撫でる予定だったのかも」

 

(……そんな予定は潰れていいよ、うん)

 

「後は、夜から撫でるって予約もあるかも?」

 

(その予約も潰れていいかなー)

 

 

 ほいほい撫でさせる程、僕はそんな安い猫じゃないよ。

 そんなおかしな予定は破棄である。僕が認めません。

 

 

(まふゆの予定はいいとして、ミクの用事はそれぐらい?)

 

「うん、後はいつも通りに話したい」

 

(りょーかい。今日は何の話にする?)

 

「今日はマロについて聞きたい」

 

(僕の? 可愛いところや美猫な姿の保ち方、サラふわ毛並みのコツとか。色々あるけど、どれがいい?)

 

「……それはまた今度で」

 

 

 残念、お求めの話題はこっちじゃなかったようだ。

 

 僕としてはこっちの方が有難かったのだけど、隣に腰を下ろしたミクの口からは全く違う話が出てきた。

 

 

「マロはどうして、人から見えなくなるぐらい消えそうなってるの?」

 

(ド直球だなぁ……まぁ、気まぐれでね。らしくないことをした結果だよ)

 

「らしくないこと?」

 

(人助け。それも、分不相応なね)

 

 

 いつもだったら、ソレが付き合いのある人間の、人生最期のライブであろうが動かなかっただろうに。

 女の子の『待つ』って言葉が自分の姿と重なって、らしくないことをした結果が今の透明猫さんである。

 

 

(我ながら身の丈にあってないことをしたよねー)

 

 

 わかっていたのだ。

 猫から成り上がった分際で、死ぬ定めの人間に奇跡を手繰り寄せたらどうなるかだなんて。

 

 しかも、相手は末期の膵臓癌。回復なんて絶望的だという病だ。

 そんな病気相手に奇跡を起こしちゃいましたーとか、僕がまだ存在できてる方が驚かれること間違いなし。

 

 これも全ては日頃の行いが良かったからかな。

 いやぁ、僕ってばミラクルキャットだね。

 

 

「そっか。でも、そのおかげでまふゆと会えたんだとしたら……わたしは、マロがその人のことを助けてくれてよかったと思う」

 

「……」

 

「ありがとう、マロ」

 

 

 まさかミクからお礼を言われるとは思ってなかったので、反応が遅れてしまった。

 

 

(……別に、狙った訳じゃないし。未だに何でまふゆには見えてたのかわからないんだから、ただの偶然だよ)

 

「それでもありがとう」

 

「うにゃぁ」

 

 

 まだ馬鹿だとか言われた方が良かったんだけど、まさか感謝されるなんて。

 純粋な子はこういうところが参っちゃう。毛がぞわぞわしてきたよ。

 

 

(にゃあ、もう! 話したいことがそれだけなら、僕は帰るよ!)

 

「そわそわして落ち着かないから?」

 

(そこは言わないで)

 

「わかった」

 

 

 まふゆといい、油断も隙もない。

 僕が一息入れたのを確認してから、ミクは首を傾げた。

 

 

「そういえば……存在感が少し濃くなったけど、マロはまだ人に見えてない状態なの?」

 

(だねぇ、まだまだ透明猫さんだよ。瑞希達ならもう、あっちでも見えるみたいだけど)

 

「そうなんだ。じゃあ、その前はまふゆ以外の人には見えてなかったんだね」

 

(そうなる……いや、1人だけいたな)

 

 

 思い出すのは「ぬぉー」って、変な大声を出していた金髪の少年。

 あれから1度も会っていないけれど、元気でやってることだけは不思議と確信できる少年だったな、彼。

 

 

「その人とまふゆの共通点を探せば、見える理由がわかるかもしれないね」

 

(共通点といってもなぁ……相手は男の子だし、金髪で声も大きい。その上、未来のスターを名乗る底なしの明るさがある子だったんだけど。どうかな、共通点はありそう?)

 

「共通点……」

 

(ごめんって)

 

 

 意地悪をしてしまった自覚もあるので、膝を抱えてしょぼんとした顔をされるとこちらが謝るしかない。

 

 

(でも、ミクの案はいいかもしれないね)

 

「そうなの?」

 

(まふゆのことは見てたけど、少年の方はあまり知らないんだ。今度会ったら観察するのもアリだね)

 

「よかった。ちゃんと観察、できるといいね」

 

(うぐっ)

 

 

 ミクの悪意のない言葉に僕は体を丸めた。

 

 そう、問題はちゃんと観察できるかどうかなのだ。

 だって僕、彼の居場所すら知らないからね。最初に出会った公園も度々見に行っているけど、今の所、奇跡の再会には至っていない。

 

 もう会わないだろうと、糸も記憶していないポンコツさ。

 僕のうっかりが光輝いて見えるね。是非ともその輝きは鈍ってほしかったけど。

 

 

(まずは探すところからかなぁ)

 

「頑張って」

 

(ほどほどに頑張るよ)

 

 

 両手を握って応援されたので、明日は頑張って未来のお星さまを探すことになりそうだ。

 短い足を使って彼の行方を探すことを考えると、少し気が遠くなった。

 

 

(とりあえず、人が多いところを巡るしかないかぁ)

 

 

 恐らく彼もまふゆと同じ学生だろうし、土曜日に学校にいる確率は低いはず。

 部活動とやらをしてるのなら今回は諦めるしかないが、してないことに賭けて人の多いところを回ってみよう。

 

 

「明日はどこへ探しに行くの?」

 

(それは迷ってるところ。見えてる人を探すから、ショッピングモールとかは危ないし)

 

 

 仮に見られても違和感を持たれにくそうな、人の多いところを記憶から探し出す。

 

 

(あっ、そうだ。フェニランだ!)

 

「フェニラン?」

 

(フェニックスワンダーランドっていう、すっごい大きい人間の遊び場の略称だよ。あそこなら猫が迷い込んでも平気だと思う)

 

 

 フェニランにお爺ちゃんがいた時はよくお邪魔していたので、バレても大騒ぎになることはないはずだ。

 捕獲されて摘まみだされるようなことが起きたら、その時に考えよう。

 

 今、悶々と考えたってしょうがないのである。

 かなり賑やかな場所なのだから、猫1匹分の騒ぎになってもきっと大丈夫さ。

 

 

(ありがとう、ミク。明日の予定が決まったよ)

 

「そっか。何か良いことがあったらまた聞かせてね」

 

(もちろん。相手さんが見つからなくても、お土産になるような面白いことは見つけられるようにするよ)

 

 

 猫の身分じゃ物理的な土産は難しいので、話ができるように『ネタ探しも意識しておく』と心の中にメモした。

 

 

「……あっ。マロにもう1つ聞きたいことがあったの、思い出した」

 

 

 話も一旦終わった後に、宙に視線を彷徨わせていたミクがはっとした顔を見せた。

 一体何を忘れていたのだろうか。首を傾げる僕とは反対方向に、ミクも小首を傾げる。

 

 

「マロの毛ってどうなってるの?」

 

(それ、触りたいって催促?)

 

 

 身構える僕にミクは緩慢な動きで首を横に振った。

 

 

「ううん。瑞希が気になったから、代わりに聞いてほしいって」

 

(そっか、僕と話せるのはミクだけだもんね)

 

 

 僕と瑞希が向き合ったって疑問は解消されないだろう。

 キャッチボールをするつもりが、隣に並んで壁打ちすることになってしまうのが目に見えていた。

 

 

(僕の毛について聞きたいみたいだけど、それって毛並みの話?)

 

「抜け毛が気になったみたい」

 

(えっ、そこ?)

 

 

 もっと本猫を気にしてほしいものだが、まさか抜け毛なんてものが気になるとは。

 

 

「マロの毛が服に全くついてなかったのが気になったんだって」

 

(へぇ、そんなのも気になるんだねー……ん? 1度抱えた程度の瑞希が気にするなら、今までずっと僕を触ってきたまふゆは何で気にしてないの?)

 

「お母さんに言われないのなら、どうでもよかったのかも」

 

(あぁー)

 

 

 まふゆならありそうな話だ。ミクの勝手な予想なのに納得してしまう。

 

 

(おっと、僕の毛の話だったよね。説明するのも面倒だし、ちょっと実演するよ)

 

 

 が、今は瑞希の疑問の解消の方が先だろう。

 僕はミクに許可を得て、軽く毛づくろいをした。

 

 くしくし、くしくし。

 これぐらいでいいだろう。口に毛玉を咥えて、僕はミクの方へと顔を向ける。

 

 

(この毛をよく見ててね)

 

「うん」

 

 

 ミクが頷いてから、僕は咥えていた毛玉を口から離した。

 普通ならば何もないセカイに毛玉は落ちるのだが、僕の毛玉は地面に触れることなく消えた。

 

 

「消えた?」

 

(そう、僕から離れた時点で消えちゃうんだよ。毛玉みたいな大きさだと消えてるのがよくわかるけど、抜け毛程度じゃすぐに消えちゃうからよく観察しててもわからないよね)

 

 

 ミクは穴が開きそうなぐらい、毛玉が落ちた筈の場所を見つめる。

 見ていても意味がないと感じたのか、じぃっと観察したその熱い視線をこちらに向けた。

 

 

「マロは本当に猫?」

 

(猫だよ!? まごうこと無き三毛猫だよ!)

 

「でも、猫は人から見えるし、抜け毛が勝手に消えないと思う」

 

 

 そう言われてしまうと、その通りだけれども。

 残念ながら、僕には『吾輩は猫である』と誰かが持ってた教科書の引用をすることしかできない。

 

 出会うと殆どの子から頭を下げられるものの、ちゃんと同族扱いされるという実績もある。

 僕が猫であることだけは、どうしても譲れなかった。

 

 

(ミクには僕が何に見えてる?)

 

「三毛猫に見えるよ」

 

(じゃあ、猫でいいでしょ。僕が猫だと思ってるのなら、僕という存在は猫なのさ)

 

「そうなんだ」

 

(そうなのです)

 

 

 猫仲間からは猫認定されてるし、人からもお上の方々からも猫ちゃんやら獣風情がとか言われてるので、僕は猫なのです。

 

 

 

 






☆マロ知識
マロの自慢の毛並みは誰かに手入れしてもらわなくても自助努力の範囲内で綺麗にできる理由は、この抜けたら消えてしまう不思議な性質からである。


……

ミッション『広げよう、猫の輪』、スタートです。
ここからはニーゴの皆さんに協力してもらいながら、他のユニットの面々との関わりも徐々に広げていきます。

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