猫はシブヤにいます   作:大森依織

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かしこい猫なので、危ない時は近付きません。






18匹目 猫のかしこい回避術

 

 

 

 

 

 

 

 自己紹介も写真撮影も無事に終わって、えむの腕から解放された後。

 僕はワンダーランズ×ショータイムの練習を見学していた。

 

 ショーそのものはお爺ちゃんがいた頃によく見ていたけれど、練習風景を見学するのは初めてである。

 そういうこともあって、ショーの練習というものは何をするのか、殆ど理解していない。

 

 司が空を飛んでいたのもどうやら演出の為だったらしく、鳥になりたかったとか、頭のネジがどこかに飛んでいったわけでもなかったことも、今知ったぐらいの初心猫だ。

 

 

(うーん、でも……僕が知ってるショーは人がポンポン飛ぶようなことはなかったんだけどなぁ。最近のショーって凄いんだね)

 

「ぬぅぉぉぉおおッッ!?」

 

 

 今も、司がワンダーステージの天井付近まで飛び上がってるし、ショーキャストというのも大変そうだ。

 ステージの上で練習していたら、頭から突き刺さってるんじゃないだろうか。人を楽しませるのも一苦労である。

 

 

(透明猫さんになっている間にショーの常識も随分と変わったみたいだし、時間の流れは早いなー)

 

 

 (ひと)は飛ぶし、ネネロボなんていう微妙に寧々に似てるように見えなくもない『ロボット』と呼ばれる絡繰りもショーに参加している。

 

 こんな小さなステージにもネネロボという存在がいるのだ。

 僕が見逃してただけで、あっちの大きな舞台にもロボットが大量にいるに違いない。

 

 フェニランだし、マスコットキャラクターを模した『フェニーくんロボット』が舞台の裏側に所狭しと並んでいるのだろう。

 ……想像すると舞台裏というよりも悪の組織の裏側的な何かに感じてしまうけど、セカイなんて不思議空間もできてるんだし、そういうこともあるのかもしれない。そう思うことにした。

 

 

「──よし、今日の練習はここまでにしよう!」

 

「は~い。じゃあ、あたしはマロちゃんの所に行ってくるねっ」

 

「うむ、気を付けて……って、言ってるそばからステージを飛び降りるんじゃなーいっ!」

 

 

 司に叫ばれても全く気にした様子もなく、えむはしなやかな身のこなしでステージから僕がいる観客席の方へ着地し、そのままこちらに向かって走ってきた。

 

 

「マロちゃん、お待たせっ。待っててくれてありがとう!」

 

「みゃあ」

 

 

 こっちも練習を見ていて楽しかったので、気にしないでほしい。

 そういうわけで、再び抱き締められるのは遠慮しておこうかな。

 

 差し伸べられるえむの両手をひらりと躱して、僕はステージの方へと向かった。

 

 後ろからちょっと寂しそうな「あっ」という声が聞こえたけれど、残念ながら僕はそこまで安い猫じゃない。

 本日の抱っこ時間は超過しています。また明日なら気が変わってるかもね。

 

 

「にゃー」

 

「今日はもう、抱っこはイヤイヤーって感じなのかな?」

 

「にゃん」

 

「うぅ、そっかぁ。残念だけど、ぎゅってするのはまた今度だね」

 

「にゃっ」

 

 

 わかってくれたのなら、気にしなくてもいいさ。

 僕が短く鳴くと、えむの表情がしょぼんとした顔からニッコリ笑顔に変わった。

 

 

「わぁ、ありがとう! じゃあ、また。また、会いに来てくれた時にナデナデもさせてね!」

 

 

 嬉しそうに小指を差し出してくるえむは、約束だよと言わんばかりに良い笑顔だ。

 

 

(本当に、僕は考えなしな猫なんだなぁ)

 

 

 まさか、鳳グループのお嬢様だと聞いていたえむが、そこらの野良猫を待っていたとは思うまい。

 

 いくら僕が可愛い愛され系にゃんこだとしても、所詮は野良扱い。

 飼われた存在ではないのだから、小さい時に会った猫を覚えていた上に待っているなんて、僕の頭では想像できなかったのだ。

 

 

(ま、今の所すぐには消える予定はないし、今度は気を付けるよ)

 

 

 そういう意味も込めて小指に前足を添えると、えむは満面の笑みで頷いた。

 

 そして、そんな僕らを少し離れた場所から見ている人達が3人、こそこそと話している会話が僕の耳に届く。

 

 

「賢いとは思っていたが、本当にえむの言葉を理解しているかのように動いているな」

 

「そうだね。あっちの事といい、司くん達と出会ってからは面白いことが起きていて飽きないよ」

 

 

 コソコソ喋っているつもりみたいだけど聞こえてしまう司の声と、興味深そうにこちらを観察している類の目。

 

 

「っていうか。えむがあの猫を『マロちゃん』って呼んでるけど、あの子って女の子なの?」

 

「三毛猫はほぼ100パーセントが雌らしいよ。確認するなら、お尻のあたりを見れば間違いないだろうけど……」

 

 

 寧々の疑問や類の回答から嫌な流れを感じて、僕はえむから離れて「フシャーッ」とけん制した。

 

 

「ひゃっ。え、威嚇されてる?」

 

「嫌な予感を感じたのかもしれないね。寧々がどうしても知りたいっていうのなら、ここは1つ、我らが座長にお願いするって手段も──」

 

「あるわけないだろう! 相手は明らかに怒ってるのに、どうしてこの流れでオレに振る!? 深く考えなくても危ない橋を渡らせようとするんじゃなーいッ!」

 

 

 軽く威嚇しただけで大声が返ってくるのはちょっと怖い。

 僕が期待していたのは寧々のように少しだけ怯えてくれるような反応であって、叫ぶ司や(けしか)ける類は何か違う。

 

 

(とりあえず、類の矛先が司から動かないようにする立ち回りが大事ってことだけは理解したよ)

 

 

 僕はかしこい猫なので、危ない真似はしないのだ。

 

 

 

 

 ──そんなこんなで、また遊びにくる約束をえむとして。

 

 古びているけれども新しい風で賑やかになっているワンダーステージを後にする。

 再び木々の間を歩いている途中でふと、僕は思い出してしまった。

 

 

(あっ……司を探していた目的が全く達成されてない!)

 

 

 しまった、これじゃあただのエンジョイ猫さんだ。

 

 猫生をエンジョイしてるのは間違いないけど、司がまふゆと同じように見えていた理由は結局、わからずじまい。

 何なら謎が増えてしまっていた。

 

 

(落ち着いて情報を整理しよう。確か……透明猫さん状態になってからすぐに、お爺ちゃんとえむの所には行ったんだけど、その時のえむは見えてなかったはず)

 

 

 2人揃って僕のことが見えていないので、お別れも何も言えなかった過去を踏まえると──えむが僕のことを認識できるようになったのはたぶん、司経由だ。

 

 見える司が僕を抱っこして3人に接触することで、強制的に縁結びが完了。

 見えなかったはずの僕が、3人にも見えるようになった。

 

 えむ達が見えるようになった仮説としては、中々筋が通ってる気がする。

 

 

(けど、こうやって考えても、やっぱり司が見える理由はわからないぞ)

 

 

 どうしてまふゆと司だけ、何かをしなくても僕が見えるのか?

 その共通点を探る為にも、遊びに行く約束を履行するのは悪くないだろう。

 

 そう、僕はあくまで謎を究明するために動いているのが主であって、遊んでるわけじゃないのである。いいね?

 

 ……うん。自分への言い訳ほど、見苦しいものはないな。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 探し人である司にも運よく会えたし、お土産話として『ワンダーランズ×ショータイム』の面々程相応しい人達はいない。

 お爺ちゃんと会えなかったのは残念だけど、えむとも再び相見(あいまみ)えたのは僥倖だ。

 

 ……少々、感動し過ぎて僕の化石部分が言語能力を侵食してしまったが、誰かに何かを言ってるわけじゃないので問題ないってことで。

 

 気持ちを切り替えて、僕はミクに会いにセカイへと跳んだ。

 

 

(よっと……ミク、こんばんは。今、いいかな?)

 

「いらっしゃい、マロ。ちょうど1人になったところだから、大丈夫」

 

 

 セカイに行くと丁度、ミクがいたので声をかけた。

 周りには1人しかいないから今日は誰も来ていないのかと思ったが、そうでもないようだ。

 

 

(人形展の感想をまふゆが言いに来たりしたのかな)

 

「ううん、奏が相談に来たよ。まふゆは今日、セカイには来てない」

 

 

 見事に選択を外してしまった。

 わからなかったよーって報告でもしているのかと思ったけれど、そもそも来てないのは予想外である。

 

 

(人形展で何か進展があるかな~と思ったけど、予想は外れちゃったかぁ)

 

「それは違うと思う」

 

(ふむ……ミクがそう言うってことは、思い当たることがあるのかな。よし、じゃあミクに任せた!)

 

「任せたって、いいの?」

 

(今必要なのは言葉であって、にゃーにゃー鳴く猫じゃないでしょ)

 

 

 ミクは忘れているかもしれないけれど、僕はミク以外との意思疎通ができないタイプの猫だ。

 歌って喋れる化け猫ではないので、僕が隣にいてもずっと見ていられる可愛さと、天に昇るような癒しを与えることしかできない。

 

 

(それとも、みゃーみゃー鳴いておく? 僕の可愛さに酔いたい日もあるのは理解してるし、今なら可愛さマシマシでサービスするよ?)

 

「ううん、そういうのは大丈夫」

 

(うむ。そうやってバッサリと断れるのなら僕も安心だぜ……)

 

 

 とはいえ、自傷ダメージが辛いのでちょっとだけ丸まっておこう。

 心の痛みが染みるのだ。そういう日もある。

 

 

(っと、そうそう。こんなバカなことをしに来たんじゃなかった。今日はお土産話と、話していた少年と再会できた報告をしに来たんだよ)

 

「そうだったんだ。1日で会えてよかったね」

 

(本当だよ、僕と相手の糸はまだ切れてなかったことに感謝だね)

 

「糸……マロ、糸って切っちゃダメなの?」

 

(え? ……場合によるんじゃない?)

 

 

 どういう状況なのかわからないので、僕もミクに倣って首を傾げることしかできない。

 

 悪い縁とは切りたいだろうし、本当に場合によるとしか言えないのだ。

 なんと言ったものか困っていると、ミクが人形を指差した。

 

 

「マリオネットの糸を切ってあやとりの糸にしたから、ダメだったのかなって」

 

(お、おぉう……そのマリオネットの持ち主は?)

 

「元々セカイにあったものだけど、最近見えるようになったものだから……まふゆのもの?」

 

(元々セカイにあったものなら、ミクが好きにしてもいいんじゃないかなぁ。たぶんだけど)

 

 

 はたしてそれがマリオネットとしては良いのかは、僕には判断できないけれど。

 

 まふゆなら騒ぐことはないだろうと勝手に判断した僕は、目の前の問題を棚上げしてお土産話を披露した。

 

 逃げたとは言わないでほしい。

 僕は猫なので難しいことには首を突っ込みたくないし、僕のかしこい頭が導いた撤退方法なのである。

 

 

 

 

 







☆マロ知識
マロは賢い猫だけど純粋でもあるので、ワンダーステージにネネロボがあるなら、大きい方の舞台(フェニックスステージ)にはフェニーくんロボットの大群が潜んでることもあるかもしれないと本気で疑っている。




……

ちなみに原作を知らない方もいるかもしれないので、念のため。
フェニーくんロボットは大天才の類君が作らない限り、原作にも本作にも出てこないかと思われます。
世界征服を目論む悪の組織・フェニックスワンダーランドなんてものもありません。


……4月頃に飛び出てくる可能性はありますけど。

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