猫はシブヤにいます   作:大森依織

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よかったですね。
止められてなかったら、爪の錆にしてやりましたよ?






20匹目 猫の世間も狭い

 

 

 

 

 

「マロのことが見えてなかった人が、急に見えるようになったの?」

 

 

 珍しいことに、驚いたようなミクの声色がセカイに響いた。

 

 

(そうそう。まふゆの友達は確かに最初、見えてなさそうだったのに急に僕を認識したんだよね)

 

「また謎が増えたんだね。どこから手を付けるのか、調べるのも大変そう」

 

 

 淡々と事実を述べるミクは、客観的に僕の問題を浮き彫りにしてくれる。

 調べるのが大変なのは同意するけれど、まふゆと日野森さんとやらのお陰でわかったこともある。

 

 

(1つわかったのは……僕が見えるようになるには、僕との縁を繋ぐ必要があるみたいなんだよね)

 

「そうなの?」

 

(僕も気が付いたのはまふゆ達の時になってやっとだけどね)

 

 

 司達の時はわちゃわちゃしていて気が付かなかったけれど、まふゆと日野森さんとやらの時はその瞬間を目撃できた。

 日野森さんの糸と僕が繋がった。理由はわからないが、日野森さんと僕とは何かしらの縁があったようだ。

 

 

(何か差があるみたいなんだけど、わからないのが困るんだよなぁ)

 

「どうして困るの?」

 

(いいかい、ミク。コントロールできないものほど、怖いものはないんだよ)

 

「ふぅん」

 

 

 ミクはよくわかっていないようで、頷く言葉は軽い。

 

 見える条件がわからないということは、いつ何が起きるのか、騒ぎになるのかもわからないってことだ。

 予想していない面倒なことになる可能性を背負い込み、常に見えないリスクを負うことになる。

 

 世の中は『日野森さん』のようなおっとりとした人ばかりじゃないし、絵名みたいな怖がりさんがいたら悲惨になること間違いなし。

 僕の耳も相手の心臓もタダでは済まないだろう。

 

 そういうわけで、早々に原因を突き止めたいんだけど……わかりやすいヒントが僕の目に入るところにないのがなんとも困りものである。

 

 

「何かまた、ヒントになりそうなことがあればいいのにね」

 

(ほんとにねー)

 

「……お困りのようだね、おふたりさん!」

 

 

 いつの間にセカイに来ていたのやら、僕とミクの会話にひょっこりと入り込んできたのは瑞希だった。

 不敵な笑みを浮かべていた瑞希はくるりとその場で1回転する。

 

 

「憂鬱な明日から逃げる為に来たんだけど、ナイスタイミングだったみたいだね! ……ところでその、猫も人として数えていいのかな?」

 

「さぁ?」

 

「んー……ま、いっか。見える見えないとか何とか話してたみたいだけど、マロの話であってるよね?」

 

「うん。マロが見える人と見えない人の違いがわからなくて困ってるんだって」

 

 

 ミクの話をウンウンと聞いた瑞希は、何かを企んでそうな笑みのまま人差し指を立てた。

 

 

「ふむふむ、なるほどねー──ここはズバリ、ここは事例を増やすしかないでしょ! というわけでマロ、明日はボクと一緒に学校に行こう!」

 

(どういうわけなのさ、それ……)

 

 

 あまりにも早い話の展開に、僕は置いてきぼりだ。

 その上、頼りにしているミクもついていけずに首を傾げているものだから、瑞希の話に誰も追随できない。

 

 

「いやぁ。明日は呼び出されたせいで学校にいかなくちゃいけなくて憂鬱だったんだけど、楽しみができたな~♪」

 

 

 今にも鼻歌でも歌いそうなぐらい楽しそうな瑞希に目を向けてから、ミクはこちらに視線を戻す。

 

 

「いいの?」

 

(提案そのものは困ることじゃないから、喜ばせておこう)

 

「わかった」

 

 

 こそこそと短い作戦会議を終わらせて、僕らはお互いに頷いた。

 

 まふゆと日野森さんとやらのやり取りを振り返ると──どうやら、人に見えるようになるには僕だけではどうしようもなさそうなのだ。

 瑞希の提案は渡りに船であり、活動範囲を広げるという意味でも良い案だった。

 

 

「流石にずっと連れ歩くのはマロも退屈でしょ。授業中とかは外で待ってもらうことになるけど、大丈夫?」

 

「にゃっ」

 

「お、いけそうだね。学校に行く前に迎えに行くから、あの日会った交差点で待っててよ」

 

 

 学校に行く前ということは、朝から待ってたら大丈夫だろう。

 

 段取りしてくれている瑞希には申し訳ないけれど、これは基本的に空回りする実験である。

 仮に成功したとしても……瑞希なら口も回るし、優等生で通してるまふゆよりも、気持ち的には気楽だった。

 

 

「じゃあ、マロ。明日はよろしくね」

 

「にゃんっ」

 

 

 1日や2日で成果が出るとは思わないけど……こちらこそよろしくお願いするよ、瑞希。

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮女とはまた違う『新しさ』を感じる『神山高校』という学校の校舎が見える中庭にて、僕は瑞希の授業が終わるのをおとなしく待っていた。

 

 

「──マロって本当に賢いんだねぇ」

 

 

 それが瑞希の感心に繋がったようで、合流して最初の言葉がこれである。

 

 

「にゃっ」

 

「はは、自慢げな顔をしちゃって。待つのは当然だって? マロにとってはそうなのかもしれないね」

 

 

 ほら、おいでーと瑞希が両手を広げるので、僕はその手の中に飛び込んだ。

 その後の結末はご想像通り。猫を抱える瑞希の完成だ。

 

 

「よっと。じゃあ、大変なお仕事も終わったし、マロもお待ちかねの本題に入ろっか!」

 

(おーっ)

 

 

 るんるん、なんて鼻歌を歌いそうな勢いのまま、瑞希は歩を進める。

 その進行方向が校舎の中でなければ、僕だって驚かなかった。

 

 

「にゃっ!?」

 

「あれ、どうしたの?」

 

「みぃ、みぃーっ」

 

「えっと……あぁ! 校舎に入って大丈夫かってことかな?」

 

「にゃんっ」

 

 

 その通り。

 

 まふゆだって校舎に入るのは嫌がるし、瑞希もあまり学校の子と会いたくないなぁ──みたいなことを言っていたのを、僕ははっきりと覚えている。

 

 

「マロが嫌な気持ちになるかもしれないけど、キミなら皆には内緒にしてくれるでしょ」

 

「……にゃあ」

 

 

 うむ……言うなってことなら、喋らない分別がある猫が僕だけれども。

 

 

「マロが気にせずに、鳴かなかったらそれでいいよ。職員室は避けるし、ちょっと通り過ぎるだけだから大丈夫でしょ」

 

(大丈夫なの、それ……態々『鳴かないで』って忠告するなんて、校舎の中では何が起きてるんだか)

 

 

 僕だって分別があるのは、さっき瑞希もわかってくれたはず。

 ならば、その分別のある猫に念を入れて注意する理由なんて──と、思った僕の耳に、ヒソヒソとした声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「うわぁ、あの子が噂の子だよな? やっと見れたわー」

 

「マジで勘違いしそうだよな。どっちかわっかんねー」

 

「なー。なんであんな格好してんだろうな」

 

 

 

 

 ……瑞希に注意されてるから何も言えないけど、やっぱり言いたい。

 

 

(おぉん? 見せ物じゃないんだぞ? 可愛い僕らを見たいなら貢物の1つや10……いや、100ぐらい持参して頭を下げなよ、おぉーん?)

 

 

 どうせ見えないし、ギロッと睨んでも瑞希以外にはわかるまい。

 鳴かずにこちらを見てヒソヒソする無礼者達をガン見していると、苦笑いしてる瑞希と目が合った。

 

 

「後、もうちょっとだから。おとなしくしててね……それと、ありがとう」

 

 

 ……しょうがない。

 頭を撫でてくれる瑞希に免じて、本当に仕方がなくだけど許してあげよう。

 

 見苦しい奴らとは関わりたくもないので、不自然にならない程度に猫パンチをし、視線の数を減らす。

 瑞希も最初は不思議そうに首を傾げていたけれど、すぐに僕の行動に慣れたようだ。

 廊下や階段を早歩きで通り過ぎ、重そうな扉を開いた。

 

 

「ふぅ、到着ー。1匹様ごあんな〜い」

 

 

 瑞希に連れて来られたのは、大きなフェンスに囲まれた屋上だった。

 落下防止の為なのか、僕でも乗り越えるのには苦労しそうなフェンスに「にゃあ」と声を漏らしてしまう。

 

 

「いい景色だよね。ボクもよく来ちゃうんだ。ま、今日は僕の屋上仲間に会いに来たんだけどね」

 

(ほほう、屋上仲間ね)

 

「今日は爆発してないらしいし。中庭にも先生と鬼ごっこもしてないみたいだから、屋上で実験してると思うんだけど」

 

(え、爆発? 実験?)

 

 

 おいおい、瑞希の学校は魔境か何かかな?

 凡そ学校生活では聞かなさそうなワードが飛び出してきて怖いんだが。

 

 僕が内心で震えていても、瑞希は構わずに奥へと進む。

 

 

「──おや、瑞希じゃないか」

 

 

 一体何が出てくるのだと構えている僕の前に現れたのは、趣きのあるステージで見かけた水色メッシュと薄紫髪の演出家、神代類だった。

 

 

「やっほー、類。会いにきちゃった」

 

「今は機械の調整中だから大したおもてなしはできないけど、歓迎するよ。瑞希の意外なお友達だったらしいマロくんも含めてね」

 

「あれ。もしかして類とマロは既に会ってたの?」

 

「僕が所属している劇団の座長経由でね。この前、ステージに遊びに来てくれたから、練習も見てもらったよ」

 

「なぁんだ。折角、紹介しに来たのになー」

 

「僕もまさか、瑞希の小さな友達と知り合ってるとは思ってなかったよ」

 

 

 2人も予想外だったみたいだけど、僕も勿論、ビックリした。

 

 世間は狭いとは言うけれど、本当にこんな至近距離だとは思わないじゃないか。

 見える人が近くに固まってるのは、何か意味があるのか。残念なことに近くに固まってる理由すら、僕にはわからなかった。

 

 

「類は今、劇団に入ってるんだね。楽しい?」

 

「……ああ。劇団と呼ぶには小さいかもしれないけれど、大切な仲間だよ」

 

「そっか。それはよかったよ」

 

「よければ写真も見るかい? この間、マロくんと一緒に皆で撮ったんだよ」

 

「えっ、いいの? 見たい見たい!」

 

 

 楽しそうにスマホの画面を見ている瑞希と類。

 最初は予想外でビックリしたけれど、並べてみるとこの2人の交友は意外でもなかったかもしれない。

 

 詳しいことは猫にはわからないけど、雰囲気というか、空気感が似てる気がするのだ。

 

 

(瑞希は学校があまり好きじゃないみたいだけど、喋れる相手はいて良かったな)

 

 

 まふゆは義務のように学校に来ているけど、猫の皮を剥げるぐらいの交友関係はない。

 それを知っていたので、学校に行かない瑞希も似たような状態だったらと少し心配だったのだ。

 

 絵名は交友関係面では大丈夫だろうし、奏は……そもそも関係があるのかすらわからないけれども。

 瑞希は精神面での脆さはあっても、少し目を離していたらセカイで倒れてましたー、みたいな不安定さがなさそうなので安心した。

 

 

「わーお。全員目立つ色してるねー」

 

「劇団員だし、影が薄いよりもいいだろう? 金髪の座長やこっちの子はこの学校にいるし、縁があればまた紹介するよ」

 

「いいの? 楽しみにしてるね」

 

 

 僕は瑞希の腕の中で微睡みながら、楽しそうにしている2人の姿を見ていた。

 

 実験は早速頓挫してる気がするけれど、予定通りだしまた今度でいいでしょ。うむ。

 

 

 






☆マロ知識
ナイショの部分はミクにすら絶対に共有されないであろう。可愛い同志との約束なのである。


……

……爪の錆にはできませんでしたね。

瑞希さんがマロに対しては脇が甘い理由は『似たもの同士』ってのもありますが、基本的にマロはにゃーにゃー鳴いてるだけで無害だからです。


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