猫はシブヤにいます   作:大森依織

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3人寄れば文殊の知恵……いや、賑やかなだけですかね。





21匹目 嬉しくなる予想

 

 

 

 

 今日も今日とて、ミクにセカイに呼び出された後、まふゆに捕まってぬいぐるみのように抱き締められていた。

 

 最初の頃に比べると、力加減も上手くなった。

 お陰でぐったりすることは無くなったのだが、根本的な解決には至っていない。

 

 僕への接触が多い日=まふゆの機嫌があまりよくないなのだ。

 つまり、接触する日が多ければ多い程、僕の気苦労も増えるのである。

 

 

(ふぅ……やっと、通常運転に戻ってきたぞ)

 

 

 肉球を揉まれたり、あちらこちらを撫でられたりと体を張った甲斐もあり、まふゆの不機嫌な気配がかなり薄まってきた。

 

 ここまで来たら大丈夫だろう。

 ひと仕事終えたタイミングで、僕の耳に控えめな声が聞こえてきた。

 

 

「おーい、まふゆー。そろそろ大丈夫そう?」

 

「いい加減、待つのも疲れたんだけど」

 

「……2人揃って何してるの?」

 

 

 まふゆが胡乱な目を向けている中、造形物の影に隠れていた瑞希と絵名が顔を出す。

 

 

「邪魔するのも悪いかなーって思ってさ。待機してたんだよね」

 

「私はどうでもよかったんだけど、瑞希に巻き込まれたのよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 あまりにも興味なさそうなまふゆの声に、ただでさえ不満そうだった顔の絵名が眉毛を吊り上げる。

 

 

「そうなんだって、あんたねぇ。こっちはまふゆを待ってたんだから、少しぐらいは興味を持ちなさいよ!」

 

「私は頼んでない。絵名が勝手に待っただけでしょ」

 

「はぁ!? 何なのこいつ!」

 

「あーはいはい。どうどう、どうどう~。落ち着こうね~」

 

 

 瑞希が即座に宥めに入ったおかげで、絵名によるまふゆへの突撃は回避された。

 

 まふゆに抱かれている僕も危なかったので、止めてくれた瑞希には感謝だ。

 絵名とまふゆのやり取りは僕の身の危険も感じて危なっかしい。

 是非とも、僕が離れている場所でやってほしいものである。

 

 

「あ、そうそう。まふゆに聞きたいことがあって来たんだった!」

 

「何?」

 

「この前、マロが見えた云々って話があったでしょ。あの時見えた人の特徴を教えてほしいなーって」

 

「特徴……」

 

 

 瑞希の話を聞いたまふゆは目を細めて首を横に振る。

 

 

「他人の情報を勝手に話すのはよくないと思う」

 

「あー……ごめん、無神経だった。ボクの友達とかもマロが見えてるみたいだから、髪色が派手だーとか、何か共通点を割り出せないかなーって思ったんだ。でも、他人の情報なんて気楽に聞いていい話でもないよね」

 

「髪色が派手というのは共通してる。瑞希の知ってる人もそうなんだね」

 

 

 日野森さんとやらは水色っぽい髪色だし、類はまふゆよりは薄めの紫で、あとは司の金髪やらえむのピンク、寧々の薄緑と他の人と比べると目立つ髪色なのは間違いない。

 

 

「じゃあ、マロが見える共通点に髪の毛っていうのもあり得るわけか」

 

 

 僕と似たようなことを想像しているらしい瑞希を横目に、まふゆがぼそりと呟く。

 

 

「絵名は見えてるけど、地味だね」

 

「は? 目の前にいるのに悪口を言うとかありえないんだけど!」

 

「事実だよ」

 

「はぁあ!? 口が減らないヤツね、一言余計なことを言わなきゃ済まないわけ!?」

 

「はいはい、ストップだよー。絵名の髪は落ち着いた色だねって話だからねー。絵名が地味って話じゃないから落ち着こう、ねっ?」

 

 

 まふゆが全く言葉を選ぶ気がないせいで、絵名が沸騰しそうなお湯になってしまった。

 瑞希も温度管理が大変そうである。僕の身の安全の為にも、是非とも瑞希には頑張ってほしい。

 

 

「んぐぐ、ほんっとに失礼なヤツなんだから。もう少し言葉を選びなさいよ」

 

「……でも、絵名の髪の毛はやっぱり目立ってないと思う。本当に条件が髪色なのだとしたら。絵名は地味だけど、特異点ってことになる」

 

「うるっさいわね……大体、髪の毛の色だけで決まるなら、有名人なんて大体マロが見えるでしょ!」

 

「あー。言われてみると、アイドルは髪色すらキラキラしてるもんねぇ」

 

 

 瑞希も絵名も同じ認識のようで、有名人やアイドルといった存在の方が髪色が豊かみたいである。

 絵名の言うその有名人とやらとは接触していないので何とも言えないけれど、有名であることが条件なのだとしたら僕も嫌だ。

 

 知らない人に見えるよりも、知ってる人に見えるようになる可能性を探る方が僕的にも嬉しいもの。

 僕も見える人は多い方がいいので、ここは絵名を応援したいのが正直な気持ちだ。

 

 そんな複雑な猫心は周りには全く伝わらずに話は進み、瑞希が何かを企んでそうな笑みを浮かべた。

 アレは絵名も巻き込んでしまえと企んでいる悪ーい笑みだ。絵名がその笑みに気がつく前に、瑞希は仕掛けた。

 

 

「うーん……こうなったら、絵名が自分で調査して証明するしかないんじゃないかな~」

 

「は? なんでそんな面倒なことをしなくちゃいけないわけ?」

 

「だって、今のままだと絵名は例外なだけの地味な女、略して『地味なん』になっちゃうでしょ?」

 

「誰が地味なんよ、まふゆも瑞希も揃って地味地味言ってきてムカつくんだけど!」

 

「えーでも、今の状態だとそう思われても仕方がなくないかなー」

 

「仕方がなくない! あぁもう、証明したらいいんでしょ。やってやろうじゃない!」

 

 

 まさに売り言葉に買い言葉。瑞希に乗せられてしまった絵名の参戦が決まった。

 火種を作ったまふゆは興味なさそうに眺めているだけだし、誰も止める人間がいない。

 

 怒りのままに、絵名も僕の協力をしてくれることになったのだけど、嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

「うわー、どうしよ」

 

 

 ──で、これである。

 ミクに呼び出されてセカイに来たら、制服を着たまま頭を抱える絵名とその周りをあわあわ動き回っているミクがいた。

 

 慌てるミクの姿も珍しいけれど、心の中は絵名の方が酷そうだ。

 僕にも責任の一端があるだけに、この状態の絵名を放ってはおけない。

 

 

(ミク、悪いんだけど……)

 

「大丈夫。元々、そのつもりでマロを呼んだから」

 

 

 通訳に使ってしまうことを謝る前に、ミクに先を越された。

 これが所謂『それは言わない約束』というものか。申し訳なく思うけど、ありがたい。

 

 

「絵名、どうしたの?」

 

「……あぁ、ミクとマロが揃ってるんだ。なら、いいかな」

 

 

 こちらを見ているようで遠くを見ているような目のまま、絵名は力なく笑った。

 

 

「悪戯みたいなことをするなら、ある程度の親しさがないと難しいと思うんだよね。クラスの子とかにやるにしても、もしもを考えるとできないというか」

 

(だよねぇ……巻き込んでしまって申し訳ない)

 

「私にもそういう友達というか、許されるかもって思う親友はいるんだよ? でも、その子にマロを見せるのはダメなんじゃないかって気が付いちゃって」

 

 

 絵名はじぃっとこちらを見てから、溜め息を溢した。

 

 

「マロってさ、実際のところはどのぐらいまで猫わけ?」

 

「それってどういうこと?」

 

「ミクもわかると思うんだけど、普通の猫はぴょんと飛んでセカイに来ることもないし、わかりやすい意思表示もしてこないの。況してや見える人と見えない人がいる状態とか、猫の幽霊でもなきゃありえないでしょ」

 

 

 僕の自認はどこまでいっても猫だけれど、こうも要素を並べられるとミクを通して言い返す気にもなれない。

 説明できない僕を横目に、絵名は本題らしい疑問を呈した。

 

 

「それで、マロは猫アレルギーに引っかかるタイプなの? それともそこも猫らしくない感じ?」

 

(あー、アレルギーかぁ)

 

 

 恐らくだけど、絵名の親友さんは猫アレルギーなのだろう。

 アレルギーというものは『食えぬ・触れぬ』という呪いのようなものだというのは、僕でも知っていた。

 

 

(僕はアレルギーとは無縁の存在だけど、親友さんとやらの内心は別じゃないかなぁ)

 

「アレルギーとは無縁だけど、絵名の友達の内心は別じゃないかって」

 

「猫アレルギーも反応しないなんて、本当に猫と言っていいの、それ……まぁ。それを私がわかっても、愛莉の気持ちは別問題ってことね。それもそっか」

 

 

 絵名は近くに放っていたらしい鞄を手繰り寄せ、勢いよく立ち上がる。

 

 

「帰るわ。マロも付いてきて」

 

「にゃっ?」

 

「今日はお母さんがあいつの手伝いでいないのよ。家には弟が1人でいるはずだから、そこで試せばいいでしょ」

 

 

 さっきまで頭を抱えているのが嘘みたいに、アッサリと解決したようだ。

 こっちはお世話になってる身だもの、絵名がいいのなら僕も文句はない。

 

 

「弟とちょっと話して部屋に戻ったら、マロを連れてセカイに来るから。期待しないで待ってて」

 

「頑張ってね、絵名」

 

 

 ミクの応援を背に受けて、僕と絵名はセカイを後にした。

 

 

「って、何も考えてなかったけど……マロって一緒に出ることもできるんだ」

 

「にゃん」

 

 

 まさか本当に一緒に出てくるとは思っていなかったようで、絵名は目を丸くした。

 

 現在地は瑞希も通っている神山高校の校舎裏。

 人気もないところを選んでセカイに来ていたらしく、ほんの少し騒いだところで誰も近づいて来ない良い立地だ。

 

 

「んー。マロが変な猫なのは今に始まったことじゃないか。じゃあ、家に行くから付いてきて」

 

 

 絵名は失礼な言葉を放ってから歩き始めた。

 僕も絵名のすぐ横を歩き、彼女の帰路にお供する。

 

 お互いに喋ることなく人混みの間を歩き続けて、何とか別れることなく住宅街まで辿り着いた。

 大きめな家が多い中を悠々と歩き、その中でも立派な一軒家の前で絵名は立ち止まる。

 

 

「流石に、家の中まで自由にさせられないから。不自由だろうけど我慢してよね」

 

「みゃん」

 

 

 鍵を開いてから僕を持ち上げると、絵名は堂々と家の中へと入った。

 絵名って幽霊とかは怖がってるけど、いざという時の度胸が凄い。

 

 

「ただいまー」

 

「げっ。まだ帰ってなかったのかよ、お前」

 

「げって何よ、こっちだって色々と理由があったの」

 

 

 絵名と言い合いしているのはいつぞやの街で歌合戦をしていた彼──彰人(あきと)と呼ばれていた少年だった。

 

 BAD DOGSの彼、絵名の弟だったのか。なら、名前は東雲彰人ってことになるのかな。

 絵名とは違うオレンジ髪だったので、頭の中で全く繋がらなかったよ。

 

 

(……あれ?)

 

 

 見える条件に髪色は関係ないことを証明するために動いていたはずなのに、彰人は茶髪でもなければ落ち着いた髪色でもない。

 

 このままだと、絵名の最初の目的は達成されないのでは?

 そんな僕の疑問が伝わるはずもなく、絵名と彰人の話は進む。

 

 

「友達の猫を1日、預かって欲しいって言われてさ。その子を受け取ってきたのよ」

 

「猫? ……って、マジでいるじゃねえか。今まで気が付かないなんて、疲れてたのか?」

 

 

 彰人は深く息を吐いてから、首を横に振った。

 

 

「オレはもう休むから、煩くすんなよ」

 

「しないわよ」

 

「どうだか。とにかく、猫も含めて静かにしろよ」

 

「はいはい」

 

 

 彰人が部屋に戻るのを確認してから、絵名も自分の部屋に戻る。

 打ち合わせ通りにスマホを取り出し、そのままセカイに戻ってきた。

 

 僕らを待ってくれていたらしいミクが駆け寄り、首を傾げる。

 

 

「マロ、絵名。どうだった?」

 

「彰人も見えてなかったけど、私が言ったら見えるようになったみたい。あいつもこっちと同じっぽいよ」

 

「弟なら絵名と同じ髪色だと思うし、よかったね」

 

「あ゛っ……」

 

 

 絵名は嫌なことを思い出してしまい、また頭を抱えてしまった。

 かわいそうに、絵名の『地味なん』はまだまだ返上できないようである。

 

 

(絵名の弟さんである彰人にも見えた、か)

 

 

 例えばの話。

 もしも見える人によって紹介されたら、誰にでも見えるようになる……そんな条件ならば。

 

 それは少しばかり、僕に都合が良くて嬉しくなってしまいそうな予想だった。

 

 

 

 

 







☆マロ知識
見える人によって紹介されたら、他の人でも見えるようになる。
そんな簡単な条件で見られて困るのは後輩であることを、先輩を自称している癖にまっっったく知らない間抜けな猫がいるらしい。呑気なものである。


……

親友はピンクだし、弟はオレンジ。
絵画教室にも復帰してない絵名さんは、安全策を採用した時点で詰んでました。




《本編とは関係のない話》
ワールドリンク関係でまふゆさんの本作でいうところの『猫剥がし』が一部の人相手に起きましたが。
もしえむさん相手にまふゆさんも剥がして対応することになったら、どうなるんですかね……
楽な方でと指定した結果、ノリを合わせる為に猫を被ったままだとしたら、作者は吹き出してしまうかもしれません。

そもそも、あのローテンションでわんだほーいなえむさんに着いて行くのは辛いものがあると思うんです。はい。


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