心に猫を飼ってる同士の対面、といったところでしょうか。
協力してくれた絵名にあまり良くない結果を導き出してしまった翌日。
僕とまふゆが宮女の中庭にいる時間帯に、ミクにお願いしてこちら側に来てもらっていた。
ミクがスマホからひょっこり顔を出したのを確認して、僕は頭を下げる。
(まふゆ、急にごめんね。どうしても頼りたいことがあるんだ)
僕の言葉を一言一句伝えてくれたミクの話を聞いて、まふゆは首を傾げた。
「頼りたいことって?」
『絵名に悪いことをしてしまったから、お詫びに食べ物を買いたいんだって』
「そうなんだ。今日の放課後なら、1時間ぐらいなら大丈夫だけど……お金とかはどうするの?」
まふゆの当然の疑問に、僕は力強く鳴きながら隠し持っていた千円札を何枚か見せる。
「にゃっ」
「お金、持ってるんだ」
『昔、どうしても受け取って欲しいって人から貰ったらしいよ』
「猫でもお金、稼ぐんだね…….」
まふゆはいつも通りの無表情なのに、声から何とも言えない感情が見え隠れしていた。
僕だって猫に金銭を渡すなんて、資本主義にどっぷり浸かり過ぎて迷惑な人間だと思っていたさ。
しかしこうして今、役立とうとしている。そう思うと、何でも貰って大切にしておくべきだね。
人間も猫も、何があるのかわからないのを実感したよ。
「私も無制限に出せるわけじゃないから、マロが用意してるのならそれでいい。そこから私が払えばいいんだよね?」
(そういうことになるねぇ。ご面倒をおかけします)
『迷惑かけてごめんなさいって言ってるよ』
「別に。猫が買い物ができるように社会はできてないから、しょうがないと思う」
それはそう。
だけど、まふゆの時間を貰ってるのも事実なので、言葉だけでも受け取って欲しい。
『それでも、だって』
「そう、わかった……それと、学校が終わってから行くつもりだから、校門前で待ってて」
「にゃんっ」
了承してくれたまふゆと、仲介してくれたミクに感謝だ。
話も早く纏まったのでいつも通りの昼休みを過ごした後、僕はまふゆの授業が終わるまで校門で
☆★☆
空もほんのり赤くなってきた頃、他の子達に紛れてまふゆも校門から出てきたのを確認してから、僕は彼女の元に駆け寄る。
まふゆは駆け寄ってきた僕を当然のように抱き上げ、そのまま歩き出した。
(流れるような動作で抵抗もできなかったけど、隣を歩くからわざわざ抱えなくてもいいんだけどなぁ)
え、ダメ? ……そっかぁ。
最近のまふゆの中で僕を抱えるブームでも来ているのかもしれない。
知らぬ間柄でもないし良いんだけど、まふゆは疲れないのかな。心配になるよ。
「買うのはお菓子だよね。ショッピングモールやお店には入りにくいから、私が選ぶつもりだけど……それでいいんだよね?」
「にゃんっ」
「絵名なら見た目がいいものなら何でもいい気がするけど……あぁ、人参はダメなんだっけ」
「にゃ?」
「ナイトコードでそんなことを言ってた気がする。話に出てくる割合が多いのはチーズケーキとかパンケーキだから、その辺りで高くないのを買えばいいんじゃない?」
「にゃっ!」
まふゆは興味なさそうな顔をしているのに、少し記憶を掘り起こしただけですぐに的を絞ってきた。
僕だけだとそういう人間のお菓子は全く出てこないのでありがたい。まふゆの言葉に素直に従おう。
「……検索したら良さそうな店、出てくるかな」
僕を抱えながらも、まふゆはスマホを触って調べ物を始める。
人間のお店のことは僕も疎い。何か僕にも力になれることがあったら、そう思ったタイミングで目に入ったのは明るめのオレンジの髪だった。
「にゃっ」
「どうしたの、マロ?」
いるじゃないか、絵名のことを知ってそうな人!
まふゆに一声鳴いてから、僕は手から抜け出して彼の元へと向かう。
後ろから「マロ!」と呼ぶ声が聞こえるけど、すく近くにいる相手なので迷子にはなるまい。
「にゃーんっ」
「……ん? お前は確か、昨日絵名が連れ込んでた猫か?」
「すみません! その子が急に飛び出してしまって」
オレンジ髪の彼こと、絵名の弟さんである彰人が足を止めるのとほぼ同時に、まふゆも追いついてきた。
僕を見ていた彰人はまふゆの姿を確認すると、人のよさそうな笑みを浮かべる。
「あぁ、いえ。うちの姉が1日だけと言って連れ込んでいた猫に似ていたものですから」
「あっ……もしかして、あなたが東雲絵名の弟さん?」
「ええ……ということは、あなたがその猫の飼い主ですか」
「ふふ。まぁ、そんなところかな。私は朝比奈まふゆです、いつも絵名にはお世話になってます」
「東雲彰人です。こちらこそ、いつも姉がお世話になってます」
わぁお、外面が良い。
まふゆも素早く猫を被ったと思えば、彰人も負けじと飼っていたらしい猫を見せてきた。
本職の猫もビックリの対戦である。どうしてこうなったのか、犯猫である僕にもわからないぞ。
「ほら、マロ。こっちにおいで」
「なぁーお」
猫の皮から暗黒面が見えているのが見えてしまったので、僕は素直に指示に従う。
そんな間抜けな僕の姿を彰人はじっと見つめてから、不思議そうに口を開いた。
「首輪、付けてないんですね」
「そうなんだよね。やっぱり、付けた方がいいかな」
「普通は付けるモンだと思いますけど、どうなんでしょうかね……すみません、初対面なのに」
「気にしないでいいよ。絵名の弟さんなら全く知らない相手って言うのもアレだから……でも、もしも悪いなって思ってくれているのなら、1つ。絵名のお礼のお菓子について相談に乗ってほしいかな」
「お菓子っすか?」
「チーズケーキ辺りがいいかなって思ってるんだけど、どのお店がいいのか詳しくなくて。家族なら何か知ってないかなって思ったんだ」
まさか猫の方が探してるとは、彰人も思うまい。
まふゆの上手い話の流れに納得したように頷いた彰人は、近くにあった小さなお店を指差した。
「なら、あそこの店のバスクチーズケーキがオススメですよ。手のひらサイズで丁度いい大きさだし、値段も手ごろなんで」
「そうなんだ、ありがとう。参考にさせてもらうね」
「あぁ、それと……良かったらそいつ、少しの間預かっておきましょうか? 店の中に連れて歩くわけにもいかないし、1匹にするのも心配だと思うんで」
「……そうだね、お願いしてもいいかな」
まふゆの声が少し低くなっていた気がする。僕を1人にするよりも絵名の弟とはいえ、知らない相手に預ける方が嫌なのかもね。
後が怖いけれども、今の僕にできることなんておとなしく彰人に手渡されることぐらいしかない。
(彰人に頼るのは良い考えだと思ったんだけどなぁ)
調子に乗り過ぎたらしいことは理解できたので、偉い僕は彰人の手の中でおとなしく待機することにした。
「……お前、ちゃんと飼い主を見といてやれよ」
「みゃ?」
「普通、猫を1日預かった友達相手に態々ケーキを用意するか? 何かあるだろ」
「うにゃあ」
お願いしたのは僕なんだけど、こういう時にケーキは大袈裟だったりするのだろうか。
まぁでも、まふゆに何かあるのは間違いないので、まふゆの先輩として僕が気にしておくよ。
(それと、まふゆは断じて飼い主ではないからね。そこは間違えないように)
──そんな念を送っている間に、まふゆが小走りで戻ってきた。
余程僕と離れたくないらしい。
心配し過ぎて戻ってきたわけではないと思うので、僕の魅力が原因なのだろう。いやー、モテるって辛いね。
「ありがとうございました、おかげで買うことができました」
「いえ。こいつもおとなしかったですし、大したことじゃないですよ。それじゃあ、オレは用事があるんで、この辺で」
僕をまふゆに差し出した彰人は、何かを言われる前に颯爽とその場を走り去った。
「あっ……」
「にゃぁ」
アレが俗に言う『イケメンムーブ』というモノだろうか。
これにはまふゆもときめいたり……全くしてないな。
何なら、いつも通りの無表情に戻ってしまっている。
鉄壁の無表情にはトキメキのトの字もなかった。
「マロ、ミクにケーキを預けに行くよ」
「みゃ」
まふゆに抱えられたまま人の波を抜け、裏道へ。
周りに誰もいないことを確認してから、まふゆは僕ごとセカイへ移動した。
「──ミク」
「いらっしゃい。まふゆ、マロ」
「うん。これ、絵名に渡す分だから。預かってて」
「わかった」
家で管理できないものをミクに預けてから、やっと僕が解放される番だ。
地面と感動の再会を果たしたわけだけど、今はまふゆへのお礼が先だ。
(ありがとう、まふゆ。おかげで絵名へのお詫びの品を買えたよ。何かお礼をしたいんだけど、撫でる?)
「まふゆ、マロがありがとうだって。後は何かお礼をしたいとも言ってる」
「お礼?」
まふゆの目の色が変わった。
僕は自分の失言を悟ったけれど、ここには味方はいない。
(あ、あの。まふゆ? 撫でるとかそういうお礼が希望だと有難いなーって)
「そんなに驚かなくても、難しいことをするつもりはないよ」
まふゆはゆっくりと僕に手を伸ばして、何もなかった首元に革のようなモノを巻く。
懐かしすぎるこの感覚は間違いない。僕に付けられたのは首輪だった。
いつもの僕なら首輪なんて嫌だし、噛み千切ることぐらいはしてたと思う。
でも、ケーキを買ってもらった時の申し訳なさと、今の空気に飲まれてしまった僕の頭からはその頭の反応が抜け落ちてしまっていた。
「最近、私の知らないところで沢山、人と会ってるみたいだね?」
「に、にゃぁ……」
「マロは猫だから誰かに会うのは良いんだけど、私が知らない間に何かがあったら困るから……それ、ちゃんと付けててね」
薄っすらと笑みを浮かべるまふゆの姿が、不思議と昔の──記憶の中の笑みと重なる。
──マロが皆に愛されてるのはしょうがないから、特別に
こういう時のまふゆの顔が人格面ではそっくりだったんだなって、初めて知ったよ。
☆マロ知識
元々は、周りのあらゆる猫よりも愛らしいと思われ、世にも珍しい の三毛猫だったという理由から献上された猫。
その結果、とある存在から愛されてしまい、特別な首輪を贈られた。
そうして月日が経ち──できてしまったのが、何でもなし。
望んでもいない力を手に入れて、この世に仲間もいない『ひとりぼっち』だ。
……
マロが思い出した内容は、あくまで個
ヒントは既に出てますが、まふゆさんの真意は次のお話の視点にて。