猫はシブヤにいます   作:大森依織

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あちゃー、です。





28匹目 猫と……ハムスター?

 

 

 

 

 

 とてとて、とてとて。

 

 猫の歩幅で黙々と歩き、フェニックスワンダーランド──略してフェニランにやってきた僕。

 

 休日のショーはお昼の時間帯だよーと、えむから事前に聞いていた。

 だが、お昼のどれぐらいの時間とは聞いていなかったポカをやらかしたのが、この僕だ。

 ポカを挽回するためにも、少し余裕をもって朝からフェニランに訪れたのだけど……さて、挽回は可能なのだろうか。

 

 時間については『早めにつく』とまふゆ譲りの行動でよかったのだが、もう1つ問題があったことを思い出す。

 

 

(あちゃあ……路上でショーとは聞いたけど、どこの路上か聞いてなかったな)

 

 

 問題を解決する為に動いたのに、更なる問題が増えてしまった。

 フェニランでステージに該当する場所はフェニックスステージとワンダーステージぐらいしかないけれど、路上に該当する場所は無数にある。

 

 この広いフェニランの、路上というワードを手掛かりにショーの開催場所を探す。

 言葉にするだけでも目の前が真っ暗になりそうな広さだ。

 

 ……やらかし過ぎて前途多難なんて、笑えないな。

 

 

(どうしたものかなぁ)

 

 

 えむ達に合流できるのが最善なのはわかってる。

 その最善を尽くそうにも、人が多過ぎるところは糸もごっちゃになってしまって、上手くいかない。

 

 最初からマーキングしていたら話は別なのだけど、どの路上でショーをするのか聞き忘れたお間抜けさんが僕だ。

 残念だけど、そんな用意周到な真似をしているわけがなかった。

 

 

(裏技も使えないのならしょうがない。こうなったら力技、総当たり作戦だ!)

 

 

 僕はフェニランの入り口付近にある地図を簡単に表した全体図を眺める。

 そこからショーができそうなぐらい広くて、尚且つ人通りもありそうなところを候補に選んだ。

 

 

(奥の方は嫌がらせや見せる気がない限りは選ばないだろうし、あそこと……うむ、ここから回ろうかな)

 

 

 猫なりに目標を決めて、人の足に気を付けて辺りを彷徨う。

 

 外れたらまた地図の前で悩むつもりだったのだが、僕の予想も捨てたものじゃなかったらしい。

 

 

(すぐに正解を見つけるなんて、僕ってば運がいいなー)

 

 

 人の集団を避けて進めば、ショー用の衣装を身に纏った司達が動いているのが見えた。

 早めに来たはずなのに、僕の短い足で力技を使ったせいだろう。ショーは既に始まっていた。

 

 

「──何故だ!? オレはこの国の王だぞ、どうして急に城から追い出されなければならないのだ!?」

 

 

 ブリキの兵隊みたいな等身大ロボットに両脇から抱えられ、司がジタバタと暴れている。

 暴れる頭には危うげな王冠が縦横無尽に揺れており、今にも没落しそうな姿が視界的にもわかりやすく示されていた。

 

 

(司はどんな王様役なんだろ。暴君だったら追放も妥当だけど、良い王様だったら可哀想だよね)

 

 

 人間の嫉妬は怖いからね。

 僕ら猫のようにずば抜けた愛らしさで嫉妬すら湧き起こさないようにしないと、すーぐ嫉妬しちゃうし。

 

 猫も人の嫉妬は怖いと思うけど、王様役の司はそういう理由で追放されたわけじゃないようだった。

 

 一言で言うなら、ポンコツだ。

 それも、僕のような可愛さは感じないポンコツによって、宰相役の類がロボットで反旗を翻したって設定らしい。

 

 そこから呪いで猫になっちゃった女騎士役のえむと、同じく呪いで小鳥になった侍女役の寧々をお供に、王様役の司が大冒険。

 各地を巡って成長していき、ロボットを動員した宰相役の類と対面していた。

 

 

(それにしても、路上でも演出がすっごいなぁ。類が張り切ったのが伝わってくるよ)

 

 

 えむも僕を誘うだけあって猫仕草がサマになってるし、僕的にポイントが高い。

 寧々の歌も上手だから、存在感が回復したような気持ちになるのもいいよね。

 

 

「──おやおや、これは追放された王様ではありませんか。今更、どの面下げてここに戻って来たのです?」

 

「どの面だと? 見えないのならよーく見るがいい、この面をなぁっ!」

 

 

 話もいよいよ、クライマックスだ。

 お城で新たな王様として独裁を敷いていた元宰相の類と、数々の試練で成長した元王様の司が対面する。

 

 兵士のロボットに囲まれた司が装置らしきものを使って高く飛び、類の元へ行く姿は僕ですら周囲を見るのを忘れて魅入ってしまった。

 

 ……そう、油断していたのだ。

 透明猫さん状態を過信し過ぎていたと、言い換えてもいいだろう。

 

 ドンッ、と。

 もっと近くで見たくて足を前に出すのと、衝撃が来るのはほぼ同時だった。

 

 

「う゛にゃぁっ!?」

 

「!? ……え、えぇっ?」

 

 

 蹴鞠みたいに僕の体が転がった。

 上の方で困惑を滲ませた声が聞こえてきたけれど、僕は自分の身に降りかかってきた衝撃に目を白黒させることしかできない。

 

 思い出すのは瑞希とこっち側で初めて会った日のこと。

 透明猫になった僕の状態は幽霊みたいな実体がありませんというものでもなければ、人間が想像する透明人間のようにただ見えなくなってるだけの状態でもない。

 

 ピッタリな言葉を考えるとすれば『認識阻害状態』が近いだろうか。

 ()がいると無意識では確認しているので避けるけれど、認識はしてないので全く見えない。

 それが今まで実験してきた、僕の体の状態だと思っている。

 

 物体があるけれど、存在がないというか。

 とにかく、見えている相手以外の誰かにぶつかるような状況なんて起きるはずがない、と勝手に結論を出していたのだ。

 

 そういうこともあって、まさか僕が人の足にぶつかり負けてコロコロ転がされる日が来るとは、夢にも思わなかった。

 

 

「どうしてこんなところに猫が? ……だ、大丈夫?」

 

「にゃぁぁ~」

 

「逃げようとしないなんて、大丈夫じゃないかも。ど、どうしよう。ううん、まずは安静にできる場所を探さなくちゃ……!」

 

 

 どうやら僕の人が避ける現象は、見える素質がある人には効かなかったらしい。

 ぶつかった少女が僕を抱えて近くのベンチまで走っている間に、漸くその可能性に思い至った。

 

 

(いてて、あの実験も割と危なかったんだな。ビックリして逃げそびれちゃったし)

 

 

 僕の最近の野生度の下落が著し過ぎる件について。

 このままだとまふゆからマジレス侍で一刀両断されてしまいそうだけど、ここで逃げ出してもベンチまで運んでくれた少女に失礼である。

 

 僕は改めてベンチの上から隣に座る少女に向き合い、頭を下げてごめんなさいの意を伝えた。

 

 

「にゃにゃあ」

 

「何か言ってくれてるのか、鳴いてるだけなのか全然わからないけど……私もぶつかっちゃってごめんね」

 

「にゃっ」

 

 

 微妙に伝わってないけれど、会話っぽくなってるからいいか。

 

 僕は頭を上げて、僕を認識できている少女を見る。

 

 猫パンチするには物足りない長さのクリーム色の髪を2つに結んでいる少女。

 ひまわりの種っぽい丸くて茶色の瞳は何故か、人間の元からたまに脱走したりしてるタイプのネズミ(ハムスター)の姿を想起させた。

 

 動きの1つ1つが小動物みたいだからなのだろうか。ハムスターを思い出した理由はわからない。

 

 少女は小柄だけど、猫とはまた違うんだよな。

 やっぱりハムスターで例えた方がピッタリだと思うし、ハムっ子と呼ぶことにしよう。

 

 

「怪我はしてなさそうでよかった」

 

 

 こちらが観察している間にハムっ子もまた僕の怪我を観察していたようで、安堵の息を漏らした。

 ハムっ子はかなり気にかけてくれているようだけど、僕が間抜け過ぎて転がっただけなので心配無用だ。

 

 

「にゃーん」

 

 

 気にかけ過ぎて至近距離になったハムっ子の頬に肉球をポン。

 

 僕の不注意だから、罪悪感なんて捨てちまいなー。

 

 

「えっと、猫の肉球って柔らかいんだね?」

 

「……にゃぁ」

 

 

 急に肉球の感想を言われても困るんだけど。

 まぁいいか。いつまでも眉毛をハの字にしてるよりはよっぽどいい。

 

 

「あの。ぶつかっててアレなんだけど、よければ触ってもいいかな?」

 

 

 僕の肉球に触れてしまったせいで、毛並みも気になってきたのだろう。

 

 この魅力的な毛並みを気にならないなんて動物や猫が嫌いである者以外、存在しないからね。

 そこまで気になるのなら、その意気や良し。

 ぶつかってしまったお詫びも兼ねて、僕を撫でる権利を与えよう!

 

 

「これは、いいのかな? それじゃあ、失礼します」

 

 

 うむ、良きに計らえ。

 

 緊張した面持ちで手を伸ばしてくるハムっ子の前に、僕は撫でやすいように体を傾けた。

 

 

「わぁ、すごいな。毛なんだからフサフサなんだけど、すべすべもしてるし見ただけでわかるぐらい艶々で……触り心地がちょっとだけ、パール伯爵と似てるかも」

 

 

 褒めてくれるのは嬉しいので、ありがとう。

 でもね、最後が気になってそっちに意識がいっちゃう。

 

 

(誰だよ、パール伯爵って)

 

 

 伯爵ってアレでしょ。

 貴族っていう何か偉そうな人間達の中で、勝手に付けてる称号の1つだったよね。猫でいうところのボス猫的な。

 

 

(その伯爵と僕のすべすべ艶々の毛並みが一緒って、一体どんな人間なんだ……?)

 

 

 毛がフッサフッサで、僕も猫パンチしたくなる人?

 それとも、ないから逆に肌艶で勝負に出た輝く頭が素敵なタイプ?

 

 

(わからない、全くわからないぞ)

 

 

 僕の頭の中でパール伯爵とやらの人物像がぐにゃぐにゃしている。

 

 ……案外、そのぐにゃぐにゃが答えだったりしてね。

 その場合は嫌な天敵(ヤツ)しか思い浮かばないので、僕は考えるのをやめた。

 

 

「ショーも終わっちゃったみたいだし、私はまたぐるっと回るつもりなんだけど。あなたも来る?」

 

「にゃー」

 

「あ、今のはわかったよ。来ないってことだよね?」

 

「にゃんっ」

 

 

 僕が返事をすれば、ハムっ子は小さく笑みを浮かべて立ち上がった。

 

 

「じゃあ、ここでお別れだね。また会えたら会おうね、猫さん」

 

「にゃーお」

 

 

 小さく手を振って小走りで去っていくハムっ子を、僕も尻尾を振って見送った。

 

 

(僕はえむ達のことを見てから、解散かねぇ)

 

 

 ショーの途中で何回か目が合ってるので来てることは知ってるだろうけど、念には念を入れておく。

 

 僕は見えなくなったハムっ子の背中と反対方向に向き、来た道を戻った。

 何となくだけどあのハムっ子とはまた会う気がする。不思議と、そんな予感がした。

 

 

 

 

 






☆マロ知識
パール『伯爵』という情報から、知り合いか親戚の人かな? と勘違いしている猫がいるが、ハムっ子が飼っている白蛇の名前であって、人の名前ではない。


……

・ポカ
ポンコツにゃんこなのはいつものことですね。

・ハムっ子
……は、あくまでマロの印象による渾名であって、今回の糸結びの相手は小豆沢(あずさわ)こはねさんです。(再登場はまだまだ先)
こはねさんがフェニランを楽しんでいるショート動画は大変可愛らしいので、オススメです。是非。(隙あれば布教)



・次回
宮女の体育祭をサクッとします。
……誰が、とは言いませんが、メインのストーリーでは体育祭が初絡みなんですよね。
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