猫はシブヤにいます   作:大森依織

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信じるか信じないかは、その子次第です。






38匹目 猫とテキトーなお話

 

 

 

 

 

 休日にフラフラ~と宮益坂を歩いていると、突然、目の前にピンクが飛び込んできた。

 

 

「マーローちゃーんっ。わんわんー、わんだほーいっ!」

 

(うにゃ!? ……っと。こんにちは、えむ)

 

「ちょうど良いところに会ったね、マロちゃん! これ、幸せのお裾分けだよー」

 

 

 そんな元気な声と共に、えむから渡されたのは少し重い紙袋。

 ほんのり湿っていて温かいので、たぶん温かい食べ物が入っているのだと思う。中身が何であれ、1匹でフラついている猫に渡すようなものじゃない。

 

 

「よかったぁ。沢山買っちゃったから誰かにあげたいな~、って思ってた時にマロちゃんがいて」

 

(良くはないだろうよ。絶対に選択肢を間違えてるって)

 

「あっ、そろそろ練習の時間だ! じゃあね、マロちゃんっ」

 

(ちょ、えむ!?)

 

 

 こちらの不満なんてなんのその。突然現れたえむはピューンと走り去ってしまった。

 残されたのはえむに手渡された紙袋と、困惑する()

 

 中身も猫が大手を振って食べられるものなのか、ちょっと怪しい。

 コソコソするならあそこしかないので、僕は紙袋を口に咥えてセカイに飛んだ。

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 ──ぴょんっと現実世界から跳んだ僕は、華麗に誰もいないセカイへと着地する。

 

 

(よっと、誰かいるかなー)

 

「マロ、いらっしゃい」

 

(あ、ミク。こんにちは、ちょうどいいところにいたね)

 

「ちょうどいい? ……えっと、それは何を咥えてるの?」

 

 

 今日はピンポイントに、ミクがいるところに繋がったようだ。

 紙袋を咥えたまま読心をしてもらうと、近付いてきたミクが目を見開いた。

 

 どうやら、会話相手が口に何かを咥えてるとは思っていなかったらしい。

 ミクの珍しい表情が見れたので、僕的には満足である。

 

 

(それが、中身は何かわからなくてさ。誰かに確認してもらおうと思ったんだよ)

 

「その紙袋、どうしたの?」

 

(幸せのお裾分けだって)

 

「……幸せって紙袋に入ってるんだね」

 

(そういう幸せもあるのかもしれないねぇ)

 

 

 僕、猫だから知らないけど。

 その正体を確認する為にも、ミクに幸せが入っているらしい紙袋を渡した。

 

 

(ミク、中には何が入ってたの?)

 

「これは……魚?」

 

(え、魚?)

 

 

 温かいものという偏見があったので、魚と言われても中身が全く想像できない。 

 ひょいと近くの鉄筋に登って中身を覗き込むと、そこには確かに魚……の形をした焼き物が2つ、入っていた。

 

 

(あぁ、たい焼きかぁ)

 

「たい焼き?」

 

(鯛っていうお魚さんを模した型で焼いた、小麦粉のお菓子のことさ。中身に餡子とかクリームとか甘いものが入ってるんだよ)

 

「そうなんだ」

 

 

 ミクはたい焼きを1つ取り出して、無言でたい焼きを真っ二つにした。

 

 

(え、ミク!?)

 

「これ、中身が違うみたいだよ」

 

(……へ?)

 

 

 どうやら中身を確認しただけらしい。

 ミクの言う通り、たい焼きの中にはチーズとツナが入っていて、僕が知っているものは入っていないようだった。

 

 

(急に真っ二つにするからびっくりしたよ)

 

「でも、こうしないとマロも中身がわからないよね?」

 

(それはそうなんだけどね)

 

 

 ミクが気を遣ってくれたのはよく分かった。

 それでも突然、たい焼きを真っ二つにされると驚いちゃうから、事前に言ってくれると猫の心臓に優しいと思います。

 

 

「それで、このたい焼きはマロが食べるの?」

 

(そうだなぁ。僕が食べれるように選んでくれたみたいだけど、そんなにいらないし……ミク、一緒に食べようよ)

 

「いいの?」

 

(大丈夫でしょ。お裾分けしてくれた子も、僕1匹で食べるとは思ってないだろうし)

 

「そうなんだ。じゃあ、一緒に食べる」

 

 

 ミクが腰を下ろした隣に僕も着地し、お行儀よく並ぶ。

 生地が少ないという頭の方を貰って、僕もたい焼きをいただくことにした。

 

 

(いただきまーす……む。濃厚なチーズとツナの塩味)

 

「あと、生地がモチモチしてて少し甘いね」

 

(とても美味しいけど、猫は食べちゃダメなタイプだね)

 

「じゃあ、マロも食べない方がいいの?」

 

(僕は猫界でもエリート中のエリートだから、例外です)

 

「そうなんだ」

 

 

 そうなんです。

 都合がいい時は猫の例の中だし、都合が悪い時は猫の例外にいる。それが僕です。

 

 

(もう1つの方もチーズとツナなのかな)

 

「こっちは……卵とベーコンだよ」

 

(商品名はベーコンエッグってところか)

 

「そのままだね」

 

(わかりにくい商品名はダメでしょ)

 

 

 コンセプトってヤツ以外で、わかりにくいのは許されないと瑞希が言っていたし、間違いないはず。

 今度は僕が尻尾の方をいただき、ミクと一緒に2つ目も平らげた。

 

 

(僕はチーズの方が好きかなぁ。ベーコンはしょっぱいや)

 

「マロはしょっぱい味が苦手なの?」

 

(基本的に濃い味よりも薄味の方が好きだよー)

 

 

 本物の猫舌なんでね。

 (ささ)げ物は何でも食べるようにしてるけど、やっぱり熱くなくて濃くないのが1番である。

 

 

(ちなみに、ミクはどっちが好き?)

 

「どちらも美味しかったと思う」

 

(……あー、うん。何となくわかったよ)

 

 

 選ぶほどの差はないってことは理解した。

 瑞希や絵名からもらったお菓子は美味しそうに食べてたし、そっちの方が好きなのかもしれない。

 

 

(ミク的には今回の変わり種たい焼きよりも、元のたい焼きの方が好きそうだね)

 

「甘いんだっけ?」

 

(そうそう。僕も食べたことはないけど、餡子とかカスタードとか、チョコクリームってのもあったりしてさ。魚の見た目なのに甘ーい和菓子なんだよ)

 

「食べたことないのによく知ってるね」

 

(目の前で食べてたからねぇ)

 

 

 主にえむが、美味しそうにパクパクーっと。

 あれだけ目を輝かせて食べていたのだから、不味いことはないと自信をもって言える。

 

 

「マロ、辛かったんだね」

 

(うん。目の前で食べられるのって、結構辛いんだよね)

 

 

 だって僕、猫だからあげられないよーって言われるんだもの。

 でも僕、絵名にも『どこまで猫なの?』と聞かれるレベルの猫だから、自分が目の前のモノを食べれるのは知ってるの。

 

 つまり、お預け。

 他の人のおやつの時間は、僕にとっての『悪意のない永遠の待て』状態なのだ。

 

 

「じゃあ、今度は一緒に食べようね」

 

(そうだね。まふゆにお願いして食べよっか。無理だったら奏──は、外にあんまり出なさそうだから瑞希か絵名にも頼んで、一緒に食べよう)

 

「うん」

 

 

 僕の使い所がなかった資本主義の残骸が最近、日の目を浴びる機会が増えてきた。

 まだまだ隠してるので大丈夫だとは思うけど、考えて使わないとまふゆに怒られそうである。

 

 ……瑞希にお願いしたら内緒にしてくれないかな。

 たい焼き以外のことでお金を使うことになったら、直接交渉してみよう。

 

 

(そういえば、ミクは何してたの? 僕が来て邪魔じゃなかった?)

 

「今日はあやとりしてただけだから、邪魔じゃないよ」

 

(へぇ、あやとりかー。ミクは凄いなぁ、僕にはそんな器用なことできないし)

 

「その手では難しそう」

 

(難しいというか、前足じゃ無理だね)

 

 

 肉球はあるけれど、器用に動く指はない猫の手だ。

 

 この手であやとりをできるのならば、たぶんその猫は人間の世界で生きていけるよ。

 ……見せ物って意味でだけど。

 

 

「マロにも、教えてもらうのは難しい?」

 

(うむ、僕もあやとりは知らないんだ)

 

「そっか……」

 

 

 事実を伝えると、ミクがわかりやすく落ち込んでしまった。

 

 いや、待てよ。

 さっきミクは『マロにも』と言っていた。

 

 にもってことは、教えるのは僕じゃなくてもいいんじゃないか。

 ミクにあやとりを教えたのは瑞希だというし、瑞希ならば何とかしてくれる気がする。

 

 そんな悪魔的発想が閃き、僕の頭がその可能性を模索した。

 何となく考えている間に、瑞希なら大丈夫な気がしてきたぞ。

 

 

(まぁ、僕が出るまでもないんじゃないかな。だって、ミクには『紐の魔法使い』である瑞希がいるでしょ)

 

「紐の魔法使い?」

 

(ほら、瑞希って可愛いリボンとか持ち込んだりしてるでしょ?)

 

「うん。わたしも貰ったことがあるよ」

 

(リボンというのは広義的には紐なんだよ。あやとりも紐だし、紐を使うのは瑞希の得意分野ってわけだね。紐を使うことに関しては瑞希の右に出る子はいないよ)

 

「そうなの?」

 

(そうとも。リボンを使って魔法みたいに可愛く飾り立てる瑞希ならば、ミクの知らない可愛い技を沢山教えてくれるはずさ)

 

「そうなんだ……わたしも、可愛い技を教えてもらうね」

 

(うん、きっと素敵な技を教えてくれるさ)

 

 

 あやとりに可愛い技があるかは知らないけど、僕に負けず劣らず可愛いを極めてる瑞希なら、たぶん何とかしてくれるはず。

 

 ミクも目を輝かせてるし、いいことしたな。ヨシ!

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 ──と、瑞希にミクのあやとりのことを押し付けて解散したつもりだったんだけど。

 

 

「マロ、ミクにいい加減なこと吹き込まないでね」

 

「……にゃあ」

 

 

 僕は予備校帰りのまふゆに呼び出されて、セカイでお話し(オハナシ)することになった。

 

 

「ついこの前も『絵名はパンケーキとチーズケーキが好き過ぎて、髪と目の色まで近付いたんだよ』とか、ミクに変なことを教えてたでしょう」

 

(はい、教えました……)

 

「微妙にそれっぽいことを言うから、ミクも信じちゃうんだよ。マロが先輩だって言うのなら、そういうことはしちゃいけないと思う。わかるよね?」

 

(はい、すみません……)

 

 

 淡々と正論を述べられると、僕も小さくなることしかできない。

 

 ……でも、瑞希ならいけるんじゃないかなって思ったんだけどなぁ。リボンとあやとりじゃ分野が違ったか。

 絵名の件はまだ疑っているけれど、瑞希に関しては申し訳ないことをしてしまった。

 

 しょんぼりする僕の頭をまふゆがゆっくりと撫でる。

 

 

「何とか蝶々をリボンって言って誤魔化したらしいから、後で瑞希に謝っておいた方がいいよ」

 

(えっ、それでも教えてるんだ……)

 

 

 やっぱり、瑞希って紐の魔法使いじゃない?

 あ、すみません。ちゃんと謝りますので、撫でてる手を早めるのはやめてください。

 

 

 

 ──そうして、ほんの少し疑惑が深まったけれど、僕の謝罪は確定した。

 

 この後、ひょっこり現れた瑞希に渾身のごめん寝をしたのは、また別の話である。

 

 

 






☆マロ知識
マロは悪い猫なので、ミクと話している時には真面目だったり、とんでもないテキトーなことを吹き込んだりしている。


……


・惣菜鯛焼き
作者は食べたことがないので、存在だけのイメージです。

・おあずけ
目の前で美味しいものを食べてる姿を見るだけなのは、拷問だと思います。





・捧げ物
見返してる時に『揚げ物』に見間違えて「突然のフライ!?」と頭が混乱したので、見間違え防止の為にフリガナ付けてます。
愚か者の作者を許してください。疲れてるのかもしれません……


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