猫はシブヤにいます   作:大森依織

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反省が1度でできるのなら、歴史は繰り返さないと思うのです。





42匹目 猫は懲りない

 

 

 

 

 

 お昼ご飯中のみ、僕と一緒に過ごした後。

 まふゆは学校の宿題やら、弓道部の指導計画や委員会の定例会議の書類を提出するために、校舎の中へと消えてしまった。

 

 

(……学校の宿題はしょうがないんだけどさ)

 

 

 どうして顧問や部長でもないまふゆが、弓道部の指導計画を1人でやってるのかよくわかんないし。

 委員会のまとめ役でもないのに、定例会議の書類もまふゆの担当になっている理由もわからない。

 

 誰もやりたくないしわ寄せが来てるのだろうけど、まふゆだってやりたいことではないはずだ。

 先輩(ぼく)の接待に忙しい後輩(まふゆ)に、どうでもよさそうな雑事を押し付けるとは許せぬ。

 聞いてるだけで腹が立ってきたから、いつものように身を削って糸を触っておいた。

 

 ムカつくし、まふゆに押し付けてる人間は皆、分担する気持ちになっちゃえ。

 大変だったとしても少しぐらい苦労すればいいんだよ、ふーんだ。

 

 

(ふにゃ!? ぐぅ……体が重い。思ったよりも影響範囲が大きいな、感情的に動き過ぎちゃったかぁ)

 

 

 反省したはずなのに、また感情的に動いてしまった愚かな猫が僕である。

 ただでさえセカイに行ってからというものの、自分を削ることが増えてきたというのに、この為体(ていたらく)

 

 回復する量よりも自分の身を削っていたら、後輩に惨めな姿を見せてしまうのは時間の問題だ。

 収支が合わなくて消し飛ぶような姿なんて、1番まふゆに見せたくない。気を付けなければ……

 

 

(うぐぐ。とりあえず、応急処置をして~っと)

 

 

 寝ている間に力の配分を調整し、何とか存在を安定させる。

 強引に調整したので糸も見えにくいし、自慢の毛並み犠牲にしてしまった。

 とはいえ、歩けるし誰にも見えないような状態にはなっていない。及第点といったところだろう。

 

 

(うにゃー、疲れたぁ)

 

 

 その場を凌いで安堵する僕の前に、更なる試練が舞い込んできた。

 

 

「あ、マロちゃんがいるよ。愛莉ちゃん!」

 

「はいはい、わかってるから引っ張らないでちょうだい」

 

(……こういう、誰にも会いたくない時に限って人に会うんだよなぁ)

 

 

 周りをきょろきょろと見渡して、僕に近付いてきたのは雫と愛莉だった。

 

 

「ふぅ。周りに人はいないみたいね」

 

「人どころか、今日は朝比奈さんもいないみたい」

 

 

 愛莉と雫は仲良く周辺を見渡して、それぞれ目の付け所の違う感想を言い合う。

 

 まふゆがいたら、こんな馬鹿なことをした後の姿を見せることもないからね。

 2人にも気が付かれることなく、まふゆに話がいかないことを願うしかない。

 

 

「って。マロ、あなたどうしたのよ? いつもなら艶々でサラサラの毛並みが、今日はぺしょぺしょじゃない!?」

 

「本当だわ。マロちゃん、何かあったの? 朝比奈さんを呼んだ方がいいかしら?」

 

「にゃー」

 

「……それは嫌みたいね」

 

「ふふ、そうみたい」

 

 

 顔や態度に出ていたのか。

 こういう時だけハッキリと意思が伝わったせいで、2人に苦笑されてしまった。

 

 

「まぁ、この毛並みだと朝比奈さんも気が付くでしょ。嫌がっても時間の問題でしょうね」

 

「それにしても、この毛並みはどうしたのかしら? 足取りもしっかりしているし、ストレスなのかな」

 

「うっ。ストレスが原因なら、わたしが触り過ぎたのかしら……今日も撫でるつもりだったけど、自重するわ」

 

 

 雫の言葉にハッとした顔をした愛莉は肩を落とした。

 僕の毛並みに負けないぐらいしょんぼりとした姿を見ていると、申し訳なく思ってくる。

 

 僕が考えなしに動いてしまったばかりに、猫難民のように揺れ動く愛莉を見ることになろうとは。

 今度からは糸が見えないようになってでも毛並みを維持した方がいいのだろうか。今すぐに調整したら違和感しかないので、次の機会があれば検討しよう。

 

 ……あれ、次の機会ってあっていいんだっけ? わからなくなってきたぞ?

 

 

「残念だけど、今日はおやつだけね。フリーズドライの鶏ささみよ」

 

「にゃ~んっ」

 

 

 ま、いっか! 今は回復(おやつ)だ。

 愛莉から手渡されたおやつに飛びついて、僕は回復に努めた。

 

 

(全快とまではいかないけど……助かったぁ。ありがとう、愛莉!)

 

 

 愛莉からもらったおやつのおかげで、何とか見た目だけは誤魔化せる範囲まで巻き返した。

 誰にも会いたくないなんて思っていた僕が間違っていた。

 こういう時こそ、おや……ごほん、愛莉に会わなくちゃいけなかったのだ!

 

 

「みゃぁ~んっ」

 

「まぁ、今まで聞いたことがないぐらい甘えた声ね」

 

「おやつが余程、嬉しかったのね。でも、色々と複雑だわ……」

 

 

 おや。サービス精神旺盛の鳴き声だったのに、難しい顔をした愛莉には不評のようだ。

 もういいか、嫌がられるのなら甘えても意味がないもの。

 

 

「あ、戻った」

 

「スンってなったわね」

 

 

 雫も愛莉も僕の行動を事細かに実況しなくてもいいのに、全てを言語化してくれるものだから迂闊に動けない。

 

 ここは何か、2人の気が逸れるものを見つけられないだろうか。

 そう思って周囲を見渡すと、少しばかり既視感のある姿が目に入った。

 

 

(あれは隠れてるんだよね? あの頭はみのりと……後は誰だ?)

 

 

 つい最近も見た記憶のある隠れているようで、全く隠れていないみのりの姿と。

 その横で隠れることもなく、碧い眼でこちらを見ている青い髪の女の子がいた。

 

 髪は中庭にいる人間の中でも1番短いショートカット。

 雫と同じ青系統の見た目だけど、こちらは海っぽくて青色でも違う印象だ。

 

 

「みのり、何してるの?」

 

「バレないように隠れようとしてるんだよ。遥ちゃんも早く隠れないと!」

 

「別に悪いことをしてるわけじゃないんだから、隠れなくてもいいと思うんだけどな」

 

 

 ひそひそと話すみのりに対して、遥ちゃんと呼ばれた少女はとても堂々としていた。

 眉を下げつつもみのりの調子に合わせるようで、少女はみのりの背後に回った。

 

 ……2人とも、全く隠れていないのは触れないとして、だ。

 

 

(みのりも一緒ってことは、あの子も愛莉達と同じくアイドル仲間かな)

 

 

 僕には瑞希の言う『アイドルオーラ』というのは感じられない。

 このまま放っておくのも気になるし、予想通りなら愛莉と雫のお客さんだ。

 ここは2人に対応して貰うのが良さそうだ。

 

 前回のように愛莉達が気付いてくれることを期待して、僕はじっと隠れているつもりな子達を見つめた。

 

 

「あら。マロちゃんったらどこを見てるの?」

 

「この感じ、既視感があるわ。前は振り返ったら……やっぱり。みのり、遥! そんなところで隠れてないで出てきなさいよ!」

 

 

 雫は不思議そうに首を傾げていたけれど、愛莉は経験者だ。

 すぐに僕の意図を汲み取ってみのりと遥と呼ばれる少女を呼び出した。

 

 

(あ、忘れてたっ! そういえば、あの遥って子とは初対面だっけ!?)

 

 

 特に気にした様子もなく、僕の目の前にやってくるみのりと遥。

 すっからかんな僕、大ピンチである。

 

 

(えーと、今から逃げられるルートは……にゃ?)

 

 

 慌てて見つめると、いつの間にか遥と呼ばれる少女との糸が繋がっていた。

 

 

(何もしてないのにもう見えてるなんて、どういうこと?)

 

 

 僕が見える人が3人揃ってるせいか?

 だとしても、文化祭の時に冬弥の糸が繋がってないから、理由としては弱い。

 

 

「みのりから、愛莉は猫に会いに行ってるかもって聞いてたけど……実際に見るとビックリするね」

 

(あ、事前に聞いてたんだ)

 

 

 つまり、3人も見える人がいて、僕がここにいると事前に知っていたから糸が繋がっていたらしい。

 

 穂波の状況と冬弥の状況の組み合わせが、今回の結果のようだ。

 奇跡的過ぎて参考にすらならないってことだけは理解した。

 

 僕が自分の疑問を解消している間に、遥が心配そうに尋ねた。

 

 

「愛莉、本当に大丈夫なの?」

 

「見ての通り、マロだけは大丈夫なのよ。ただ、理由もわからないからこっそり楽しんでるつもりだったんだけどね」

 

「あぁ。それでやけに周りを見たり、変な行動をしてたんだ。もっと堂々としてた方が私も怪しいって思わなかったのに」

 

 

 猫から聞いても至極真っ当に聞こえる遥の言葉に、愛莉は首を横に振る。

 

 

「でも、わたしが猫アレルギーだって知ってる人は存在しているわ。それなのにマロを堂々と触っていたら、嘘だったのかって疑われるかもしれないでしょう?」

 

「あぁ……その子、模様が特徴的だけど、どう見ても三毛猫だもんね。愛莉のアレルギーが嘘だったって、騒がれる理由にされるかも」

 

「そうそう。このご時世、何で炎上するかわからないから、警戒して損はないでしょ」

 

(燃えるとか物騒なことを言ってるけど、大丈夫なのかな?)

 

 

 糸は……みのりの周りに嫌な色の糸があるので、まぁまぁ頑張らなきゃいけないみたいだけど、物理的な危険はなさそうだ。

 恐らく、炎上というのは『体から火が出ちゃう』とかじゃなくて、何かの比喩表現なのだろう。

 

 比喩だとしても『燃える』だとか、物騒な話をしているところを見るに、アイドルも大変そうだ。

 

 今の僕じゃあ何もできないけれど、頑張ってほしい。

 特にみのりは近々、大変そうだから応援の意味も込めて足を叩いておこう。

 

 

「みのり、その子に応援されてるみたいだね?」

 

「愛莉ちゃんじゃなくて、どうしてわたしが?」

 

 

 遥の指摘に本人が目を丸くしているが、僕は今、強く応援しているのはみのりである。

 

 炎上というワードに反応してひょろりと現れた糸なので、恐らくそれ関連なのだろう。

 直近で揺らめいているのはみのりなので、見ることしかできない僕は近々訪れる試練を前に応援することしかできないのだ。

 

 

「これはわたしよりも、みのりの方が大変そうだって思われたのかもね」

 

「えぇ~っ!? マロちゃんにも心配されちゃうなんて……こうなったら、次のコラボ配信でももっともっと頑張ったわたしの姿をマロちゃんに見せなくちゃ……!」

 

「いや、どうやって猫が1匹で配信を見るのよ」

 

「そこはこう、飼い主さんのスマホで?」

 

「いくら賢くても無理に決まってるでしょ。そういうところが心配されてるんじゃないの?」

 

「そ、そんなぁ~っ」

 

 

 急に愛莉とみのりが漫才を始めたのを見て、微笑ましそうに見守っている雫と遥。

 がっくしと肩を落とすみのりをしれっと遥がフォローしているのを見るに、良い仲なのは間違いないらしい。

 

 

(うむ。僕が何かしなくても大丈夫そうだ)

 

 

 むしろ、余計なことをしてしまったかもしれないな。

 何かあっても大丈夫そうなみのり達を見て安心している間にチャイムの音が鳴り響き、お昼休みも終わった。

 

 

「またね、マロ。朝比奈さんによろしく言っておきなさいよ」

 

(はーい)

 

 

 よろしくというのが良く分からないまま、僕は4人と別れた。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 ──そう、僕は忘れていたのだ。

 己の毛並みが荒れたままだっていうことを、すっかり頭から忘却していて。

 

 

「……マロ?」

 

(あっ……)

 

 

 放課後、そのまままふゆに会って底冷えするような声と共に、セカイに直行して。

 通訳アリで尋問コースに突入したのは……言わなくても良い話だろう。

 

 

(うにゃあ、僕のバカーっ)

 

 

 先輩としてのプライドとして原因に関しては口を閉ざしたせいで、話が長引いたのもまた、言わなくても良いということで。

 

 ……まったく、僕という猫は懲りないおバカさんである。

 ま、そこも可愛いところなんだけどね!

 

 

 

 






☆マロ知識
力を使い過ぎると外見にまで影響が出る。普段よりも可愛さが減ってしまうので、本猫的にも嫌らしい。


……

・予防
以下、苦手な方は挿絵非表示でよろしくお願いします。












・しばらく
今回のワールドリンクイベントで個人的に好きな方々が大集合しておりますので、そちらに意識が向きがちになります。
誤字など、酷かったら申し訳ございません……マロがごめん寝をしますので、大目に見てください。


【挿絵表示】

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