猫はシブヤにいます   作:大森依織

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勇気ある一歩を、猫は応援しています。





44匹目 応援にゃんこ

 

 

 

 

 

 にゃーんにゃーん、にゃっふるん。

 にゃーんにゃーん、にゃっふんだ。

 

 最近、ショーキャストの司達やアイドルであるみのり達と関わっていることもあって、僕も猫らしい歌と踊りができるようになった気がするんだよね。

 

 セカイまふゆに見せた所、ちょっと笑みを浮かべてくれたので成果は上々だろう。

 近くにいたリンが「いや、あれは……」と言い難そうにしてたけど、無表情が崩れたら僕の勝ちじゃなかろうか。

 

 最終的にはリンも「マロが良いのなら、良いのかな」と立ち去ったし、きっと大丈夫さ。

 仮に大丈夫じゃなくても、見聞を広げていたらそのうちできるようになると思うので、問題ないのである。

 

 

(今日は誰が歌ってるのかな~、っと……おや?)

 

 

 休みの日になると路上でパフォーマンスする人が増える通りに向かえば、見覚えのある子が人通りに向かって歌っていた。

 フェニランで偶然、ぶつかるという運命的な出会いから全く音沙汰がなかった少女、ハムっ子である。

 

 

(おぉ、これは中々成長性を感じる強い歌だ。街の人達が歌ってたのに近いな)

 

 

 ストリート音楽とか何とか、ビビットストリートの人達が言っている系の音楽を、あの小動物みたいな子が歌うとは。

 

 可愛い見た目でカッコいい音楽を歌うなんて、意外性も抜群。

 僕の好奇心をごしごしと擽ってくるのも素敵だ。

 

 

(よし、今日の鑑賞はハムっ子の歌に決ーめた)

 

 

 人の足の中を抜け出して、ハムっ子が歌っている前を陣取るように座る。

 

 目の前に猫が現れたら歌っている最中でも意識がこちらに向くらしい。

 ハムっ子は一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに注意を僕から逸らした。

 

 

「♪」

 

(にゃっ、にゃっ)

 

 

 思わず頭を前後に振ってしまうノリの良さ。

 奏の曲とはまた違う良さに、僕の体も癒されるのを感じる。

 人間の手が近くにあったら、僕の分も拍手してほしいぐらいだよ。

 

 

「……皆さん、聴いてくれてありがとうございましたっ!」

 

(うむ、良いパフォーマンスだった。ハムっ子に一声、鳴いて……!?)

 

 

 ハムっ子が目の前にいることで、ビビッとヒゲにきた刺激が自分の危機を示していることに気が付けた。

 左右と前は変わらず。足音と死角的に僕の身の危険がやって来ているのは……背後!

 

 判断するのとほぼ同時に横に跳ぶと、これまた見覚えのある黒髪が僕がいた所を通ってハムっ子に駆け寄った。

 

 

(あっぶな……危うくまた、ごっつんこするところだった)

 

 

 僕は中々反省できない猫だけど、今回は反省を活かすことができたらしい。

 

 

(あれ。そういえばさっきの黒髪っ子、咲希と一緒に僕を探してた子じゃなかったっけ?)

 

 

 ハムっ子を『小豆沢(あずさわ)さん』と呼ぶ彼女は確か、宮女で見かけた子のはず。

 ハムっ子からは『星乃(ほしの)さん』と呼ばれながら話している内容を聞く限りでは、志歩繋がりの間柄のようだ。

 

 

(ハムっ子と話したかったんだけど、真面目なお話をしてるっぽいな)

 

 

 人前で歌うのが凄い〜、とかなんとか。

 僕は寧ろ、人前で可愛がられるのがお仕事のようなものだったので、緊張とかは全くわからない。

 

 

(僕はわかんないけど、人間は緊張するものなんだよね)

 

 

 何であれ、頑張ろうとしている子の邪魔をするのは忍びない。

 星乃さんって呼ばれてた黒髪の子と糸が繋がりそうなのは気になるけど、邪魔な猫は退散しよう。

 

 

「──ありがとう、小豆沢さん。私、やってみるよ」

 

「どういたしまして。星乃さんの力になれたのなら嬉しいな」

 

(およ?)

 

 

 気がついたら、星乃さんとハムっ子は別れていた。

 

 判断が遅い。

 そう言わざる終えないスピードで話が終わっていた。

 

 

「っと。お待たせ、猫さん。フェニランの時ぶりだね」

 

「にゃん」

 

「すごくノリノリで聴いてくれてたから、私もいつもよりも楽しく歌えたよ。聴いてくれてありがとう」

 

 

 ハムっ子は僕に手を伸ばし、ゆっくりと撫でてきた。

 

 撫で方が猫を扱うソレとは違う気がするけれど、良いのではないだろうか。

 薄らと天敵(ヘビ)が頭の中に過るけど、撫でてたら慣れるだろう。今後に期待である。

 

 

「ねぇ、猫さん。あなたは明日も今日みたいに誰かの歌を聴きに行くの?」

 

「みゃあ」

 

 

 明日は明日の風が吹くんだけど。

 ハムっ子が真顔で尋ねてくるものだから、その気持ちに負けて鳴き返してしまった。

 

 

「明日、もしも星乃さんが歌っているところを見かけたら、今日みたいに応援してくれないかな」

 

「にゃ?」

 

「……って、猫に話してもしょうがないよね。引き留めちゃってごめんね、猫さん」

 

 

 勝手に1人で納得したハムっ子は、小さく手を振って僕から離れていった。

 

 

(明日、見に行ってくれないかな……ね)

 

 

 ハムっ子から見ると、僕の応援は大変良いものだったらしい。

 そうでなければ言葉が通じるかも怪しい猫に、あんな要請をしようとは思うまい。

 

 

(星乃さんとやらの糸は……おっ、まだあるな)

 

 

 幸いなことに僕と薄っすらと繋がった糸だったので、少し離れていた星乃さんという少女のマーキングは何とかなった。

 マーキングした時に糸もちゃんと繋がったみたいだし、星乃さんとやらも僕が見える側になったわけだ。

 

 後は僕のやる気とまふゆの予定次第。予定が合えば行くよってヤツだね。

 

 

(続報は期待しないでくれたまえ)

 

 

 今回は供物(おやつ)もないわけでして、期待されてもな~といったところだ。

 

 よい歌のお礼にちょっとだけ、気が向いただけなんだから。

 僕は安いお猫様じゃないので、その辺は勘違いしないでよね。

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 ハムっ子の路上ライブを見た翌日。

 

 まふゆは学校の宿題とニーゴの作業を少ししたいらしいので、僕は暫しの間自由の猫になった。

 自由になってしまったのなら、僕も行動しなくては失礼というもの。

 マークした糸を辿って歩くこと幾分か。人混みを下げて進んでいくと、いつの間にかセンター街に辿り着いていた。

 

 

(ほほう、ハムっ子とは別の場所なのか)

 

 

 こっち側での路上パフォーマンスはあまり見ていなかったので、僕の好奇心が疼く。

 感情のままに人の足の雑木林を抜けた先には、固い顔で立っている黒髪の少女がいた。

 

 ギターを持って口を開こうとしている少女は間違いなく、話そうとした星乃さんとやらだ。

 糸も繋がっているし、僕の勘違いで可能性もほぼゼロである。

 

 

「♪……」

 

(さーて、星乃さんとやらの歌は……んー、にゃぁ?)

 

 

 力強いハムっ子の歌に比べると、心配になるぐらいか細い声。

 人前で歌い慣れてないのだろうか。風が吹けば消えてしまいそうな声に体がムズムズする。

 

 

(臆病な心が顔を出してるなー)

 

 

 えいやと飛び込めば案外、どうとでもなるんだけども。

 未知は怖いし、1人は勇気が倍必要になるものだ。

 

 それをハムっ子も知っていたから、ダメ元で僕に声をかけたのかもしれないな。

 

 

(声が出ないのなら、出ちゃうぐらいにこの場を楽しむしかないよね!)

 

 

 幸いなことに、出てないのは声だけでギターはまだ良い音を出している。

 ここは1つ、この天上天下唯我独尊の可愛さを持つ僕がひと肌脱いであげよう。

 

 

(ま、猫なんで脱げる肌はないんだけどね!)

 

 

 僕には人間の手も、周りに見える存在感もないけれど。

 今回必要なのは1人で頑張ろうとする観客1人に、勇気を持ってもらうこと。

 

 歌声がなくても音は微かに聞こえてる。後は応援するだけだ。

 応援と言っても、僕にはブレイクダンスとか、二足歩行で踊るのは無理だから、本当に音に乗る程度だけどね。

 

 

「みゃ、みゃっ」

 

 

 音楽に乗って、僕は体を揺らす。

 動く絵でも中々見れない、猫ダンスを魅せてあげよう。

 

 

「にゃっ、うにゃ。にゃん、にゃふっ」

 

 

 リズムに合わせて体を上下に小刻みに動かし、今度は左右にステップ。

 リズムにノッて、ステップ&ターン。もう1度ステップを繰り返した後に、クルッと回ってキメ顔!

 

 

「にゃっふん!」

 

「……ふふっ」

 

 

 あ、笑った。

 

 固くなっていた顔も少し、力が抜けているようだ。

 まだ震えているけれど、これなら彼女も歌えるのではないだろうか。

 

 

「にゃっ!」

 

「♪────」

 

 

 うむ、できるではないか。

 何のために歌うのか、誰に向けて歌うのか。ちゃんとわかってる子は、初めてでも強い。

 

 

(星乃さんとやらは真っ直ぐで、爽やかだな)

 

 

 声も手もまだまだ震えているけれど、それでもハッキリと彼女の歌が聞こえる。

 昨日聞いたハムっ子がカッコよく纏っていたこともあり、余計にそう思う。

 

 

(何だっけ。瑞希が『成長コンテンツ』とか言ってたアレかな、星乃さんとやらは)

 

 

 頑張れって感じの歌だ。僕は嫌いじゃない。

 そのまま大きなトラブルとかもなく、星乃さんは路上パフォーマンスをやり切った。

 

 懸命な気持ちは周辺の通行人の心をしっかりと動かしたようで、応援の言葉が投げかけられている。

 

 

(……杞憂だったね)

 

 

 あの歌を歌える星乃さんとやらならば、覚悟を決めて歌い切っていただろう。

 僕が何もしなくても良かったわけだ。余計なことをしてしまったとも言っていい。

 

 長居は無用だ。変な猫は立ち去るのみである。

 

 

「──待ってっ」

 

 

 人混みに紛れて姿を消そうとした僕に待ったをかけたのは、さっきまで周辺に頭を下げていた星乃さんだった。

 

 昨日から逃げ遅れてるんだけど、判断するのって難しいね。

 逃げてしまう前に、あっという間に星乃さんに先回りされてしまった。

 

 

「その、君って咲希が探していたマロって子だよね?」

 

「にゃあ」

 

「やっぱり。咲希に見せてもらった写真とそっくりの模様だったから、そうじゃないかって思ったんだ」

 

 

 星乃さんは安堵の息を漏らしてから、こちらに視線を合わせるようにしゃがんだ。

 

 

「今日は見に来てくれてありがとう。マロがいてくれて、心強かったよ」

 

「にゃー」

 

 

 別に、僕がいなくても星乃さんは歌い切っていただろうさ。

 経験も達成感も全部、君のものだ。お礼を言われるようなことではない。

 

 

「首を振られちゃったけど、どうしてもお礼を言いたかったんだ。ありがとう」

 

「……にゃあ」

 

 

 どうしても、と言うのなら受け取るのも(やぶさ)かではないけども。

 少しぐらいは力になったって言うのなら、僕の尻尾もちょっとだけ動いちゃうかなって感じだ。

 

 良いものを見せてもらったし、サービスで頭を撫でるぐらいは許しちゃう。

 今日だけはおとなしく撫でられておこう。後輩以外にここまでサービスするのは稀なので、そこは弁えるように。

 

 

「それじゃあ、またね」

 

「にゃーお」

 

 

 星乃さんは軽く撫でて満足したようで、すぐに僕を解放した。

 

 

(……僕が応援したことで糸に悪影響は与えてないな、ヨシ)

 

 

 念の為に星乃さんとやらの糸を見て、異常がないことを確認できたので僕もここには用はない。

 ハムっ子のお使いも終わったので、僕はさっさとセンター街を後にした。

 

 

 

 






☆マロ知識
報酬を貰ったら動かなくちゃいけないのは猫とは別の習性である。


……


・毛並み
完全復活とはいかないまでも、人前に出れる程度には回復したみたいです。

・イベスト
『君と歌う、桜舞う世界で』のイベストを今回と次回に触れた話を更新します。

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