猫はシブヤにいます   作:大森依織

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裏側は乱世、ではなかったみたいですね。




54匹目 猫とわけっこ

 

 

 

 

 日も沈んでいるのに、周囲の建物などでまだまだ明るい夜。

 僕は1匹で人混みの中を歩いていた。

 

 

(セカイ、かぁ)

 

 

 杏達が公園から立ち去り、不思議な糸を残して消えたあの日からずっと、セカイのことばかり考えている。

 

 ミク達の話を聞いている限りでは、セカイというのは無数に存在しており、そのセカイの数だけそのセカイのミク達も存在しているようだ。

 可愛過ぎる僕はこの世で1匹だけだけど、ミク達は『○○のセカイのミク』みたいな感じで、色んなミク達がセカイ毎に存在してるらしい。

 

 

(こんなの、領域ならあり得ないことなんだけど)

 

 

 我が唯一の〜、とか言うお上の方々がいる世の中でセカイみたいなことになっていたら、この世は今も乱世である。

 セカイどころか、世界も終わる5秒前かもしれない。

 

 日本的な土壌がなかったらまず、セカイなんてものはできないだろう。

 僕の勝手な想像だけど、そこまで間違ってはいないはずだ。

 

 

(例えば、だ。セカイという場所は関わる人が多ければ多いほど存在が成立しやすくて、実は少人数で1つのセカイを成立させるのが難しいとか。そんな条件があったとする)

 

 

 そんな難しい条件を達成できる子達は僕を見える人を通じて見えるようになる。

 そんなセカイを1人で創れる外れ値の子は、僕のことも自力で見える……と。

 

 

(うぅむ、セカイが理由なら、もっと僕が見える人がいてもおかしくないんだけどなぁ)

 

 

 人の多いシブヤで、該当者は司とまふゆだけ。

 セカイの成立って意外と難しいのかもしれないし、そこから更に少人数で創るって条件が厳しいのかもしれない。

 

 

(まふゆ達も一応4人だし、杏達にもセカイがあるなら、丁度4人だもんな)

 

 

 最大4人の想いで創ったセカイの持ち主であることが僕を見る条件なのだとしたら、厳しいかもしれない。

 

 

(いやいやいや。まだセカイだとは決まってないから、今までみたいに勘違いかもしれないでしょ)

 

 

 ──と、言い聞かせてみるものの、自分でも厳しい言い訳だということはわかっていた。

 

 今まで思い浮かべていたどの理由よりも、杏達と繋がっていた糸という、見える証拠があるのだ。

 セカイ関係はもう少しじっくり観察してみないと結論は出ないだろうけど、僕の()が告げている。

 

 

(これはもう、ビビッドストリートに行く予定はずっと未定なままかなぁ)

 

 

 知ってる人ばかりなのに、ほぼ見えない人の集団に飛び込むのは猫でも勇気がいる。

 知らん奴が見えないのはどうでもいいんだけど、親しい人相手に透明猫さんなのは辛いのだ。

 

 

(杏には街の外で歌ってる時か、一瞬だけ何処かにお邪魔して歌を聴かせてもらうことにしよう)

 

 

 僕が招きたいのは福であって、混乱とか混沌ではないからね。

 街で聴くとは約束してないということで、許してもらおう。

 

 

(よし、悩むのおーわり!)

 

 

 後は野となれ山となれ。

 今まで通り、見える子達の糸には注視しつつ、セカイに関係するものを探す。

 見つかったら予想通り、見つからなかったらいつも通りに振り出しに戻るだけだ。

 

 

(頭を使ったら疲れちゃったなー。セカイに行ったら誰かおやつを分けてくれないだろうか……ふにゃっ!?)

 

 

 考え事をしながら足のジャングルを抜け出したせいか、その先でぬっと現れた足と激突してしまった。

 鼻が痛い。が、僕とタイミング良くぶつかる相手なんて限られている。

 

 

「うぉっ!? って、マロかよ。おい、大丈夫か?」

 

「うにゃあぁ……」

 

 

 頭を振る僕の前に出てきたのは彰人だった。

 鼻がまだ痛いけど、こっちは大丈夫だ。前を見てなかった僕が悪い。

 

 

(というか、僕よりも君の方が大丈夫なの?)

 

 

 僕はぶつかったから変な声が出たけど、彰人も大概、声がおかしいよ?

 あ、これは悪口じゃないから。少しばかり枯れ気味な声が気になるってだけなので。

 

 

「……こっちが心配してるのに、お前の方が心配してそうだな」

 

「にゃっ」

 

 

 何をして渋めの声になってるのかはわからないけど、無理して喋らない方がいいのではないだろうか。

 そういう意味も込めて首を傾げると、彰人は気まずそうに首に手をあてた。

 

 

「猫に心配されるなんて情けねえな。少し個人でやってるだけだから、心配すんな」

 

 

 そう言う彰人の周りの糸は、残念なことに1人で無理しようとしてます! と言わんばかりに忙しない。

 

 この前見た時はそんなことなかったのに、一体誰に焚き付けられちゃったのやら。

 彰人はどうにも人一倍頑張ろうとしちゃうから困ったものである。

 

 

(絵名も努力の人だからなぁ。いいことだけど、今回はちょっと空回りしかけてるよね)

 

 

 心配になるけど、彰人には冬弥達もいる。

 僕が直接、手を出すほどでもないだろう。

 

 

(手を出す必要はないけど、頑張り屋さんは応援したいよねぇ)

 

 

 奏みたいなレベルになったら肉球スタンプの刑だけど、彰人はその辺はしっかりしているみたいだし。

 少しばかり喉を労う程度でいいだろう。ということで……

 

 

「にゃあ」

 

「あ? どうしたんだよ」

 

「にゃーお」

 

「……ついてこいって?」

 

「みゃっ」

 

 

 見事に言い当てた彰人に力強く鳴き返して、僕は目的地に向かう。

 

 僕ってばまふゆがいない時だと、絵名や瑞希とも遊んでるんだよね。

 そういうこともあって、最近の僕はシブヤのお店というのにもそこそこ知見があるのだ。ふふーん。

 

 

「にゃーん」

 

「ここは……パンケーキの店か?」

 

「にゃんっ」

 

 

 彰人を連れてきたのは、絵名も絶賛していた路上販売しているパンケーキを売る車だ。

 

 瑞希曰く『ハンバーガーみたい』だというパンケーキは2枚のパンケーキに好きなフルーツのソースと蜂蜜を挟むモノ。

 トッピングも追加で注文できて、紙に包まれた状態で出てくるので、ハンバーガーのようにパクッと食べれるのが売りなんだそうだ。

 

 

「美味そうではあるが……お前が食いたいのか?」

 

「にゃー」

 

 

 僕も食べたくないとは言わないけれど、今回のメインは彰人だ。

 糸を引っ張って、千円札を1枚だけ手繰り寄せる。

 

 

「は? おい、その金はどっから出してきた?」

 

「みゃあ」

 

 

 どこからって、まぁまぁ。

 僕のへそくりだからお構いなく。

 

 困惑する彰人の手に、僕は口に咥えた千円札を押し付ける。

 ぐいぐいと押し付けた甲斐もあり、彰人は困惑した顔のまま千円札を握り締めた。

 

 

「猫にパンケーキはダメだろ」

 

「にゃっ!? ……みぃ、にゃーっ!」

 

「は? もしかして、オレの分なのか?」

 

「にゃあ!」

 

「猫が奢ってくれるってか? ……それはそれで複雑なんだが。つーか、どういう状況なんだよ、今」

 

 

 言いたいことが沸々と浮かんでいるのに、全てを言葉にできないらしい。

 彰人は小さく唸りながら、雑に自分の頭を掻いた。

 

 

「……はぁ、しょうがねえ。マロ、そこでおとなしく待ってろよ。いいな?」

 

「にゃあ」

 

 

 彰人は訝しげに目を細めつつも、その場から離れた。

 

 あの目は信じられてないし、何故かパンケーキのキッチンカーではない場所に行っちゃうし。

 僕の方が何をしているのかと聞きたいんだけど、猫の口では鳴くことしかできない。

 

 

(待ってるように言われたから、待つんだけど)

 

 

 彰人は何処に行ってしまったのだろう。

 男の子だとはいえ夜だから、猫としては心配です。

 

 

(──あ、戻ってきた)

 

 

 彰人が小さめの紙袋を片手に持って戻ってきた。

 そのままキッチンカーに寄ってパンケーキを注文し、紙袋を両手に持った彰人は僕の前に来る。

 

 

「ほら、これはお前の分だ」

 

(これは……さっき何処かから帰ってきた時に持ってた紙袋?)

 

「この近くにペット用のケーキも売ってる店があるんだよ。これで貸し借りなしだ、食うぞ」

 

「……にゃっ」

 

 

 彰人は当然のように紙袋に入れていたケーキを取り出して、僕の前に置く。

 

 土台は厚みのあるパンケーキっぽくて、上には白いクリームがたっぷりと乗せられている。

 僕の隣では彰人が遠くを見ながらパンケーキを食べていて、できる限りこちらを見ないように気を遣ってくれているのがわかった。

 

 

「みゃーお」

 

「おう、全部食べろよ」

 

 

 少し離れたところまで買いに行ってくれたものを、遠慮するのもダメだろう。

 

 残したところで彰人が食べれるわけもなく。

 僕は心の中でいただきますを念じて、そのケーキに口を近づけた。

 

 

(む、不思議だ。この前、瑞希に買ってもらった人間のケーキに近いのに、あんまり甘くない)

 

 

 動物用のケーキって人間のとは違うらしい。

 これはこれで美味しい。だけど、人間のおやつの見た目に近いから、舌に伝わる味が違っていて頭が混乱する。

 

 

(贅沢になっちゃったのを、ケーキに押し付けるのは失礼だよね、うむ。ごめんなさい)

 

 

 戸惑うのは僕の勝手な都合であって、彰人の好意に何かを言うのは猫としてもよろしくない態度である。

 何はともあれ供物(頂き物)は全てありがたく、綺麗に平らげた。

 

 

「……全部食べたか?」

 

(もちろん。ご馳走様だよ、彰人)

 

 

 彰人も食べ終わったようで、前だけを見ていた目でこちらを一瞥する。

 クリームがつかないように柔らかな紙袋ごと折りたたみ、キッチンカーの近くにあったゴミ箱に捨てた。

 

 

「……お前を見てたら、猫だとか考えてるのがバカらしくなるな」

 

「にゃぁ?」

 

 

 手に持ったゴミを捨てた彰人が焦点の合わない目をこちらに向けつつ、引き攣った笑みを浮かべた。

 

 僕はお行儀なども気にするタイプの立派な三毛猫だというのに、どうして彰人はバカらしくなっているのだろうか。

 どこもバカらしくなる要素なんてないんだけどね。不思議なこともあるものだ。

 

 

「メシも食ったからか、喉も戻ってきたな」

 

(だねぇ。でも、無理はしちゃダメだよ?)

 

「そんな目で見るなよ……はぁ、わかった。今日は真っ直ぐ家に帰る。これでいいだろ?」

 

「みゃっ!」

 

「……ったく、変な猫だな。悪い気はしねえけどよ」

 

 

 がしがしと僕の頭を撫でた彰人は、少しマシになった声で笑った。

 

 

「マロも、朝比奈さんにあまり迷惑かけんじゃねえぞ」

 

(面倒を見てるのは僕側だから、迷惑はかけてないと思うよー)

 

「変なこと考えてそうな顔をしてるが……まぁいいか。気をつけて帰れよ」

 

 

 じゃあな、と帰る彰人の背中を見送ってから、僕も立ち上がる。

 今日の彰人からはセカイに関する糸は見えなかったけれど、その辺はゆっくりでいい。

 

 

(今日も悪くない1日だったなー)

 

 

 セカイとの繋がりを探ることよりも、見守ってる方が楽しいのだから。

 猫は楽しいことを優先するから、しょうがないね。

 

 

 






☆マロ知識
存在とか根本とか怪しいところが多いけれども。
愛すべきバカなお猫様なので、許されてるところがかなりある猫である。


……

・あっさり受け入れてる彰人君
杏さんから変な猫の話をよく聞いてたので、変な猫の正体がマロだとわかってからは「そういうこともある、のか?」となんとか飲み込んでるようです。

・引き寄せ
この猫、泥とかできちゃうのでは……と心配される方も安心。
この技はマロがもらったもの(つまり縁ができたもの)でないと使えませんし、猫が持てる程度の重さじゃなければできないようです。
それでもとんでもないんですけども。

・奢られ阻止
彰人君「飲み込んだとはいえ、猫に貸し借りなんて作りたくねえよ……」
ということらしいです。





・供述
突然頭に降って湧いた『彰人君と猫が一緒に何かを食べるシチュエーション』をしてみたかったんです……



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