猫はシブヤにいます   作:大森依織

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お休みの方法って、人間も大変ですね。





59匹目 猫と休養方法

 

 

 

 

 

 お昼休みの中庭にて、まふゆは今日も本を読んでいた。

 

 いつもなら使い古された参考書をペラペラ捲ってるか、買い与えられた新品の参考書を義務感から1周していることが多いまふゆ。

 今日は辞書よりも薄めの本らしく、両手も持ちやすそうに本を支えていた。

 

 

(ブックカバーでわかんないけど、何読んでるのー?)

 

 

 まふゆの隣で丸くなっていた僕は、ひょいと背凭れに飛び乗って本を覗き見た。

 

 僕の予想では『わかりやすい』と銘打った参考書あたりかなーと思っている。

 お母さんに参考書を買ってこられて、積み本になってしまう前に消化してるまふゆの姿をよく見ているからね。

 

 たぶん今回も、そんな感じだろう。

 そう思ってもいたのだけど、覗き込んで見えたものは予想とは違っていた。

 

 

(あれ……図も何もないや。文字ばっかりで何の本なのか、全くわからん)

 

 

 いや、読めはするんだよ?

 文字そのものは読めるんだけど、内容が『休む』とかまふゆらしくなくて頭が受け入れてくれそうにないってだけで。

 

 

(まふゆが、休む……?)

 

 

 学校に行って部活もして、最近までは頻繁に先生や後輩だけでなく、ご学友すらも『お手伝い』という名の介護もしていて。

 予備校もニーゴの活動もして寝てる時間以外はほぼ動いている機械のようなまふゆが、休む?

 

 

(いやいや、そんな馬鹿な)

 

 

 先輩である僕が連れ回さないと、真っ直ぐおうちに帰って作業か勉強するまふゆがお休みだって?

 ニーゴの皆と対面するまで、まともに遊ばなかったらしいまふゆが休む為の本を読んでるとは……それだけ、悩んでるのだろうか。

 

 

(まふゆにもうちょっと優しくした方が良かったりする?)

 

 

 悩ましく思いつつ、本の内容を再び盗み見る。

 

 

(えぇーと、なになに……休養には3分類と7つのタイプがあります?)

 

 

 本によると、休むのは何も寝ることだけじゃなくて、軽い運動や胃腸に優しい食事も休みにあたると。

 他にもあーだこーだとページを捲るごとに語っているのがわかるけれど、一言にまとめるとだ。

 

 

(うわー、めんどくさ……)

 

 

 要するにあれでしょ? 自分の体と心に素直になって休みなさいってことだよね。

 そんな生き物として当たり前のことを、1冊の本に懇々(こんこん)とまとめることじゃないでしょうに。

 

 

(人間って変わってるなぁ。本能的にできるはずのことも、本にしなくちゃいけないなんて)

 

 

 確かに、人間ほど自分の体の訴えに逆らう生き物はいないか。

 

 奏なんてその典型だ。

 眠い、お腹減った、喉が渇いたと訴えてくる体の信号を無意識に捻じ伏せて、曲を作り続けているのだもの。

 他の人間も似たようなものだからこそ、本にもなるのだろう。人間も不便な生き物である。

 

 

(じゃあ、まふゆが休むことについて学ぶのは意外でもなんでもないのか)

 

 

 できないことを本で勉強することによって、できるように……なるのか?

 わからないけれど、努力をしようとしているのだろう。

 

 うむ、その気持ちは僕も応援したいと思うよ。

 

 

「──あ! 朝比奈さん、マロちゃん。こんにちは」

 

 

 まふゆのお休み応援し隊(隊員1匹)が結成される目前で、中庭にいる僕らに気が付いた雫が駆け寄ってきた。

 

 

「こんにちは、日野森さん」

 

(にゃっはろー)

 

 

 さっと猫の皮を被ったまふゆが笑顔で挨拶するのに合わせて、僕も尻尾を大きく振った。

 

 最近では雫も中庭の常連さんなので、僕らの対応は慣れたものだ。

 いつもならここで雫が雑談を振ってくるのだけど、今日は珍しくまふゆの方から話を振った。

 

 

「そういえば、この間の部活で話したことなんだけど。私の方でも少し調べてきたよ」

 

「えっ。軽く話しただけだったのに、調べてくれたの?」

 

「うん、私も休みについては興味があったから」

 

 

 ……はい、解散(かいさーん)!

 まふゆのお休み応援し隊は結成する前に終了だよ、こんなの。

 

 まふゆと雫が話してるのを横目に、僕は背凭れから降りて体を丸くする。

 てっきり、自分のことを大切にするようになったのかも、と思っていただけにちょっとモヤモヤするな。

 

 

(うにゃあ。まふゆらしいといえば、らしいんだけども)

 

 

 まふゆはどうやら、自分の為よりも誰かの為に動けちゃう子みたいだから。

 自分の為に調べてたと言われるよりは、雫の為ですと言われる方が納得できてしまう。

 

 そう思ってしまう僕にも、モヤッとしちゃうんだけどね。

 

 

「──朝比奈さん、ありがとう。週末、頑張ってみるわ」

 

「うん、応援してるよ。気分転換になるといいね」

 

「えぇ! それと……今日はマロちゃんを触っても大丈夫かな?」

 

「えっと。それはマロに聞いてみないとわからないかな」

 

 

 僕が1匹でモヤモヤしている間に、2人の視線がこちらに向けられた。

 

 

(ん、触りたいの? えー、どうしようかなー。迷っちゃうなー)

 

「はい、マロ。触らせてあげてね」

 

「にゃーん♡」

 

「流石、朝比奈さんね。マロちゃんのことをバッチリわかっていてすごいわ」

 

 

 ハッ、普通にサービスしてしまった。

 

 でも、僕は悪くない。

 まふゆが先に魅惑のおやつをくれるから、要求を通すしかなかっただけで、僕は悪くないんだ。

 

 そんなことを思っている間にも、僕は雫に撫でられ続けた。

 

 

(んー……やっぱり、引っ張られてるなぁ)

 

 

 猫とは違う側面が、ひょっこりと顔を出してくるのは面白くない。

 僕の体質も、困ったものである。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 今日のまふゆは委員会の日だったらしい。

 だからといって、何処かを彷徨(うろつ)く気分でもない。

 

 何かを考えるのも面倒で、中庭でゴロゴロしている僕。

 そんなゴロゴロにゃんこ状態をエンジョイしていると、1つの影が現れた。

 

 

「あれ、今日は1匹なんだね」

 

(ん? ……あ、遥だ。どうもー)

 

 

 僕を見つけて近付いてきたのは、雫達とアイドルとして活動している少女、桐谷(きりたに)遥だった。

 

 鞄を持っているので、遥は帰宅予定だったのかな。

 いつもなら元気いっぱいのみのりや、常連さんの愛莉か雫辺りと一緒にいる時に僕の元に訪れるから、1対1の状態になるのは珍しい。

 

 

(特に遥は、まふゆとは違う方向で忙しそうだからなぁ)

 

 

 まふゆは外からポイポイと積み込まれるけど、遥の場合は自分から予定をびっしりと詰め込んでいくタイプに見えるんだよね。

 頑張れる子は応援したくなるから、個人(猫)的には嫌いじゃないけどさ。

 

 

「……誰もマロとは遊んでなさそうだね」

 

 

 遥は周囲を見渡した後、じっとこちらを見つめる。

 ご指摘の通り、僕は1匹でエンジョイしてるけれど、それを確認する意味は何なのだろうか?

 

 首を傾げていると、遥が鞄から小さな袋を取り出した。

 

 

「家にあった煮干しの余りだけど。これ、どうぞ」

 

(……素直にいただきたいところだけど、一体何が目的なんだい?)

 

 

 朝にまふゆにしてやられたこともあり、素直に遥からモノを貰えない。

 

 最近、僕に何かする時はおやつをくれる人が増えてるのも、警戒してしまう理由の1つで。

 遥も何か頼み事があるのではないかと、僕は身構えてしまう。

 

 遥は鞄からゆっくりと大きめの保存袋を取り出して、宝物でも扱うような手つきで中身を取り出す。

 

 

「その、何となくわかるのかな。実はまたこういうのを着て欲しくて」

 

 

 その予想通り、遥が袋から取り出したのはやけに偉そうなペンギンの着ぐるみだった。

 しかも、前に着たペンギンの衣服と同じく、小さい動物なら着れそうな大きさである。

 

 

「本当はこれ、家にあるぬいぐるみに着せる為に買ったものなんだ」

 

(う、うむ)

 

「でも、あの日の──マロがみのりに着飾られてたあの姿が、どうしても忘れられなくて……!」

 

 

 つまり、遥の大好きと僕の可愛さが合わさって最強に見えてしまったと。

 

 

(僕、可愛いもんなー。それはしょうがないかなぁ)

 

 

 ぬいぐるみに着せる程度では満足できない衝撃を与えてしまった僕にも、少しは非があるかもしれない。

 ……いや、あるか? 非がないような気もしてきたけど、煮干しも差し出された後なので断れないな。

 

 

(遥なら着ぐるみで苦しめてくることもないだろうし、差し出されたものを食べないのも良くないよね……うむ、いただきます)

 

「あ、食べてくれたってことはもしかして」

 

「……ん、にゃっ!」

 

 

 煮干しも平らげて、衣服を汚す要素もなさそうなので、ヨシ。

 準備は良いぞ、という意味で大仰に頷くと、遥は笑みを浮かべた。

 

 

「ありがとう。それじゃあ、早速着せ替えさせてもらうね」

 

「にゃあ」

 

 

 急に糸が増えるぐらいの眩い笑みを浮かべられるのは困るんだけど、まぁいいか。

 ちょっと糸を除去してから、僕は遥に『皇帝ペンギン』と呼ばれていた衣装を着替えさせてもらった。

 

 

「やっぱり。想像よりも実物が1番かもしれない」

 

 

 手早く僕を着飾った遥が、真剣な顔で全体をぐるりと眺める。

 まるで職人さんのような目だ。この姿を見ただけで遥のペンギン好き具合がよくわかる。

 

 

(遥って、メリハリがしっかりしてる子なんだろうなぁ)

 

「マロ、ちょっと胸を張ってもらってもいいかな?」

 

(はいはい、こんな感じでいいかな?)

 

「その自信のある態度、すごくいいと思う。それで、その」

 

(撮るなら可愛く撮ってねー)

 

 

 スッとスマホを取り出して、私用の写真を撮らせて欲しそうだったので、頷いて許可を出す。

 

 こういう時ほど、写真に残るタイプの透明猫さんで良かったと思うよね。

 たぶん、見えてない人が僕を撮っちゃったら瑞希が好きな『心霊現象』になりそうだけど。

 

 

「──うん、ちゃんと脱げたね。マロ、ありがとう。おかげで可愛い皇帝ペンギンを活かした写真が撮れたよ」

 

「にゃあ」

 

 

 僕も遥のお願いはあっさりとしていて、悪くなかったと思うよ。

 衣服というのは僕の体を拘束するみたいで好きじゃないけれど、供物(おやつ)を貰えた上で、今回のように短時間だけなら承ることも悪くない。

 

 

「それじゃあ、私はそろそろいくね」

 

「にゃーん」

 

 

 小さく手を振った遥は、颯爽と中庭を出ていく。

 

 雫もそうだけど、アイドルって姿勢とか佇まいが良いのは何でだろうね。

 みのりはそこまで綺麗な佇まいって印象はないけど、愛莉も同じく努力家って感じだし……よくわからないけど、素敵なアイドルになるんだろうな。

 

 

(そういえば、僕が見える子達は良いグループっぽい子が多いよね)

 

 

 ……それも、条件にあるのかな。

 

 これは益々、現場を取り押さえたくなるよ。

 難しいのかもしれないけど、今になって楽しみが増えるのもいいよねー。

 

 

 

 

 

 






☆マロ知識
猫以外の体質的が強く出てしまってる時は、報酬を先払いされると断れないらしい。


……

・雫さんの相談
マロを介して交流が盛んな為、雫さんとまふゆさんは意外と相談などとしている仲にまでいっているらしいです。

・遥さんの休養
雫さんが休めているか心配してる時期ですが。
マロとの関わりを見てる限りでは大丈夫そうですね。







・公式様への感謝と感想など
6周年おめでとうございます、ですね。
8年近くぶりにスマホも買い替えたので、快適にプロセカの6周年を祝おうと思ってます。パチパチ。

物語は2028年頭辺りで完結とのことで。
何というか、まふゆさんとか奏さんの件はやっぱり現実と同じく綺麗に……ってわけにはいかないのかもなぁと。難しいですよね。
色々と、気になりますし楽しみですね。



・来月
今までのように大幅増量は難しいのですが、予定通りの更新に少し足して更新します。

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