猫はシブヤにいます   作:大森依織

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 不思議な縁ができました。







6匹目 未来のお星さま

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近は少し、陽の光も弱くなってきた。

 態々学校など、涼しい所に向かって昼寝をする手間が省けてありがたいことである。

 

 僕ぐらいの猫になるとスゴイ気配のお陰で人の方から避けてくれちゃうものだから、この時期になるとどこでも寝ることができるのだ。

 

 流石に車っていう箱が行き交うようなところとか、人が波のように歩く交差点で眠るのは五月蝿(うるさ)過ぎるので却下だけど、公園等の静かめな場所なら気持ちの良い所で眠ったりする。

 

 僕は配慮できる猫だからねー。

 念の為に人通りの少ない道を選んでるし、人が少なければ周りなんて気にせずに眠っちゃうのだ。

 

 現状のメリットはどこでも好き勝手眠れることぐらいなので、今日は思う存分、それを堪能するぞー……

 

 

「ぬぉぉぉおっっ!? こんなところに何故猫が!? 危ないぞぉーっっ!!」

 

 

 そう思っていたこともあって、正直に言うと油断していた。

 まふゆだけが例外だと思っていたので、その大声が僕に向かって叫んでいるモノだとは思わなかったのだ。

 

 足音はすぐそこまで迫っていて、回避はほぼ不可能。

 せめて目を開いて衝撃に備えようとした僕の目に映ったのは、綺麗なポーズで僕の上を跳ぶ少年の姿だった。

 

 

「うぉぉぉぉおおーっっ! とぉーうっ!!」

 

 

 何かの間違いがあって踏んでしまわないように気を付けていたのか、大声を出している少年は少し遠くまで跳んで着地した。

 

 綺麗に着地してから両手を広げる姿は恐らく、決めポーズと呼ばれるものなのだろう。

 ここは拍手を送りたいところだが、残念ながらそんな手は持ち合わせていないので、心の中の喝采でとどめておく。

 

 ぱちぱちーと聞こえない拍手を送っている間に、振り返った少年がこちらに駆け寄ってきた。

 

 

「っと、そうじゃなかった。大丈夫か、猫よ!」

 

「にゃあ」

 

 

 大丈夫だけど、こっちとしては君のその声の方がビックリしたよ。

 

 そう思っても僕の思いは一方通行で、毛先が赤みがかった金髪の少年は僕の周りをぐるりと見回って大きく頷いた。

 

 

「見た所……怪我はないようだな。安心したぞ」

 

「にゃん」

 

「うむ。いくら急ぎ探し回っていたとはいえ、慣れない道を走るものではないな。危うくお前を傷付けてしまうところだった。怖がらせてすまなかったな」

 

「にゃーお」

 

 

 言葉が通じているかもわからないのに律儀に会話を試みてくれる少年に鳴き返しておく。

 いくら通じないとはいえ、相手が真摯に対応してくれているのなら僕も相応に対応する。

 

 声は大きくてびっくりしたけれど、慣れてきたら猫相手でもちゃんと相手をしてくれる良い男の子だなってことがわかってきた。

 猫を被らないまふゆは親しさもあるのか無礼なことも多いので、ちょっと感動した。

 

 

(それにしても。やっぱり彼も、まふゆと同じく見えてるよね?)

 

 

 気のせいだと流すには、あまりにも目と会話が合い過ぎている。

 まふゆ以外の例外が現れたということは、何か法則がありそうだけど……彼とまふゆの共通点はパッと見ただけではわからない。

 

 何とか手掛かりを見つけようと観察していると、何故か少年の視線もこちらに釘付けになった。

 

 

「ん?」

 

 

 顎に手を当てて、少年は覗き込むようにこちらを見てくる。

 

 

「むむっ?」

 

 

 ずいずいっと更に顔を近付けてくる少年。

 鼻と鼻がくっつきそうなぐらい近付きながら目を細める少年に対して、僕は鼻に手を乗せた。

 

 

「おっと……すまん、近過ぎたな」

 

 

 ホントになー。

 

 こっちが観察するのに忙しいから逃げなかったのも悪かったのかもしれないけれど、それにしても近かったよ。

 

 

「猫よ。少し頼みたいことがあるんだが、いいだろうか?」

 

「にゃっ」

 

 

 少年は律儀に確認をとってくれるので、一応、鳴き返す。

 

 

「実は、妹のお土産話になりそうなモノを探していてな。最近話した話題が猫だったから、その辺にいる猫の写真でも撮ろうと思ったのだが……どうもしっくりこない」

 

 

 首を振ったり、腕を広げたりとオーバーリアクションをしながら、彼は猫相手に語る。

 

 

「そんな時に出会ったのがお前だ。眉毛のような不思議な模様があるものの、今まで見たことがないぐらい綺麗な猫! これは咲希(さき)も土産話として喜んでくれること間違い無しだろう!」

 

 

 そうなのかー。

 

 ま、彼の言い分もよーくわかる。目の付け所は非常に良いし。

 僕ぐらいの猫様になると、話だけでも立派なお土産になるのは当然だよね。

 

 

「おっと、咲希というのはオレの妹の名前だ。お前に負けず劣らずの可愛い妹なのだが、最近は入院しているということもあって、あまり元気がなさそうでな。そこで、お前の力を借りたいのだ。お前の愛らしさとスターであるオレの力が合わされば、咲希の病気も吹き飛ぶこと間違いなし。これぞ、未来のスターが考えた完璧な計画だ!」

 

 

 そこから、何故か5分ぐらい如何に妹が可愛いのか。可愛い妹を元気つけるのは未来のスターである自分の役目であるということ。

 後は僕がいれば、彼の力を倍増させることができるーみたいなことを延々と語ってくれた。

 

 彼も別に、こっちの言葉を理解してるわけではないらしい。

 滔々と語る彼を見ていると段々と眠くなってくるのだけど、何とか瞼を下さずにやり過ごした。

 

 

「──というわけで、暫く付き合って欲しいのだが、いいだろうか?」

 

 

 ……話が長くて余計なことを考えてしまったせいか、話をちょっと聞き飛ばしてしまった気がする。

 

 妹さんの為に僕に協力して欲しいってことは理解できたけれど、協力してもらうならそれなりの誠意は必要だよね?

 

 

「もちろん、協力してくれるなら報酬も準備しているぞ。今日は朝から鳥のささみを茹でてきたからな!」

 

 

 少年は鞄からタッパーを取り出した手を高く掲げる。

 その箱の中身からは言葉通りのささみが顔を覗かせており、彼の誠意が文字通り透けて見えていた。

 

 

(うにゃぁ、これは断れない。妹さんを喜ばせたいって気持ちにプラスして、おやつを見せられたら断れないぞ)

 

 

 今日、まふゆと会う約束もしているけれど、バレなきゃノーカンだろう。

 ここは彼の誠意に応えて、妹さんとやらのために一肌脱ごうではないか。

 

 まぁ僕、脱げる肌も毛もないんだけどねー。

 

 

「では、まずは感想を伝える為にも、触らせてもらってもいいか?」

 

「にゃーお」

 

 

 こちらの小ボケも全く伝わらないので、突っ込まれることなく話が進む。

 

 律儀に喋っていても、話が通じてるのか疑問もあるのだろう。

 少年はこちらを驚かさないように、ゆっくりと手を伸ばしてきた。

 

 

「感謝するぞ。それでは失礼して……おぉ、予想以上にサラサラのふわふわだな」

 

「にゃふんっ」

 

「うむ。その見た目にこの手触り、お前はただの三毛猫ではないらしい。やはりオレの目は正しかったようだ!」

 

 

 小声なのにハッキリと聞こえるなんて、器用なことをする未来のお星さまだ。

 

 そんな器用なお星さまの撫でるテクニックはというと、まふゆ並みとはいかないものの、こちらを驚かさないようにという気遣いを感じるので悪い気はしない。

 総合的には高得点。未来のお星さまを名乗るだけあって、キラリと光るものがあった。

 

 ……光るものがあるとはいえ、僕にはもう、既に手のかかる後輩がいる。

 順番が違っていたら色々と変わっただろうが、彼ばかりを優先させるわけにはいかない。モテる猫は辛いよ。

 

 

「にゃあ」

 

「ん? おお、いい時間だな。すまん、最後に写真を撮ってもいいか?」

 

 

 どうぞー。

 

 

「では、撮るぞ……っと、これでよし!」

 

 

 少年は薄い板(スマホ)をこちらに向けて、カシャリと音を響かせる。

 それが上手くいくかは保証しかねるが、満足したらしい少年がタッパーの蓋を開いた。

 

 

「今日は助かったぞ、お陰で咲希にいい土産話を話せそうだ。これは報酬のささみだ」

 

「にゃーんっ」

 

 

 気前のいい人間は好きだぞー。

 

 いや。ちょっとかわいそうなことしちゃってるし、お詫びにほんの少しだけ触っておこう。

 変な音は聞こえないし、何もしなくても何やかんや未来は明るそうだが……まぁ、おやつのお礼にちょっとぐらいね。

 

 彼の周りを少しばかり『てしてし』してから、僕は報酬のささみを平らげた。

 うむ、やはり人から貰える供物(おやつ)はいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車を乗り継いで妹がいる病院まで辿り着いた金髪の少年──天馬(てんま) (つかさ)はノックをしてからゆっくりと扉を開く。

 

 

「咲希、今日は土産話を準備してお見舞いに来たぞっ」

 

「あ、お兄ちゃん。いらっしゃい、今日も来てくれてありがとう」

 

 

 兄が来たのを見て、ベッドの上にいた金髪の少女はパッと、花開くような笑みを浮かべる。

 少女──天馬 咲希は司を出迎えようと半身を上げた所で、慌てて室内に入ってきた司に制止された。

 

 

「おぉっと。咲希の気持ちは嬉しいが、姿勢はそのままでいいからな」

 

「えぇー。今は調子がいいから、起きても大丈夫だと思うんだけどなぁ」

 

「それは良いことだが、油断はダメだぞ。ここで安静にして元気になってくれた方が、オレも嬉しいからな」

 

「はぁい……ところでお兄ちゃん、お土産話っていうのは何?」

 

「そうだった。今日はとてつもなく美しい猫と出会ってな、咲希も見たらビックリすると思うぞー」

 

 

 どうだと言わんばかりの表情でスマホを取り出す司。

 隣に来てくれたタイミングで咲希もスマホを覗き見るものの……スマホの画面には公園の通路以外、何も映っていなかった。

 

 

「猫は気まぐれだって言うし、お兄ちゃんが会った猫ちゃんも気まぐれだったのかも」

 

「……かもしれないな」

 

 

 妹にはそう答えつつも、納得していないのかまじまじとスマホを見る司。

 

 

(確かに、あのマロ眉猫を撮ったはずなんだが)

 

 

 不思議なこともあるものだ。

 スマホの不調というわけでもないし、どうやってカメラから逃れたのか。その術がパッと思いつかなくて、司は心の中で首を傾げた。

 

 

「お兄ちゃん、ボーッとしてるけど大丈夫?」

 

「うん? あぁ、大丈夫だぞ! 画像がなくても絵が浮かぶぐらいの語りはできる。何故ならオレは未来のスターだからな!!」

 

「わぁ。それはすごいけど、もうちょっと声は抑えた方がいいかも……?」

 

「む、確かに。この前、看護師さんから怒られてしまったからな。消音モードで話すぞ」

 

 

 思うところはあったが、楽しそうな妹の姿が見れたので、司は思い出話をする方に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 









《マロ知識》
一応、原作知識のある人にはわかる後輩と未来のお星様との共通点はあるのだが、現時点のマロではわからないし、そもそも共通点となる存在すら知らない。
写真に映らない理由の方は知っており、申し訳なかったのでお詫びにサービスしたとのこと。



……

ここから先は猫の都合でほんのりメインストーリー(ニーゴ風味)なお話となります。
猫の都合なので、ほんのりなのはしょうがないですね。



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