猫はシブヤにいます   作:大森依織

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犬が食べないのなら、猫だって……ねぇ?






61匹目 猫に関するひとりごと

 

 

 

 

 誰もいない、という定義は何なのだろうか。

 最初はまふゆとミクだけだったらしいのに、最近では住人だけでもリンやメイコも増えている。

 

 ──で、何で急に誰もいないセカイについて考察を始めたかのか。

 その理由はこちら、向こう側で睨み合ってる2人を見ていただきたい。

 

 

「……ああいう不安を煽るようなやり方は、やめた方がいいわ」

 

「そうかしら? 私はそうは思わないけど」

 

 

 御覧の通り、僕が現れたすぐ裏で、メイコと見知らぬピンク色の長髪の女性がバッチバチに火花を散らしているのだ。

 僕が現実逃避気味の考察を始めた理由も、誰か1人ぐらいは理解してくれると思う。

 

 あぁ、なんと微妙なタイミングでセカイに来てしまったのでしょう。

 ミクもリンもいない現状、気まずくて逃げたくなっちゃうよ。

 

 

「見守るのは大事だけどね。でも、停滞しているのなら今の在り方を揺さぶって、壊すことも必要でしょう?」

 

「……ルカ」

 

「私はね、そのためにここにいる気がするの」

 

「壊す、ね……」

 

 

 これ、アレだわ。

 バンドとかチームが解散する理由の大多数である方向性の違いってヤツだね。僕、猫だけど詳しいんだ。

 

 僕的には見習わなくてはいけないまふゆ達の成長を見守る大人ポジションのメイコ。

 それに対して、話を聞いている感じだとルカと呼ばれる女性は『変化が中々出ないのなら、外から刺激をすればいいじゃない』という愉快な性格のようだ。

 

 そりゃあもう、意見が違うのも当然だよね。

 巻き込まれたくないし、思わず考えが漏れないようにしないと。

 

 

「……ところで、そこで隠れている猫さんは何時になったら出てきてくれるの?」

 

(うにゃっ!? な、何で……)

 

 

 しまった。鎌をかけられただけかもしれないのに、うっかり反応してしまった。

 やらかしてしまったことに頭を抱えていると、メイコが溜息をついた。

 

 

「隠れてるつもりでも、尻尾が動いてるのよ」

 

 

 なんてこった。またしても、頭隠して尻隠さず状態でいたなんて笑えない。

 

 僕のことはお構いなく、話の続きを2人でしてくれないだろうか。

 そんな希望も虚しく、ルカと呼ばれた女性の目がこちらに固定された。

 

 

「ねぇ、猫さん。お名前は?」

 

(えぇっと、マロって呼ばれてるよ)

 

「そうなのね。私は巡音(めぐりね)ルカ、よろしくね?」

 

(……できれば今だけは、よろしくしたくないかもなぁ)

 

 

 喧嘩は犬も食べないと言うのなら、猫だって当然食べないわけで。

 僕も遠慮したいのだけど、ルカは逃がしてくれそうにない。

 

 

「あら、私は今すぐにでも仲良くなりたいのに。そんなことを言われると残念だわ」

 

 

 と、全く残念に思ってなさそうな良い笑顔でルカが言うものだから、メイコも更に口を挟む。

 

 

「あなたね、隠れていたその子を巻き込む話じゃないでしょう」

 

「そうかしら。あの子たちのことなら、私やメイコよりもマロの方が長く見てるわ。だったら、その子の方が詳しいと思うのは間違っているの?」

 

「……間違って、ないでしょうね」

 

 

 メイコが負けてしまった。

 これはルカがあまりにも強いというか、口が上手過ぎる。

 

 僕を巻き込む大義名分を手に入れて、面白そうに笑っているルカ。

 これはまた癖のあるバーチャルシンガーが現れたぞ。僕も心した方がいいかもしれない。

 

 

「それで、マロは私のやり方は間違ってると思うかしら?」

 

(僕はメイコの言う『不安を煽るようなやり方』ってのを見てないからね。実際の所、ルカは何をしたの?)

 

「奏の曲を聴いて、正直な感想を言ったのよ。この曲じゃ、あの子を迷路から救い出すことはできないって」

 

(それは……)

 

「あら、マロにも心当たりがあるみたいね? 奏の曲は素敵だけど、奏自身も自分の作った曲の辿り着く場所が見えていない。終着点がどこなのか理解していないから、この曲を聴いてもどこにも辿り着けないってね」

 

 

 壊すやらなんやら物騒な話をしていたから、何かとんでもない発言でもしてしまったのかと思ったけれども。

 ルカから出てきた言葉は刺激が強いものの、僕の想像していた物騒さはなかった。

 

 メイコの方を見ても、大きな反応はなし。

 ルカの発言はメイコが許せないぐらい誤魔化されたものでもない、と。

 

 だったら、僕の答えは1つだ。

 

 

「私のことは話したけど、マロはどう思ったの?」

 

 

 こちらの反応を楽しみだと言わんばかりに笑うルカに、僕は頭を下げた。

 

 

(……ルカ、ごめんなさい)

 

「え?」

 

 

 ルカの口から洩れた声はバーチャルシンガー特有の独特さはあるものの、驚きの感情が含まれている気がした。

 それでも僕は頭を下げないわけにはいかない。ごめん寝の姿勢になってでも謝罪を続ける。

 

 

(僕が初対面であるのを鑑みるに、ルカはたぶんつい最近、このセカイにやってきたんだよね?)

 

「えぇ、そうね」

 

(だったら猶更、謝らなくちゃいけないよ。本来は僕みたいな付き合いの長い存在が奏に伝えなくちゃいけない言葉だったんだ。それなのに、新参者のルカに嫌な役を押し付けちゃった。だから、ごめんなさい)

 

「……マロ、頭をあげてくれる? 猫であるあなたにそう頭を下げられると、私も困ってしまうわ」

 

 

 言われるがままに顔を上げると、苦笑しているルカが目に入った。

 

 初対面の猫に謝られても困るのは当然なわけで。

 天丼は良くないという理性は残っていた僕は、もう1度謝りそうになったのをグッと飲み込んだ。

 

 

「マロも大変ねえ。そこの大人のお姉さんがぼんやり見てるだけだから、猫なのに専門外のこともしなくちゃいけなくて」

 

「……ルカ」

 

「あら、事実でしょう? あなたが見守る役を勝手に決めたのと違って、この子の本来の役目は『導き手』じゃない。答えがない子に対して、動けないのを責めるのは酷だわ」

 

「あまり、余計なことを言うものじゃないわ」

 

「ふぅん? あぁ、マロはもう希望通りに退散してくれていいわよ。聞きたいことも聞けたし、巻き込まれるのは嫌なんでしょう?」

 

(え? ……あぁ、うん)

 

 

 メイコも何も言わないし、許可を出すということは帰ってほしいと言っているのとほぼ同じだろう。

 

 

(じゃあ、僕は退散させてもらうよ。またね)

 

「ええ。また今度、ゆっくり話しましょ」

 

 

 にっこりと笑って手を振るルカとそっぽを向くメイコを見てから、僕は現実世界の方へと跳んで帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──三毛猫(マロ)が何処かへ跳んで行ったのを見送ってから、ルカは浮かべていた笑みを消した。

 

 

「あの子に対しても、見守るだけだったの?」

 

 

 咎めるような視線をメイコは静かに受け止める。

 

 

「一応、軸は整えたわ」

 

「それは殆ど何もしてないのと同じじゃないかしら」

 

「……でも、私達にできることもあまりないわ」

 

 

 淡々と述べるメイコに、ルカは肩を竦めた。

 

 

「確かに、私達には現実世界で何かをするような力はないわね。でも、ただ見守っているだけだと疲れすぎちゃって──壊れちゃうわよ、あの子」

 

「壊れる、ね」

 

 

 目を細めてるかをじっと見つめるメイコ。

 咎めるような視線を受けても、ルカはクスクスと楽しそうに笑った。

 

 

「嫌だわ、私だってちゃんと相手を選んでるのに。奏の場合は次に期待して壊したのよ」

 

「その次が来ないかもしれないのに?」

 

「あの子なら次が来るって信じることもできるわ。でも、疲れ切った猫さんを壊したら……次なんて、絶対に来ないでしょう?」

 

「……そうね」

 

 

 メイコが片手で額を抑えるのを見て、ルカは目を細める。

 

 

「ふふ、頭が痛そうで大変ね」

 

「……あなたも他人事じゃないわよ」

 

「ええ、そうよ。マロとあの子達の距離は近そうだもの。今はマロが『猫であること』に拘ってるから均衡が保たれてるものの……」

 

「ルカ、あまり語るものじゃないわ」

 

「削れて疲れきったア(・)チ(・)ラ(・)側(・)に何かの拍子で傾いたらもう、ダメでしょうね」

 

「ルカ!」

 

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。ちゃんと見るだけっていう現状維持が好きなメイコの希望通り、ぼかしてるでしょう?」

 

「……不用意な発言はやめてちょうだい。これ以上、余計なことを言うのなら話はここで終わりよ」

 

 

 飄々とした態度で止まりそうにないルカに、メイコはその場を立ち去ることで話を終わらせてしまった。

 強引に話を切り上げられ、1人ぽつんと残されたルカが「あらあら」と呟く。

 

 

「私なりにちゃんと配慮をしたつもりだけど、怒らせちゃったみたい」

 

 

 わかりきったことをわざとらしく呟き、ルカは周囲を見渡す。

 周りに誰もいないことを確認して、つまらなさそうに唇を尖らせた。

 

 

「本当に誰もいないのが残念でならないわ。誰かがいたらこの大きなひとりごとも、何かのきっかけになったのに」

 

 

 メイコは見守ると言いつつも、現状維持を選んでいる。

 

 しかし、今を続けようにも時間は過ぎていく。

 時間はあの猫の敵らしいことを、ルカは新参者ではあるからこそ感じ取っていた。

 

 疲れているのに無視して、頑張って。

 頑張り続けた結果、最悪なことにならないのだろうか、と。

 

 

「……杞憂なら、いいのだけどね」

 

 

 口に出しても、気休めにもならない言葉だ。

 

 

「奏の次の曲も、お疲れ猫さんがどうなるのかも。楽しみにするのが1番かもしれないわ」

 

 

 それならば、先ほどのようにメイコからガミガミと文句も言われないかもしれない。

 良い考えだと1人で満足したルカは、再び周辺を見渡す。

 

 隠れてそうな気配も何もない。

 少し歩いて周りを見ても、ルカは誰もいないセカイで1人だった。

 

 

「念の為にひとりごとを言ってたのに、誰もいないのは寂しいわね……こういう時、誰か隠れてたら面白いのに」

 

 

 ふぅ、と悩ましげに溜息を溢しても、反応は返ってこない。

 念の為にもう1度、見回っても誰も現れなくて。

 

 

「……冷静になったら、いけないわね」

 

 

 ほんのりと頬を赤くしたルカは、両手を後ろに回す。

 何度か咳払いをした後に、メイコとは逆方向へと立ち去る。

 

 

 

 

 

 そうして──誰もいなくなった空間にはもう、親切なひとりごとすら消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






☆マロ知識
今のマロは派生の力を使ってることが多いだけで、本来はちょっとした人生や帰り道などの迷子を道案内できる程度だったようだ。


……

・マロの状態
猫としては自信満々の可愛いことを最大限に自覚していて誇ってる子なのですが。
別の側面になると、下っ端だった子が続々と上司に飛ばれて、全てのお仕事を引き受けてる状態なので……はい、ご想像の通りです。

・思わせぶりなルカさん
ちょっと思わせぶりな態度を取らせて、誰もいないことにひっそりと恥ずかしがってほしかった──などと作者は供述しており……

・ニーゴルカさんといえば
最近のバチャシンイベストの類さんとのお野菜ディベートは必見だと思います。非常にニーゴのルカさんらしくて良かったです。



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