お祭りの空気って、そわそわでわくわくしますよね。
そーわ、そわ。
「はい」
「にゃあ!」
ふーわ、ふわ。
「こっち」
「みゃあっ!」
しゅっ、しゅっ。
「そこ」
「にゃーんっ!」
「……まふゆとマロは何してるの?」
あっちこっちと、まふゆの手によって振り回される猫じゃらしのような玩具。
セカイでまふゆと尋常に勝負していると、まふゆの背後に現れた奏が首を傾げた。
周りも気にせずに真剣に遊ぶ姿を見られてしまったので、今の僕はその場でのたうち回ってしまうぐらい恥ずかしい。
しかし、まふゆにとってはそうでもないので、淡々と奏の疑問に答えた。
「最近のマロは元気過ぎるから、疲れさせてる」
「え、元気なのはいいことじゃ……?」
「元気過ぎて煩いの。ほら、この毛とか」
まふゆは絶好調な僕の毛並みを指差す。
「いつも以上にツヤツヤしてる」
「ホントだ。毛並みが良過ぎてキラキラして見える猫なんて、初めて見たかも」
「こっちが何もしてないのに毛並みの調子が勝手に上下する猫なんて、マロぐらいだと思う」
「あはは……それにしても、どうしてマロはこんなに毛並みとか色々と調子が良さそうなの?」
小首を傾げる奏に、僕は戯れていた体を起こして胸を張った。
(よくぞ聞いてくれました! それはね──)
「大きい祭りが近いからだって」
「へぇ、そうなんだね」
ま、まふゆさん?
さらっと僕がキメる場面を取るのはどういうことなんだい?
後輩に出番を取られて挫けそうな先輩がいるのに、2人は全く気にせずに話を進める。
「お祭りの度に元気になるのなら、文化祭とか体育祭とかでも元気になるの? 他人の予定に振り回されそうで、マロも大変だね」
「あくまで『棚ぼた』だって言ってた。ある程度大きなお祭りじゃないと、ここまで元気にならないみたい」
「そうなんだ。マロが元気になるお祭りって、何のお祭りなんだろう」
「今回は『シブヤ夏祭り』だって聞いたよ」
そんな会話をしつつ、まふゆは猫じゃらしをひょいっと上に動かす。
思い通りになってしまうのも悔しい。けど、飛んじゃう。
「わ、すごい。そのまままふゆの頭に飛び乗れそう……猫って結構、飛ぶんだね」
「マロも、ジャンプ力と着地の仕方はちゃんと猫だから」
あのね、まふゆ。
それだとジャンプ力と着地の仕方以外は猫じゃないって聞こえちゃうよ。
どこからどう見ても可愛い三毛猫なのに、失礼しちゃうよ、もう。
「奏もマロと遊ぶ?」
「え、いいの?」
(ばっちこーい)
今宵の僕は力が有り余っているのだ。
どんなに恐ろしい玩具捌きも対応してみせよう。
まふゆから猫じゃらしを受け取った奏は、
「じゃあ、はい」
「にゃあ」
「えいっ」
「にゃん」
まふゆとは違って全身を使うように玩具を動かす奏。
そんなに張り切って大丈夫なのか。僕の心配は杞憂ではなかったと、何回か動き続けている内に奏が自ら証明してくれた。
「えいっ」
「にゃ」
「え、えいっ」
「みっ!? うにゃっ、はぐっ」
猫じゃらしが奏の手からすっぽ抜けたので、慌ててジャンプして捕まえる。
危うく奏の頭に玩具が降ってくる所だった。危ない、危ない。
「奏……」
「ごめん。振ってたら思った以上に疲れてきちゃって」
「これじゃあ、誰が遊んでもらってるかわからないね」
「うっ、マロも本当にごめんね」
(大事に至ってないから大丈夫だよー)
落ち込む奏の足をてしてしと叩けば、奏は小さく笑みを浮かべた。
「ありがとう、マロ」
「にゃっ!」
「奏、これからもマロに遊んでもらった方が体力もつくんじゃない?」
「わたしが遊んでもらう側なんだ……」
「奏の体力作りが目的だから」
なるほどなー。
セカイなら陽の光とかも気にしなくてもいいだろうし、最低限の運動能力を取り戻す一環としてはアリかもしれない。
(奏、僕がいつでも遊んであげるからね)
「マロもやるって」
「えっと、考えておこうかな」
そっと視線を逸らす奏。
これはやらないね。僕、賢いから詳しいんだ。
「奏」
「何?」
「明日の打ち上げの時に、瑞希達にも話す?」
「……が、頑張るよ」
奏もまふゆからは逃げることができなかったようで、渋々考えを変えた。
この件に関しては奏も孤立無援になりかねないから、しょうがないかもしれないね。
「じゃあ、奏」
「え?」
困惑する奏の前に、僕から受け取った玩具を差し出すまふゆ。
「マロがある程度満足するまで、頑張ろう」
「ひぇっ」
哀れ、奏。
まぁ、今日の僕はいくらでも遊べるんだけどね。ふっふっふっ。
☆★☆
そうやって奏を疲れさせた翌日。
セカイで英気を養う僕の前に、ひょっこりとまふゆが現れた。
「あ、いた」
(ん? まふゆか、こんにちは。打ち上げは終わったのかい?)
今日は4人揃ってニーゴの打ち上げをするとか何とか、絵名が言っていたのにもう終わったのだろうか。
……それとも、昨日僕と遊んだせいで奏がダウンし、打ち上げが中止になったとか。
「打ち上げはちゃんと行ってきたから、平気」
(あ、そうなんだ。じゃあ、お疲れさまだね)
僕の感情が顔に出てたようで、あっさりと悩みを否定された。
そのまま、自然な動作でまふゆがセカイの隅っこに座り込む。
膝の上にくるように催促されるので、従って話の続きを促した。
「マロはお祭りに興味があるんだよね」
(ないとは言わないけど、元気なのは別の理由かなぁ)
ほら、僕は猫だけど本業以外のこともあるわけで。
人間の大多数の目的がイベントを楽しむことであっても、神社でお祭りがあると『おこぼれ』があるのだ。
本当なら全て神社の主に納められるところも、このご時世は人の働き手すらも不足している時代だ。
こっち側も不足しているので、在野の存在でもおこぼれに預かれるのである。
「今日は別の道から帰ることになったんだけど、その時に夏祭りの準備をしてる会場付近を通って」
(そういえば今日、いつも打ち上げしてるっていうお店付近の道は、工事中だったね)
「その時に、皆で祭りに行こうってなって」
(なるほど、それで興味あるかって話になるのか)
つまり、僕も一緒に行かないかっていうお誘いかな。
撫でられる手を避けて見上げれば、まふゆはいつもの無表情で首を傾げる。
「興味がなくても、マロには付いてきてもらうつもりだけど」
(お誘いじゃなかったんだ……)
嬉しいような悲しいような。
いや、悪い方に考えたってしょうがないか。
遠慮なく先輩に甘えられるようになったということで、前向きに後輩の成長を喜ぶことにしよう。
「──あ、マロとまふゆじゃん」
ちょっぴり微妙な気持ちでまふゆに撫でられている僕の前に、絵名が顔を出した。
(こんにちは、絵名。打ち上げお疲れさま)
「打ち上げの後なのに暇なんだね」
「あんたは会って早々、失礼なヤツね。ちょっと顔を出しただけだっての」
絵名に半目で見られると、僕まで悪いことをした気分になってしまう。
会って早々に失礼なことを言うまふゆをじっと見る。
その視線の甲斐もあって、まふゆは少し考えてから声を出した。
「瑞希なら、セカイに来てないよ」
「え、何で……」
「打ち上げの時も、瑞希のことを気にしてたみたいだから」
「まふゆの方からから聞いてくるなんて意外なんだけど」
「うん。マロがどうにかしろって目で見てこなかったら、聞くつもりなかったよ」
「あっそ。やっぱりまふゆはまふゆね」
肩を竦める絵名を、まふゆはじっと見つめる。
「何よ?」
「別に。瑞希から話を聞くのは大変そうだけど、どうしても聞きたいのなら頑張って」
「はぁ、何それ」
「瑞希と一緒に神高の文化祭を見て回った時も、変だったから」
「わけわかんないだけど……っていうか、何であんたは瑞希と一緒に文化祭を回ってるのよ?」
「瑞希がマロと回るって言うから、保護責任として」
「いや、本当に意味わかんないし」
畳み掛けるように情報を投げかけられる絵名の顔は、困惑一色である。
当事者の僕もわからない理屈でついてきたから、絵名の困惑も当然だろう。
まふゆが持つ瑞希に関する情報のことも相まって、絵名は混乱する頭を抱えた。
「もうちょっと何かないわけ?」
「瑞希もいないのに、私と喋ってて楽しいの?」
「……はぁ」
これは絵名の気持ちが理解できてしまう。
出力されてる言葉選びがフィルターを通してないせいか、猫も困るぐらい言葉選びが悪かった。
「もう」
絵名は呆れた声を溢すと、僕を抱えて膝の上からまふゆの頭の上へと乗せ替える。
「何するの」
「外付けの良心を頭に付けてるの」
不満そうな顔をするまふゆを無視して、絵名は僕とまふゆを見比べる。
「ふはっ」
「頭に乗せないで」
「いいじゃん、似合ってるし。マロに見られてた方が良さそうだし、そのまま乗せてたら?」
僕を頭に乗せて満足したのか、絵名は良い笑みを浮かべて「じゃあね」と手を振る。
そのまま用は済んだと言わんばかりにセカイから出て行ってしまったので、こちら側からすると本当に嵐のようだった。
「マロ」
「にゃあ?」
「頭に乗っておきたい?」
「にゃー」
正直、遠慮したい。
今もまふゆを怪我させてしまわないか、僕が落ちてしまうのではと考えながら乗ってるので、全く落ち着かないのだ。
「絵名は何をしたかったんだろう」
まふゆは僕を頭から自分の真ん前に来るように抱えた。
目の前にあるおかげで、本当にわかってなさそうなまふゆの顔がはっきりと見えた。
(それはきっと、まふゆが考えた方がいいことだね)
宿題として、頭の片隅に残しておけばいいんじゃないだろうか。
本意は絵名のみぞ知ることだけど。
ちょっとした意趣返しに巻き込まれる猫の立場としては、ナイトコードってところでやって貰えると嬉しかった。
「よくわからないね」
「にゃあ」
まふゆもまだまだ進み出したばかりだし、今はそれでいいと思う。
後々振り返った時に、思い当たる言葉が当て嵌めることができるかもしれないし、無理かもしれないし。
そういうのも含めて人生だろうし、僕は応援してるよ。
……あ、でも絵名との言い合いに巻き込まないでね。
言葉を伝えれない猫には、同じ土俵に入ったら不利すぎるもの。遠くから見学するに限るよ。
☆マロ知識
お祭りや年末年始は棚から牡丹餅がよく落ちてくるので、とても元気になるらしい。
……
・お祭り
形骸化していても数打ちゃ当たるの精神なのか、祈ってくれる人もいるわけで。
マロもおこぼれによって元気になるようです。
・外付けの良心
まふゆさんの言葉選びはマロを視界に挟むと、毒気が抜かれる可能性があるとかないとか(絵名さん調べ)。