ふふふ、お待たせしましたー。
夏祭りが終わったのでさぁ、セカイへ!
と、急ぐにはちょっと、今日のシブヤはややこしい。
「……祭りが終わったせいかな。体が重くて怠い」
そう呟く少年の背後には、ヘラヘラと背中に覆い被さっている迷子の姿が。
これで6件目だ。とうとう、1日で人間の両手で数える数の迷子報告が来てしまった。
(はーい、お帰りはこちらでーす。早くお帰りくださーい!)
「あれ? 急に体が軽く……?」
(そりゃあ、お相手さんが乗ってたら重たいよ。重いものを持ってたら、気分も落ち込むよねー)
ぷんぷん、って流石の僕も怒っちゃう仕事量だよ。
まったく、最近のシブヤはどうなってるのやら。
怠い、しんどい、面倒くさいと言ってる人に迷子が張り付いてるなんて、これじゃあセカイに行くのも難しい。
さっきの人と、もう2人の迷子を見送ってから、僕は小さく息を吐いた。
(予定してた縄張りも見回ったし、今日はこれでおーしまい!)
引き際を見誤ると削れ過ぎて後が大変になるのだ。よわよわにゃんこの辛いところである。
(とりあえず、今日はもう終わりにしよう。この時間ならまだ学校の時間だろうし、セカイに行っても杏達には会わないはず)
初回から対面するのは気不味いから、住人の人達だけがいる時間帯に訪ねたい。
──が、ここで慌てたら、ただの異セカイ観光にゃんこになってしまう。
ここは落ち着いて、情報をまとめよう。
(まず。糸とセカイがもう1つあるのがわかった以上、透明猫さんが見える人の条件は仮説だけど、ほぼ決まったようなものかな)
セカイを少人数で創れるような人。
或いは、セカイを生み出すぐらい想いの強い人だから、想いにある程度関係のある僕が見える。
この辺の細かい条件はまだ『セカイ』がどういうものなのか、わかりきっていない僕には予想できない。
だからこそ、次の目標はできるだけ多くのセカイのことを調べてみること。
(で、僕の現状を解決できる糸口が見えたら、とっても素敵! やったぜ! ってことだね!)
取らぬ狸の皮算用である。
だがしかーし! 僕は狸ではなく可愛いにゃんこだ。
今からセカイに行って、上手くやってやるぜ。
(というわけで、出発進行! とーうっ)
しゅたっ、と赤い糸を辿ってセカイへとジャンプする。
誰もいないセカイしか知らないから、杏達のセカイがイマイチ想像できないんだけど……はてはて。
(……ほぇ?)
着地した先は、どこかの街だった。
床にはビビッドストリートみたいに派手な絵が描かれていて、壁なんて絵だけでなくポスターやポップもペタペタと貼られている。
(人がいるように見えるのに、すっごい人気のない街だ)
パッと見える大きさに比べて、人の数が全く合わない。
まふゆのセカイでもみた三角形の変な物体が浮いてるし、僕の
(なるほどな。これが杏達の想いの形なのか)
人の想いから生まれたというのに、まるでお上の方々のように個性的である
まふゆも自分がわからなくなっていなければ、街の1つや2つ、作っていたのだろうか。人の想いというのは面白いものである。
(おっと。このまま見学したいところだけど、先に挨拶しなくちゃね)
いくら許可を貰ったとはいえ、無許可で他人様の
僕は礼儀正しい猫なので、早く住人のバーチャルシンガーに挨拶に向かう。
(えーと、場所は……こっちかな?)
幸いなことに、糸は殆ど1箇所に固まっている。
どこかのセカイと違ってバラバラじゃないのはありがたいね。
(何故か1人だけ、かなーり遠くをフラフラしているんだけど……んー、まぁいっか。まずは近くで固まってるところに行こう)
たぶん、この1つを追ったら僕が大変な目に遭う気がする。
その予感はそこまで間違いではなかったらしく、糸が集中してる所にはオシャレなカフェが待っていた。
(おー、中がわかりやすいぐらいガラス張りだ〜)
シブヤのオシャレなカフェです、と言わんばかりの場所を覗き込んでまず目に入ったのは、先日会ったレンと金髪の女の子だった。
雰囲気が違い過ぎるけど、あの子はリンだろうか。見た目だけそっくりさんだけど、レンと話してる様子は僕の知るリンとは遠く見える。
(あの青いお兄さんは知らない人だし、青緑っぽいツインテールのお姉さんも知らないでしょ。あ、奥から出てきた人はメイコかな)
……あの人も本当にメイコかな。
遠くから見守るから近寄らないで、なんて雰囲気を出さないであろう、頼れる大人のお姉さんって感じがする。
なんだろう。あまりにも誰もいないセカイと違っていて、別人として扱っても違和感がない。
セカイが違うってだけで、同じ元であろう存在がここまで変わるのは面白い。
バーチャルシンガーという存在はどこまで許容範囲が広いのだろうか。
解釈次第、みたいなところはお上の方々と似てる性質があるのかもしれないな。
「にゃ?」
「……猫?」
扉も開かないのでじっと中を見てると、青緑髪の厳つい服装なお姉さんが扉を開けてくれた。
なんでこんな所に猫が、と言わんばかりの顔に頭を下げると、扉の向こうから誰かが走ってくる。
「あ、マロ! 本当に来たんだね!」
(やぁ、レン。君が許してくれたからここまで来れたよ。このセカイの皆さんも、初めまして。マロって呼ばれてる猫です)
レンに声をかけてから、中いる人達にも頭を下げる。
僕の礼儀からくる行動に、そばにいた青緑髪のお姉さんが目を細めた。
「マロっていったら杏が話してた猫の名前と一緒だけど……猫?」
「この子が猫だって名乗るのなら、猫なんでしょうね」
遠くにいるメイコが苦笑いしているが、僕のどこが猫じゃないんだい?
どこからどう見ても、見た目は完全無欠の可愛い三毛猫だろう。
「あっ、うん。猫だね、ごめん」
(はい、猫です)
ツインテールのお姉さんも納得してくれたようで安心、安心。
(申し訳ないんだけど、僕が知っているセカイから鑑みて名前がわかるのはメイコとリンしかいないんだ。よければそちらのお兄さんとお姉さんのお名前を伺ってもいいかな?)
「ボクかい? ボクはカイトだよ。よろしくね、マロ」
「私はミク。あなたの知ってるセカイには初音ミクはいないんだね」
(よろしくね、カイト、ミク……ミク?)
僕は黒い服のお姉さんを上から下までじっくりと眺める。
目の色は両方同じだし、髪の色も全く違う。唯一同じなのは『ツインテール』という髪型と、声質だけ。
(ミクなのに、白くないんだね?)
「なんで白なの?」
「この子の知ってるミクが白いんじゃない?」
カイト、正解。
ミクだけセカイが違うだけでこんなに違うなんて、メイコやリンが面影があったから油断していたよ。
だが、ミクだと名乗られて改めてよく見てみると、確かに彼女はミクだと僕の眼が言っている。
(失礼なことをしてしまったね。見た目で判断しちゃってごめんなさい)
「別に頭を下げなくてもいいよ。猫ならバーチャルシンガーっていうのを知らなくても無理はないし」
(うぅ、不勉強な猫です……)
「不勉強っていうのも違うんじゃないかな。猫がインターネットに堪能ってのも、想像し難いし」
あぁ、ミクを困らせてしまった。
人間を見てたらわかる文化ならともかく、
この辺りもちゃんと勉強していかないと、セカイを訪問している間に本当に失礼なことをしてしまうかもしれない。
少しずつ勉強が必要だ。交流しつつ、観察もさせてもらおう。
「この子が杏ちゃんが言ってたマロかぁ。不思議な猫って聞いてたけど、本当に不思議な子だねっ」
「うん。オレも来ていいよって言ったけど、本当にセカイに来れちゃうとは思わなかったな」
(あー、そうなのかい? なら、次からは来ない方がいいのかな)
正直に言うと、個
しかし、僕は猫でもあるけれど、怪しい存在でもあるという自覚がある。
調べられないのは残念だが、僕の都合を強要できない。
嫌だと言うのならば、すぐにでも出て行こう。
「あっ、待って待って。そういう意味じゃなくて!」
背を向けた僕に回り込むように、レンが目の前に立ちはだかる。
それでも次の言葉が出てこないようで、慌てて救いを求める目を周囲に向けた。
「はは。確かにマロを見ただけじゃあ、セカイに来れるとは思わないからビックリしちゃうよね」
「そうそう、カイトの言う通りだよ! 別にマロならいつでも来ていいと思うし、ね!?」
カイトの声に勢いよく首を振って肯定するレン。
周囲に同意を求めると、後ろからまた声が聞こえてきた。
「でも、杏ちゃん達がいない時間にあなたが現れたのは、何か理由があるんじゃない?」
そう尋ねてきたのはメイコだ。
薄らと笑みを浮かべるその姿はこちらを見透かしているようで、僕も観念するしかない。
(いない時間に来た理由は、会いたくないってだけだよ。ただでさえ普通じゃないって言われてるからさ)
「あぁ……あなたの場合だと、あまり言われたくないかもしれないわね」
(やっぱり、セカイにいるあなた達にはわかっちゃうものなんだね。そこはお察しの通り、このセカイに来たのもそっち方面のことでさ。できる限り、色んなセカイを調べたかったからなんだよね)
「んー? セカイを調べて何かわかるものなの?」
カイトが首を傾げるのも無理はない。
バーチャルシンガーって存在だけでも、僕達とはまた違うと感じる点が多いのだ。
参考になるのか、疑問に思うだろう。
(大雑把に言えば、あなた達も僕達も同じ『想い』に関する存在でもあるからね。今は1つでもいいから、何かヒントが欲しいんだよ)
透明猫さんの方には明確な期限もあるし、システムの方も僕の限界っていう薄らとした期限があるもの。
セカイというヒントを観測してしまった以上、本格的に動かないと僕の怠慢になってしまう。
「そこまで言うなら、私は内緒にしてあげる」
「オレもいいよ」
「あ、わたしも」
「ボクも勿論いいよ。メイコは?」
「皆が言うなら、私も反対する理由はないわ」
「……というわけで、杏達に話はしない。けど、マロがバラした場合はわからないから、気をつけてね」
(皆、ありがとうございます。有り難く調べさせてもらうね)
セカイが違えば環境や人も違うけれど。
優しさは全く変わらないみたいで、僕にはとても有難い話だった。
☆マロ知識
リンやメイコまではそんなものかと思ったけれど、知っているミクと出会ったミクがあまりにも違い過ぎて、今でも少し疑っているらしい。
……
・かなり遠くをフラフラしてる人
この時期のルカさんはセカイの端の方を旅してたんだとか。
・ミクさん
マロ曰く根本的には同じらしいけれど、見た目があまりにも違うので本当に同じ初音ミクなのか、信じられないようです。
誰もいないセカイのミクさんが初対面で『初音ミク』という存在を知らないこなら、しょうがないかもしれません。
(作者も初見の時はビックリしました)