ズルいとは思いますが、直接言われますと……ね?
『僕』という中々怪しいにゃんこが相手であるにも関わらず。
引き続きお邪魔してもいいという話だけでなく、探索や調査の許可もくれた杏達のセカイのバーチャルシンガー達。
杏達がいない間にコソコソと入り込み、どこかビビッドストリートを彷彿とさせるこの場所──ストリートのセカイを調べること数日間。
眼も糸も存分に活用し、隙間を縫って研究した甲斐あって、何とか成果っぽいものを形にすることができた。
善は急げとも言うし、さっさと感謝を伝えに行こう。
そんな気持ちで朝のパトロールを早々に切り上げて、ストリートの世界へ。
ミク達が集まっているカフェにお邪魔してから、視線が集まる中で頭を下げた。
(このセカイを調べたおかげで『土地を把握する能力』ってのが掴めたよ。快く調査させてくれて、ありがとうございました)
少しばかり気まずげに口を閉ざすバーチャルシンガーのうち、カイトだけは特に気にした様子もなく口を開く。
「掴めたのならよかったよ。ところで……その力をどう使えば、マロは人に見えるようになるんだい?」
「みっ……」
カイトの純粋で真っ直ぐな疑問が鋭い刃となって、僕の心をグッサリと突き刺した。
床に伏して反応がない僕を見て、レンとリンがカイトに駆け寄る。
「もー! カイトのバカ! もっとデリカシーを持とうよ!」
「わぁっ。ご、ごめんよレン、リン!」
「謝る相手はわたし達じゃなくてマロでしょ!」
「あ、そうだよね! ごめんよ、マロ!」
(いや、本当のことだもんね……こっちこそ、折角調べさせて貰ったのに、肝心の能力じゃなくてごめんね)
ここで街の人達にも見えるようになりました! とでも言えたら良かったのに。
残念ながら、世の中はそう甘くはないらしい。
肩を落とす僕に、メイコとミクが話しかけてきた。
「人に見えるようにならなかったのは残念だけど、何か別の形で役に立つ能力だったのなら良かったじゃない」
「そうそう、土地を把握するなんて凄そうだよね。どんなことができるのか、私も気になるし」
ここまでの気遣いを受けて凹んだままでいられるほど、僕は情けない猫ではない。
ショックで伏せていた体を起こして、ミク達の方へと向いた。
(ストリートのセカイを見回ったおかげで、僕は更に探し物が得意になったんだ。セカイの端の方をウロウロしてる存在が、こちらのセカイのルカだってこともわかるようになったよ)
「あー。そういえば、マロもルカと会ったことがなかったっけ」
(もってことは、杏達も会ったことがないのかな。案内がいるなら早速、連れて行くけど)
今までも探し物はできていたので『把握』に近いことはできていた。
が、今回の能力によって少ない消耗で、素早く現在位置から情報を収集できるようになったのだ。
ノーヒントで失せモノ探しや雫の捜索だって、消耗を気にせずにできてしまうお手軽さ。
今ならストリートのセカイにいるルカの案内も余裕なのだけど、ミクは首を横に振った。
「来たかったら来るだろうし、今はいいかな。それよりも……他人に見えないのは残念だけど、役に立ちそうな力でよかったね」
(うん、迷子もすぐに見つかるようになって助かってるよ。これで1歩、過労消滅から離れることができたね)
「過労って、猫なのに?」
(うにゃあ。人間も人手不足だって言うけれど、こっちもこっちで色々と不足してるんだよね)
数もなければ糧も足りてないから、消耗が大幅に軽減されるのは本気でありがたーい話なのだ。
誰もいないセカイで休めるおかげで回復するのは早くなっているけれど、上限が低い今は便利な技が増えるのは大歓迎である。
「マロはアイスは好きかい? バニラならマロでも食べれるかな」
「冷たいものがダメなら、温かいものでもいいのよ」
急に、年上のお兄さんとお姉さんであるカイトとメイコが優しい笑みを浮かべた。
「オレ達もいつでも気分転換に付き合うからな」
「うん、マロも歌えばスッキリするよ」
レンとリンまでそう言って、僕のことを撫で回してくる。
過労って言葉が強過ぎたのか。
人間みたいな黒い冗談が、猫には合わなかったのかもしれない。
(えっと、変なこと言ってごめんね。いつものことだから心配しなくても大丈夫だよ)
「ふぅん、そっか。そう言うのならマロの中では
(うん、そういうことさ)
ミクの言い方が少し気になったけれど、納得してくれたのならそれでいいか。
……と、この時の僕は深く考えることなく、ストリートのセカイの皆の行為をのらりくらりと躱して、その場を後にするのだった。
☆★☆
(──ふぅ、まだお昼休みは終わってないよね)
今日のお昼休みも一緒に過ごす約束をしているのに、遅れてしまったらどうなることやら。
考えただけでも恐ろしい。ブルブルしちゃうね。
「にゃあ」
「……マロ」
気持ちだけでも急いで中庭に行くと、まふゆは既にお昼を食べ終えて分厚い参考書を捲っていた。
いつもの読んでるのかわからないページ捲りの最中に声をかけると、目を細めたまふゆがじっと僕を見る。
「最近、楽しそうだね」
「にゃ?」
「どこに行っているのかは知らないけど、セカイにもあまり来てないって聞いたよ」
「みぃ……」
おかしいことに、まるで冬の空の下にいるかのように寒く感じる。
やっぱり、遅れてしまったのを怒ってるのだろうか。
そぅっと近付いて、まふゆの膝の座る。が、まふゆの目は細められたままだった。
(うーむ、ダメかな?)
いつもなら撫でてくるのに、それすらもしないとはかなり怒ってるのだろうか。
じっと顔を見つめていると、まふゆは小さく息を吐いた。
「別に、マロが何処にいても勝手だけど。ちゃんと帰ってきてね」
勝手だ、と言いつつもほんのちょっと嫌だと言いたげな目をしていたのがまふゆらしい。
怒ってたのではなくて、何処かにいくのではと不安だったと。
そう知れたのなら一安心だ。僕はまふゆの先輩だからね、後輩の元にちゃんと戻ってくるとも。
「にゃ!」
「うん。ミクも気にしてたから、また顔を出してあげて」
(そっちも了解したよ。僕もそろそろセカイに行こうとは思ってたからね)
数日ぐらい可愛い猫が留守にしたから、心配かけてしまっていたのだろう。
(いやはや、モテモテの猫も辛いねぇ)
僕はこの前、お誘いを受けたセカイでのお花見とかもお断りするような、付き合いの悪い猫だっていうのに。
……ただ単に迷子が増えて大変なだけだったのだけど、そういう畜生なのだから心配しなくても良いのにってのが本音だ。
とはいえ、僕の見積もりが甘かったのも事実。
今度からはできる限り、気をつけよう。
「マロ、本当にわかってる?」
「にゃっ」
「自信満々だけど、半々ぐらいかな」
「にゃにぃぉう!?」
「間違ってないと思うけど……あれ……今、喋った?」
「にゃっ!? にゃっ、にゃんっ……うにゃぁ」
「よしよし?」
僕も喋れた気がしたけど、人間らしい言葉を発してみようと頑張っても、全くできそうにない。
まふゆが頭を撫でている間もうにゃうにゃと試してみたものの、それらしい音はゼロ。
残念無念、自分がわからないらしいまふゆに『わかってない』と言われたショックで、僕の舌が動転しただけだったようだ。
この前の件といい、意思疎通が直接できたら便利なのに。
できたら猫からさらに遠ざかるぞって? ……それはそう。何事も一長一短だね。
「ちゃんと帰って来て、後は報告もして」
「にゃっ、にゃー」
「……乗らなかったね」
しれっと『報告』という願望を混ぜ込んで、頷かせようとするんじゃないよ、まったく。
本当にまふゆは自分のことがわかってないのだろうか。先輩としてはかなーり怪しいと思ってます。
「マロ?」
(にゃっ!? 変なこと考えてごめんって!)
だから、気持ちいいところをふわふわ〜って、優しく触れるのはやーめーてーっ。
おかしい。日が過ぎるにつれてまふゆの厄介さが増している。
そうやって僕を籠絡しようとしても、簡単には……うにゃあ。
「気持ちよさそうだね」
(ぐぬぬ、余裕そうな顔しちゃって)
悔しいけれど、僕はまふゆの先輩だ。
まふゆにも少し余裕が出て良かったし、僕もストリートのセカイで力を手に入れられて今日は良い日だと考えるようにしよう。
「そういえば、今日は特に嬉しそうだけど何かあったの?」
(おぉ、まふゆの方から僕に興味を持ってくれるなんて嬉しいじゃないか。んー、そうだなぁ)
土地の把握なんて、それこそミク達に伝えても首を傾げれるような力だ。実演があった方がいいだろう。
(おっと、丁度いいタイミングで雫と愛莉が来てるじゃん)
いつもならば絶対に気が付かない距離から、雫達が中庭に向かって来ている。
「どうした?」
「にゃっ」
そちらをじっと見つめて視線を誘導すれば、まふゆも真似してじっと同じ方向を見つめた。
数分ぐらい並んで見つめていたら、雫と愛莉が廊下の向こう側からこちらに向かってくる。
「こんにちは、2人とも。今日も中庭にいたのね」
「こんにちは、今日も撫でに来たわよ! ……って、朝比奈さんはどうしたの?」
「何かに驚いてるみたいだけど、何かしら?」
「……ううん、2人にじゃなくて。その前に少し驚くことがあったんだ。気にしないで」
どうやら僕のサプライズはよろしくなかったようで、にこやかに応じるまふゆの手が僕の尻尾を捏ねくり回す。
雫と愛莉は不思議そうに眺めているものの、その場は僕の尻尾を犠牲にして何とか誤魔化し切った。
──が、それだけであのまふゆが終わるわけがなく。
学校が終わって早々、セカイに連れ去られた僕はにこやかなまふゆの威圧に晒される中。
ミクやリンを通して、最近手に入れた能力について話したり、また実演することになった。
「マロ、すごいね」
(でしょう!)
素直なミクのお褒めの言葉に上げられて。
「……すごいけど、隠れんぼは出禁だよ」
(ひぃん……そんなぁ)
その後、リンに落とされた僕は、仲間外れに涙することになった。
流石に隠れんぼで能力を使うつもりはないんだけどなぁ……悲しいね。
☆マロ知識
リンから隠れんぼへの参加禁止にされて、本気でショックを受けていた。
……
・出禁
詳しくは参加禁止なんですけど、語感優先で出禁にしてます。
間違ってはいるのはわかってるんですけどね。参加禁止よりも出禁の方が、その……(言い訳)
・来月(言い訳その2)
繁忙期にひっくり返りながらも何とかしようとしたのですが、残念ながら増量は先月と同じく微増です。
そうです。
作者に待っていたのはお話じゃなくて、お勤めの増量だったのです……!