猫はシブヤにいます   作:大森依織

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犯人は、アイツです!








8匹目 猫、踏んじゃった

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ。

 ふむふむ。

 

 やっぱり怪しいのは薄い板(コイツ)だな。

 

 

「マロ、何してるの?」

 

「みーっ」

 

 

 しーっ。

 今、いいところだから後にしてね。

 

 不思議そうに首を傾げるまふゆを放置して、僕は中庭のベンチの上に置かれた薄い板(スマホ)を注意深く観察する。

 

 監視してやると決めた日から、まふゆのことをじっくりゆっくり慎重に観察してやっと、掴みそうになった尻尾なんだ。

 こんなところで逃すわけにはいかない。ベンチの上に置かれている今がチャンスだ。

 

 

「そんなに気になるなら、何か曲でも流す?」

 

「にゃー」

 

 

 あ、お構いなく。

 そのままここに(スマホ)を置いたままにしてくれたら、今度こそまふゆに繋がってる変なヤツの正体を暴いてやるので。

 

 

「……反射してる自分が気になるのかな。いつも通りにしか見えないけど」

 

 

 まふゆはどうでもよさそうに呟いて、諦めたのか『ネコ科図鑑』とやらを開いて読み始めた。

 最近のまふゆは僕が訪ねてきても『変なこと』しかしてないように見えている為、どことなーく呆れてるようにも見える。

 スマホの画面に僕が反射してないのも気がついていないぐらい、呆れているようだ。

 

 後輩にものすごーく呆れられているけれど、僕は諦めないぞ。

 これも全ては先輩として、後輩を守る為。

 

 この薄い板(スマホ)を媒体にしてまふゆと繋がっている妙な存在の正体を暴いてやるのだ。

 僕が鳴いて注意したところでまふゆったら全く警戒しないし、これはしょうがないことなのである。

 

 

(むむむ、やっぱり弾かれるな。白い変なのがいるのはわかってるのに、触れない所にいるとはズルいヤツめ)

 

 

 いくら板を触ったところで、画面を光らせることぐらいしかできないのは知っている。

 しかし、最近はより一層濃くなった糸さえも触れられない状況は、あまり気分の良いものではない。

 

 

「……マロ」

 

「にゃーん?」

 

 

 呼ばれて振り向くと、心なしかいつもよりもムスッとした顔のまふゆがあの魅惑の液状おやつを左右に振っていて。

 

 

「今日のおやつは、いらないの?」

 

「にゃにゃぁ!」

 

「いるならスマホから離れて」

 

「にぃ……うにゃぁ、にゃーんっ」

 

 

 負けました。

 僕は後輩の安全確認よりも魅惑のおやつに負けた情けない先輩です。猫様じゃなくてただの猫です。

 

 僕が魅惑のおやつに魅了されている間に、まふゆは(スマホ)をひょいと持ち上げた。

 

 もしかすると、僕がおやつに夢中になっているとヤツも油断していたのかもしれない。

 まふゆの視線に入っていない薄い板(スマホ)から変な光が漏れ、白い人のようなナニカがこちら側を見ていた。

 

 

「にゃぁあーっっ!!」

 

 

 ヤツだ! やっと正体を見せたな、このヒトガタめ!

 何を考えてこの僕の後輩にちょっかいをかけようとしているのかは知らないけれど、やるつもりならこっちだって……えーと、猫パンチするぞ! しゅっ、しゅっ。

 

 

「マロ?」

 

「ふしゃーっ、しゃーっ!」

 

「……マロ。おやつがいらないのなら、早く言ってね?」

 

 

 どうやって言うの? とか。

 少しの疑問も許さないと言わんばかりに、まふゆは凄みのある笑みを浮かべていた。

 

 意思疎通ができればあの(スマホ)の危険性を伝えられるのに、小さな口から紡がれる音は言語になっていない。

 遠くの危険か、近くのおやつか。僕が選ぶのはもちろん……

 

 

「にゃ~んっ」

 

「……今日も変だけど、おやつ優先なのは変わらないんだね」

 

 

 うむ、先のことは先の僕に任せていいよね!

 何かまふゆに呆れられてる気もするけど、表情筋は全く仕事をしていないのでたぶん勘違いだ。ヨシ!

 

 

「はぐはぐ」

 

 

 ふぅむ。僕が騒いじゃったせいか、相手は引っ込んでしまったようだ。

 すぐにまふゆにどうこうするつもりはないのか。結構簡単に姿を見せたし、暫くの間、監視していれば今度こそコソコソする鼠の尻尾を掴めるだろう。

 

 そんな理由から、ここはおやつを取って正解なのだ。

 理論武装とやらも完璧だ。僕ってば、可愛い上に天才で困っちゃうね。

 

 

「にゃ~お」

 

 

 食べ残しもなし、ごちそうさまでした。

 今日も供物(おやつ)を頂いたことだし、面倒だけどまふゆは僕の大事な後輩だ。

 バレないようにそれとなーく、つかず離れずで見張ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

「くぁっ……」

 

 

 暇だ。

 ここ1週間、まふゆに付きっ切りだったから縄張りも放置してるし、まふゆが学校にいる時間は校庭で昼寝(待機)しているから、すっごく暇。

 

 僕にしてはかなり真面目に取り組んでいると思う。

 誰も褒めてくれないけれど、僕だけは自分の行動を褒め称えたいね。

 

 

(いや、褒められないか。あれから1週間も経ってるのに、尻尾どころか影すら踏めてないし)

 

 

 まふゆの薄い板(スマホ)から出ていた、白っぽいヒトガタ。

 

 アレがどういう存在なのかはパッと見ただけではわからなかったからこそ、この目で見極めてやると決めたものの。

 この1週間、全く観測できなかったのは予想外だった。

 

 僕でもどうしようもない相手なら、(スマホ)を壊すって選択肢もあるけれど……できればそれは最終手段にしたい。

 

 小さいの以外は大体1人に1枚は持ってるっぽいし、あれって人間にとっては必須なものみたいなんだよね。

 それを壊した結果、まふゆに与えてしまうダメージがイマイチ想像できないから、破壊は何とか回避したいところ。

 

 

(こうやってあーだこーだ考えてるうちに、実はもう事件は起きてたりするのかなぁ)

 

 

 相手が接触してくる可能性があるのは、まふゆの家の中か。

 流石に家の中まで監視するのは手段を選んでる今は無理だ。

 

 そりゃあ、まふゆと一緒に侵入しちゃえばちょちょいのちょいよ?

 でも、それをするとまふゆがビックリしてしまうだろう。僕だってその辺は自重できるのだ。

 

 

(にゃーっ、自重しても気になるのは気になる! 今日こそはその正体を掴みたーい!)

 

 

 こうなったら最後の1歩手前の手段として、まふゆの部屋に突撃も視野に入れようか。

 

 それもアリかもしれない。

 玄関から一緒にお邪魔しまーすは流石に無しにしても、窓からならどうだろう?

 

 

(普段はカーテンが閉まってて、部屋の中は全くわかんないからなー。ノックしたら開けてくれたりするのかな)

 

 

 軽く扉を何回も叩いてたら、まふゆなら異変に気がついてくれるはず。

 まふゆ以外が気がついちゃうと色々と気まずいけれど、悪いことは起きないのは確信している。

 

 まふゆの部屋の位置は何となくわかるし、意外と悪くない気がしてきた。

 今日は塾も弓道をする日でもないらしいし、自分から勉強しない限りはまっすぐ家に帰るだろう。

 

 お昼休みの時間に声をかけられることもなかったし、こっちに寄ってくる可能性も低い。

 考えれば考えるほど、絶好の作戦実行日和だった。

 

 

(よーし、今日は最終一歩手前手段だ。まふゆを尾行して、そのままお部屋に……)

 

「マロ」

 

「にゃぁーっ!? ふしゃーっっ!!」

 

 

 いつぞやのことを思い出すタイミングに、僕は飛び跳ねて威嚇した。

 

 声をかけてきたのは勿論、僕の脳内で話題になっていたまふゆだ。

 まふゆの学校の中庭で待機しているのだから、まふゆに声をかけられる可能性もあったのに、うっかり頭から抜け落ちていた。

 

 ここ1週間のまふゆは機械にも負けないぐらい規則正しく動いてたから、油断していた。

 うぐぐ、これが後輩の罠か。賢い後輩に振り回されてしまうとは、先輩というのも大変である。

 

 

「やっぱり」

 

 

 聞こえない文句をつらつらと考えている僕の頭上で、何かを確信したかのように頷くまふゆ。

 

 

「マロが最近、私を付け回していたのには何か猫なりの理由があったんだね」

 

「みゃあ」

 

「ここ最近のことも考えて、その答えがコレに関することなのかなって思ったんだけど……どう?」

 

 

 まふゆが指差しているのは、ほぼ肌身離さず持っているあの薄い板(スマホ)だ。

 どうやら僕がアレに執着していると確信を持っているようで、彼女はじっとこちらを見てくる。

 

 何とか誤魔化そうと視線を逸らしてみたものの、僕の後輩相手だと効果はいまひとつだ。

 

 

「……」

 

「……にゃっ」

 

 

 じいっと見つめられること数分程。

 無言の圧に根負けして返事した僕に、まふゆは小さく頷いた。

 

 

「そうなんだ。四六時中追いかけて来たのは、スマホから何かが見えたから?」

 

 

 そう尋ねてきたので、僕は小さく頷き返す。

 

 

「そう……見られてたのも、気のせいじゃなかったんだね」

 

 

 その言葉はどっち側に立った言葉なのか、すごく問い詰めたい。

 しかし、尋ねる手段もない僕ができることなんて、口に手を当てて考え込むまふゆを眺めるだけ。

 

 

(まふゆさーん? ……反応がないな。これは時間がかかりそうだぞ)

 

 

 にゃあにゃあ呼んでも全く反応がないので、まふゆの考えが纏まるまで僕は寝て待つことにした。

 

 

「──マロ」

 

「にゃ?」

 

 

 考え事が終わったらしいまふゆの呼び声に答えて目を開くと、周囲を見渡しているまふゆがいた。

 何故、用心深く周りをきょろきょろと確認しているのか。

 

 ほんのちょっと嫌な予感がするけれど、僕の予感なんてわからないまふゆはゆっくりとスマホと呼ばれる板を差し出してくる。

 

 

「この記号の上に、前足を乗せてみて」

 

 

 まふゆが指差す所にはちょっと見慣れない三角形のような記号が描かれていた。

 その上にはウン……? いや、違うな。『Untitled』という文字が書かれているんだけど、意味はわからない。

 

 

(ハッキリとした繋がりを見るに、既に接触済みなのかな? これを触ったら、お相手様が飛び出てくる?)

 

 

 たとえ藪から蛇が出てきたとしても、まふゆの安全確認の為に藪に突入するしかないんだけれども。

 

 

(触るしかないなら、先方が猫よりも弱っちいことを祈ろう)

 

 

 覚悟は決まった。スマホとやらから何が出てきても驚かないぞと決心して、つるつるした面の上に触れた。

 僕がスマホに触れた瞬間、不思議な音が周囲に響くのと同時に、画面からまばゆい光が溢れ出す。

 

 

「……にゃあ?」

 

 

 てっきり、こっち側に出てくると思っていたのに。

 何故か視界を白く染める光はヒトガタを放出することなく、僕とまふゆを包み込む。

 

 

「!?」

 

 

 ──キラキラーっと。

 

 光に慣れてきたのか、目を開くようになった僕の目に飛び込んできたのは、学校の中ではありえないぐらい殺風景な風景。

 

 

(は? え、ここって間違いなく領域(・・)だよね?  あっ、すぅーっ……やっば、まふゆも僕もどっちもやっばっばっ!)

 

 

 何の許しもなく、よそ様の領域に侵入してるのでワンアウト。

 その上、お土産(供物)も何も持ってない失礼な状態でツーアウト。

 何よりも──こんな広い空間を作るヤベー力を持ってる相手に喧嘩を売るような真似をしてたっぽいことで、スリーアウト。

 

 僕の余生はおしまいである。

 

 

(ひぇぇ……どどど、どうしよう)

 

 

 尻尾を掴むつもりが、思いっきり踏んじゃったんだけど。どうしよう、これ。

 まふゆを無事に帰すのは当然として、話し合って僕のことも許してくれたら嬉しいなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 








☆マロ知識
マロはかしこい猫なので、平仮名やカタカナ・漢字だけでなくローマ字も読める優秀な猫なのである。危うく『Untitled』をローマ字で読もうとして「アッ、違うな……」となり、キャンセル。下品な単語が生成されるのは阻止された。


……

セカイなどの前提知識があれば警戒しなくてもいいのですが、マロの脳内は『現代ファンタジー』なのです。
それなので、こんな反応になるのもしょうがないですね。

次回は10日。ここから予告した投稿に戻ります。

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