ありふれてない呪言師は世界最悪 作:オワタ+式=サン
ハジメが目覚めたのは3時間経った頃だった。
「…うわ…血がっ…ぐぅ!?」
目の前に広がる血の海、そして無くした左腕から来る幻肢痛に顔を歪ませる。
しかし、これ程の血が流れているのなら、自分はとっくに死んでいるはずだと頭の隅で冷静になる。
何故死ななかったのか、その答えはハジメの目の前にあった。
目の前にはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。
その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。
ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。
その鉱石からは滴る様に水が流れていた。
喉が渇いていたハジメは警戒しつつも鉱石の水が溜まった水溜りに口を付ける
すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。
同時にハジメは左腕からの出血がなくなっている事に気付く。
自分の倒れていた場所をよく見れば、丁度左肩が別の水溜りにガッツリと浸かっている状態だった。
どうやらこの鉱石から滴る水の治癒効果で止血されたらしい。
ハジメは知らないが、実はその石は『神結晶』と呼ばれる鉱石であり、歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。
神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。
その液体を『神水』と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。
左腕は戻らないものの、直ぐに死ぬ様な事はない…と安心したハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。
そして、何気なしに自分が錬成によって作った横穴の入り口を見る。
そこには、足をズタズタにされ、ハジメ以上の血の海を作っているシュウヤの姿があった。
「あ…あぁぁぁぁ!?」
ハジメは急いで水溜りの場所へと向かった。
そこから無事な右手で神水を掬うと、転びそうになりながらもシュウヤの元へと向かう。
出血の酷い足にかければ、じわじわと傷が塞がる…が一度では足りない。
ハジメは一心不乱にシュウヤの怪我を治す為に何度も神水をかけた。
その結果として、シュウヤの足は多少の傷跡が残るのみで完治するり
しかし、シュウヤが目覚める事はなかった。
ハジメは頑張ってシュウヤを仰向けにし、神水を口に垂らすも、飲み込む事はなく、口から漏れるのみ。
「…う、うそだ…シュウヤが死ぬ訳…」
ハジメの感情は、シュウヤの死を否定するが、理性は死を肯定する。
足の怪我の酷さ、呼吸が殆どなく、胸の上下も非常に浅い。
何よりハジメよりも多くの血を流している。
傷を塞ぐ事が出来たとしても、流れた血は戻らない。
ハジメはただ壁によりかかって、塞ぎ込む様に身を丸める。
頭の中にあるのは、どうしてこんな目に遭っているのか?という疑問だった。
(どうして僕がこんな目に?)
痛みと空腹で碌に眠れていない頭は神水を飲めば回復するものの、クリアになったがためにより鮮明に苦痛を感じさせる。
同時に、少しづつ、ゆっくりとシュウヤが死へと近付く様に呼吸の感覚が広くなる。
ハジメは気が狂いそうだった。
自分はこうして生きているのに、すぐ隣では友達がゆっくりと死へ向かっている。
そんな異様な状況で人がマトモで居られる訳がない。
最初の一日は現実逃避をした。
次の二日は友達を助けられない無力な自分に怒りを覚えた。
そして、三日は…
(なぜ僕が…いや、僕達が!こんなにも苦しまなきゃならない…?僕が何をしたって言うんだよ…!)
(なんで、こんな目にあってる…?なにが原因だ…?)
(この世界の神は理不尽に誘拐した…)
(あのジジイは僕達に戦争をさせる様に仕向けた…)
(…クラスメイトは、僕らを裏切った…!)
(なら…僕の…いや…俺のやるべき事は…ひとつ…!)
闇に堕ちる、その刹那
「ゲホッ!ゴホッ!…あー、生きてるか?ハジメ」
奇跡的に、シュウヤは生き返った。
「ぇ…ぁ…い、生きてる…?」
「そりゃ生きてるだろ…ってうわ何だこれ!?血溜まりひっど!?」
起き上がったシュウヤはまず血溜まりに驚き、うわ汚ねーなどと愚痴を零す。
「…あー、意識なかったが、ハジメが生かしてくれたんだろ?ありがとうな!」
「…よかった……生きててよかったよぉぉ…!」
ハジメは涙が枯れそうになるほど泣いた。
そうして、本来ならば『魔王』と呼ばれるはずだった錬成師は、魔王になる事はなく。
優しい性格はそのままに、覚悟を決められる意思を得た。