ありふれてない呪言師は世界最悪 作:オワタ+式=サン
人生は自分が主役である、と誰かが言った。
その言葉は概ね正解だ。人生の主役とは自分自身というのは正しい。
しかし、主役になる為に必要な事は多々ある。
コミュニケーション能力、他者よりも抜きん出た才能、容姿…etc
様々あるが、言ってしまえば誰かよりも優れた人で無ければ人生という物語では主役にはなれない。
そもそもだが、そんな人に成れるのはごく僅かだ。
では…それらを持たない人間は、何者になるだろうか?
その一例が、目の前に居る。
「おばあちゃん、大丈夫ですか?荷物持ちましょうか?」
「ありがとうねぇ…」
少年の名は南雲ハジメ、サブカルチャーに詳しく、この様に人助けをする良い人物だ。今、道で転んだ老婆へ手を差し伸べている。
「よっ…おばあちゃん立てそう?」
「あぁ、よっこら…いたたた…ちょっと、腰を痛めたみたいだねぇ…こんな老人の為に時間なんて使わなくていいから、学校へお行きなさい」
そして、そんなハジメを見る僕は
「ハジメ、そのまま買い物袋を持っててくれ、おばあちゃんは僕が背負うから」
「い、いいんだよ…このままじゃあ、学校に遅刻しちゃうよ」
そう言っておばあちゃんは無理に立とうとするが、腰の痛みのせいで中腰の途中で止まってしまう。
「良いんですよ、まだ遅刻する様な時間じゃないんで」
「そうですよ、おばあちゃんをこのままここに置いて行く方が心苦しいのですし」
「優しい子達だねぇ…」
ハジメは買い物袋を持ち、僕はおばあちゃんを背負ってバス停まで歩いた。
「ありがとうねぇ…これはお礼にね」
そう言って、おばあちゃんは財布から千円札を2枚出すと僕らへと差し出した。
「い、いいですよ。それにこのお金はおばあちゃんの為に使って下さい」
「そうですよ、それにこの程度の事でお金を貰うのは…」
「いいんだよ、おばあちゃんの気持ちだからね。受け取っておくれ」
そう言って笑うおばあちゃんの笑顔に押されて、ハジメと僕は頭を下げて千円札を受け取った。
「……人助けしただけなのにお金を貰うって…なんか…変な感じだよな…シュウヤ…」
「そうだなぁ……って、やばい!ハジメ走れ!このままだと遅刻する!」
「マジか!?」
千円札を財布に入れている時、ふと腕時計を確認すると遅刻する10分前だった。
二人して全力で校舎まで走り、何とか始業前には教室前まで辿り着いた。
「ぜー…ぜー…こんなに走ったのは…リードを離して走り出した犬を追いかけた時以来かもしれない…」
「そんな事もあったな…」
「シュウヤはなんで息切れしてないんだよ……」
「土日にジョギングしてるからな」
そんなシュウヤの物言いに、そうか…と返事をして息を整えたハジメは、教室のドアを開け、スタスタと歩くと席へと座る
「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
ハジメが席に座るとちょっかいを出してくる奴らがいた。檜山大介と取り巻き3人の不良グループだ。毎回何かとハジメへちょっかいを出したりしている。
どうでも良い事だが、ハジメの席の隣が僕の席だ。
「お前ら飽きないな、そんなにちょっかい出してるんなら何かハジメに対して嫉妬でもしてんの?ま、大方予想着くけど、女々しい上に醜いな〜、お前の嫉妬」
「はぁぁ!?コイツに嫉妬なんてする訳ねぇだろうが!ぶっ殺すぞ!」
そう言って檜山は僕の胸元を掴み、そう吠える
一触即発の空気になるも、クラスのリーダーが止めに入る
「檜山、手を離すんだ。影野も檜山を挑発するのは良くないだろう」
クラスのリーダー、天之河光輝だ。
「…チッ!」
檜山は舌打ちして手を離すと不機嫌なまま席へと戻る。
「南雲くん、影野くんもおはよう!今日もギリギリだね、もう少し早く来ようよ」
ハジメと僕に話しかけてきたのは白崎香織。学校の2大女神なんて呼ばれている、ハジメに惚れている子だ。
「…香織、また彼らの世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツとだらけてる様なヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
「南雲君、影野もおはよう。毎日大変ね」
次に話しかけてきたのは唯一挨拶をした八重樫雫、後は挨拶さえしない坂上龍太郎と光輝だ。
この中で雫とは顔見知りだ。祖父同士が仲が良く、幼い頃から事ある毎にお互いの自慢の孫だ!と話す為だけに連れて行かれ顔を合わせる事が多い為、ほぼ幼馴染の様なものだ。
しかし、八重樫流の道場の娘であり大会優勝者と、祖先が忍者であり、その家系で祖父から忍者になれと鍛えられただけの一般人では天と地程の差があるだろうとは常々思う。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
「おはよー…あーそろそろ始業か」
僕のその言葉とほぼ同時に始業を告げるチャイムが鳴る。
光輝達はサッと席へと戻った。
〜〜〜〜
午前の授業が終わり、昼ご飯となった。
ハジメはいつもの様に10秒で終わるゼリー飲料を啜って昼ご飯を終え、僕は握り飯二つ食べて済ませる。
「せめて米を食え、米を」
「これが楽なんだって…」
「そう言うアンタもいっつも塩おにぎりしか食べてない気がするけど?」
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当はまだかな…?よかったら一緒にどうかな?」
ハジメ元にニッコニコな笑顔でやって来る香織、そして僕の側にはいつの間にか居た、腕を組み威圧する雫。
正しく温と冷。
僕とハジメはアイコンタクトを取った。
同時に立ち上がると、急いでその場を離脱…!
「何処に行くの南雲くん?」
ハジメは腕を掴まれた!
「逃走するにしては判断が遅いんじゃない?」
僕は首を掴まれた!
残念!逃走は失敗した!
「審判、ハジメとの扱いに差があると思います」
「棄却するわ」
僕の主張は一蹴された。解せぬ。
しかし、ほぼ詰みな僕とは違い、ハジメにはまだ逃げられる可能性があった!
「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」
そう言って、ミイラのように中身を吸い取られたお昼のパッケージをヒラヒラと見せる。これによりお昼は食べたと証明しつつ離脱する、完璧な作戦……!
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
しかし、そもそもが悪かった。惚れた相手がそんな食事してたらそりゃそうなるだろう。と呆れた顔でハジメを見る。同時に首が絞まる、なんで?
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織。少々鈍感というか天然が入っている彼女には、光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないようだ。
「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」
素で聞き返す香織に思わず雫が「ブフッ」と吹き出した。
吹き出したモノは全て僕に降りかかった。厄日かな
すると、足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様……俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、瞬きする間に一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。
未だに教室に居た担任である愛子先生が教室から出る様に叫ぶのと、魔法陣が爆発する様に一気に輝いたのはほぼ同時だった。
その日、一つのクラスから生徒達と担任が、消失した。