ありふれてない呪言師は世界最悪 作:オワタ+式=サン
翌日、早朝から招集がかけられ、武器と制服を着たままな状態で出発となった。
そのまま、日の高さからお昼前頃になると察しが付く頃、オルクス大迷宮へ挑戦する冒険者たちのための宿場町、ホルアドに到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる事となった。
シュウヤとハジメは同室だった。
ハジメは明日の大迷宮の攻略の為か、宿屋近くの空き地を使い、地面に触れて錬成を繰り返していた。
「少しでも…練度を上げてみんなの足を引っ張らない様にしないと…」
「ハジメは頑張るなぁ…僕も何とかしたいけど、呪言の発動の仕方が分からん…うーん…例えば《その足はもつれる》とか?」
シュウヤがそう言うとハジメの足から力が抜け、バランスを崩して膝を打つ。
「っ…地味に痛い…!」
「あれ?成功しちゃった感じか!?悪いハジメ!」
「いや、大丈夫だよ…いてて…」
膝を抑えてそう笑うハジメに、シュウヤは肩を貸して立たせる
「歩けそうか?」
「支えてもらえれば何とか…というかその呪言…もしかしたら決まった瞬間から継続的に相手の対応するステータスにプラスして、四肢の動きも制限したりしてない…?現に足を動かしにくいし…」
「…そうなのか?なら、決まりさえするなら、効果があるって事か…」
そのまま、部屋へとハジメを運んでいると、こちらを見た香織が慌ててこちらへと走ってきた
「南雲くん大丈夫!?もしかして何かされたの!?」
「…いや、偶然にも僕の天職の技能が発動して両膝を強かに打ったんだよ」
「…そうなの…?よかった…虐められた訳じゃなくて…」
そう言って香織はホッと息を吐くと、ハジメの治療をするからそのまま部屋に自分が連れて行く、とハジメの肩を支えて歩いて行った。
「……ある意味アシストになったか?」
そんな事を呟いて、部屋に戻るのも悪いかと宿周りの散策をしていると、雫がキョロキョロと辺りを見渡していた。恐らく居なくなった香織を探しているのだろう、とアタリを付ける
「あ、影野、香織を見なかった?部屋にも練習場所にも居なくって…」
「ああ、それならハジメと二人っきりだよ。原因作ったのは僕自身だけど…二人には良い機会になるんじゃないかな」
「…そう、待って貴方何かしたの?」
「天職の技能を暴発させてハジメの両膝にじみーなダメージを与えたぞ」
そう答えれば、雫は心配そうにこちらを見つめた。
「……貴方の天職、本当に戦闘向きなの?」
「多分弱体化特化、誰かが居ないのなら決定打にかけるって天職じゃないかな」
呪言師という天職はそういうものなんだろう、と先程の状況を思い出して答える。
「ますます心配ね…」
「こっちに心配なんてする必要ないだろ?そもそも八重樫さんは一人で抱え込み過ぎる。人を心配するのはいいけど、自分を蔑ろにするのはダメだろ?」
そう言えば、心当たりがあるのかうぐ…と言葉を詰まらせるものの、直ぐにキッと目を鋭くして反論する。
「私は自分を蔑ろになんてしてないわ、それに…私は香織の事は大事な親友だから心配してるの。それに、影野の事だって…!」
「僕と八重樫さんは祖父同士が引き合わせた関係に過ぎないだろ?確かにあの頃はお互いに楽しく交流してたけどさ、中学上がる時に一回別れたんだし」
雫とシュウヤは小学生の頃はとても仲が良く、何処へ行くのも遊ぶのも同じだった。
しかし、中学に上がる時、志望する中学が別々になった為、そこで一度関係が切れたのだ。
その後、高校に上がる時に再会するものの、雫は雑誌に取り上げられる程の有名人、方や平凡な一般生徒のシュウヤでは余り交流する間が取れず、香織がハジメに惚れて関わる様になってから、交流が再開される様になったのだ。
「……でも、それでも私は…影野の事を友達だって思ってる!」
真っ直ぐと見つめて来る雫のその視線から、シュウヤは目を逸らす。
「…はは…冗談よしてよ、八重樫さんと僕は『友達だった』…今は、普通のクラスメイトだ」
そう言って、避けて帰ろうとするシュウヤの腕を雫は掴む。
「…ちょっと離してよ、帰れない」
「…今の貴方は帰さない…
それに、ずっと気になってた…なんで、私の事を昔みたいに雫って呼んでくれないの?なんで、他人みたいに、八重樫さんって呼ぶの…!」
雫の問いに、シュウヤは緩く息を吐いて答えた。
「君は有名人だろ。そんな人相手に、親しく雫…なんて呼べるのは香織を含めた人気者くらいだ。たかが同じクラスに居るだけの、何の取り柄も持たず、印象にさえ残らない、そんな一般生徒が、軽々しく…その名で呼ぶのは宜しくない」
シュウヤのその発言に、雫は掴んだその腕を握り締めながら言う
「そんなのは関係ない!私と…影野は…友達で…!!」
「…それなら、逆に聞くけど…八重樫さんは僕を苗字で呼ぶよね?それなら、僕が八重樫さんって呼ぶのは、普通じゃない?」
「…っ…!違う…それは…!」
「…まぁ、言いたい事は分かるよ。分かるからこそ…もう昔みたいに、無邪気に笑い合える様な関係じゃないんだ。
それに、今は立場も違う。勇者パーティの一員と、『雑魚』の僕がこんな所で喧嘩してるなんて思われたら首を吊られそうだ」
冗談混じりだよ、と言う様にシュウヤは笑う
しかし、雫はそれが本当に起こる事と受け取ったのか、シュウヤを見つめながら言う
「そんな事私がさせない…!」
「どうだかね、あのイシュタルって老人の性格は何となく分かる。例えこの大迷宮から生きて帰って来れたとしても安全は保証されない。
自らが呼び寄せた勇者とその仲間達にまさかゴミみたいに弱いヤツが居ました、なんて…あの老人はプライド高いだろうから何かしら理由を付けて排除するだろうよ」
シュウヤの物言いに、納得出来る部分があるのか、雫も反論は出来ずにいた。
「まぁ、だからこそだ。雫」
「…何、今更昔みたいに名前で呼んで」
鋭い目でシュウヤを見つめる雫へ、真面目な声音で告げる。
「恐らく、ハジメと僕はこの迷宮で命を落とすか行方不明になる」
「…なっ…何を根拠に…!」
「大迷宮なんて名を打たれてるんだ、予期せぬトラップなんて事もありえる…そもそも」
そう言って、シュウヤは雫に握られたままの腕を持ち上げ、袖を捲る。
「僕は噂の通りの『雑魚』だ、雫達の様に丈夫な訳じゃない。気を付けていたって、不意に命を散らす程度の強さしかない…その証拠が見えるだろ?」
その腕は、雫の掴んだ辺りから青く変色している
「…っ!」
パッと雫が手を離した。しかし、さっきまで腕を掴んでいたその手は震えている
「雫の無意識な掴みでコレだ。殺しにかかってくる魔物なんて、一撃貰えばお陀仏だろうよ。
…だからこれは、古い幼馴染としてのお願いだ」
そう言って、シュウヤは真っ直ぐと雫を見つめる。
「…呪いみたいなものになってしまうと思ってる、でも…言わせて貰うよ。
僕が居なくなったその時は……」
その先に続く言葉を、乾いた音が止める。
雫がシュウヤの頬を平手打ちした音だ。
「…嫌、そんな言葉、聞きたくない…それに、死ぬもしれない…なんて言うのなら…私に守らせてよ…!その為の、力だって…!」
シュウヤは赤くなった頬を撫で、口の中に広がる血の味を感じて血の混じった唾を吐き捨てる。
「…ぺっ…痛いな…加減はしてくれてるからコレで済んでるのは理解してるけど…」
「…ぁ…ごめんなさい…!そんなつもりじゃ…!」
明らかに動揺する雫へ、シュウヤは告げる。
「…少なくとも、今の雫じゃ光輝達とのパーティの戦闘をこなしつつ僕を守るなんてのは、無茶が過ぎる。実現不可能な事を無理にするものじゃない
……帰らせて貰う」
そう言って、自らの真横を通り過ぎて行くシュウヤのその歩みを
止められる程、雫の心は強くなかった。