ありふれてない呪言師は世界最悪 作:オワタ+式=サン
左腕の火傷の痛みを堪えながら、落下するシュウヤは過去を振り返る。
小学生の頃はよかった、今の様に現実を知らず、大好きな祖父と、初めての友達だった雫と、無邪気に子供用の竹刀でチャンバラごっこをしたりして、楽しく過ごせていた。
そんな幼いシュウヤは小学校では友達が雫しか居らず、中学に上がれば、友達が出来るものだと思っていた。
しかし、現実は非情だ。
雫とは疎遠になり
シュウヤは、学校でイジメを受けた。理由は分からないが、いじめっ子達からして何かが気に入らなかったのだろう。
机に落書き、花瓶を置かれるなんて序の口。
恐喝、暴行されるなんて事も学年を上がる事に増えていった。
担任は、見て見ぬフリをした。面倒な事は避ける性格だったのかもしれない。
最初は明るく、ハキハキと喋る元気な事が目印の様なシュウヤの性格は物静か、悪く言えば暗くなった。
同時に…現実から逃げる様にサブカルチャーに手を出し…その過程で雫の事を取材した記事を読む事になった。
こんな自分とは違い、華やかな道を進んで行く雫をシュウヤは羨ましい…と一瞬だけ思った…思ってしまった
(…あぁ、これはダメだ。友達に対して、こんな感情は…良くない)
雫とは疎遠になったものの、祖父からの又聞きになるが雫は大会で優勝する為に一生懸命に努力しているのを知っている。
ただの才能でここまで来た訳ではない事を知っている。
それなのに、羨んでしまった。自分の状況から逃げる為に、友達を使ってしまった。
(あぁ…最悪だ。こんな感情…漫画の悪役其の者じゃないか…)
そうして、中学時代を耐え抜き、高校へと上がる。
そこで目にしたのは、友達であろう者達に振り回されながらも、楽しそうに笑う、雫の姿。
…一瞬だけ、こちらを見た様な気がしたが、気の所為だろう。
(…そんなに今を楽しめているなら、変わってしまった自分なんかが、側に行くのも烏滸がましい)
同時に、あの頃の様な眩しい笑顔も、明るい雰囲気も出せなくなった自分は、もう雫の知るあの頃のシュウヤではないだろう。
シュウヤは、雫との壁を作る事にした。
こんな自分とは関わらせない為に、その華やかな道を、薄汚れてしまった自分自身が汚さない様にする為に。
しかし、そうやって壁を作っても、そういう運命なのか、初めて出来た同性の友達であるハジメに香織が関わってくる様になってから、何かと雫との距離が近くなった。
今思えば、愚かな事したと思う。
自分の考えだけで雫を己から遠ざけ、雫がその行いをされ苦しんでいても、見ないフリをしていた自分に
あの日、あの時と同じ様になりたいと歩み寄った雫を己の弱さと雫の強さを利用して、拒絶した自分は、本当に愚か者だと
「…まぁ、自分には相応の末路か…」
友達を己のエゴで遠ざけ、拒絶した者は…奈落の底で血の花を咲かせた…ある意味、相応しい最後だろう…と
「…グルルル」
そんな事を思っていると、唸り声が近くで聞こえた…どうやら落下速度でベヒモスの元まで追い付いたらしい。
「…もしかしたら、お前もひとりぼっちだったのかもしれないが」
どうせ死ぬ…と思っているシュウヤは、ベヒモスへ叶うはずもない約束を語る。
「…もしも、僕が生き延びたら…その時はこんな中途半端な終わり方じゃなく、対等にやり合おう」
その言葉を聞き、ベヒモスが笑った…様な気がした。
同時に、シュウヤのその身を…冷たい水が覆い尽くした。
〜〜〜
ベヒモスには人の言葉が分からない。落下しながら何かを言う、そのか弱く風前の灯の様な命の人間の言葉も、何を言っているかまでは分からない。
しかし、その目に籠る感情は分かる。
死の恐怖に対しての諦め、ベヒモスに対する同情、気遣い…そして、再び戦おうという、守れはしないだろう約束も
その人間は迷宮の壁から噴き出す水に巻き込まれ、姿を消した。
しかし、ベヒモスの心中には、疑問と同時に…沸き立つ何かがあった。
今までそんな感情を向けられた事はない
人は皆己を恐れ、自らを奮い立たせて戦うか恐れをなして逃げるだけで
魔物も、ただ喰らう為、強くなる為に愚直に挑んで来て、その強さを知れば怯えて逃げるだけだった。
それ故に、その人間の再び戦おう…という叶えられもしない約束が、ベヒモスには酷く眩しく見えた。
あの人間が自分と対等に戦える…なんてベヒモスさえも思えない。精々一撃を耐えれる様になるのが関の山だろう。
だが、退屈だったその生の終わり際になって、ベヒモスは初めての感情を得る。
それは、どんな感情だったのかは…ベヒモスにさえ分からない。
(あぁ…次も同じ命を得られたのだとしたら…あの人間と…)
そんな思いを抱きながら、ベヒモスは奈落の底に叩きつけられ、絶命した。
〜〜〜
「…ゲホッ…おいおい、なんで生きてやがる…?」
次に、シュウヤが目を覚ましたのは川の浅瀬だった。
どうやら、迷宮の水流によってここまで流れ着いたのだろう…恐らくは
シュウヤの視界の先には同じ様に倒れているハジメが居た。
全身が悲鳴を上げるのを無視して、ハジメの元へと駆け寄る。
ハジメの状態を確認すれば…どうやら気絶しているだけで生きている様だ。
「よっ…と、とりあえず…何処か安全な場所に行かないと…」
ハジメを背負うと、自分の側に来た杖の鮮血のような灯りを頼りにして薄暗い森を歩く。
幸いにも魔物と遭遇せずに、小さな洞穴の様な場所を見つけ、ハジメを降ろす。
「ゲホッゲホッ…あれ…ここは…?」
ハジメも意識を取り戻した様だ。
「この迷宮の底じゃないか?身の安全…なんて保証されてないだろうけど」
洞窟の外から獣の鳴き声がよく聞こえる。獣の魔物が多いのだろう。
「この洞窟も安全って訳じゃないしな…ん?」
シュウヤは背後に気配を感じ、振り返る
そこには体長二メートルの熊の魔物が居た。森のクマさんの様なデフォルメ感はなく、ヒグマを脱色させて二足歩行にし、凶悪な爪を生やしたら出来上がる様な見た目だ。
「よっしゃ逃げるぞっ!」
シュウヤが足を踏み出したその瞬間、その熊の魔物はハジメに狙いを付けた。
「ぇ?」
その瞬間、無造作に振るわれた爪はシュウヤの左肩を少し裂いて…同時に、ハジメの左腕を見えない何かが切り落とした。
「ぁ…うわぁぁぁぁ!?」
「こいつ…当たり判定ガノ○トスなのかよ!?」
左肩を抑えるシュウヤに対して、ハジメは半狂乱で壁に近寄ると狂った様に錬成を始めた。
「錬成…錬成…錬成ぇっ!!!」
丁度、人一人がギリギリ通れる範囲の穴に、シュウヤも迷わず入り込む。
熊の魔物はその腕を穴に突っ込み、捕まえようとガリガリと爪で周りを引っ掻きながら迫る。
「うわぁぁぁ!錬成!錬成ぇぇ!!」
「ハジメ落ち着け!距離取れてる!取れてきてるから!」
そう言うシュウヤの足は、熊の魔物に引っ掻かれたせいで所々に裂傷が出来ていた。自らの足を盾にして少しでも侵入を防ぎながらもハジメの後ろを着いて行く。
(痛みはあるが耐えれない程じゃない…爪も先端が掠るだけになってきた…このままなら…)
しかし、血を流し過ぎたせいか頭がぼーっとして来る。
それもそのはず、シュウヤの両足は最早真っ赤に染まっており、流血は止まる事なく地面を赤く染める。
「…あぁ…これは…無理だ…」
朦朧とする意識の中でシュウヤが最後に見たのは
倒れ伏すハジメと、その奥で輝く、宝石の様な何かだった