スタレ世界に転生!?アラスターなりきり人生満喫します 作:黒しゃぶ曜日
本物のアラスターのようになることを目指すと決めた私は、まず出来ることから始めようと決心した。
とはいえ幼い自分にできることは限られる...
なので体術の修行とラジオ活動から始めることにした。
マイクステッキを得物とすることを前提にするなら、棒術が良いだろう。
さっそく指導役にねだったが、妙に動揺している様子。
まぁ子供にしては渋い趣味に思えるかもしれないが...
ともかく説得に成功し、槍術、棒術を会得している師匠の道場に入門することができた。
アラスターのようにエレガントな動きで敵の攻撃を躱したいとも思ったが...
体術に関しては素人も良いところな為、そこは諦めて無骨なスタイルであろうが大真面目に学ぶことにしよう。
周りと違い私の精神は既に成熟している。
しかも第二次豊穣戦争前の比較的平和な時代故か、私ほど必死に鍛錬に身を投じる者はいない。
まぁ、「使令級の敵と戦う前提」で修行している私の方が明らかに可笑しいと言えばそうなのだが。
それにしても時々師匠から妙な視線を感じるが...
入門した理由を適当にでっち上げたことがバレたか?
「前世に見たアニメキャラみたいになりたい」などと馬鹿正直に言う訳にはいかないので許してほしい。
しかし少々無理をしていたからか頻繁に休息を言い渡されるようになった為、
ラジオにも本格的に手を出すことにした。
空いた時間に行うラジオ放送に関しては、仙舟ではやや珍しいピアノのジャズ演奏を中心に活動することにした。
アラスターの影響で前世でどっぷりとジャズ音楽を嗜んでいた経験が活きた。
幼児にしてはかなり大人びていている私への物珍しさと、ゆったりした曲調のモダンジャズが仙舟の長命種にウケたようで、それなりの知名度、番組出演の依頼、収益を得る事に成功。
危うく指導役に財布を握られそうになったがこれを全力で説得。
カンパニー系列企業への投資で資金を膨らまして黙らせることに成功した。
本格的に指導役から不気味に見られるようになったが...
タイムリミットはあまりにも短い。
そう遠くない将来、第二次豊穣戦争では豊穣の使令「倏忽」を相手取るのだから...
そしてその戦争のどさくさに紛れ、豊穣の力を得よう。
全てを、ラジオの悪魔に
本当に転生したのか、あの子と言葉を交わした時そう感じてしまった。
脱鱗を行い生まれ変わった彼の指導役として日々を過ごしているが、今日もその考えは変わらない。
前世を知っている私からすれば、まるで彼の身体を別人が乗っ取り操っているように思えて仕方がない。
白状しよう、私は彼を得体のしれない存在と認識してしまっている。
いつ知ったのかも分からぬ知識を以てメキメキと頭角を現している彼を、一体どうすれば庇護対象として見れるだろうか。
ジャズというこの辺りでは聞いたこともない楽曲を好み、彼の前世では興味もなかったはずの投資で資産を増やし、
周囲の脱鱗した子供達どころか百年以上生きた大人ですら愚痴の一つでも零したくなるような鍛錬を、彼は己に課している。不満の一つも口にせず、まるで万年先を見据えているかのように瞳をギラギラと輝かせながら。
しかし何よりも不気味なのは...
「■■■、そろそろ休息を入れた方が...」
「いえいえ!心配には及びませんよ。
今こそ踏ん張りどころですからねぇ。」
笑っている。
笑みを、顔に貼り付けるかのように。
原因は全く分からないが、ある日突然人が変わったように彼は笑い続けている。
私が何か過ちを犯してしまったのか?
接し方を間違えたのか?
分からない。彼が生まれ変わる前から知っているはずなのに。
■■■...貴方は一体...
何を目指しているのですか...?
あの日のことを忘れはしない。
数年前に指導役に任命された者から、是非■■■を入門させて欲しいと頼まれたので了承したが...
違和感。
彼は真摯に修行と向き合っているように見えるが...
一方で今を...
私を見ていない。
私を踏み台と認識している?
いいや、それだけではないのだろう。
その予感は今では確信に変わりつつある。
彼が私に教えを乞いに来てから、それなりの年月が経った。
以前にも増して自身を痛めつけるが如く鍛錬に身を投じる彼に休息を言い渡すも、どうやら身体を休める間にラジオ活動を行っているらしい。
あやつにも趣味と言えるものが存在したのかと一瞬期待したが無駄だった。
あれは趣味ではない。間違いなく棒術の鍛錬と同等のレベルで己に課している。
凡人なら。いいや、持明族にしては余りにも刹那に生き、余りにも今を見つめていない。
余りにもチグハグで、不安定で、それでいて自分を見失った様子は見られない。
何百年も生きてきたが、このような在り方の者は見たことがない。
見極めなくては。
「何故武の道を歩むのか?ハッハァ!
この世界に挑む為、この世界を楽しむ為、唯それだけですよ。」
見定めなくては。
彼は何に至ろうとしているのか。
これまでに得たものを、どう活かすつもりなのか。
ここ数年で導いた弟子の中で最も優れ、同時に危うさも抱く彼を見定めるのも、師である私の務めであろう。