夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話 作:カーキtrpg
これでも予定していたものを半分以上切り捨てたんですが。
このままだとダゴン救世団の話だけで30話を超えそうだったので、今後は予定していたエピソードを大胆にカットし、テンポ重視で進めていきます。
そのため、岩木竹には個人的な伝手という私も考えていなかった存在に重要情報をもらって主人公たちに渡すことにしました。
あと3〜4話で畳みます。
……畳めるといいなあ。
――東京都某所 ダゴン救世団支部――
コンクリート打ちっぱなしの地下空間に、粘つくような湿気が充満している。
カビの胞子と、隠しきれない腐敗の臭い。
安座等の一件以来、ソリアと仕事を共にするようになって一週間。
俺の日常は、期待していたスリルとは程遠い事務的な、呪文の的あて作業の繰り返しとなっていた。
「……はぁ~、つまらん」
吐き捨てると同時に、指先から放たれた不可視の衝撃が最後の一人となった狂信者の胸郭を無造作に捉えた。
ベキリ、と硬いものが砕ける鈍い音が反響する。
(……これは、やっちまったかな)
案の定、壁にたたきつけられた狂信者は糸が切れたように床に崩れ落ちていった。
……まあ、岩木竹の奴は一人二人くらい
死体が一つ増えたところで、このゴミ溜めのような場所では誤差の範疇だ。
岩木竹からの依頼でダゴン救世団の支部を片っ端から潰して回っているが、出てくるのはどいつもこいつも正気と狂気の狭間で溺れているだけのチンピラばかりだ。
「いくらなんでも質が低すぎる。深きものすら拝めないとは思わなかったぞ。もっと骨のある相手はいねぇのかよ」
俺は深い溜息をついた。
期待していたのは、理性を焼き切るような未知との遭遇だ。
こんな、一方的な蹂躙ではない。
「貞久。仕事につまらないも面白いもないでしょう。働かなければご飯にありつけませんよ」
隣で淡々と、近くで待機している警官たちに施設へ突入するよう連絡していたソリアが冷めた声で釘を刺してくる。
携帯端末の画面を見つめたまま、彼女の視線はこちらを向きもしない。
……こいつはそれで納得できるんだろうが、俺にとって面白いかどうかは死活問題だ。
わざわざあの女の口車に乗ってこの世界に来たのは、刺激を求めてのことなんだからな。
「仕事はちゃんとやるさ。だがなぁ、こんな連中が相手ならわざわざ俺らが出る必要はないだろ。最初から警官隊を突入させればそれで済む話だ」
脳裏をよぎるのは、岩木竹のあの仰々しい言い草だ。
『怪異などとの交戦を想定した場合、警官たちでは力不足だ。まかり間違って深きものの高位司祭などに遭遇した場合、突入班は手も足も出ずに全滅するだろう。君たちの力が必要なのだ。勿論のこと、警官隊は君たちの指揮下で扱って構わない』
「力不足だなんだと御託を並べやがって……。こんなことなら魚乃目の野郎に押し付ければよかったな。あいつで十分だろ、こんな雑魚ども」
次こそは俺の呪文が的あてではなく、せめて戦闘に変わる相手が出てくればいいんだがな。
足元に転がっている邪魔な死体を無造作に蹴飛ばすと、俺はカビ臭い地下室から出口へと歩き出した。
「貞久。もう行くんですか?」
「ここにはもう、俺ら以外にいないからな。あとは
「なるほど。では私もすぐに追いかけるので少しだけ待っていてください」
「はいはい、わかりましたよ」
入れ違いに入ってくる警官たちの脇を抜け、地上へと這い上がる。
肺に流れ込んできた東京の排気ガス混じりの外気は、地下の腐った空気よりは数倍マシだった。
俺は歩きながら、魚乃目に連絡を入れる。
……が、あの野郎、全然出やがらねえ。
「あいつ、人を東京まで送り出したくせに何をしてやがる」
舌打ちをして端末をポケットにねじ込む。
仕方ない、安座等に戻るしかないな。
分室を目標に《瞬間移動》を発動して戻るか。
俺は呪文の発動のため魔力を練り上げる。
「待ちなさい、私を置いていくつもりですか貞久」
その矢先。
背後から低く、ドスの利いたソリアの声が響いた。
「ぶっ飛ばしますよ?」
物理的な圧力さえ感じるその声に気圧され、練り上げた魔力を霧散させてしまった。
(……やっべ、ソリアのことを完全に忘れてた)
俺は空を仰ぎ、本日二度目の溜息をついた。
――安座等県 九智依羅分室――
「それで、顔に青あざをこしらえる羽目になったのか。小僧、完全に尻にひかれてるな」
「うるせえ」
俺の話を聞いて出てくる言葉がそれか魚乃目。
お前がさっさと通話に出ていれば、その間にソリアだって追いついてきてただろうが。
それなら俺があいつを忘れるなんてことはなかったんだぞ。
あのあと、瞬間移動を阻害されてから分室に戻るまでの道中、俺がどれだけ必死にソリアの機嫌を損ねないよう言葉を尽くしたか。
……結局、言葉の尽くし方がマズかったのか、拳で解決される羽目になったが。
この頬のあざだって、ここに戻ってきた直後に一度《小治癒》で綺麗に治したんだ。
なのに、まだ虫の居所が悪かったソリアに『反省が見られません』と即座に上書きで殴られた名残なんだぞ。
治したらおかわりを喰らう。
もはや治さない方が安全という異常事態だった。
「俺のことよりお前のことだ。分室でのうのうとしていたくせに、通信途絶とはいい度胸だな魚乃目」
「……ああ、それな。すまんすまん、本部長と会議中だったんでちょっと端末を離しててな。電子機器は会議室に持ち込まないのが規則だったからな」
魚乃目は悪びれる様子もなく、ひらひらと手を振って俺の抗議をいなした。
「会議だと? おかげで俺は、ソリアの拳を嫌というほど食らう羽目になったんだぞ。最後の一撃なんて、鼻骨を砕かれたぞ」
俺はズキズキと脈打つ頬を指先で慎重にさすった。
魔力はある。
呪文を唱えれば一瞬で痛みは消える。
だが、ソリアが眉間に皺を寄せたまま隣の部屋で暴飲暴食をしている現状、ここで傷を治すのは『私はもう反省を終えました』という宣言と受け取られるだろう。
治した端から、さらに重い一撃を食らう未来が容易に想像できた。
そして、当のソリアの怒りが収まる気配は微塵もない。
隣の部屋からは、ひたすら袋を引き裂く音と咀嚼音が聞こえてくる。
「……おい、あいついつまで食ってんだ?」
「さあな。お前への怒りをカロリーで上書きして消去してる最中なんじゃないか?」
魚乃目がニヤニヤしながら、隣の部屋を指差す。
覗き込むと、そこにはコンビニ袋の山に囲まれ、無表情で特大サイズのポテトチップスを機械的に口へ詰め込むソリアの姿があった。
彼女は俺と目が合うと、ただ一言。
「……おかわり」
空になった袋を、こちらへ突き出してきた。
「いや、自分で……」と言いかけた瞬間、ソリアの目がスッと細くなる。
頬のあざが警告を鳴らすようにズキリと疼いた。
「わかった、わかったよ! 何がいいんだ!」
「アイスクリーム。たっぷりと」
感情の読み取れない瞳でじっと見つめられ、俺はそれ以上反論する言葉を飲み込んだ。
隣では魚乃目が「よかったな、貢ぎがいのある女で」と、俺の神経を逆なでするような軽口を叩いてきやがった。
言いたいことは山ほどあったが、今のソリアにこれ以上の燃料を投下するのは自殺行為だ。
俺は大人しく買い出しに行くべく腰を浮かせた。
その時だ。
そんな俺たちのやり取りを遮るように、分室の重厚なドアがノックされた。
入ってきたのは、苦虫を噛み潰したような顔をした岩木竹だ。
「佐伯田、やはり戻っていたか。東京の支部については報告を受けている。尽力に感謝する」
労いの言葉を言う岩木竹だが、その焦燥しきった姿を見るに、お前こそ誰かに労われないといけないんじゃないか?
……いや、こいつがあちこちに奔走する羽目になったのは自業自得だったな。
前言撤回、もっと苦労してくれ。
「……で、その尽力に感謝してるっつうていで、何をしに来たんだ?」
俺の問いに、岩木竹は深いため息を吐き、手にした書類を震わせた。
「ダゴン救世団だが、どうやら中枢の人材が完全に潜伏してしまったようでな。我々では足取りすら把握できないありさまだ」
「把握できない? 警察の情報網も随分とザルなんだな。……それとも、勇み足のせいで見失ったのか?」
嫌味を言う俺に、岩木竹は怒る気力もないのか、ただ項垂れた。
「おかげで本部長から思い切り詰められてしまったよ、この事件の結果いかんでは、次に警務部長になれるぞと。……ハァ」
言い終わると同時に、さらに深い地の底まで届きそうなため息が漏れる。
正直に言って、うっとうしいことこの上ない。
「警務部長って、キャリアの出世コースど真ん中じゃないのか? なんで気落ちするんだよ」
「それはな小僧。この場合だと栄転じゃなく怪異対策から外すっていう宣告だからだよ。つまり、キャリアの本流から外れるってことだ。……警察庁長官・警視総監を目指すなら怪異関連の部署を一度通っていないとなれないのが今の慣習らしいからな」
なるほど、岩木竹は出世レースから脱落するのが目の前だから絶望中ってことなのか。
「岩木竹はこの件を上手くさばけないなら、お情けの警務部長でキャリア終了ってことか」
「まあ、事実上そうなるだろうな。警務部長であがりだよ、そのあとは関連団体や外郭団体への出向祭りで警察庁には二度と戻ってこれない衛星になるんじゃないか?」
「……衛星か。土星の環の一部にでもなるようなもんかな」
俺の言葉に、岩木竹はゆっくりと顔をこちらに向けた。
その瞳は完全に死んでいる。
「……衛星どころか、宇宙の塵だぞ。怪異の業務でバツがついた以上、折をつけて肩を叩かれるのは目に見えてる」
岩木竹は力なく吐き捨てると、会議室の椅子に深く沈み込んだ。
エリートのプライドが、今まさに組織の歯車にすり潰されている真っ最中というわけだ。
まあ、それに憐れみを感じるほど俺はお人好しじゃあないが。
というより、こいつ自身がまいた種だからな、同情のしようもない。
「……で、その土星の環になりかけのキャリア様が、わざわざ俺に何の用だ? まさか『僕を助けてください佐伯田くん』なんて泣きつきに来たわけじゃないんだろ」
俺がニヤニヤしながら問い詰めると、岩木竹は震える手で一枚の写真を机に置いた。
ひどくピントがぼけているが、そこには確かに深きものの異形が写り込んでいた。
「……私の個人的な伝手で情報を仕入れた。ダゴン救世団の司祭級が、近日中にある場所へ集結するという未確認情報だ。場所は安座等県の某港町。――つまり、ここだ」
岩木竹の目が、一瞬だけ鋭さを取り戻す。
「そこには、君が求めていた『骨のある相手』がいるかもしれない。……というか、いてくれないと困る! このまま終われば、私は本当に放り出されてしまう!」
「はっ、切実だな岩木竹。だがな、俺にとってお前の進退なんてどうでもいいことだ。……と、言いたいところだが、その話はいいな。退屈な的あて作業よりは、よっぽどマシそうだ」
俺が詳しい話を聞くため身を乗り出そうとした、その時。
「…………アイス」
背後から、冷め切った殺意の冷気が這い寄ってきた。
忘れていた。
目の前の出世に焦るキャリアなんかに構っている場合ではなかった。
地獄の悪魔よりもはるかに恐ろしい女のことを、最優先にするべきだったのだ。
「貞久。仕事の話をする前に、私に対する誠意を見せてください。アイスクリームです。……まさか、自分だけ次の遊び場を見つけて逃げるつもりではありませんよね?」
ソリアが、さっき俺の鼻骨を砕いた方の拳を静かに握り込んだ。
俺はその姿に冬の深夜の海に放り込まれたような寒気を感じた。
ソリアの拳からは、物理的な破壊力以上に逃がさないという強固な意志を感じる。
岩木竹が持ち込んだ深きものという魅力的なエサも、ソリアにとってはアイスクリームひとつの価値にすら満たない。
「わ、分かってる! 今すぐ行ってくるから!」
俺は脱兎のごとく分室を飛び出した。
背後で魚乃目が「おい、俺の分はビールな!」と調子のいい声を張り上げているのが聞こえたが、振り返る余裕などない。
夕暮れ時に差し掛かっていた安座等の街に繰り出した俺は一人ごちる。
「ったく、どいつもこいつも……。魚乃目は他人事だし、岩木竹は自分の出世の心配、ソリアはアイスかよ」
吐き捨てながら、俺は近くのコンビニへと駆け込む。
ソリアに対する「誠意」は、随分と冷たくて甘いものになりそうだ。
魚乃目視点 2時間前 ――安座等県 九智依羅分室会議室――
重厚な応接用ソファに深く腰を下ろしている人物を前に俺は背筋を伸ばし、普段は使わないよそ行きの顔で口を開いた。
「急に押しかけてしまってすまないね、魚乃目君」
「恐縮です、本来であれば本部長の用事とあればこちらから出向くのが筋というもの。それをわざわざ分室までご足労いただき――」
「魚乃目君」
穏やかな、だが有無を言わせぬ制止の声が言葉を遮る。
「この場には私たちしかいないんだ。
声の主、安座等県警本部長、鈴木は目尻に深い皺を刻んで微かに笑った。
「……失礼しました。では鈴木先輩、なぜ分室に?」
俺が呼び方を変えると、鈴木先輩は満足そうに頷き、傍らに置いたアタッシュケースから封筒を取り出した。
「頼まれていた佐伯田君の身分証明書類が出来たからね、渡しに来たんだよ。本人に直接とも思ったのだが、そういうのは嫌がりそうな子だと聞いていたからね」
机に置かれたのは、あのアウトローな小僧に与えられる身分を証明する物だ。
俺は思わず眉を上げた。
「小僧の、いや失礼。佐伯田のですか。先輩が自分で持ってこられるとは……それに、まだ申請から一週間しか経っていないのですが。随分と速いですね」
「普段のお役所仕事からは考えられないと?」
茶目っ気のある問いかけに、冷や汗が流れる。
「いえ、そんな。ただ、先輩は多忙な身だと承知しておりますので……」
「ハハッ。そんなに慌てなくていいよ。少し意地悪をしたくなっただけだ。まあ、悪趣味な老人とでも思ってくれ」
鈴木先輩は愉快そうに声を立てて笑った。
安座等県警の頂点に君臨する男の、かつての学生時代の先輩としての顔。
その切り替えの鮮やかさに、俺は苦笑するしかない。
「……先輩にはかないませんな」
「私としては、学生の時のように接してほしいんだよ。この年になると、そういうことができる相手も少ないんだ」
少しだけ寂しげに、だがどこか懐かしむような独白。
茶を一口啜った先輩の視線が、窓の外の安座等の街並みへと向けられた。
「魚乃目君、佐伯田君以前で、我が国で一番若いエージェントは誰だったかな?」
ふとした問いかけだった。
窓の外を見つめたまま、独り言のように零されたその言葉に俺は記憶の引き出しを探る。
「若いエージェントですか? 現場に直接出てくる者ということでしょうか。それならソリアです、たしか15でしたかと」
「ああ、そうだったね……」
鈴木先輩は、手元の茶碗を見つめて短く息を吐いた。
「だが、佐伯田君はそれよりもさらに若い。……魚乃目君、私はね、慙愧に堪えないよ。我が国も、ついにここまで来てしまったのかとね」
「先輩……」
「怪異というものは、決して根絶できるものではない。それは理解している。だがね、せめて未成年が現場で命をやり取りし、切った張ったの泥沼に身を投じるような現状だけは、何とか改めようと足掻いてきたつもりだった」
鈴木先輩は自嘲気味に口角を上げたが、その瞳に笑みはない。
「だが、結果はこのざまだ。子供を戦場へ送り出す手助けを、この私自身が執り行っている。……皮肉なものだよ」
日に照らされ、机の上に置かれた封筒が不自然なほど白く浮き上がって見えた。
先輩にとってそれはまるで、大人が守りきれなかった平和の残骸を、さらに若い世代に押し付ける契約書のように見えるのだろうか。
「先輩、今さら何を言ってるんですか。もしあの小僧にそんな湿っぽい話をしたら、『老いぼれの感傷は胸焼けがする』って一蹴されますよ」
「ハハッ、違いない。彼はそういう子らしいからね」
鈴木先輩は苦笑し、少しだけ肩の力を抜いたようだった。
「私たちが積み上げてきた法も、秩序も、彼らにとっては足枷でしかないのかもしれない。……魚乃目君、私は悔しいよ。次の世代に渡すべきものが、こんな物騒な戦場と紙切れの身分証だけだということがね」
「いいじゃないですか。あいつらはあいつらなりに、このクソみたいな世界を面白おかしく楽しんでるようですよ。……俺たちはせいぜい、そのケツを拭くための紙を用意しておくだけです」
俺がそう言って席を立つと、先輩もゆっくりと立ち上がった。
「頼もしいね。……皆にはよろしく伝えておいてくれ」
鈴木先輩は最後にそう言い残すと、会議室を後にした。
「……全く、湿っぽいったらありゃしねえ」
俺は小さく毒づき、そろそろ戻ってくるだろう二人を迎えるために足を進めた。
後書きに何かを書きたいと思ったので、私が持っているサプリメントの中から適当に抜粋したものを機械翻訳して載せていくことにしました。
話数がかさんで量がたまったら、後書きからは削除してどこかにでも放り込んでおきます。
新しい特典
灼熱の接触(Blistering Touch):あなたの肌は、触れた者に不快感や火傷を与えるほどの熱を帯びます。
ただし、あなた自身の装備が損傷することはありません。
アイテムやクリーチャーに触れた際、その接触に付随して1点の焼きダメージを与えることを選択できます。
煙の噴き出し(Puff of Smoke):⼤きなげっぷとともに、半径1メートルの範囲に煙を吐き出すことができます。
この煙はあなたの周囲に漂い、敵があなたに対して行う近接攻撃および遠隔攻撃の命中判定に-1のペナルティを与えます。
あなた自身の攻撃にペナルティはありませんが、非常に目立つようになるため相手があなたを発見するための視覚判定には+1のボーナスを与えてしまいます。