夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話 作:カーキtrpg
小田なんて名前も出さないようにする気だったのですが、こいつがシナリオに出てこないのは作者が考えた設定的におかしかったのでだしました。
あと、カットした話と続きの話を合わせるのが難しくて結局カットはいくつかは断念。
――安座等県 九智依羅分室――
岩木竹が持ってきた話から三日。
あいつは未だに、ダゴン救世団の司祭級が集まる正確な日時を掴めていないらしく、県内を走り回っている。
俺としては、別に期待していない。
どうせまた空振りだろうし、仮に失敗したところで困るのは岩木竹の出世だけだ。
……そう思って分室でゆっくりと過ごしていたというのに、目の前のこいつときたら。
「佐伯田さん? 聞いていますか?」
「……帰れ」
「なんでですか?!」
耳障りな大声が分室に響き渡る。
うるせえ。
なんで俺はこんな騒音被害に遭わなきゃならないんだ。
「なんでも何もないだろうが。俺はお前なんて知らん」
「酷いです! 僕はあなたのことを思ってきたんですよ?!」
「知らねえって言ってんだろうが」
俺がげんなりしながら吐き捨てると、小田は「失礼だなぁ」とでも言いたげに頬を膨らませた。
その様は、整った中性的な顔のせいで嫌に似合っている。
それも相まって、正直に言ってイラっと来た。
「貞久。このうるさいのは何方様ですか?」
机の向こう側から、冷え切った声が飛んでくる。
視線を向ければ、ソリアが菓子の袋を開けながらこちらを見ていた。
迷惑そうな目だ。
いや、そんな顔をされても困る。
こいつは俺が呼んだわけじゃない。
「ただのバカだ、気にするな」
「説明になっていません」
「なら、自分で小田に聞いてくれ」
面倒事を丸投げすると、ソリアは小さくため息を吐き、小田へ視線を向けた。
その瞬間、小田の目がぱっと輝く。
……嫌な予感しかしない。
「あれ? もしかして、あなたはソリアさんですか?」
「……あなたとは、初対面だと思いましたが?」
「じゃあ、本当にソリアさんなんですね! うわ~、本当に髪や瞳が宝石のように鮮やかだぁ! 映像で見るのと、この目で見るのとでは大違いだ」
「映像? ……貞久」
ぎろり、とソリアがこちらをにらんでくる。
どうやら俺が隠し撮りした動画か何かを小田に見せたと勘違いしているようだ。
「違う違う。俺は関係ない、小田がお前を知っているなんて、俺も今初めて知ったんだ」
「貞久、あなたは私以上に冗談が下手なようですね?」
「勘弁してくれよ。本当に俺のあずかり知らないことだって」
「……いいでしょう。この場はそれで納得してあげます」
ジッと俺をにらんでいたソリアはそう言って、机の上に広げた菓子類を口に放り込む作業に戻っていった。
納得したというより、「後で覚えておけ」と言われた気がするが、今は追及が止んだだけで十分だ。
「小田」
「はい?」
「お前のせいで余計な危険が発生しかけたんだが?」
「モテモテで羨ましいです佐伯田さん!」
ふざけんな。
なにがうらやましいだ、欠片もそう思ってないだろお前。
むしろ面白がって油を注いでるだけだ。
そう思っていると、小田はにじり寄ってきて、こそこそと小声で耳打ちしてきた。
「第一ですね、ソリアさんって僕らと違って、本物の原作キャラじゃないですか。そりゃ現物見たらテンションも上がりますって」
「現物って言うな。石屋の商品じゃねえんだぞ」
「でも本当に綺麗だなぁ……。なんというか、人形みたいというか、神秘的というか……」
「間違ってもあいつに聞こえるように言うんじゃねえぞ。あと、俺は巻き込むなよ」
俺はソリアの方をちらりと窺う。
幸い、今のところこちらへ視線は向いていない。
ただ無表情にポテトチップスを咀嚼している。
……いや、微妙に咀嚼音が荒くなってるな。
これは、まずい。
「佐伯田さん。僕は純粋に褒めているだけです。第一、あなたの彼女にちょっかいなんてかけませんよ」
「……誰が彼女だって?」
「え?」
「お前、まじで口を閉じてくれ。あと、ソリアの剣でぶった切られたいなら一人で死んでろ」
俺が低い声で釘を刺すと、小田は「失礼だなぁ」とでも言いたげに肩をすくめた。
その態度がまた腹立つ。
「僕は事実を言っただけですよ?」
「その事実が間違ってるんだよ」
「でも未来だと――」
「だから、それは知らんって言ったろうが」
「……」
俺らがひそひそと馬鹿話をしているのをよそに、ソリアは無言だった。
無言のままポテトチップスを噛み砕いている。
だが、微妙に機嫌が悪くなってるのが解る。
……ソリアは感がいいからな。
会話の内容までは聞こえてなくても、自分にとって不快な話題が出ていることくらい、空気で察しているんだろう。
その証拠に、さっきから菓子の減る速度が明らかに上がっていた。
「貞久」
「……なんだよ」
「後で少し、話があります」
「……俺は、何も言ってないからな」
「ええ。まだ何も」
まだってなんだよ、普通に怖いんだが。
俺が内心で頭を抱えていると、小田は空気も読まずに「あっ」と声を上げた。
嫌な予感がする。
こういう時のこいつは、大体ろくでもないことを言い出す。
そして案の定だった。
「それでですね、今日来たのには理由がありまして。僕の訓練に付き合ってほしいんですけど」
「死んでくれ」
「佐伯田さん?!」
もう、死んでくれとしか言えない。
なんなんだこいつは。
俺の精神状態を破壊するためだけに存在してるのか?
俺は今、ソリアという時限爆弾を抱えているんだぞ。
これ以上余計な案件を増やすな。
「なんでそうなるんですか! ちょっと訓練に付き合ってほしいだけじゃないですか!」
「そのちょっとで毎回ろくでもない目に遭ってるんだよ、俺は」
「頼むよ~!! もう僕一人じゃあ頭打ちなんですって!」
「だからって俺が付き合う義理なんてない。お前の家は代々続いた名家なんだろ? 家をあされば秘伝の書ぐらい転がってるだろうに」
「それを使ったうえで限界を感じているんですよ! 生き死にがかかってるんですよ! そこらへんのは真っ先に試しました!」
小田は半泣きみたいな顔で机へ身を乗り出してくる。
必死なのはわかる。
わかるが、だからといって俺に泣きつく理由にはならん。
「知らん。お前ん家の事情なんぞ、お前ん家で解決しろ」
「解決できないから来てるんじゃないですか!」
「じゃあ諦めろ」
「冷たっ!」
冷たいも何も、俺は元からお前に優しくした覚えなんてないんだが。
というか、こいつは俺をなんだと思ってるんだ?
「あのなあ、俺はお前の便利な家庭教師じゃないんだぞ」
俺が露骨に嫌そうな顔をしていると、小田はむっと頬を膨らませた。
「違いますよ。家庭教師なんて生ぬるいです」
「じゃあ、なんだよ」
「終盤イベント用のチートキャラです」
「帰れ」
反射的に即答していた。
なんだその最悪の評価。
人を便利攻略装置みたいに言いやがって。
「いや、でも実際そうじゃないですか! 未来の佐伯田さんって、だいたい『しょうがねえなぁ』って言いながら全部ひっくり返していく枠でしたし!」
「知らん。未来の俺の話を現在の俺に持ってくるな」
「えぇ~……」
小田は納得いかなそうに唸る。
こっちの方が納得いってないわ。
だいたい、なんで俺がお前の成長イベントに付き合わなきゃならない。
努力・友情・勝利なら一人で勝手にやってろ。
――安座等県 九智依羅ビル 運動室――
「やっぱり佐伯田さんって優しいですね。なんだかんだ言ってもこうやって付き合ってくれるんですから」
準備運動をしながら、小田がそんなことを抜かす。
俺は壁際に置かれていたパイプ椅子へ腰掛けたまま、深いため息を吐いた。
……小田、これは優しさではなく、甘さだぞ。
まあ、断り切れずに付き合ってる時点で、俺も大概なんだろう。
本当に面倒なら、《他者瞬間移動》でどっかに飛ばせばよかったんだ。
なのに結局こうして運動室まで来てるあたり、自分でも反論できない。
「勘違いするな。お前がうるさすぎて、断る方が面倒になっただけだ」
「それを世間では優しさって言うんですよ」
「言わねえよ」
即座に否定すると、小田はくすくすと笑った。
腹立つなこいつ。
人の神経を逆撫でする才能だけなら一流かもしれん。
俺は椅子の背に体重を預けながら、運動室を見回した。
広い。
無駄に広い。
九智依羅の戦闘訓練用設備だけあって、床も壁も異様に頑丈な素材で補強されている。
普通の人間が暴れた程度じゃ傷一つつかない。
……もっとも、俺基準だと「多少壊しても問題ない」程度の意味しかないが。
「……で? 俺に何を教えて欲しいんだ?」
俺がそう聞くと、小田は聞いてくれと言わんばかりに顔を上げた。
「僕に1ターンに一回行動できるようにしてほしいんです」
「はぁ?」
1ターンに一回行動って、何を言ってるんだ?
「あのですね、GURPSって1ターンは一秒じゃないですか」
「まあ、そうだな。システム上はな」
「……そんな高速戦闘、元一般人の僕じゃついていけないんですよ! ゲームならターンがきたら行動が出来ますけど、現実になったこっちだと、ちょっと油断しただけで2、3ターンは余裕で飛ばされるんです」
小田はそこで一度言葉を切ると、真面目な顔で続けた。
「敵が何かしてるなって理解した瞬間には、もう殴られてるんですよ。しかも痛い」
「そりゃ殴られりゃ痛いだろ」
「そういう話じゃなくて!」
ばん、と小田が床を指差した。
「僕、呪文の制御とか知識はどうにかなってきたんです。でも実戦になると、判断が追いつかないんですよ! 何をするにも一瞬遅れる!」
「……」
まあ、言いたいことはわかる。
現実になった戦闘は速い。
ターン制ゲームみたいに次の手を一々考えて、なんてやっていたら敵は待ってくれない。
特に、ある程度慣れてる奴ほど初動が異常に速い。
細かい予兆から次の動きを読んで、相手より先に動く。
慣れてる奴ほどそれを無意識でやるから、一般人からすれば「気づいたら終わっている」という状況になる。
「だから僕、まずちゃんと一回動けるようになりたいんです」
小田は拳を握りながら、真剣な顔でそう言った。
「別に最初から勝ちたいとかじゃないんですよ。まずは、敵が動いた時に『あ、やばい』って理解して、一回ちゃんと対応したいんです。今の僕、それすら間に合わない時があるんで」
……なるほどな。
このざまだと、実践で死にかけるわな。
「それなら、CPを使って『戦闘即応』でも取ればいいだろ? お前は俺と同じチートだって言ってたじゃないか」
俺がそう言うと、小田は微妙に気まずそうな顔をした。
さっきまでの騒がしさが少しだけ引っ込む。
珍しく真面目な顔だった。
「……佐伯田さん。あなたはキャラシをどのくらい理解していますか?」
「どのくらいって。まあ、あくまで自分に関係する特徴を獲得したり、どっかから知識や技能を刻み込んだりするもんだろ? あとは、社会的な特徴、つまりは社会的地位とか人間関係みたいなもんは実際に自分で獲得しなければならないってくらいだな」
「はい。それは概ね合ってます」
小田は頷いた。
「で、それに追加でもう一つ。取得できる特徴って、本人に適性があるのが前提なんですよ」
「……ああ?」
「だから僕、『戦闘即応』が取れませんでした」
俺は思わず眉をひそめた。
「取れなかった?」
「はい。というか、戦闘系の特徴全般が軒並み駄目です。『追加攻撃回数』も、『達人の指導』や『武器の達人』系も全部」
小田はそこで乾いた笑いを漏らした。
「どうも僕、根本的に戦う側の人間じゃないみたいで」
なるほど。
だからこいつ、ここまで必死なのか。
「それなら、簡単な解決方法がある。訓練なんかよりも、な」
「えっ、本当ですか?」
「まあ、任せろ。別に、お前が直接『戦闘即応』を獲得できなくともやりようはある」
本人の資質が足りないなら、外部から補えばいいだけだ。
持っている間だけ、無理矢理にでもその特徴を付与するマジックアイテム。
俺にとっては、そんなものを作るのは造作もないことだ。
パワードスーツ
パワードスーツは装着者の筋力と機動力を強化する。
これには二つの形式がある――開放型の外骨格と、密閉型のバトルスーツである。
ほとんどのパワードスーツは、追加荷重体力および追加攻撃体力にボーナスを与える。
外骨格
動力外骨格(エクソ)とは、人工的な「筋肉」による開放型フレームである。
使用者が動くと、スーツのセンサーがその動きを感知し、同調して作動する。
装着者は自身の身体能力ではなく、外骨格の身体能力を用いる。
外骨格はほとんど防護能力を持たないが、特記がない限り、衣服や柔軟装甲の上から装着できる。
全身型外骨格
これらは胴体および四肢に装着される。
追加荷重体力および追加攻撃体力にボーナスを与える。
《バトルスーツ》技能はDXおよびDX基準技能を制限する(p. B192 参照)。
電源が入っている間、全身型外骨格の重量は負荷重量に数えない。
重外骨格(TL9)
貨物積載や建設作業用に設計された、頑丈な重作業用外骨格。
フォークリフトや建設ロボットの代替として使用されることが多い。
非常に強力だが、大型化された腕部は精密作業には向かない。
全高は8フィート(SM+1)。
装着者は追加荷重体力+12および追加攻撃体力+8を得る。
技能不足によるペナルティに加えて、装着者は手先が不器用(DX-3)となる。
この外骨格には、レーザートーチ(p. 80)、メカニック技能用ミニ工具キット(p. 82)、および消火チューブ(p. 87)が内蔵されている。
軽外骨格(TL9)
出力は低いが、より小型化された外骨格。
装着者に追加荷重体力+10および追加攻撃体力+6を与える。
レンジャー外骨格(TL10)
基本的には装甲を省いたバトルスーツであり、軽量ながら強力な外骨格。
軍事または準軍事作戦で使用される。
脚部ブレースとモーターが、筋力だけでなく敏捷性も強化する。
装着者は追加荷重体力+12、追加攻撃体力+12、および超跳躍/2Lを得る。