夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話 作:カーキtrpg
もう開き直って日本の官位官職その他を併用することにしました。
……いや欧州貴族制度の勉強なんて無理だって、作者はヨーロッパの貴族についてはろくに知らんのだ。
というわけで、作者がよく知っていたり資料にアクセスしやすい江戸時代の武士のそれや官位などをアレンジして持ってきました。
「西洋風の世界観なのに『少初位』や『従八位』?」と思われるかもしれませんが、まあ話の本筋にはまるで絡まないことなので。
もろに和風な名称が出てもそういうものがあるんだなで流してください。
――リベール王国 サニーデイル州
スミス村の領主――アルフレッド スミスは、目の前の無礼な珍客に対する罵詈雑言を口の中で飲み込むのに多大な労力を支払っていた。
時期は四月。
春風が吹き、冬の澄んだ冷たい空気から草花の匂いへと変わる季節。
木々にとまった小鳥たちの賑やかなさえずりで目覚める、本来なら穏やかなはずの朝だった。
魔術神の加護を受け、この世に生を受けてはや三十年。
魔導師として呪文を学び、騎士として武芸を研鑽し、サニーデイル州においては「杖馬の技で右に出る者はいない」と自負するまでに修練を重ねてきたアルフレッドだったが、これほど忍耐を強いられたことはかつてなかった。
「お願いです、スミス卿! もはや私にはどうしようもないのです!」
そう言って高級な絨毯に額をこすりつけんばかりの勢いで哀願しているのは、中央から来た法衣貴族――第四翼蛇連隊第一中隊長、ブース男爵だ……いや正確に言うなら「前までは」男爵だった男だ。
そしてこのブース家は、スミス家の寄子でもある。
アルフレッドは執務机の上に置かれた王城からの公文書へ冷ややかな視線を落とす。
その羊皮紙に押された赤漆の印章が、残酷な現実を物語っていた。
書面を目で追いながら、アルフレッドは冷めきって湯気も立たなくなった紅茶のカップを静かに指先で突いた。
「……ブース。わざわざ先触れもなしに領空へ飛来し、城の対空陣地に撃ち落とされかけた挙句の果てに私の前に差し出すのがこの通知書か」
「スミス卿! 私の言葉をお聞きください!」
「何を聞けと? 中央での猟官運動に熱を上げ、それで資金が尽きれば市井の金貸しに手を出し、ついに裁判所へ訴えられた。……王城の耳に届けばどうなるか、本気で理解していなかったのか?」
アルフレッドの淡々とした指摘に、ブースの背中が小さく跳ねた。
彼からすれば家格を上げたい一心だったのだろう。
だが、膨れ上がった借金を返済できなくなり、恥を晒した男に対して王城の対応は迅速かつ容赦のないものだった。
裁判の判決が出る前に、即座に改易・爵位剥奪の処分が下されたのだ。
「今回の不始末で私が除封となるのは……ええ、甘んじて受け入れましょう! ですが、我が息子への新規召抱という形での家督相続は認められました! ブース家は存続できるのです!」
ブースは顔を上げ、血走った目でアルフレッドを見上げた。
その表情には、絶望と醜い執着が入り混じっている。
「ですが、このままでは……このままでは、リベール王国開闢以来の由緒ある我がブース家の家格が、地の底にまで叩き落とされてしまいます! 何としてでも我が息子に功績を挙げさせ、家格の降格だけは回避せねばならんのです! どうか……どうかお力添えを!」
(……知ったことか、この愚図が)
湯気も立たなくなった紅茶のカップを見下ろしながら、アルフレッドは溜息を間一髪で押し殺した。
はっきり言ってこの男のために一秒たりとも時間を割きたくないのが本心だった。
いきなり先触れもなしに乗り込んできたこの愚図の弁明によれば、事の顛末はこうだ。
家格を上げたい一心で、ここ数年は中央での猟官運動に熱を上げていたが金を受け取った斡旋者が約束を破り、この程度では家格向上などありえないと値段を吊り上げにかかったそうだ。
だがその工作資金がついに自前では賄えなくなり、市井の金貸しから多額の借金を重ねた。
結果、何の成果もあげられないまま支払いだけが積み重なったらしい。
つまり自分は騙された被害者であり、本来なら改易なんて処分が下るはずがないそうだ。
――もはやつける薬もないほどの阿呆ぶりである。
この愚図のせめてもの救いは、息子への新規召抱の体で事実上の家督相続が許されたことくらいだろう。
これほどの醜態をさらしてなおブース本人は軍籍を留められ、従八位と陸軍中尉という個人としての身分だけは保たれている。
さらに息子は特例で家を興すことを許された。
本来自業自得で路頭に迷うはずだったことを考えれば、破格の温情処置である。
事ここに至ったのなら、大人しく温情にすがって反省の意を示して軍務に忠実に励めばいいものを、この男はさらに余計な足掻きをしようというのだ。
アルフレッドでなくとも、これには呆れて物も言えない。
「諦めるのだな、ブース。これ以上、王城の機嫌を損ねる真似をしてみろ。息子への継承の話すら白紙に戻るぞ」
アルフレッドはトントン、と指先で執務机を叩きながら冷ややかな言葉で吐き捨てる。
もし彼がスミス家の寄子でなければ、とっくに外へ放り出していたことだろう。
いや、そもそも寄子でなければ領空へ飛来した時点で警報のサイレンが鳴り響き、城の対空陣地から打ち落とされるか、防衛結界に阻まれて立ち往生していただろうが。
「スミス卿! ブース男爵家の興廃がかかっているのです! どうかお力を!」
「……」
アルフレッドの忠告も耳に入らないのか、ついには見苦しく泣き落としにかかっていた。
(なにが譜代ブース男爵家の家格だ。除封・改易となった以上、もはやお前の家は『新参』だろうが)
アルフレッドの冷めた視線がブースを射抜く。
ブースがいくら家の由緒や祖先の功を誇ったところで、除封になった以上はそれらは何の意味もなさない。
代々紡いできた歴史は家と共に消え去り、ブースの息子が「初代」となってゼロから新家を興すのだ。
いまさらブースが何をしようがそれは変わらない、文字通りの無駄な足掻きでしかなかった。
それすら理解できないとは……いや、ブースとて頭では理解しているはずだ。
ただ、突きつけられた酷薄な現実を受け止めきれず、自ら傷口を広げているのだ。
「それで……いったい何を企んでいるのだ?」
アルフレッドは不機嫌そうに問いかけた。
正直に言えば関わりたくなどない。
だが、ブースとは曲がりなりにも五代続いた寄親と寄子の間柄だ。
話すら聞かずに追い出せば後味が悪いし、何より、自分の知らぬところで馬鹿な真似をされては堪らないという思惑もあった。
(これで大した腹案もなかったらどうしてくれようかこの愚図)
当然、話を聞く気になったからといって腹の虫が収まったわけではない。
「山狩りです! 山に潜むモンスターどもを狩り、息子の初陣として武名をあげて箔をつけようかと!」
「……いい加減にしろ貴様、どこの領地に押し掛ける気だ? 言っておくが、我がスミス領の山林管理は行き届いている。貴様らが武名をあげられるほどモンスターが蔓延ってなどおらんぞ」
思いつきで出たような回答にアルフレッドはもはや呆れを隠さなかった。
……アルフレッドが呆れるのも当然だった。
確かに、モンスターはどの領主にとっても頭痛の種なのは間違いない。
世界に満ちるマガから自然発生したり、動物が変異して生まれるモンスターを完全に根絶することは不可能である。
領主は適度にモンスターの間引きを行って減らそうとはしているが、前述の生態のせいで狩っても狩っても減らないのだ。
だが、減らないからと言って適度に間引かないと自然発生の分で増えるのがモンスターだ。
第一、変異したものは仕方ないがマガによって発生したモンスターをすぐに狩らないとモンスターは現世に実体として定着して、普通の生殖活動が出来るようになるやいなや爆発的に増えていくのだ。
外交関係が極めて安定し、大戦など滅多に起こらないこの世界で傭兵が当たり前のように存在しているのはそのためだ。
いつどこで発生するかわからぬ怪物の対策のために彼らはいる。
――ではブースの言う「モンスターの山狩り」は悪い案ではないのか?
とんでもない!
どの領主も平時から対モンスター対策を完備させている。
どうしても手の届ききらないところがあるならそれこそ傭兵を雇えばいい。
傭兵は基本戦働きを想定した対人相手専門の集団ではあるが、戦が多くはないこの世界でそれだけの傭兵など生きていけない、大抵の傭兵はモンスター相手の訓練もしているものだ。
その中にはモンスター退治に特化した専門の傭兵――いわゆる『冒険者』が存在するのだ。*1
間違ってもブースのような思いつきで押しかけてくる素人の出番など、どこにも存在しない。
現地調達と長期間の山野探索に長けたプロである彼らと違い、対人戦の訓練しかしておらず、そのうえ魔導師ですらないブースなどハッキリ言ってお呼びではないのだ。
「素人の遠足で退治できる程度なら、すでにその地の領主か地元の自警団が片付けている。……ブース、貴様がやろうとしているのはただの自殺志願だ。そんなものに子供を巻き込むのはやめろ」
「そ、そこをなんとか! 何卒……何卒スミス卿の御力で、我が息子の初陣に相応しい『場』をお与えくだされ!」
平伏したまま動こうとしないブースを見下ろし、アルフレッドは深く重い溜息を吐き出した。
この男をこのまま野に放てば、他領で不祥事を起こすか、勝手に山に入ってブースの子がモンスターの餌になるだけだ。
あずかり知らぬところでやらかしたのなら、アルフレッドはブース親子が餌になったところで「馬鹿をした」と一言で切って捨てるだけではある。
だが話を聞いてしまった以上、見過ごすのはアルフレッドの性に合わなかった。
(……やむを得ん。毒を食らわば皿まで、か)
「……良いだろう、ブース。条件付きで貴様の言う『場』とやらを用意してやる」
「お、おお! 感謝いたします、スミス卿!」
「勘違いするな。貴様のためではない、そこで聞き耳を立てているバカ娘のためだ……エミリー、いつまでそこに突っ立っているつもりだ? 部屋に入ってきなさい」
アルフレッドは閉ざされた扉を射抜くように視線を向ける。
直後、ギィと扉が開いてバツが悪そうな顔をしたエミリーが顔を出した。
「あはは……ばれちゃってたのね」
「お、お嬢様! これはお見苦しいところを!」
エミリーの姿を見るやいなや、床に額を押し付けていたブースは慌てて居住まいを正し改めて頭を下げた。
「エミリー、盗み聞きとは良い度胸だな。淑女としての弁えはどうした?」
「だって、お父様! ブースさんが面白い話をしてるのが聞こえちゃったんだもの! 『息子の初陣』ですって? ねえ、ブースさん、息子のロイドって、たしか騎士学校を出たのかしら?」
エミリーは咎める父の視線をサラリとかわすと、跪くブースの前まで駆け寄って目を輝かせながら尋ねた。
「は、はい! おっしゃる通りにございます、エミリーお嬢様。倅は今年で十五になり、騎士学校の予科を修了したばかりで……」
「ふーん? 予科を出たばっかりってことは従騎士ね? 何位?」
騎士学校とは王都で非魔導師の下級貴族の子女子弟が入学するもので、その予科は騎士として最低限の技能をみるための授業と試験である。
これを無事に修了できない者は正式な貴族とはみなされなかった。
その中でも特に優秀な者――予科修了のための試験で十位以内の好成績を収めた者に王室から特別に少初位の位階が授与される『恩寵』を得られるかどうかが、軍門を志す若き貴族たちにとって最初の関門であった。
「お恥ずかしながら愚息は学校で恩寵をいただけるほどの成績で修了することができませんで……無位で、まだ平の端領でございます……」
ブースは絞り出すような声でうなだれた。
「あらら……無位の平従騎士じゃ、今回の改易で後ろ盾もなくなって完全に崖っぷちね……」
さすがのエミリーも気の毒そうな顔をした。
家が改易されたうえに本人が無位とあっては、初代としてゼロから家を盛り立てるべき息子の将来には暗雲が立ち込めている。
「……で、お父様?」
エミリーはくるりと振り返り、悪戯っぽく微笑みながらアルフレッドを見上げた。
「さっき『条件付きで場を用意する』って言ってたけど、いったい何を企んでいるの?」
アルフレッドは冷めきった紅茶のカップを脇に押しやり、重い溜息をひとつ吐き出した。
「……条件は二つだ、ブース」
アルフレッドの声は低く、重かった。
「一つ。初陣の場として、我が家が王家から管理を任されている預地の巡回と討伐作業に加えてやる。村から北へ五マイルほど進んだ古い鉱山跡地だ。そこに最近『地竜』が住み着いたと報告があった。調べた限りただの巨大トカゲ――おそらく
「お、おお……! 願ってもないお話! スミス卿、感謝いたします!」
感涙にむせびなき再び床に伏せようとするブースを、アルフレッドの冷徹な眼光が鋭く制した。
「喜ぶのは二つ目の条件を聞いてからにしろ。……ブース、貴様が従う指揮官はエミリーだ、文句はないな?」
「は……? え、エミリーお嬢様が……指揮官、でございますか……?!」
ブースの顔がわかりやすく引きつり、額から一気に冷や汗が噴き出した。
エミリーが幼くして優れた魔導師であることに疑いはない。
だが、いくら実力があろうと彼女はスミス家の誇る高貴な青い血の継承者であり、アルフレッドの愛娘だ。
ただでさえ何が起こるかわからない戦地に、万が一にも傷つけてはならない最高級のガラス細工を連れて行くなどブースにとっては討伐以上に命懸けの事態であった。
「あら失礼ね。私はそんなに頼りないのかしら? ……ねえ、ブース」
ブースの態度が気に食わなかったのか、少し言葉にトゲを混ぜて微笑むエミリー。
「と、とんでもございません。エミリーお嬢様の才気と腕前は良く知っておりますとも! ただ……この場合はお嬢様の腕の問題ではなくてですね、その……」
万が一にもお嬢様に擦り傷一つ作らせてしまったら、ブース家は再興どころかアルフレッドに根絶やしにされる――言葉を濁して必死に拒絶の口実を探すブースの肩を、アルフレッドが無音で掴んだ。
そのままぬっと顔を寄せると、氷のように冷ややかな声で耳元へ囁く。
「……分かっていると思うが、エミリーに傷一つ、いや泥の汚れ一つでもついたら……どうなるか、分かっているな?」
「は、はいぃっ!」
要するに、命に代えても娘の盾となれということだ。
ブースは青ざめた顔で激しく首を縦に振るのだった。
ゲーム内における遺伝子工学
GMがそのプロセスをゲームプレイとして扱いたい場合(例:PCが遺伝子エンジニアである場合)、このバージョンの「新発明」のルール(p.B473〜477)を遺伝子工学に適用できます。
まず、遺伝子エンジニアは自身のTLで可能な範囲内で、生物にどのような特徴や変更を生み出すかを決定します。
これには、その改変内容をゲーム用語(多くは種族テンプレート)として記述することが含まれます。
第2章、第3章、および第4章には、特定のTLにおいて人間、動物、植物、および微生物に導入可能なさまざまな特徴が記載されています。
プレイヤーの記述が特に明確であったり巧妙であったりする場合、GMはすべての関連する技能判定に+1または+2のボーナスを与えるべきです。
必要技能
必要とされる「発明」技能は〈生物工学/遺伝子工学〉です。バイオロイドや同様の人工生命体には〈生物工学/細胞工学〉も必要となる場合があります。
その場合、2つの技能のうち低い方を使用します。
複雑さ
p.B473の表とガイドラインを使用して、発明の「複雑さ」を決定します。
これには、生物または改変の「小売価格」を知る必要があります。
具体的な計算式については
複雑さは個別のケースに応じて引き上げたり引き下げたりすることができます。
構想(Concept)
複雑さと必要技能を決定した後、GMは発明者の発明技能に対して秘密裏で発想判定を行い、テスト可能な理論を思いついたかどうかを確認します。
修正:発明が簡単なら-6、普通なら-10、複雑なら-14、驚嘆なら-22。
模倣しようとしている既存の種について、生体または保存状態の良い標本を持っている場合は+5。
モデルはないが既存の種である場合は+2。
新種の創出ではなく優生学的遺伝子工学を行う場合(つまり、テンプレートに追加するすべての特徴が、その生物のゲノム内で自然に発生し得るものである場合)は+3。
TLに関わらず、その基本技術がキャンペーンにおいて完全に新しいものである場合は-5。
必要な特徴が遺伝子エンジニアのTLより1高い場合は-5。(「モデル」とは、生体または保存状態の良い標本を指します。)
主任遺伝子エンジニアは1日に1回判定を行うことができます。
成功した場合、次の段階へ進みます。
失敗した場合、追加のペナルティなしで翌日に再試行できます。
ファンブルした場合、一見良さそうに見えても実際には決して機能しない「欠陥のある構想」となります。
この場合も次の段階へと進みますが、最終的に失敗することが確定します。(遺伝子エンジニアがすでに完全なゲノムおよびプロテオームを入手している場合、この段階を完全にスキップできます。)