夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話   作:カーキtrpg

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スミス荘園の幼き次期領主 エミリー 四話

――リベール王国 サニーデイル州 スミス荘園(スミス・マナー) 街道――

 

 サニーデイル州の街道を北へと進む軍隊は、まるで巨大な茶色いムカデのようだった。

 規則正しい数百の足音が重なり合い、街道の石畳を一定のリズムで揺らし続ける。

 黒革の背嚢、肩に斜めに担がれた旧式ライフルマスケット銃、胸元で交差するのは革ベルト――兵士たちは判を押したように同じ装束に身を包み、個を殺して前進していた。

 

 スミス支隊には駄馬駄竜に加えて、どこから連れてきたのか蛮象(レッサー・エレファント)が練り歩き、八足火蜥(ファイア・スローン)すらもいた。

 蛮象が引く大型幌馬車の四輪が金属音をきしませ、魔動車のエンジン音が静かに響いていた。

 

 遂に期日となり陣容を整えたエミリーたちは、隊列を組み北へ向かって街道を進んでいた。

 過半がウッドゴーレムとはいえ、総員八百人を超える部隊が行軍する姿はまさしく指揮官の威容をあらわすのにふさわしいものだった。

 

 もっとも、中央の文官法衣貴族から言わせれば「ただの金の無駄」で終わる話だろうが……。

 

 「言いたい奴には言わせておけばいいのだ。わしらはコレ(武力)で顔を売っているのだからな」

 

 大きな陸竜の背で手綱を握る古老は、エミリーに言い聞かせるようにそう吐き捨てた。

 

 「よいかエミリー。宮廷で騒ぐしかない脳の無い腰抜けの声に耳を傾けてはいかんぞ」

 「おじさま(高祖叔父)。でもお父様が、私たち魔導師は魔法を使うのが本分で、それ以外は些事だって言っていたわよ?」

 

 愛馬である陸竜の鞍の上で、エミリーは不思議そうに首を傾げた。

 

 「なるほどな……」

 

 古老は深く刻まれた顔の皺を歪め、鼻で笑ってみせた。

 

 「それも間違いではない、だが魔法だけならどこぞの血社の徒と変わらんのだ。貴族たる者、人を率いてこそよ。アルフレッドの奴は魔法の深淵ばかり覗き込んで、足元が見えておらん」

 

 古老は顎で眼下に続く褐色の隊列を示した。

 

 「見よエミリー。人を束ね、列を整え、意のままに動かす。この軍隊という巨大な仕掛けを動かしてみせてこそ、愚昧な王宮の狐どもが平伏するのだ」

 

 エミリーは今一度、整然と進む部隊を見渡した。

 

 先頭を行くのは、精巧に製作されたウッドゴーレムの歩兵大隊だ。

 関節部がキシキシと硬い木擦れの音を立てる以外、彼らは呼吸もせず、私語も交わさず、完璧な等間隔を保って石畳を踏み鳴らしている。

 

 木擦れの音だけを響かせる無感情な木偶の隙間を、スミス家の従兵たちが統率のために埋めている。

 ゴーレムという冷たい魔導と、人間という生の泥臭さ。

 そのふたつが泥と埃に塗れて混ざり合い、北の鉱山跡地へと進軍していく。

 

 「人を率いる……」

 

 エミリーは小さく呟き、自分の小さな手に握られた小さなワンドを見つめた。

 魔法ならば指先ひとつで万物を穿つことができる。

 だが、この数百の命――あるいは数百の木偶の歩みを統率する重量感は、呪文のそれとはまるで異なる手応えを少女に与えていた。

 

 「中央の馬鹿どもはな、我らがいくら杖を振り呪文を唱えたところで本気でひれ伏しはせん」

 

 古老は何かを思い出したかのように前方を睨みつける。

 

 「万能のマガを知覚できもしない不出来者どもには、魔導師の緻密で繊細な技など理解できようもないのだ。だからこそあのような腰抜けどもには、この街道を揺らす踏圧の音こそが威光であり、力となる。……今回の遠征はお前を『将』として披露する場なのだ。そしてそれは必ず、将来のお前の力になる」

 「おじさま……」

 

 古老の誇らしげな声を受け、エミリーは少しだけ唇を結び直し、前方の平原へと視線を向けた。

 サニーデイル州の穏やかな田園風景は次第に遠ざかり、北からの冷たい風が、少女の金髪と隊の軍旗を静かに揺らし始めていた。

 

 

 ……なお、モンスター討伐は特に滞りもなく終わった。

 

 

 

――リベール王国 王都イースリー――

 

 

 「……ブース、これはいったいどういうことだ?」

 

 書類を検分していた羽ペンをピタリと止め、低い声で問い質したのは宮内省被管の散位寮に仕えるベーコン少録だった。

 彼は各組のトップである散位支配を補佐する副官――散位組支配組頭を務める人物である。

 散位とは、位階を持ちながら官職に就いていない法衣貴族のことであり、散位寮はそうした貴族たちを管理・統括する組織であった。

 

 散位たちは八つの組に分かれて所属し、組ごとに一人ずつ配された散位支配とその副官である支配組頭によって管理されている。

 ベーコンら組頭の主な役目は、組の散位たちと定期的に面会してその暮らしぶりや日々の動向を聞き出して組のトップである散位支配へ報告することだ。

 官職を望む貴族たちは、この面談の折に請願を差し出し、組頭から散位支配の手を経て上へと取り次いでもらうのである。

 

 「ですから、吉報が参ったのです組頭様! 私の倅がスミス卿の公領預り地見廻り役の公務でお手柄だと!」

 「……かような話は僕の耳に届いておらぬ。また、それが事実だとして、なぜおぬしが手柄顔をしておるのだ? 僕はすでにおぬしの改易処分通達に目を通した。おぬしの倅が当主として新しく興したブース男爵家を、僕の組に入れられることもな」

 

 ベーコンはあからさまに不快感を露わにした。

 当然のことではあるが、ブースがしでかした愚行の報告はすでにベーコンの元へも届いていたのだ。

 ブースは陸軍中尉として任官していたため形式上は散位ではないが、任官前はベーコンの組におり、役を退いた後は再び組に戻ってくるのが慣習であったからだ。

 

 そして事のあらましを聞いたとき、ベーコンは激怒した。

 無理もない。

 ブースのやったことは完全な横紙破り――上司である散位支配や組頭を完全に飛び越え、方々の権門に賄賂を贈り、身勝手な裏工作を働いたというのだから。

 上役としての面目は丸つぶれであった。

 

 報告書を見たベーコンは「あの馬鹿を目の前まで引きずってこい!」と猛り狂ったが、時すでに遅く、ブースはあっさりと改易された後であり、まさに後の祭りであったのだ。

 結果としてベーコンに残されたのは、「組内の散位一人すらまともに管理できない無能」という最悪の烙印だけであった。

 

 (それをおめおめと、よくも吾の前に顔を出せたものだ……!)

 

 込み上げてくる、煮えくり返るような憤怒をベーコンは必死に押し殺した。

 今回の不祥事はベーコン自身の監督責任として評価に響いているのだ。

 ここで感情に任せてブースに怒鳴り散らしたり足蹴にでもしようものなら、恥の上塗りどころの騒ぎでは済まなくなる。

 ベーコンはすでにこれ以上の出世は諦めていたが、かといってこんな奴のために自らまで散位へ落とされる気など毛頭なかった。

 

 「それでお詫びと言っては何ですが、これを……」

 

 そう言ってブースは懐からずっしりと重みのある紙包みを取り出し、デスクの上へそっと差し出した。

 金属特有の重厚な触れ合いの音が、静かな執務室に響いた。

 

 「なんだそれは?」

 「五十ポンドございます。これで倅の先行きを少しでも明るくしていただけるよう、組頭様にお願いしたいと思いまして」

 

 ベーコンの視線が一瞬だけ、その紙包みの厚みに吸い寄せられた。

 

 「……ブース。僕は別におぬしを許したわけではない。だが……ロイドに思うところはない」

 「おお、ありがとうございます……!」

 

 感極まった様子でうやうやしく頭を下げるブースを横目に、ベーコンは心底うんざりとしたため息を押し殺した。

 

 (――はじめから、吾や御支配様にそうやって筋を通していればよかったものを)

 

 ブースが権門の連中にばら撒いた大金の一割でもベーコンたちに渡していれば、何かしらの官職にも恵まれていただろうし、そこから家格の向上すら見込めたはずなのだ。

 今さら何を言ったところで詮無きことではあるのだが、この男の無策と間の悪さには呆れて開いた口が塞がらない思いにベーコンはさらされた。

 

 ……もっとも、他人から見ればブースからの手土産であっさりと矛を収めたベーコン自身もまた「同じ穴の狢」に過ぎないのだが、当の本人にはそこまで気を回す余裕もなかった。

 仮に誰かからそれを指摘されたとしても、ベーコンからしてみれば『これ以上の出世の道が消えた以上、多少の役得をむさぼって何が悪い』と居直るだけであったろうが。

 

 

 ――いっぽうそのころ。

 スミス家からあてがわれた居候屋敷の執務室。

 借金で身動きが取れぬはずのブースが、いったいどこから五十ポンドもの大金を調達してきたのかといえば――言わずもがな、ロイドの金庫からであった。

 

 「……金庫の金貨が消えている?! 父さん! あなたという人は!!」

 「おいたわしや若様……」

 

 「息子の未来のため」と父親らしい顔でどこへやら走り去ったブースの背中を思い出し、一緒に金貨も持ち出されたことに気が付いたロイド。

 呆然と開け放たれた金庫を前に、ロイドの悲痛な絶叫が屋敷に響き渡っていた。




検査(Testing)
欠陥を発見するには注意深い検査が必要です。
細菌や組織培養物の場合、検査中にその生物を発芽(増殖)または繁殖させます。
胚(特に知性体の胚)の場合、各検査で初期胚を1つ犠牲にすることになりますが、技能判定に-5の修正を受けることで「非破壊検査」を行うこともできます。
〈生物工学/遺伝子工学〉または〈診断〉技能を用いて、1週間に1回の判定を行えます。
成功するごとに欠陥を1つ発見でき、クリティカル成功した場合はすべての欠陥を発見できます。
ファンブルした場合、使用者は(誤って)欠陥がもう残っていないと思い込むか、実際には存在しないメジャーな欠陥を発見したと錯覚し、最初からやり直す原因となる可能性があります。

遺伝子エンジニアが検査を行って欠陥を発見した場合、より良い結果を期待して試作段階の細菌、組織培養物、あるいは初期胚を廃棄し、再度「試作判定」を試みることができます。
あるいは、問題が無視できるほど軽微だと判断し、そのまま作業を進めることもできます。
廃棄された「欠陥のある」試作品は破壊されることもありますが、保存される可能性もあります(例:胚が冷凍保存されたり、ステイシス状態に置かれたりするなど)。
科学フィクションには、人々が古い細菌サンプルや保存された胚などに遭遇してそれを利用しようとしたものの、隠された潜在的に致死的な欠陥があることに気づかない、というシチュエーションが溢れています。

育成(Growth)
微生物は単に試薬管や培養槽内で増殖させるか、宿主に注入するなどして育てることができます。
育成にかかる費用は、必要となる数量と特別な環境を必要とするかどうかによって異なります。

植物は、園芸農家向けにクローン植物を販売する商業温室と同じように、発根の準備が整うまで組織培養培地で育てられます。

胚は成長タンク(p.20)で育成するか、適切な代理母(場合によっては元の遺伝物質の提供者自身)に移植することができます(「生殖技術」p.19参照)。
その後、胚は胎児、そして赤ん坊へと順調に発育していきます。胚が胎児へと成長するにつれて、特に目立つものであれば物理的欠陥が発覚する場合があります。
これにより、中絶の決断を下すか、あるいは出生前後に遺伝子治療(p.181)を用いて問題を軽減・治療する試みを行うことになるかもしれません。
より微細な問題は、幼少期や場合によっては成人に達するまで気づかれない可能性もあります。

生存可能な生命体は、(不妊でない限り)通常の手段を通じて生殖することも可能です。
ただし有性生殖の場合、種族改変によって作成された遺伝子構築物は、その種族の通常の個体と交雑できなくなる可能性があります。
クローン作成(p.22)も別の選択肢であり、遺伝子工学によって与えられた特別な特徴の減衰(遺伝的希釈)を防ぐために日常的に行われることがあります。
簡単な微調整を行えば両性のクローンを作成することが可能であり、これに特別な判定は必要ありません。
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