夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話 作:カーキtrpg
……まあ、3+3^でいいんじゃないかな?(言説の翻し、無責任の極み、朝三暮四)
――リベール王国 上空――
窓の向こうには底なしの暗闇が広がっていた。
だがそれは、エミリー・スミスにとってただの光呪文の集まりに過ぎず、なんの珍しさも覚えない代物であり退屈だけが沸き上がる。
夜景を眺めるのにも飽きたエミリーは
生来の活発さと溢れ出る好奇心を持つエミリーにとって、豪奢なだけの客室でじっと大人しく過ごすことなど拷問に等しかったのだ。
退屈を紛らわすべく重厚なマホガニーの扉を開けると、彼女は静もり返った船内の回廊を通り抜け、外の空気を吸うべく甲板へと踏み出した。
そこは雲を眼下に下ろす高度三万フィートの上空、巡航速度二百五十ノットの通常であれば人間など一瞬で氷漬けになり、息絶える極寒と激風の世界である。
しかし、スカイガレオンの船体は高出力の魔術障壁によって球体状にぐるりと覆われていた。
外の苛酷な環境は完全に遮断され、肌を撫でるのは心地よい温度に保たれた穏やかな微風のみ。
呼吸すら地上となんら変わりない快適な空間が保たれている。
その広い甲板の手すり際に、先客の姿が見えた。
提灯袖の黒いローブを風にはためかせ、一心不乱に船体の構造を覗き込んでいる男――ティルヴォ男爵、オクタヴィウスである。
「……オクタヴィウスおじ様?」
エミリーが声をかけるとその男はビクッと大袈裟に肩を跳ねさせ、ひどく面倒くさそうな顔で振り返った。
オクタヴィウス オブ ティルヴォ。
エミリーの父であるアルフレッドの旧友であり、知識の探求にのみ生きてきた正真正銘の達人魔導士だ。
極度の人嫌いで気難しく、古書と禁忌の術理にしか興味がない彼は見知らぬ人間と会話することを何よりの苦痛としている。
今回の王都行きも、アルフレッドが頼み込んで王都に行くついでにエミリーの引率を渋々と引き受けた経緯があった。
だが、眩しそうに目を細めてエミリーの顔を認識すると、彼は苦虫を噛み潰したような不機嫌な皺をほんの少しだけ和らげた。
「……なんだ、エミリーか。アルフレッドに頼まれて王都まで引率してやる約束ではあるが、遊び相手までする義理はないぞ。それとも『お化けが怖くて眠れません』とでも言いに来たのか?」
「そんなこと言うわけないでしょ。……それより、こんなところで熱心に何を観察しているの? 飛空艇なんて、どこにでもあるじゃない」
エミリーが呆れたように肩をすくめると、オクタヴィウスはフンと鼻を鳴らして愛用の魔術杖で甲板のフチをトントンと軽く叩いて見せた。
「これだから素人は困る。どこにでもあるだと? 目を皿にしてよく見ろ、この阿呆め。このスカイガレオンは、そこらで普及しているリベール王国製のものではない。……ヴェンティスカ帝国製だ」
「ヴェンティスカ?」
「そうだ。王国の飛空艇は実用性と堅牢さを最優先にし、無駄を削ぎ落とした機能性を追求している。武骨で堅実、兵器としては実に正しい。……だが、この帝国製の機械から感じられる設計思想を見てみろ」
オクタヴィウスは急に言葉を強めると、まるで珍しい物を見つけた幼子のように目を輝かせて手すりの精巧な細工や外壁に這う配管を指差した。
「過剰なまでの彫刻装飾、無駄としか思えぬ優美な曲線美! そして何より驚くべきは、動力を伝えるマガを循環させるむき出しの配管や制御機構すらも、船体の意匠の一部として美しく溶け込ませている点だ! 単なる移動手段ではなく、ひとつの巨大な芸術作品として成立させようという執念……実に興味深いとは思わんか?」
「……そうですか」
人間の心や感情にはちっとも興味を示さず、他人との交流を心底嫌う男が、機械と魔導の配管にはここまで熱弁を振るうのか。
エミリーは、呆れ半分、そして理屈屋の学者に対する微かな感心半分といった表情で、熱っぽく船体を鑑賞するオクタヴィウスの横顔をじっと見上げるのだった。
「お父様からよく聞いていたけど、本当に魔法の品物に目がないのねおじ様は」
「アルフレッドが俺の話だと? ふん、それはさぞ盛大な悪口大会となったことだろうよ」
「まあ。お父様はおじ様を素敵な人と言ってたわ。悪口なんてそんな……ただ、昔は
「ヤンチャだと? そうか俺はヤンチャか、アルフレッドの奴め。さんざん目の前で俺をくさしていたくせに子供の前では菩薩を気取りたいと見える」
「お父様はそんなつもりではないと思うわ」
「どうだか……昔の奴を知っている身からすれば、俺のほうがよほどアルフレッドという男を理解しているわい」
「昔って……そういえばお父様からは、おじ様との出会いの話は聞いたことがなかったわ」
「……俺とアルフレッドの出会いか? そんなものアルフレッド本人に聞けばいい……と、普段なら突き放すところだがな」
オクタヴィウスはふっと口元を緩めると、愛用の杖を甲板に立てかけ、遥か遠くの星空へと視線を投げかけた。
その瞳に映っているのは、いまや立派な領主となった男の、あまりに青く苦々しい若き日の姿だ。
「今は思いのほか機嫌がいい。……話してやろう。あれは三十年は前のことだったな。奴との出会いはヴェンティスカ帝国との国境近く、王国辺境の地であるティルヴォを訪れたときのことだ……」
夜風に髪をなびかせながら、オクタヴィウスの口から静かに、三十年前の遠い記憶が語られ始めた。
――リベール王国 ティルヴォ森――
静寂に包まれていた黒い森を、二人の男が罵り合いながら激しく駆け抜けていた。
林立する大樹の隙間を巧みにすり抜けていくその走法は、熟練の冒険者が見れば称賛を惜しまないほど見事なものだ。
そして彼らがなりふり構わず爆走している理由は、すぐ後ろに迫っていた。
二人の背後を追うのは、十頭ほどの歪な影。
耳まで裂けた大口から粘着質なよだれを垂らし、紫色の毛皮を逆立てた狼群である。
狂ったような甲高い咆哮を上げ、しなやかな四本足を存分に生かして獲物の背中に食らいつかんと迫る。
草原の殺戮者、パープル・ウルフであった。
命の危険に晒されているというのに、追われている二人組の口は一向に止まる気配がない。
「おいクソジジイ! あんたさっきまで偉そうに術の腕を誇ってただろうが! この程度のわんころくらい、さっさとどうにかしたらどうだ!」
「黙れ小童! 最近の若者は長幼の序すら知らんのか! 自分が颯爽と狼を追い払い、年長者に敬意を示そうとは微塵も思わんとは……嘆かわしい限りだ」
「魔導師の間で年功序列なんてくだらないこと口にする奴があるか!」
怒鳴り散らしたのは、青年――というにはまだ幼さのが勝るアルフレッドであった。
対する男、オクタヴィウスはこれよがしに深々とため息をつくと、腰の革袋から透明なガラス球を取り出した。
そして振り返りもせず、追手へ向けてポイと無造作に放り投げる。
パンッ!
ガラスが割れる音すら一瞬でかき消すほどの爆音。
薄暗い森の木々を真っ白に染め上げる強烈な閃光が弾けた。
「キャインッ!?」
不意を突かれて視界を奪われた狼たちが、悲鳴を上げて転倒し、もつれ合う。
その隙にオクタヴィウスはピタリと足を止め、大仰に振り返った。
「
彼が低く呪文を紡ぐと、周囲の空間が重たく歪んだ。
大気を引き裂くようにして現れたのは、ブロードソードと大盾を携え、黒漆のプレートアーマーに身を包んだ三体のゴーレム。
主人たるオクタヴィウスの無言の意思を受け取ると、金属音を響かせて狂狼の群れへと容赦なく斬り込んでいく。
「《物質障壁》」
畳みかけるように放たれた次なる呪文により、淡い青光を放つ魔術障壁が二人を包み込んだ。
「……フン、これで文句はあるまい」
オクタヴィウスは杖を手に、横に立つアルフレッドに向けてひどく不機嫌な顔を向けるのだった。
「ふぅ、ようやく一息付ける……。けどじいさん、俺に自慢する暇があるならゴーレムを手伝ったほうが良いんじゃないか? もうズタボロになっているぜ」
「何をバカな……俺が手ずから最大限の《強化》を込めたヘビープレートアーマーを付けた戦闘用に調整したゴーレムだぞ。いくら使い捨ての代名詞であるクレイゴーレムといえどもあんな低級モンスターなんぞに……」
オクタヴィウスが自信満々に視線を戻した瞬間、ゴーレムたちは狼たちの猛攻を受け、重装鎧ごと噛み砕かれて完全に粉砕されるところであった。
「んな……!」
オクタヴィウスは目をむいた、象牙の塔にこもりきりだった彼には想像もつかないことだったが、これは実戦においては当然の結果であった。
いくら《強化》をされた重装鎧をつけたゴーレムとはいえ、それだけで対処できるほどモンスターの脅威は甘くはないのだ。
その程度でやられてくれるならモンスターは各地で悩みの種になどなっていない。
「なっちゃいねえなじいさん。パープル・ウルフは抵抗呪文に弱いってことも知らねえのか。手本を見せてやるよ、《凍傷》」
アルフレッドが短い詠唱とともに手をかざすと、一頭の狼の肉体内部から一瞬で氷が突き出て絶命した。
「どうだ、見たか!」
「カーッ! たかが一頭仕留めた程度で勝ち誇るんじゃない、このド素人が!」
プライドを激しく傷つけられたオクタヴィウスの瞳から、一瞬にして光が消えた。
彼は深く不快そうに息を吐き出すと、手に持った愛用の魔術杖の先で地面を静かに一度、コンと突いた。
「……x'iir, khaar-vath... ghal-zhaar」
オクタヴィウスの唇から漏れたのは、既存のどの国の言語とも異なる、人間が発し得る領域を超えた気味の悪いナニカ。
ある一定の領域にまで辿りついた魔導師のみが構築できる、オンリーワンの
空気が凍りつく。
言葉の意味すら理解できない異質な響きが森に落ちた瞬間、周囲の大気がまるで重油のように重く沈み込んだ。
直後、呪文の意味を問い返す暇もなく、残されていた狼たちの頭上の空間がねじ切れるように歪んだ。
ただ不可解な重圧が狼群を上空から押し潰し、残る全てのパープル・ウルフが血泡を吹きこぼしながら、一斉に地面へと崩れ落ちて倒伏した。
命を奪われたことすら気付いていないかのように、ピクリとも動かなくなった魔物の群れ。
さっきまで軽口を叩いていたアルフレッドもこれには息を呑み、言葉を失ってオクタヴィウスの横顔を見つめるほかなかった。
「……フン。手本だと? 片腹痛いわ」
静寂を取り戻した黒い森の中で、オクタヴィウスはただ面倒そうに鼻を鳴らすのだった。
生殖技術(REPRODUCTIVE TECHNOLOGY)
遺伝的疾患、病気、あるいは事故のために、自然な生殖プロセスが阻害されている人々がいます。
また、ちょうど1人の父親と1人の母親という生物学的な制約に縛られずに子供をもうけたいと望む人々もいます。
以下で解説するすべての手法は、人間だけでなく動物にも適用可能です。
動物の生殖制御は農業応用において一般的であり、地球外入植地においても重要となります。
避妊(BIRTH CONTROL)
生殖制御の大きな側面の一つは、それを防止することです。
人間における受精を防ぐ避妊具によるバリア法は古代(TL1)から存在していましたが、信頼性に欠けていました。
排卵を抑制するためのホルモン系経口薬は1960年(TL7)に初めて市販され、信頼性の高い一時的な避妊法を提供しましたが、毎日の服用を忘れてしまう可能性があります。
プロゲスチンのような排卵抑制薬は、徐放性インプラント(徐々に成分を放出する体内埋込具)に封入することも可能です。
簡単な処置で、数ヶ月から5年間にわたって受精を防ぐことができます。
男性用の同様の薬は開発に時間がかかっており、まだ市販されていませんが、TL9までには確立されるはずです。
様々な種類の避妊薬については、薬剤とナノテクノロジー(Drugs and Nano)の経口避妊薬(p.157)および男性用避妊薬(p.158)を参照してください。
中絶薬(p.149)を使用すれば、性交後まで予防措置を講じなくても対応が可能になります。
子宮内避妊器具(IUD)は非常に信頼性が高いですが、適切に装着するには〈医学〉+4の判定が必要です。
永続的な解決策は不妊手術です。
男性に対する必要な手術は1時間程度の日帰り処置ですが、女性の場合は入院を伴う数時間の手術となります。
TL8以降では、男性向けの可逆的なレーザー治療が利用可能になります。
不妊治療(FERTILITY TREATMENTS)
コインの裏返しとして、赤ん坊を授かるために支援を必要とする人々もいます。
人は遺伝、病気、怪我、あるいは化学物質への曝露によって不妊・妊孕性の低下を引き起こすことがあります。
体が配偶子を産生できる能力を保持している限り、医療によって生殖を支援することができ、十分な技術レベルがあれば配偶子の産生不能すら障害ではなくなります。
体外受精(TL8)
体外受精(IVF: In Vitro Fertilization)は、性交渉を伴わない妊娠を可能にします。
女性の卵子を採取し、液状の培地中で精子と受精させます。
その結果生じた胚は、本人の子宮、代理母の子宮、または(TL9以降では)育成タンクや急速育成タンクなどの人工子宮に移植されます。
最初の体外受精は1978年に行われました。
これはカップルが自然妊娠できない場合に最も多く利用されます。
今日、IVFは比較的普及していますが、やや難易度が高く高価です。
富裕国での人気は高まっており、21世紀初頭の時点で10万人以上の赤ん坊がこの方法で誕生しています。
受精卵はインキュベーター内で60時間培養され、母親へ移植可能な着床前の前胚(pre-embryo)段階まで成長します。
処置の成功可否は2週間後に判明します。
受け入れ先となる母親は、子宮内膜を厚くして妊娠の成功率を高めるために、プロゲステロンホルモンを服用することが多くあります。
IVFの利点の一つは、非常に早い段階で遺伝子検査を行える点です。
親に遺伝的問題が疑われる場合、この理由だけでもIVFが選ばれることがあります。
精子、卵子、および着床前の胚は容易に冷凍・解凍して後で(時にははるか未来に)使用することができるため、ドナーが死亡した場合などに倫理的な問題が生じることがあります。
Statistics
TL8における体外受精試行1回あたりの成功率は1/6(約16.7%)に過ぎず、1回の試行には少なくとも4d週間がかかります。
TL9以降では、この成功率は5/6(約83.3%)に上昇します。
人間の場合、1回の試行につきTL8で10,000ドル、TL9で5,000ドル、TL10以降で2,500ドルの費用がかかります。