夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話 作:カーキtrpg
――リベール王国 ティルヴォ村――
いうまでもないことだが、オクタヴィウスら二人がティルヴォに来たことはすぐに代官へと知らされていた。
「……魔導師らしき旅人がふたり、だと?」
デスクの上に山積みとなった税の帳簿から顔を上げ、ティルヴォ代官ロジャー リーヴは苦い顔をした。
「この忙しい時分に面倒な……」
代官の業務は過酷の一言に尽きる。
代官は家臣を引き連れ、任地で五人前後の雇傭を配下に従え、王の代理として年貢の徴収、戸籍の作成管理、天災への対応、村内の軽犯罪の処罰までを一手に担わねばならない。
そして重罪事件ともなれば州都へ伺いを立てる決済書類の作成にも追われる。
一つ一つの業務が忙しく、休まる暇はない激務の役であった。
当然のことながら、予定にない厄介な来客など歓迎できるような心の余裕はどこにもなかった。
「まさかとは思うが……」
ロジャーは不信感をにじませて言った。
「こやつら、吾が手腕に疑問を持った郡代からの隠密監査ではなかろうな」
「殿、魔導師様にそのような物言いは……」
かたわらに控える家臣が慌ててロジャーを宥めにかかった。
「貴様に言われるまでもないわ、間違っても外でこのような真似はせぬ」
ロジャーは顔をさらにゆがませた。
「それに、郡代ごときが魔導師を差配できるわけもない」
「……」
主君の上司である郡代の批判である。
家臣は沈黙で答えた。
「……チッ、しかし、そうなるとこんな寒村なんぞになぜ魔導師が……」
「森のダンジョンに参られたのではないでしょうか」
家臣が思い当たったように口を開く。
「ダンジョンだと? ……ああ、魔法の秘薬や錬金術に使う素材が良くとれると聞くな、それか」
「おそらくは」
確認をうけた家臣は頷いた。
「さようか。なら吾には毛ほどもかかわりのないことだ。ダンジョンなぞ勝手に入られたところで代官の役目に支障はない。やつらが村で何かしでかさない限りはすておけ」
「ははー」
うやうやしく家臣は腰を下げた。
面倒ごとは御免だと家臣に言い捨てたロジャーだったが、彼の思いなどする由もないオクタヴィウス達は代官所として使われている塔へと来ていた。
「ここに居るのか?」
「でなくば公用で遠出しておるかだ。無駄口を叩いておらんで行くぞ」
翌朝、オクタヴィウスとアルフレッドの二人は代官所として使われている古びた塔の門をあっさりと叩いていた。
「疫病神め」
家臣から「昨日報告しました魔導師様方がお見えです」との報告を受けた瞬間、ロジャーは吐き捨てた。
「殿、どうかお気を静めくだされ。お相手は魔導師様にございまする」
「ならば吾のこの腹立ちはいかがするというのだ」
主君の鬱屈した勘気を正面から向けられても、家臣は少しも怯まなかった。
冷や汗を拭いながら冷静に現実をみずからの主君に突きつける。
「魔導師様は八位のお貴族様と名乗られました」
「ふん、そんなもの、王都ではめずらしゅうもないわ」
「殿」
「……」
静かだが重い家臣の視線が、ロジャーの言葉を遮った。
『ご自分の身分をお考えくだされ』という無言の圧力がそこにはあった。
代官はその激務とは裏腹に、格は著しく低い。
ロジャーは代官として百五十戸六百人のティルヴォ村を収めているが、これが同規模の領主なら準男爵として貴族身分に列せられる。
対して代官は爵位どころか少初位すら持たない、そのうえ貴族ですらなく単なる士族身分に過ぎないのだ。
オクタヴィウスらの従八位が珍しくもないものだとすれば、代官ははいて捨てるほどの身分でしかなかった。
文字通り雲の上の存在、ロジャーとは格が違った。
「先触れもなしの訪問は無礼だと追い返せぬか」
悪あがきのように呟くロジャーに、家臣は呆れたように首を横に振った。
「これが無位無官の、名鑑に載っているだけの貴族ならばまだ通りましたでしょうが……」
「……くそっ、八位相手では突っぱねることもできんか。仕方なし、通せ」
無念極まれりといった様子で、ロジャーは肩を落とした。
公正を求められる役人であっても、それはあくまで表向きの建前でしかない。
役人としての手続の及ばない範囲であれば、相手によって態度が変わることはままある。
特に、腹の虫が収まらぬ相手とくればその対応は露骨なまでに慇懃無礼なものとなった。
「ティルヴォ代官ロジャー リーヴである」
ロジャーは王家に仕える廷臣としての威厳を精一杯繕い、オクタヴィウスと相対した。
――なお、連れ立ってやってきたはずのアルフレッドは、代官所の門前でオクタヴィウスによって有害無益と判断されて締め出されていた。
「そうか、ティルヴォ代官のお役目、ご苦労である」
オクタヴィウスのいかにも上から目線のねぎらいに、ロジャーは苦々しい思いを胸中で噛み締めた。
思う存分に罵倒を浴びせたかったが、私人であるオクタヴィウスに対してすら小役人のロジャーは頭を押さえられるしかなかったのである。
身分でいえば、オクタヴィウスが明確に上だからだ。
ロジャーが最初に見せようとした威厳ある態度は、あっけなく霧散していく。
「……一体この寒村に何の御用かは存ぜませぬが、ご覧の通りに取り立ててみるところもない田舎村にございますれば、早々に御用を済ませて帰られるが幸いと愚考します。みやこからの見慣れぬ貴人に我々も戸惑うばかりにございますれば、不作法を目に映さぬか戦々恐々の思いにございます」
慇懃無礼な言葉の裏にあるロジャーの本音は一つ、さっさと出て行けということである。
「なるほど、面倒な前置きは要らぬと言うなら構わん。森の使用許可と人を出せ。十人ばかしでよいぞ」
「……なぜにございましょうや」
「森のダンジョンに入るでな、荷物持ちや雑務に使う」
(いつ吾が用途を聞いたんだ?! なぜこっちが手配をしなければならんのかを聞いたのだ、このクソジジイ!!)
ロジャーは顔を引きつらせ、心の内で激しい罵詈雑言をオクタヴィウスへ浴びせた。
あまりの横暴さに加えてこちらの事情を一切顧みない態度に、代官としてのプライドと日頃の過労によるストレスが限界に達しそうになる。
「代官は御用繁多でございますれば……」
暗に無理だとロジャーは返した。
「俺が言ってもか?」
「お役目をおろそかにすることはお受けいたしかねます。森も王家の狩猟地にございますれば利用は認められませぬ」
ここで首を縦に振ってしまえば自分たちの仕事がさらに増えるばかりか、この横暴な老魔導師の言いなりになってしまう。
オクタヴィウスの押しにもロジャーはひるまなかった。
「……よかろう、今日は帰らせてもらう」
オクタヴィウスは冷ややかな眼差しでロジャーを一瞥すると、あっさりと引き下がる姿勢を見せた。
「次に来られても返答は変わりませぬゆえ、どうかお考え直しを。どうしてもとおっしゃるならば、郡代様か中央からの正式な認可状をお持ちくだされ」
「……多忙とあれば、致し方なかろうな」
オクタヴィウスは吐き捨てるように不機嫌に返し、塔から出て行った。
「……よろしかったのですか、殿? あのように突っぱねては、余計な摩擦を生むのではございませんか」
オクタヴィウスの背中が見えなくなると、傍に控えていた家臣は疑問を口にした。
「森に勝手に入られようと無視しようと、昨日はお考えであったのでは……」
「勝手にならだ! あのような態度で正式に許可を求められたらどうしようもないだろうが! あそこまでコケにされてはいそうですかと頷くほど吾は安くないぞ」
ロジャーは怒りに打ち震えながらデスクを叩き、吐き捨てるように言った。
オクタヴィウスが代官所を出ると、門の外で暇そうに杖を振っていたアルフレッドが「お、お帰りじいさん!」と手を振った。
「で、どうだったんだよ? 人夫は手配できそうか?」
「……フン、無駄足だった。森に入る許可すら出さんそうだ。やはりあの手合いに期待するだけ無駄だったな」
苦虫を噛み潰したような顔で歩き出したオクタヴィウスの後ろで、アルフレッドは肩をすくめてついていく。
「なら出直しかー。現地で認めてもらうのと違って、都に戻って正式に許可の書類を取るなんて時間がかかって嫌なんだよなー」
「阿呆が。なぜ俺がそんな面倒をしなければならんのだ」
「え?」
アルフレッドはオクタヴィウスの物言いに、ぽかんと足を止めた。
「ならどうすんだよじいさん? 役人が一度ダメだって口にしたことをひっこめることなんてそうそうないぞ」
「簡単だ。奴にはティルヴォから消えてもらう」
「はぁ?」
ますます意味がわからないとアルフレッドが眉をひそめる。
オクタヴィウスは歩みを緩めることなく、さも当然のことのように言い放った。
「中央もろくに手当てを付けぬ、捨て置かれた寒村だ。……俺が拾って、ティルヴォ領主になっても文句は無かろう」
オクタヴィウスのあまりの言葉に、アルフレッドはただただ開いた口が塞がらなかった。
代理母出産(SURROGATE MOTHERHOOD)
受精卵または初期胚を人間のホストマザーに移植し、彼女の体内で臨月まで成長させることができます。
これには、大型でultra-techな育成タンク(下記参照)を必要としないという利点があります。
また、子供の精神的あるいは身体的健康にとってもその方が良いと信じる人々もいます。
デメリットとしては、特に報酬を伴う代理母出産は非倫理的、あるいは違法とみなされることが多く、そのため費用が高額になる場合がある点です。
この運用が合法である地域では、医療費の支払いに加えて20,000ドルから30,000ドルで代理母を雇うことができます。
通常、代理母となる候補者は健康であることを証明するための医師の診察を受け、発達中の胎児を危険に晒す可能性のある活動(例:薬物乱用、危険なスポーツなど)を控えることに同意する契約書に署名しなければなりません。
地域によっては、代理母の職能団体が存在する場合もあります。
代理母出産が違法とされる地域では、謝礼金はさらに高額になる可能性があります。
スラム街や第三世界などの貧困地域であればより安価に代理母を雇うことができますが、雇い主側が難色を示すこともあります。
これは、生活に困窮した母親が健康不良や薬物乱用に陥りやすいという懸念に加え、スノッブ意識に起因する部分もあります。
母親が子供に愛着を持ち、手元に残そうとしたり、心変わりして妊娠を中断しようとしたりするリスクが存在します。
代理母出産が違法とされる場所では、雇い主側が罪を認めずに取れる手段がほとんどないため、このリスクはさらに高まります。
このような係争が生じた場合、代理母出産の正確な法的ステータスや取引の性質が、ホストマザー、雇い主、あるいは発達中の胎児の権利のどれを優先すべきかという裁判所の判断に影響を与えるのが一般的です。
妊娠と出産に関する詳細なルールは本書の範囲外です。*1
GMが別の展開を求めたり、安全な出産のためにHTが必要だと裁定しない限り、妊娠は正常に進行するものとして扱ってください。
特殊な改変が施された赤ん坊の場合、異常妊娠のリスクが高まる可能性があります。
非人間代理母(Nonhuman Surrogates)
通常、雌の生物が他種の胚を宿すことはできませんが、遺伝子改変によってこれを可能にすることができます。
これにより、人口増加を促進したり、人間の母親を過酷な労働から解放したりする目的で、家畜などの動物に人間の赤ん坊を妊娠・出産させることが可能になります。
この技術は、育成タンク(下記参照)の利用が困難であるか、評判が悪い場合に用いられることがあります。
もう一つの可能性は、人間を改変して他種の胚を宿せるようにすることです……