夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話   作:カーキtrpg

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プロローグ、第一話、第二話、合わせても一万文字程度なのに、書き溜めるのに一週間もかかりました。
毎日投稿をできる作者たちは異次元の存在だと思わされましたね。


主人公の知力は大半が魔法能力のためのものです、数値程頭がいいとは描写しません。

第一話で虚華が持っていた杖は1メートルくらいの木製の黒く着色された仕込み杖で石突きは鉄で補強されてます、握りのため革糸を柄糸のように持ち手部分に巻いてます。


第二話

 放課後、俺はモブ尾と別れた後、いったん自宅に戻った。

 

 「念のため、本当に二人で遊びに行ったか確認しておくか、《生命感知》」

 

 玄関前で立ち止まり、家に向かってノーモーションで《生命感知》放つ。

 生命体の存在を確認するための呪文だ。

 我がことながら、身内を避けるために呪文を使うのはどうかと思うが、待ちわびていた神話生物に会えるかもしれないのだ、万に一つも、二人には邪魔をされたくない。

 

 「よし、誰もいないな、だが、念押しはしておこう、《忍び足》」

 

 呪文の発動と同時に世界から俺の音が消えるのが解る。

 音の発生を遮断した俺は玄関を静かに開け、音もなく自室へ向かう。

 途中、家の中に灯や虚華の気配がないだけで、これほど静かになるのかと内心で苦笑させられた。

 部屋に入ると、迷わず棚の奥へ手を伸ばす。

 そこにはいつも持ち歩いてる護符や触媒だけではなく、十三年間の間に自作してきた魔術道具一式が眠っていた。

 魔力を具現化した宝石を埋め込んだ銀の腕輪。

 血で描いた魔法陣を樹脂で加工した紙片。

 薬草を乾燥させ調合した粉末を包んだ薬包紙。

 小動物の骨を削り記号を刻んだ指輪。

 そのすべては小さく、一見すれば子供の玩具にしか見えない。

 しかし、そのどれもが現実を歪める力を内包している。

 

 「神話生物相手に備えすぎということはないだろう」

 

 誰に聞かせるでもなく、俺はそう呟いた。

 魔術道具を体に身に着けて俺は家を出る。

 

 目指す神尾先生の自宅周辺は、古くからある住宅街だ。

 港町と内陸部を繋ぐ細い生活道路が通っており、通学路でもあるため昼間は人が多い。

 だが、夕方を過ぎると様子は一変する。

 道幅は車が一台がようやく通れる程度の狭さ。

 電柱は年季が入り、昼間でも家々の陰が重なり合い路地は薄暗い。

 夕方になるとここだけ急に温度が下がるような印象をうける場所だ。

 そんな場所だが、俺はこの場所をどこか心地よく感じていた。

 

――まずは情報収集。

 シティシナリオの基本だ、俺は探索のための技能には碌にCPを振っていないが、TRPG(ゲーム)と違って現実になった今は別に技能がなければ何も出来ないわけじゃない。

 人を探すために足を動かし、話を聞く、その程度でも拾える情報は多いだろう。

 そもそも、俺の知力は人類の限界値まで高めてあるのだ、技能なし値である程度はごまかせるだろう。

 そう考えて最初に向かったのは、幼いころからいつも通っている街の駄菓子屋だった。

 

 「よう、まだ生きてるかじいさん、来てやったぞ」

 

 店先でそう声をかけてから俺はこんな軽口を叩く自分に少し驚いた。

 (浮ついているな)

 待ちわびた事件の予感に感情が先走っている、これは、一度冷静になる必要があるだろう。

 

 「なんだ、佐伯田んとこの息子か、平日に来るとは珍しいな」

 

 俺の声に反応して店の奥から顔を出した店主である小瀬(こぜ)のじいさんが珍しいものを見たと言わんばかりに目を細めてこちらを見た。

 

 「驚いたな、今日は縫殿の嬢ちゃんは一緒じゃないのか、いつもべったりなのに、どうした?」

 「別に、いつもは一緒にいようと思って行動してるわけじゃない、虚華のやつが勝手に引っ付いてくるんだ」

 

 俺がそう答えるとじいさんは額に手を当ててこれ見よがしに渋面を浮かべた。

 

 「かぁー、あんな器量よしの嬢ちゃんを捕まえておいてその言い草かい、こりゃ縫殿の娘子(むすめご)は大変だ、まさか自分がオナモミ扱いたあ、夢にも思ってないだろうに。不憫なもんだ」

 「俺は、引っ付き虫といったわけじゃないぞ」

 

 芝居がかった口調でじいさんが俺を責めてくるがこんなのはいつものことだ。

 一々付き合ってられない。

 

 「突っ込むのはそこなのかい、まあいい、だが本当に珍しいな、嬢ちゃんがいないのでもめったにないことなのに佐伯田の娘っ子もいないなんて、今まで一度もなかったぞ、灯嬢ちゃんは一緒じゃないのか?」

 

 小瀬のじいさんの言葉を聞いたその時、自分の顔が引きつるのが解った

――佐伯田 灯。俺の一歳年下の義妹である。

 その外見は身内の贔屓目抜きで見ても群を抜いている、整った目鼻立ち、透き通るような薄いパープル色のロングヘア。

 磁器のように白く、一切の陰りもない肌、その中心で爛々と輝くのは、深みのあるボルドーの瞳、その底冷えをするような理知を携えた瞳に見つめられれば、誰しもが己の脳内を隅々までまさぐられるような錯覚を覚えるだろう。

 まだ小学生なのに彼女のその立ち振る舞いには幼さよりも、説明しがたい神秘が勝っていた。

 どれほどの運動の後でも、彼女だけは汗一つ書かず、呼吸も乱れない。

 圧倒的な運動神経、一を聞いて十を知るを地で行く学習能力、誰もがその全身から迸る天才的な才気を感じずにはいられない存在。

――だが。

 

 「やめてくれ、折角中学に上がって灯から離れる時間ができたんだ、一人の時ぐらい思い出させないでくれ」

 

 そういって、俺は手を顔の目の前で振って、灯の話はしないよう求めた。

 博学才穎、才色兼備、誰をも圧倒する灯、その巨大な存在感は時として、俺が待ちわびている神話生物たちよりも、よほど神話的な危うさを放っていた。

 だが、そんな灯にも天は二物を与えずというべきか、致命的な欠陥がある。

 

 「そうはいってものう、おぬしを取り合う嬢ちゃんたちの修羅場を見るのが、わしの週末の楽しみなんだが」

 

 そう、灯の致命的な欠陥とは俺にべったりなことだ、両親ですら匙を投げるほどで、四六時中どこでも俺をめがけて走り寄ってくる。

 家では俺が3階にある自室に閉じこもると雨どいを伝って窓から侵入してきて、風呂に入ると鍵をこじ開けて侵入、小学校時代では授業中に教室から抜け出して俺のクラスに乱入してきたほどだ。

 一事が万事この調子なものだから周囲も触らぬ神に祟りなしといわんばかりに俺と灯の間のことは見て見ぬふりをしてしまう。

 だがそこまでならまだ許容範囲だった。

 本当の地獄は虚華と灯の二人が顔を合わせたときにおこる。

 人目もはばからずに繰り広げられる凄まじい言い争い。

 間に挟まれた俺の忍耐は、物の数秒で簡単にへし折れる。

 別に二人は仲が悪いわけではない、むしろ周囲が逆に心配するぐらい異常なほど親しくしているのだ、……但し、俺が絡まなければ、だが。

 

 「放課後に虚華の奴を灯の迎えにやったから俺は一人になれたんだ、待ちわびた折角の機会なのに二人も一緒じゃ、楽しめないじゃないか」

 

 俺がいった言葉に対してじいさんは怪訝そうな顔をみせてくる。

 

 「待ちわびたって何をだ?」

 

 しまった。

 俺はそう心の中で独白した。

 やはり今日の俺は興奮で精彩を欠いている、こんなくだらない失言をするとは。

 

 「今日は虚華の奴が灯に会いたがってな、これ幸いと二人を遊びに行かせたんだ、久々の一人行動なんだ、俺だって少しは喜ぶさ」

 

 この言葉で小瀬のじいさんは納得したのか、それ以上の追及はしないようだ。

 

 「そうか、まあ遊ぶのはいいが、勉強もちゃんとするんだぞ」

 「誰にいってるんだじいさん、人に心配されるような成績じゃないのは知ってるだろう」

 

 そして追及の代わりに来たのは、親の説教みたいな言葉だった。

 勘弁してほしい。

 何が悲しくて親以外からも小言を言われなくちゃならないんだ。

 俺の両親が海外赴任するとき、付き合いの深い近所の人たちに子供たちを頼みますと頼んでいったらしく、こうして気にかけてくるのだ。

 

 「おぬしの頭の良さはわしも知っているがのう、歴史だけはからっきしじゃないか」

 「……それでも平均水準だ、心配されるほどじゃない、歴史には力を入れてないんだよ」

 

 嘘だ、歴史は魔術の研鑽などにかかわるのもあって本気で取り組んでいる、呪文などに関係するものなどは完璧に頭に入れたのだ、しかしそれだけではテストではうまくいかない。

 本来、中学生のテストなど勉強しなくても満点は簡単なのだが、歴史だけは別なのだ。

 この世界の歴史は、前世の知識とクトゥルフ関連の要素が混ざり合い、さらにガープスのサプリメント由来の設定との整合性まで取ろうとしている、そのため正直に言ってひどいことになっているのだ。

 一般のテスト問題で出るような歴史も前世とは異なっていてミスを多発してしまったのだ。

 紀元前400年ごろのマケドニアでヒポクラテスが人工授精を始めてたり、紀元前380年に彼の弟子たちが抗生物質を作り出し、その後ワクチンなどの概念が発見されたと書かれたテスト用紙を前に吹き出さなかった俺の忍耐力を褒めて欲しいほどだ。

 他の歴史も()()()()の内容で、前世の歴史に引きずられている俺には、ギャップがきつすぎるのだ。

 

 「おぬしがそう言うなら、わしはこれ以上何も言わんがな、遊ぶのは早めに切り上げるんだぞ」

 「いつも通りだよ、心配されるほどじゃないさ」

 

 だめだな、これが年の差か、どうしても会話で受け身にされているのが解る。

 『外交』技能にCPを振るべきだったか、素の能力では老練な相手では分が悪いらしい。

 俺が口を挟めないように上手く呼吸を読んで言葉を出してきて、全然不審者のことを聞けていない、それに一方的に喋ってくるにも関わらず不快感をまるで感じさせないのだ。

 口の上手さとは、相手を言いくるめるだけではないということだろう。

 

 「あまり遅くまで外で出歩くなよ、最近は物騒だからな」

 「物騒?なにかあったのか」

 

――来た。

 まさか、じいさんから話を振ってくれるとは思わなかったが、自分から聞いて怪しまれるより、こっちのほうが理想の展開だ。

 

 「ああ、なんでもこのあたりに不審者が出たって話だ、わしはまだ見てないが見たって奴は多いぞ、子供たちに注意喚起するべきだというやつもいる、そろそろ学校でも言われるんじゃないか」

 「不審者ね……」

 「夕方から深夜にかけて隣の港町からの道をよく歩いてるそうだ、見た目も相当気味が悪いそうだ」

 

 俺は頷きながら、内心で確信を深めていた。

 (これは、当たりだな)

 

 「お前も、暫くは家でおとなしくするんだの」

 「そうだな、暫くは灯の相手をすることになりそうだ」

 

 口ではそう言うが、13年の間待ちわびた事件なのだ、引き下がる気は毛頭ない。

 隣の港町からの道か、神尾先生の自宅すぐ近くだ。

 最初で聞きたい情報は揃った、俺は店を後にして、薄暗くなり始めた路地に足を向けた。

 その先で待つのは、ただの変質者か、それとも……。

 (待ちわびたぞ、神話生物)。

 高鳴る鼓動を感じながら、俺は自然と足が速くなるのを自覚した。

 

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