夢過ぎ去りし跡の世界で転生者が生き抜くクトゥルフ神話   作:カーキtrpg

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書き溜めはこれで終わりです。
これからの更新は不定期になります。

ニコニコでクトゥルフを見て、ガープスの呪文を混ぜようと思って作った本作品ですが思ったより大変でした。
それと、主人公がまともに活躍できてないのは仕様です、ガープスの呪文が戦闘火力以外の部分は割と無法な性能してるので、お話が終わってしまう致命的な呪文は主人公に使うのを忘れてもらってるので仕方ないのです。
え?戦闘火力?絶対不変の王者、現代銃火器様には勝てません。


第三話

 夕闇が街の輪郭を融かし、すっかり人影が消え去った今は、街灯の頼りない光だけが路地の闇を払いのけていた。

 俺は港町に続く緩やかな下り道を歩きながら思考する。

 (ここまで期待させておいて、ただの変質者だったらどうしてくれようか)

 そんな、身勝手な考えをしていた俺は、港町に近づくにつれはっきりとした異変を感じ取っていた。

 海に近づくにつれ空気が粘り気を帯び、潮の風に交じってなにかが腐ったような不快なにおいが強まっている。

 

 「……いるな」

 

 俺の魔術的感覚は確かにソレをとらえていた。

 視界の先、路地の袋小路に向かう曲がり角にそいつは佇んでいた。

 黒のパーカーを深く被り、じっと動かずに神尾先生の自宅を見つめていたそいつを他の人間が見てもただの不審者にしか見えないだろう。

 だが俺の研ぎ澄まされた直観と魔術の深淵から覗く精神はその正体を冷静に告げていた。

 黒のパーカーの裾から覗く、その異常に長い指には水かきが見えた。

 湿った革のような、不気味な光沢を放つ青白い皮膚。

 そして、闇の中でもはっきりと視認できるほど巨大で、一度も瞬きをしない、ぎょろりと剥き出しになった眼球。

 (やはり、深きもの(ディープワン)との混血か、随分変異が進んでいるな)

 俺に気づいた深きものの交雑種はゆっくりと半身をこちらに向けた、そしてまるで野生動物の威嚇のように歯をぎりぎりとかみしめて殺意を向けてくる、だが、何かに気づいたかのように体を止めた。

 

 「魔術師、魔術師だ!そこら中にいる似非じゃない、深淵に身を沈めている本物の魔術師(狂人)!」

 

 ごぼごぼと濁った水底を思わせる声が路地に響く、目の前にいる深きものの交雑種はまるで信じられないと言いたげにその顔をこわばらせた。

 正直、俺も少なからず驚いてしまう、何重にも組み合わせられた呪文を隠すために重ねられている隠蔽魔術をこの程度の存在が見破ったのだ、その身から感じられる魔力から見て大した腕前ではないことは間違いないのだが、その感覚だけは異様に鋭い。

 

 「魔術師(狂人)ね、まあ、最初から自分を人格者だとは思ってはいないが」

 

 俺は口角が吊り上がるのを感じながら、あえて相手の言葉をなぞる。

 

 「お前みたいなそこら中にいる似非魔術師にどうこう言われたくはない」

 

 売り言葉に買い言葉、俺は意図的に挑発をしかけた、だが驚愕から立ち直った様子の怪物は一瞬目を細めると、すぐに気味の悪い笑顔を浮かべてくる。

 

 「ほーう、随分機嫌がよいじゃないか魔術師、だが、そんな熱心に誘われてもなあ」

 

 目の前の怪物は、俺の顔を舐め回すように見ながら続ける。

 

 「俺は人間と関係を持ちたいと思うほど性癖が歪んではいないんでな、ラブコールは学校のクラスメイトにでもするんだな」

 

 そう言ったこいつは明らかに俺の興奮している内心を読み取ったうえで、軽口で挑発を流してきた。

 

 「チッ!」

 

 思わず舌打ちがもれてしまう。

 こんなにも簡単に内心を見抜かれるとは、やはり今日の俺は迂闊過ぎる、頭では落ち着こうとしても十三年の間待ちわびた刺激の前に自制心が吹き飛んでいる。

 冷静になるように言い聞かせているのに感情はまるで言うことを聞いてくれない。

 

 「人間と関係を持ちたいと思うほど性癖が歪んではいない、ね、よくもまあそんなことを言えたものだな、神尾先生のストーカーが、何を言ったところでばかばかしいだけだ」

 

 俺は苦虫を嚙み潰したような内心を隠し精神的主導権をこちら側に引き寄せるべく言葉を重ねた。

 (やはり、少しは交渉系の技能にCPを振るべきだったか)

 今更ながら、そんな後悔が頭の隅をよぎる。

 キャラシからの補正がない部分は、まだ俺は人間にしては優れているといった程度の能力しか身に着けていないのだ、そして、その程度では目の前にいる怪物には通じないのだろう。

 

 「ストーカー?成程、ストーカーね、ククッ、俺が神尾のストーカーだというのか、クッハッハ!」

 

 可笑しくて仕方がないと言わんばかりに笑うこいつに俺は強い違和感を覚える。

 まるで悪意が感じられない、こいつにあるのは強い義務感と使命感、それと俺と同じ刺激を求めるその飽きの心だ。

 想像していた印象と裏腹に感じるのは澄んだ、真っすぐな気配だった。

 その身にまとうのは魔術の狂気の残滓、しかし、世界を汚すような汚濁や冒涜的な気配をまるで感じさせない。

 

 「魔術師、お前はとんだ勘違いをしているみたいだな、一般人ならともかくお前みたいなのにまでまさかストーカーといわれるとは、いい土産話ができたよ、魔術師にストーカーといわれるなんてな、いやはや、教団のみんなの笑い顔が目に浮かぶようだ」

 

 そう話を続ける相手をしり目に俺の中の違和感は加速度的に大きくなるばかりだ、見た目を無視して考えれば神話生物ではなくただのみすぼらしい中年男の相手をしているような気分になるのだ、精巧な深きものの被り物を被っていると言われたら信じてしまいそうなほどに。

 今も俺の感覚はこいつが怪物だと訴えているが、危険だとは感じられない、最初は雑魚が相手だから脅威を感じないのだろうと思っていたのだが違うようだ。

 

 「……教団、ね」

 

 ようやく分かった、こいつは俺を殺す気がない、いや正確には殺す気だが積極的ではないというべきか。

 感じる殺気は獲物に向けるものではなく、あくまでも仕方なく、必要だから、そんな消極性を感じさせる。

 今俺が踵を返してこの場を離れようとしたらこいつは何もせずに見送るだろう。

 

 「ダゴン秘密教団がそんなアットホームな集団とは知らなかったよ」

 

 理由はわからないが目の前の怪物は俺が下手に動かないのなら会話に付き合うつもりのようだ。

 ならばこちらから話を打ち切るのはもったいないだろう、神話生物相手からの情報は金のように貴重だ。

 だが、俺のこの言葉は悪手だった様だ、怪物は明らかに怪訝な顔を見せた。

 

 「ダゴン秘密教団だと?そんな書物でしか聞かない古い名前を持ち出すとはな、魔術師にしては何か変だったがお前、素人だな」

 

 見抜かれた。

 今日で二度目の失言だったか、しかしなぜそこまで断言できる。

 

 「なるほど、ネット魔術師って奴か、裏のことをまるで知らないくせに、ネットワークの海に落ちてる魔術書を拾い集めて、本当に実践して、偶然魔力を引き出して魔術を扱うすべを身に着けた、大馬鹿者というわけだ」

 

 否定、できない。

 俺の力はキャラシからの補正の部分が大きいが、そのキャラシ作成でキャラが魔術を独学で覚えられる理屈として、ネットや図書館などに魔術書などが溢れているからだと設定されていた。

 とくにキャラ紹介ではエリファス レヴィやアレイスター クロウリーなどの著作をネットで見て魔術を会得したという設定をしたプレイヤーはとても多かった。

 この小さな街の図書館にすら魔術書があったほどだ、俺も転生してからの研鑽にネットとともに利用してきたのだ。

 まさに怪物の言うネット魔術師そのものだ。

 

 「最近よく見かけるさ、ネットから学んで、画面の向こうから世界を知った気になっている連中は」

 

 そう言って怪物は俺をじっと見つめてくる。

 

 「だが、お前ほど化け物じみた奴は流石に見たことはない、人間の身でよくもまあ、そこまでいけるものだ」

 

 決めた、もう殺ってしまおう。

 目の前の怪物が喋っているが、こいつから会話で情報を抜き取るのが手間だと判断した俺は手っ取り早く片をつけようと魔力を操作し始める。

 

 「《ブランダーバス(Blunderbuss)》」

 

 選んだのはその名の通り、鉛の散弾を円錐状に高速で打ち出すラッパ銃を模した呪文、《ブランダーバス》だ。

 必殺の域まで磨いた、俺の愛用している呪文が怪物を肉片に変えようと準備される。

 

 「落ち着け、こっちにはお前とわざわざ殺しあう気はない、物騒なのはやめにしてくれ」

 「さっそく命乞いか?情けない奴だな」

 

 彼我の実力差に明らかに及び腰になっている怪物は制止をしてくるが、やめるわけないだろう。

 

 「違う、俺たちは協力出来るはずだ」

 「協力だと?」

 「そうだ、お前だって自分が力だけで裏のことがさっぱりなのは自覚してるんだろ?それを俺が埋めてやろうというんだ」

 

 意外な提案、確かにそういう知識は身に着けたいと思っていた、しかし信用できるのか。

――《嘘発見》

 真偽を確かめる呪文を静かに放ったが、こいつは噓を言っていないみたいだ、ならばこの話は乗る価値はある。

 

 「俺たちは言葉というツールを持っているんだ、そういったこと(殺し合い)は後でもできる、そうだろう?」

 

 そして怪物は神尾先生の自宅から背を向けて路地を歩き始めた、

 

 「今日はもう大丈夫だと切り上げるところだった、話し合いを続ける気があるならついて来い」

 

 潮風が場の剣呑な雰囲気を押し流し、まるでこの空間の空気を入れ替えるようにして俺たちの間を吹き抜けていく。

 

 「いいだろう、確かにことを起こすのは言葉を尽くしてからだ」

 

 予感がする、十三年の退屈が消え去る様な、そんな非日常の日々がくるのを俺は確かに感じるのだ。

――行こう、狂気の世界へ。




補足

冗談みたいな名前の《ブランダーバス》という呪文は作者のオリジナルではないです。
Pyramid #3/091: Thaumatology IVというサプリメントにある公式の呪文です。
他にも《Celestial Shotgun》という散弾を頭上から降らせる範囲呪文や《Anvil Strike》という一立方メートル分の鉄を100メートル上空から落とす射撃呪文などがあります。
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