個性:斬魄刀ガチャ   作:らいこう

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第2話 戦闘狂

 

 あれから二年。俺は十四歳になった。

 昼時、太陽は真上から容赦なく照りつけ、アスファルトの熱が靴越しに伝わってくる。

 

 俺は――ヴィジランテとして活動していた。

 

 無免許ヒーロー。

 個性を使って人助けをする、法に反した存在。

 

 ヒーロー公認制のこの社会では、俺のやっていることは明確な違法行為だ。

 だからこそ、俺は名乗らない。顔も隠す。

 ゆったりしたコートで体型を誤魔化し、活動場所も自宅から離れた別の市。

 日課のランニングを装い、街を流す。

 

 ニュースやネットで事件やヴィランの情報を拾い、その周辺を重点的に走る。

 ヴィランに遭遇することは稀だ。

 だが、見つけた時は――斬魄刀を抜く。

 

 最初の一戦以来、戦うこと自体が楽しくなってしまった。

 それを自覚しているからこそ、意識的に人助けもする。

 道に迷った子供を送り、重い荷物を運び、倒れた老人に手を貸す。

 

 帳消しにはならない。

 それでも、ただの悪ではないと、自分に言い聞かせるために。

 

 今日も、そんな身勝手なボランティアの途中だった。

 

 ※ ※ ※

 

「逃げんじゃねぇよ!」

 

 俺は声を張り上げた。

 昼間でも薄暗い路地裏。

 異形型のヴィランが、必死に逃げている。

 

「くそっ、最悪だ!」

 

 愚痴をこぼすのは、全身を覆う無数のパイプの男。

 そこから呼吸するように、水蒸気が漏れ続けている。

 

「なんで、この街に『死神』が居やがんだよ!?」

 

 その呼び名に、思わず舌打ちした。

 

「勝手に名前つけてんじゃねぇよ、クソヴィランがァ!」

 

 いつの間にか広まった通り名。

 斬魄刀を振るう俺を、ヴィランどもがそう呼ぶらしい。

 皮肉にも、やたらとしっくり来るのが腹立たしい。

 

 俺は死神じゃない。

 ただ、斬魄刀を持った人間だ。

 

「どこまで逃げる気だぁ!? いい加減捕まれ……よぉ!」

 

 踏み込んで斬りかかる。

 ガァン、と甲高い音が響き、刀とパイプに覆われた腕が激突した。

 火花が散り、衝撃が腕に返ってくる。

 

「うぐっ、痛ってぇんだよ!?」

 

 ヴィランが、痛みをごまかすように吐き捨てる。

 

「大人しく捕まれば、そんな思いもしねぇで済むんだよ!」

 

 こいつは、木っ端ヴィラン集団をまとめているボス格。

 だから狙った。

 だが、実際は拍子抜けだ。劣勢と見るや、逃げの一手。

 

 少し逃走を繰り広げた所で、奴は何かに気づいたように顔を上げて口を開いた。

 

「あんたたちに力を貸してやる! 助けてくれ!」

 

 意味不明な叫び。

 

 近くに仲間でもいるのか?

 そんなことを思いながら、曲がり角に差し掛かった瞬間、視界が白く染まった。

 奴の身体から、吹き出す蒸気。

 

 ――目眩ましか。

 

 構わず突っ込む。

 だが、次の瞬間、そこにいるはずのヴィランは消えていた。

 

「チッ、どこに消えた?」

 

 行き止まり。

 隠れ場所もない。

 壁を蹴って屋根に上がり、周囲を見渡すが、痕跡すらない。

 

「……どうやって逃げた?」

 

 舌打ちし、地面に降りた、その瞬間。

 

 背後に、ぞくりとする気配。

 

 振り向くと、そこにいたのは人ではなかった。

 

 緑がかった灰色の肌。

 剥き出しの脳と虚ろな目。

 筋肉の塊のような上半身が、無言で佇んでいる。

 

「なんだぁ……この化け物は?」

 

 返事はない。

 

 ――つうか、どうやって現れた?

 

 気配はなかった。

 確実に、今、唐突にそこにいた。

 

 次の瞬間、世界が歪む。

 

「っ!?」

 

 空を裂くような飛び蹴り。

 反射的に上体をのけぞらせ、紙一重で回避する。

 

「おいおい、えらく速ぇな!」

 

 着地した影に向き直り、斬魄刀を構える。

 

「喋れねぇのか?」

 

 化け物は、ただこちらを見るだけ。

 意思があるのかすら、判然としない。

 

 不気味な沈黙が、路地に落ちた。

 

「まあいい」

 

 口角が自然と上がる。

 

「ちょうど退屈してたところだ。相手になってもらおうか!」

 

 振り抜かれる拳。

 斬魄刀で受け止めると、ギィン、と硬質な音が鳴り響いた。

 

「ずいぶんと硬いな! 質のいいサンドバッグだ!」

 

 拳を弾き飛ばし、刀を上段から振り下ろす。

 

 斬魄刀は俺の個性で生み出したもの。

 長年使ってきた分、刀の性質を変えて、殺さずに殴ることもできる。

 

「おら、よっ!」

 

 斬撃と同時に蹴りを叩き込み、化け物を吹き飛ばす。

 

「力はあるが、増強系と大差ねぇな」

 

 こんなもんか?

 拍子抜け。

 

 思わず、失望をすぐに抱いてしまう。

 これでは、身体が丈夫なだけ。そこらのチンピラと対して変わらない。

 

 化け物がのそりと起き上がる。

 

「結構丈夫だな」

 

 だが、技量もない。力の一辺倒。

 これでは、あまり楽しめそうもない。

 そう思っていた。

 

 意識を奪おうと斬魄刀を叩き下ろす。

 

「……あぁ?」

 

 受け止められた。

 腕を交差させ、斬魄刀を止めている。

 

「我慢比べか!? いいねぇ、付き合ってやるよ!」

 

 馬力を上げて、刀を押し込んだ。

 徐々に、奴の体勢が低くなる。

 このまま押しつぶそうとした、瞬間――

 

 ――ボォウッ!

 

 火が吐き出された。

 

「……っぶねぇな!?」

 

 咄嗟に上体を傾け、身を逸らした。

 前蹴りを繰り出し距離を取る。

 

「なんつう大道芸だよ」

 

 口から吐くという関係上、噴出口の火が細かったのが功を奏した。

 もう少し距離があったら、火を浴びていたかもしれない。

 

「火を吹く個性か……俺の斬魄刀と似てんなぁ?」

 

 個性を解除したことから察するに、射程が短いな?

 身体能力と搦め手の火吹き。

 

 良い戦い方をしやがる。

 だが、ネタが割れれば大した事はない。

 

 斬魄刀を構え直し、再び距離を詰めた。

 拳と刃がぶつかり合い、殴り、弾き、打ち合う。

 

 数合の後、奴が口を開く。

 

 ――来る。

 

 思い切り奴の前まで踏み込み、俺は拳を振り上げた。

 拳が顎をカチ上げる。

 

 強制的に閉じられる口。

 

 次の瞬間――ボンッ!

 

 口内で炎が爆ぜ、煙が噴き出した。

 

「ハハハッ! ご自慢の火の味はどうだぁ!?」

 

 化け物は頭上を向き、口内から煙を上げている。

 これで、火は封じた。

 

 だが、奴が顔をこちらに向いた時には、傷が塞がり始めていた。

 

「再生……だと?」

 

 複合個性ならいざしらず、複数個性。

 そんなもの、聞いたことがない。

 

「見た目通り、マジモンの化け物か」

 

 なら、やることは一つ。

 

「どこまで耐えれるか、試してやるよ!」

 

 背負った武器が背中に触れるほど深く振りかぶり、円を描くような剛速で一気に振り下ろした。

 そこから、連続で斬りかかる。

 縦横、斜め。幾重にも刀を振い続ける。

 

 いくつかは防がれるが、奴は素手で受けている。

 骨がへし折れるくらいに滅多打ちにするが、少し間を置けばその傷が治っていく。

 

「こりゃあ、いたちごっこだな」

 

 攻撃しては治され、その繰り返し。

 上限はありそうなもんだが、このままでは無駄に時間がかかるだけ。

 それなら、再生が間に合わないほどの攻撃を与える。

 

「俺も火で対抗してやろう」

 

 斬魄刀を両手で構え、解号を叫ぶ。

 

「打ち砕け! 『天狗丸』!!」

 

 能力解放と共に、斬魄刀が身の丈を超える巨大な棘付き棍棒に変化した。

 ゴウッと風を押しのける重圧を纏い、天狗丸を薙ぎ払った。

 

 次の瞬間には――ドンッ! と化け物を派手に吹き飛ばす。

 

 質量×力は破壊力。

 天狗丸はそんな言葉を体現したような斬魄刀だ。

 レアリティはR。

 

 その中で一番の破壊力をもった斬魄刀が天狗丸だ。

 しかも、それだけの斬魄刀ではない。

 

「火吹の小槌!!」

 

 俺の言葉を合図に、巨大な棘付き棍棒が燃え上がる。

 

 そして、炎を纏わせた天狗丸を上から叩きつけた。

 対して、化け物は両手で俺の天狗丸を迎え撃つ。

 

「おらぁあっ!!」

 

 ――ガァン!

 

 硬質な音が鳴り響き、奴の立っていた地面が砕け散った。

 高い破壊力を伴って、化け物に膝をつかせる。

 

「良いなぁお前! よく耐えた!」

 

 腕は完全に折れ曲がり、無様な形で天狗丸を抑えていた。

 折れた腕、燃える続ける皮膚。

 再生が追いついてない。

 

「なら、もう一発だ!」

 

 天狗丸を持ち上げて、頭上に構えた。

 影が落ちる。

 天狗丸が太陽を覆い隠していた。

 

「おらぁあっ!」

 

 ――ドォオォン!

 

 天狗丸が、周囲のコンクリートすら砕き、砂煙が舞う。

 化け物は倒れ伏し、完全に沈黙した。

 

 潰れてないのを見るに、まだ生きている。

 というか、これで生きていると言えるのかは不明だがな。

 

 様子を見るに、再生の個性はまだ稼働しているようだが、速度は遅い。

 

 かなり、頑丈だな。

 天狗丸を一度は抑えれていたことから、それは確かだった。

 

「さて、これどうするか……」

 

 その瞬間、視界が黒く染まる。

 反射的に薙ぎ払うが、手応えはない。

 

「何だってんだよ?」

 

 視界を覆っていた靄が晴れた時、化け物の姿は消えていた。

 

「は……? どこいった!?」

 

 周りを見回すが、どこにも姿はない。

 砕けた地面だけが、戦いの痕跡だった。

 

「ちっ、一体……何がどうなってやがる?」

 

 一度ならず二度までも。

 いきなり、姿をくらますとか。明らかに何者かの個性によるものだ。

 

 ――もしかして、転移か?

 

 ありえそうな可能性が脳裏によぎる。

 

 好きに現れ、好きに逃げる。

 もし、そうだとしたら最悪の能力だ。

 

 遠くでサイレンが鳴り始める。

 

「チッ……面倒くせぇ」

 

 今日は、ここまでか。

 俺は踵を返し、路地を抜けた。

 

 

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