個性:斬魄刀ガチャ   作:らいこう

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第6話 交流

 教室のドアを開けた瞬間、まだ朝の冷たい空気が廊下から流れ込んでくる。

 教室には昨日と同じ、一人の姿があった。

 

 背筋を伸ばし、机に向かって座るその姿から人となりが見て取れる。

 俺は軽く手を上げながら声をかけた。

 

「おう、飯田。おはよう」

 

 声に反応して、飯田はすぐに立ち上がった。

 椅子が静かに引かれ、彼はきっちりとこちらへ向き直る。

 

「おはよう、玩具(がんま)くん」

 

 俺は自分の席へ向かいながら、カバンを肩から外す。

 机の横にかけ、椅子に身体を預けた。

 

「相変わらず、早いな」

 

「いち雄英生として、規則正しく、清く正しく。それを心がけているだけさ」

 

 飯田は軽く眼鏡の位置を指で直しながら、小さく頷いた。

 言葉から、動作から感じる真面目な雰囲気。

 今日日(きょうび)、珍しい人間性だ。

 

 俺はカバンから授業に必要な教科書を取り出しながら、言葉を紡ぐ。

 

「ヒーロー基礎学、どういうことをするんだろうな」

 

 飯田はすぐに反応した。

 まるで、その問いを予測していたかのように。

 

「やはり、まずは座学ではないかとみている」

 

 彼は腕を軽く組み、真剣な表情になる。

 

「ヒーローとしての資質、判断力、なにより人を救うための精神。そういったものを根本から培う道徳のような授業が行われるのではないかと」

 

 そこで一度言葉を切り、こちらを見る。

 

「君はどう思う?」

 

 視線が真っ直ぐ向けられる。

 俺は椅子の背もたれに軽く体重を預けながら答える。

 

「そうだな。どういう……というか、やってほしいのは実技だな」

 

 自分の手を軽く開いて、握り直す。

 身体を動かす感覚を思い出すように。

 

「やっぱ、体を動かしてぇよ」

 

 俺は小さく笑いながら続ける。

 

「それに……ほら、最初のインパクトってのは重要だろ?」

 

 その瞬間、飯田の表情がわずかに変わった。

 納得したように、ゆっくりと頷く。

 

「なるほど。確かに第一印象は、その後の評価を大きく左右する重要な要素だからな」

 

 彼は顎に手を当て、思案するように視線を落とす。

 

「実技によって、自身の能力と可能性を示すことは理にかなっている」

 

 真面目すぎるほど真面目な返答に、思わず口元が緩む。

 そんな会話をしているとガラッ、と教室のドアが開いた。

 

 音に反応して振り向くと、八百万が立っていた。

 

「飯田さん、玩具さん、おはようございますわ」

 

 語尾の「わ」が、妙に印象に残る。

 おはようございます、に「わ」をつけることってあるんだな。

 

「おはよう、八百万くん」

 

 飯田はすぐに身体ごと彼女の方へ向ける。

 俺も軽く手を上げた。

 

「おはようさん」

 

 八百万は優雅に微笑み、わずかに頭を下げた。

 

「お二人共、今日もお早いですわね」

 

 俺は彼女の所作をぼんやりと観察する。

 背筋の伸び方、視線の配り方、立ち方。

 立ち居振る舞いの端々から感じていたが、やっぱりお嬢様なんだろうな。

 

 その後も、生徒たちが続々と教室に入ってくる。

 

 椅子を引く音。

 カバンを置く音。

 笑い声。

 

 少しずつ、教室が賑やかになっていく。

 そんな中、少し遅く登校してきた上鳴がぐてーっと机に体を預けていた。

 

「どうしたよ、上鳴」

 

 上鳴は俺の前の席だ。

 だから、気になって声をかけた。

 

「いや、朝ちょっと寝すぎちまって飯食う時間なかったんだ」

 

 上鳴は後ろを振り返りながらぼやく。

 腹をさすっているあたり、本気で空腹らしい。

 俺は少し考えてから、亜空間に意識を向ける。

 

「干し肉だったらあるが、食うか?」

 

 上鳴の目が一気に輝いた。

 

「まじ? 助かる〜」

 

 俺は机の横に手を下ろし、亜空間へと腕を差し入れる。

 見えない境界を越える感覚。

 慣れているが、やはり独特だ。

 

「いつもなら、おにぎりとか入ってるんだが……」

 

 指先で中身を探りながら呟く。

 亜空間の時間は、現実と同じように流れている。

 

 だから放置すれば普通に劣化するし、定期的な整理も必要になる。

 最近は新生活の準備で中身を整理したばかりだ。

 食べ物は昨日完成した干し肉くらいしか入っていない。

 

 デザートならあるが、朝から出すもんでもない。

 指先に、真空パックの感触が触れる。

 それを掴み、引き抜いた。

 

「どこから出てきた!?」

 

 上鳴が目を見開く。

 俺はパックを軽く振って見せる。

 

「個性由来の亜空間的な場所だ」

 

「なにその、四次元ポケット……」

 

 俺は肩をすくめる。

 

「俺由来のものしか入らねぇがな」

 

 厳密にはもっと細かい条件がある。

 だが、説明するほどのことでもない。

 

 上鳴は感心したように頷く。

 

「めっちゃ便利じゃねぇかよ」

 

 俺は真空パックを差し出す。

 

「ほらよ」

 

 上鳴はすぐに受け取り、封を破る。

 中から干し肉を取り出し、迷いなく口へ放り込んだ。

 数回噛んだ瞬間、表情が変わる。

 

「うまっ!? 噛めば噛むほど旨みが出てくる!」

 

 その反応に、少しだけ安心する。

 

「そりゃ良かった」

 

 上鳴は干し肉をまじまじと見つめる。

 

「これ、どこのやつ?」

 

「自作だ」

 

 上鳴の目がさらに大きくなる。

 

「マジで!?」

 

「ああ、最近作る必要があってな」

 

 上鳴は呆れたように笑う。

 

「何があったら干し肉作る事になるんだよ……」

 

 そのやり取りを見ていた瀬呂が、身を乗り出してくる。

 

「ちょっと玩具。余ってたら俺にも貰えね?」

 

 俺は再び亜空間に手を入れる。

 

「いいぞ、結構余ってるしな」

 

 もう一つ取り出し、瀬呂に渡す。

 瀬呂は嬉しそうに受け取り、すぐに口へ運ぶ。

 

「うおお……ありがとな!」

 

 次の瞬間、驚きの声を上げた。

 

「うわ、美味っ!?」

 

 瀬呂は噛みながら続ける。

 

「スパイシーだけど辛すぎなくて、後から肉の旨みがちゃんと追いかけてくる感じだ。噛むほど味が濃くなるし、これ絶対止まらなくなるやつだろ」

 

「おまえ、食レポ上手いな……」

 

 突然の食レポに思わず、驚きの言葉が漏れる。

 そんな食レポを聞いた切島が、後ろから声をかけてきた。

 

「ちょ、俺にもくれねえか?」

 

「おいらも! おいらも、食ってみたい!」

 

 峰田もこちらに近づいてきて、手を上げる。

 と、その時。

 

 ――キーンコーンカーンコーン

 

 チャイムが鳴り響いた。

 音を聞いた飯田が勢いよく立ち上がる。

 

「授業が始まる。みんな、静まり給え!」

 

 教室の空気が一瞬で引き締まる。

 俺は二人に向かって手を振る。

 

「ほらほら、後でやるからとりあえず席に着け」

 

 峰田が指を差してくる。

 

「絶対だからな!」

 

 その横で、切島が呆れたように笑う。

 

「上鳴! おめえはいつまで食ってんだよ!」

 

 視線の先では、上鳴が黙々と干し肉を噛んでいた。

 完全に夢中になっている。

 

 その様子に、思わず小さく笑いがこみ上げた。

 

「HEY、リスナー! 席につけー!」

 

「もがぁっ!」

 

 プレゼント・マイクが来たことで、上鳴が残りの肉を頬張った。

 食い意地をはるほど、腹が減っていたらしい。

 

 ※ ※ ※

 

 午前は必修科目、英語など。

 ヒーロー最高峰の雄英でも、普通の授業も行う。

 

 そうして、昼時。

 昼食は、大食堂で一流の料理を安価で食べることができる。

 かくいう俺も、大食堂へ来ていた。

 

「結構種類あんのな」

 

「ランチラッシュの料理食えるってだけでも、雄英に入った甲斐あったぜ」

 

 各々、思い思いの言葉を口にしながら料理を取っていく。

 メンバーは俺・上鳴・切島・峰田・瀬呂の5人。

 干し肉メンバーだ。

 

 餌付けをした結果、雛鳥のように大食堂までついてきていた。

 これは多分、まだ集る気だな。

 まあ、俺も亜空間内の食べ物消費できて助かるんだがな。

 

 席についてカツ丼を食べていく。

 食事中の会話はやはり、午後のヒーロー基礎学についてだった。

 

「なにすんだろうな~」

 

 早くも昼食を食べ終えた切島が、水を飲みながらもそう口にした。

 逸る気持ちが落ち着かないんだろう。

 

「やっぱ、最初と言ったら実践っしょ」

 

 上鳴は箸を俺達に向けて、言い放つ。

 

「箸を人に向けるな。行儀悪いぞ」

 

 上鳴は箸を箸置きに置くと、再び口を開く。

 

「そういう玩具はどう思うよ」

 

 注意をした俺に、上鳴は言葉を投げかけてきた。

 

「まあ、俺も実技がいいな。つうか、戦えるなら何でもいいよ」

 

「お前、見た目通り物騒なのな」

 

 上鳴は肩をすくめて、手のひらを上を向けた。

 

「見た目通りは余計だ」

 

 俺は言い返すとともに、デコピンを放った。

 

「イテッ!」

 

 上鳴はデコをさすりながら、他の三名に視線を向ける。

 

「お前達はどうよ?」

 

 最初に言葉を口にしたのは切島だった。

 

「あー、俺も実技かなぁ」

 

 続くように瀬呂も言葉を紡ぐ。

 

「俺はどっちでも。ヒーロー基礎学ってだけでテンション上がる」

 

 比率的には、実技が有利だった。

 そんな偏りの中、コップを手に峰田が口を開いた。

 

「おいら救助訓練がいいな」

 

 選んだのは実技ではある。

 だが、その中でも具体的な内容を口にした峰田に、俺は真意を聞いた。

 

「その心は?」

 

「合法的に女子と触れ合える!」

 

「お前だけ、タルタロスへの収容実習な」

 

「そこまでするか!?」

 

 峰田は横暴だ! などと喚く。

 純度百%の曇りなき欲望。

 高校生らしいといえば高校生らしいが、ヒーローとしてはどうなんだ?

 

「まあ、順当か」

 

「釈放時には迎えに行くわ」

 

「いやいや、そのまま歩いて帰れ」

 

 切島が頷きながら、お茶を飲んで口を潤す。

 上鳴はというと、仲間を見るように優しさを表していた。

 対して瀬呂は、辛辣な言葉を放っていた。 

 

 いつのまにか、全員が食事を終えて食後の会話の時間に入っている。

 それを見た俺は、ちょうどいいかと亜空間に手を入れた。

 

「ところでお前ら……デザート食うか?」

 

 取り出したのは、保冷バッグ。

 それをみた雛鳥達は、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「まぁじで!? 食う食う!」

 

 俺の言葉に、上鳴が食い気味に反応する。

 

「よっ、待ってました!」

 

 瀬呂は拍手までして、デザートを受け入れた。

 切島も峰田も、視線は保冷バッグに向いている。

 

「好きに取ってくれ」

 

 保冷バッグから箱を取り出す。

 中に入っているのはシュークリームだ。

 更に保冷バッグから追加でラッピングケースも取り出す。

 その中にはマカロンが入っている。

 

 そう、今日持っていたのはシュークリームとマカロンだ。

 

「おわっ、丁寧にラッピングまでしてあるよ」

 

 驚きの声を漏らしたのは瀬呂。

 封を開けて中のマカロンを、早速口にした。

 

「サックリ、シットリで食感最高」

 

 瀬呂は一口でマカロンを頬張った。

 切島はというと、味わうように二口に分けて食べていた。

 

「甘さ控えめなのな。食いやすいわ」

 

 人によって、食べ方が変わるのがまた面白い。

 峰田なんか、水で口の中をリセットしてから食べていた。

 

「食感が好きなんだよ」

 

 そう口にした上鳴は、早くも二つ目に手を出している。

 性別関係なく、甘いものは美味い。

 今回のマカロンは、甘さ控えめなのでより食べやすいのかもしれない。

 

「シュークリームの方は結構甘くしてあるぞ」

 

 俺はというと、シュークリームの方を口にしていた。

 正直、家でも食っているのでそう何個も食えそうにない。

 最近はクエストで、シュークリームのお題がよく出ていた。

 

 そのせいで完成度の高いものは作れたが、連日食べることになったので、若干飽きが来ている。

 予想以上に好評で、取り出した分は殆どなくなっている。

 五人で囲んだテーブルには満足感の混じった空気が流れていた。

 

 そんな穏やかな時間の中で、妙な感覚に気づいた。

 突き刺さるような視線。一つや二つじゃない。

 少なくとも、五つ。

 

「おい、玩具(がんま)……」

 

 同じく視線に気づいていた上鳴が、俺に声をかけてくる。

 既に全員が視線に気づいているが、あまりの圧に誰もその方向を見れていない。

 

「視線が痛いっていうの、初めて体験したわ」

 

「おいら、こういう視線を浴びたいわけじゃねぇんすよ……」

 

 峰田は軽口を叩く余裕もなく、視線を空になった保冷バッグに固定していた。

 本来なら、女子の視線など歓迎するだろうに、今は完全に怯えている。

 切島も同じように、冷や汗を浮かべ顔を青く染めていた。

 

「……なんか、プレッシャーすげぇな」

 

 誰も、直接そちらを見ようとしない。

 仕方ない。

 

 俺は椅子の背もたれから身体を起こし、ゆっくりと首を回す。

 視線の方向へ、正面から向き直った。

 

 そこにいたのは、蛙吹、八百万、芦戸、葉隠、耳郎。

 五人が、完全にこちらを見ていた。

 

 目が合った瞬間、逃げ場はなくなった。

 俺は肩をすくめる。

 

「あー……欲しいなら普通に言ってくれ」

 

 俺がそう言うと、五人の表情が一瞬で変わった。

 遠慮と期待が混じっていた空気が、ぱっと弾ける。

 俺は亜空間に手を差し入れながら続ける。

 

「量ならあるからよ」

 

 次の瞬間。

 

「欲しい!」

 

 五人の声が完全に重なった。

 あまりにも綺麗なシンクロに、思わず笑いそうになる。

 女子五人組は、席を移動しこっちに集まってきた。

 

 葉隠が身を乗り出す。

 姿は見えないが、椅子が動く音と空気の揺れで動きが分かる。

 

「玩具くん、お菓子作りできるんだね。結構意外かも」

 

 彼女は興味津々といった様子でテーブルを覗き込んでいる。

 芦戸も頬を緩めながら口を開く。

 

「お菓子作りが趣味だったり?」

 

 彼女は肘をテーブルにつき、顎を乗せながら俺を見る。

 その目は完全に好奇心で輝いていた。

 

「趣味じゃねぇよ」

 

 亜空間からマカロンの入った容器を取り出し、テーブルに置く。

 

「個性関係で作る必要があんだよ」

 

 その言葉に反応したのは八百万だった。

 

 彼女はマカロンを一つ手に取り、指先でそっと回す。

 壊れ物を扱うような慎重さだった。

 

「マカロンは、非常に繊細で作るのが難しいお菓子だと聞いております」

 

 彼女は表面を観察しながら続ける。

 

「それを、この完成度で作れるにもかかわらず、趣味ではないとおっしゃるのですか?」

 

 純粋な驚きが、その声には含まれていた。

 俺は上鳴の手元を指差す。

 

「ほら、上鳴が持ってるやつ。形が少し変だろ?」

 

 突然話を振られた上鳴が、手の中のマカロンを見る。

 

「……どこが?」

 

 上鳴は眉をひそめ、マカロンを回しながら凝視する。

 だが、違いは分からないらしく、首を傾げた。

 俺は背もたれに軽く体重を預ける。

 

「完璧なやつを作る必要があってな」

 

 テーブルの上のマカロンを見る。

 

「これらは全部、失敗作なんだ」

 

 耳郎が目を細める。

 

「これで?」

 

 彼女は自身の耳――イヤホンジャックを指先で弄びながら言う。

 明らかに納得していない顔だった。

 俺は小さく頷く。

 

「味がわずかに違ったり、形が僅かに歪んでたりな」

 

 指で円を描くように動かす。

 

 味が少し悪かったり、形が少し崩れていたり。

 1%のミスが、クエストの達成の妨害になる。

 

 最初はそうじゃなかったが、今は完成度まで求められるようになった。

 耳郎がこちらを見る。

 

「お菓子作ることになる個性って……?」

 

 その疑問は当然だった。

 こいつらは個性把握テストで、俺の個性を見ているのだから。

 切島が口を開く。

 

「お前の個性って、前に出してたあの刀だろ?」

 

 彼はシュークリームを口に放り込みながら言う。

 

「ああ、それだな」

 

「どういう個性なん?」

 

 上鳴が身を乗り出すようにして、訪ねてくる。

 

「あー……斬魄刀ガチャつって、ガチャから刀が出せるんだよ」

 

 それを聞いた瞬間、耳郎の眉がぴくりと動いた。

 

「ガチャ? ガチャってあのガチャ?」

 

 続くように蛙吹が顎に指を当てて、言葉を紡ぐ。

 

「ゲームとかの?」

 

「そ。そのガチャだ」

 

 俺は素直に頷きを返す。

 

「んで、そのガチャを引くにも現実なら金を入れて回す。ゲームなら石みたいなものを使う。どっちにしろ、対価が必要だろ? 」

 

 上鳴が「あー」と納得した声を出す。

 

「まあな。俺がやってるアプリでもそうだな」

 

 その隣で瀬呂も腕を組みながら感心したように息を吐く。

 

「現代チックな個性だな」

 

 瀬呂の言葉には、純粋な感想が込められていた。

 確かに、個性としては異質な部類だろう。

 俺は続ける口を開く。

 

「そのガチャ石――魂石(こんせき)っていうんだが、それを手に入れるのに俺の場合はクエストを達成しなきゃならん」

 

 その言葉に、芦戸が「クエスト?」と小さく呟く。

 切島がすぐに続けた。

 

「そのクエストで、お菓子作る必要があるのか」

 

 彼は納得したようにマカロンを見る。

 さっきまでただのデザートだったものが、今は個性の一部として意味を持ち始めている。

 

「そういうことだ。だから、趣味じゃなくて実益だ」

 

「クエストってどんな感じで出んの?」

 

 上鳴は興味が尽きない、といった様子で聞いてくる。

 

「日が変わると頭の中に浮かぶんだよ。料理なり、運動なり、勉強なり。内容はバラバラだ」

 

 クエストの内容には一貫性がない。

 ただ最近、それらは俺をヒーローにするためのものなんじゃないか、と思い始めている。

 ただ、ヒーローにしてはいろんな分野に精通させすぎているとは思う。

 

 俺を現代のレオナルド・ダ・ヴィンチにでもする気か。

 万能人を現代で目指させないでくれ。

 難易度がルネサンス期とは、離れすぎている。

 

 内心で苦悩していると、峰田が椅子の上で身を乗り出す。

 

「なぁなぁ、その刀ってのどんなのが――」

 

 彼の目は完全に輝いていた。

 武器。刀。男子なら、興味を持たない方が難しい。

 だが、その言葉は切島に遮られた。

 

「――つうか、そろそろ良い時間じゃね?」

 

 彼は壁の時計を指差している。

 その言葉につられて、全員の視線が一斉に時計へ向かう。

 思っていたより時間が経っていた。

 

 食堂の空気も、少しずつ次の授業へ向かう流れに変わり始めている。

 俺は椅子から立ち上がる。

 

「ずっと占領してるのも悪い。片付けて戻ろうぜ」

 

 瀬呂も立ち上がり、空になった容器をまとめる。

 彼の言葉に、全員が頷いた。

 

 椅子が引かれる音。

 食器が触れ合う小さな音。

 雑談の余韻を残しながら、空気がゆっくりと動き始める。

 

 俺はトレーを持ちながら、心の中で小さく息を吐いた。

 会話、食事。共に楽しむことができ、十分に英気を養えた。

 

 この後に控えている授業。ヒーロー基礎学。

 養った気力をそこで、発散できればどれほど充実した一日になることか。

 どんな授業が行われるのか、非常に楽しみだ。

 

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